デフ・レパード『Hysteria』解説:世界中を熱狂させ2,500万枚も売り上げた80年代の名盤

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デフ・レパード(Def Leppard)の『Hysteria』は、個々の楽曲を単に足し合わせただけではない、アルバムとしての魅力を持つ稀有な作品だ。一見すると直球のハード・ロック作のようだが、ほかにはないメロディの美しさや、あらゆるポップ・ファンにも好まれる突き抜けたキャッチーさがある。

英国ヨークシャー出身の彼らはバンドとして長いキャリアを誇るが、同作はその中でも燦然と輝く代表作との呼び声が高い。多くの受賞歴や、2,500万枚を超える世界での売上を見てもそのことに疑いの余地はないだろう。

一方で、そうした数字に偽りはないが、それがすべてを物語るわけではない。デフ・レパードをスターダムの頂点に押し上げた『Hysteria』も、その制作段階では困難の連続だった。むしろ振り返ってみれば、アルバムが完成したこと自体が驚きといえるほどだったのである。

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1,000万枚以上を売り上げてブレイクのきっかけとなった1983年作『Pyromania (炎のターゲット) 』の成功を受け、レパードの面々は意気揚々と『Hysteria』の制作に着手した。しかし『Pyromania』のプロデューサーを務めたマット・ラングが極度の疲労を理由にレコーディングから離脱したことで、早くも問題に直面してしまう。彼らは後任としてミート・ローフの作品などを手がけた作曲家/プロデューサーのジム・スタインマンをスタジオに迎えたが、8ヶ月経っても思うような成果を得られず、苛立ちを募らせることになる。

そして1984年12月31日、さらなる悲劇がバンドを襲う。ドラマーのリック・アレンが、地元であるシェフィールド郊外のA57道路上で交通事故を起こし、左腕を失ってしまったのだ。もちろんバンドの面々は途方に暮れたが、リックは悲惨な事故から立ち直り演奏することを選んだ。彼は『Hysteria』の30周年記念を迎えた2017年にこう語っている。

「以前の自分と今の自分を比べちゃいけないのはわかっていた…。だけど俺は、今の自分にしかできないことがあるとも思うようになった。左足も右足と大体同じくらい、上手く使えることに気がついたんだ」

バンドメイトの後押しを受けたリックは、ドラム・メーカーのシモンズ社と組んで特注のドラム・セットを製作し、『Hysteria』のレコーディングから早速使用した。電気仕掛けで精密に作動するこのドラム・セットの存在は、図らずもレパードにまったく新たな世界への扉を開いた。『Hysteria』のレコーディングを再開できるまでアレンの状態が回復した頃、マット・ラングもプロデューサーに復帰。マット・ラングのプロデュース手法も、彼らの新しい方向性との相性は抜群であった。ギターのフィル・コリンは2012年、ギター・ワールド誌の取材にこう話している。

「(マットは)『Hysteria』をハード・ロック版の『Thriller』にしたいと考えていた。『Thriller』はR&Bアーティストの作品でありながら、ポップをはじめあらゆるジャンルを横断したアルバムだった。“Beat It”にエディ・ヴァン・ヘイレンが参加していることを考えれば、ロックの要素だってある。マットや俺たちにとってはそのことがすごく興味深かったんだ」

ラングとのスタジオ作業が過酷であることはメンバーも知っていたが、一方で2ndアルバム『High’n’Dry』と3rdアルバム『Pyromania』ではその成果が確かな結果となって表れていた。そのため、ドラムを最後に録音するというアイデアや、フィル・コリンとスティーヴ・クラークのギター・パートのほとんどをマーシャルの一般的なアンプではなくロックマンのヘッドホン・アンプで録音するというアイデアにも、彼らは喜んで賛同した。

それらに加え、彼らは「Rocket」や「Animal」、挑発的な名曲「Armageddon It」など時代を超えるアンセムを次々に生み出していた。そうしてメンバーをはじめ関係者は、これが特別なアルバムになると確信し始めたのだ。

『Pyromania』に続くアルバムの制作に4年も掛かったとなればファンが不安に思うのももっともだが、ヒット曲満載で自信に満ち溢れた『Hysteria』を聴いて彼らの懸念は吹き飛ばされたことだろう。実際、1987年8月3日にリリースされた同作は程なくして全英チャートを制し、チャートのトップ40には105週連続でランクイン。「熱狂」を意味するタイトル通りの成功を収めた。

アメリカではシングル・カットされた楽曲のうち、「Animal」と壮大な表題曲「Hysteria」の2曲が全米シングル・チャートの20位圏内に入るヒットを記録。しかし熱気に満ちた『Hysteria』屈指の人気曲「Pour Some Sugar On Me」はそれを上回る2位まで上昇し、彼らは北アメリカを手中に収めた。

だがこれにとどまらず、スロー・バラードの「Love Bites」は1989年1月に同チャートで1位を獲得。そのままの勢いで『Hysteria』自体も全米アルバムチャートビルボードを制し、同チャートには3年以上も入り続けた。そしてその間、デフ・レパードは世界屈指の大物バンドへと成長を遂げることになる。フィル・コリンは2017年、バンドのキャリアを決定付けた瞬間をこう振り返る。

「俺たちの予想を越えていたよ。『Hysteria』で目指したのは、ロック・ファンだけでなくあらゆる人に聴いてもらうってことだった。そして実際にそうなったと思う。俺にとっては、あれがキャリアの頂点だろうね」

 

Written By Tim Peacock



デフ・レパード『Hysteria』
1987年8月3日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


最新アルバム

デラックス(左)、通常盤(右)

デフ・レパード『Diamond Star Halos』
2022年5月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

1CDデラックス収録曲
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Goodbye For Good This Time – Avant-garde Mix *
17. Lifeless – Joe Only version *
*ボーナストラック
*限定盤デジパック仕様

1CD通常盤
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Angels – Striped Version *
17. This Guitar – Joe Only version *
*ボーナストラック



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