聖地チェス・スタジオで録音されたザ・ローリング・ストーンズ2枚目のEP『Five By Five』

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LPに続いて登場したEPというフォーマットは、1950、60年代の人気アーティストにとって重要なフォーマットだった。潤沢な資金があるとは言えなかった当時は、未収録の楽曲を特別に集めた作品でシングルとアルバムの間を埋めることが多かったのである。

ザ・ローリング・ストーンズが1964年1月に発表した初めてのEPがチャートで1位になると、彼らは同年の8月に次なるEPをリリースした。この2枚目のEP『Five By Five』は、非常に重要な意味を持つレコードだと言える。というのも、彼らのルーツであるブルースの要素を取り入れた同作は、バンド独特のサウンドが生まれるひとつのきっかけにもなったのだ。レコーディングはシカゴのチェス・スタジオで6月11日に行われ、収録曲はオリジナル曲のほかにブルースやR&Bのカヴァーで構成された。

『Five By Five』という巧い題名は5人のメンバーの演奏による5つの曲を収録したことによるものだが、バンドのオリジナル曲である「2120 South Michigan Avenue(邦題:南ミシガン通り2120)」(言うまでもなく、チェス・レコードの所在地にちなむ)を含む一部の曲でジャケット写真に登場していない6人目のイアン・スチュワートがオルガンを弾いているため事実とは少し異なっている。

チェス・レコードのエンジニア、ロン・マーロの作るサウンドは、“聖地に立つ新人バンド”ザ・ローリング・ストーンズのイメージと相まってこれ以上ないものになった。バンドのマネージャー兼プロデューサーであったアンドリュー・ルーグ・オールダムもライナー・ノーツの中でこう綴っている。「この新しいEPは、直近のアメリカ・ツアー中にシカゴでレコーディングされた。本作で力のこもった歌声と、独特なバンド・サウンドが十二分に楽しめる。また、友人やファンであるみなさんへの感謝のしるしとして、この最新作にはボーナス・トラックを収録している」。

ザ・ローリング・ストーンズは本作でチャック・ベリーへ敬意を示し「Around and Around」をカヴァーしているが、レコーディングの最中、カヴァーの出来栄えを見にチャック・ベリー本人がスタジオを訪れる一幕があった。演奏が終わるとチャック・ベリーは「その調子だ。かなりいい感じだね」と言ったという。他の収録曲でもチャック・ベリー本人の作曲ではないが、チャックがカバーしたヒットした「Confessin’ The Blues」も収録されている。「If You Need Me」はウィルソン・ピケットの曲で、ソロモン・バークもかつてカヴァーした1曲だ。最後に、「Empty Heart」の作曲者にもクレジットされているナンカー・フェルジという名義は、バンドのオリジナルを指すペンネームである。


1964年8月7日付のNME誌では、バンドの最新シングル「It’s All Over Now」の売上が50万枚を突破し、『Five By Five』の予約枚数も18万枚となったことが発表された。同EPはその日のNME誌のシングル・チャートで7位を記録し、1963年8月に4位となったザ・ビートルズのEP『Twist And Shout』の後を好位置から追い始めた。60年代にEPでこれだけ売上を記録したのはザ・ビートルズとザ・ローリング・ストーンズの2組だけである。最終的に『Five By Five』は1964年8月29日付で1位を獲得し、その後15週に亘って首位を守り続けた。

同作はNME誌でこう評された。「このEPには活力、魅了、そして威厳が溢れている」この評価に反論するのは容易なことではない。

Written By Richard Havers



ザ・ローリング・ストーンズ『Five By Five』   

 


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