エリカ・バドゥの魅力:R&Bシーンを大きく変えた新しいヴォーカルと次世代への与えた影響

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Photo: Jon Super/Redferns

エリカ・バドゥ(Erykah Badu)は、ディアンジェロ、マックスウェル、ローリン・ヒルとともに、1990年代の終わり、ネオソウル時代に踊り出た4人のR&Bアーティストのひとりである(実際、このサブジャンルの名前はバドゥを売り出すために作られた言葉だ)。

ビリー・ホリディを思わせる歌声と、1970年代に盛り上がった黒人としてのプライド、アフロ・フューチャリズムを想起させるスタイルを持っていながら、彼女の全体像はR&Bシーンにおいてまったく新しいものであった。1997年のデビューから数十年経っても、SZA、ライオン・ベイブのジリアン・ハーヴェイ、アリ・レノックスといったシンガーやプロデューサーたちにとって、エリカはインスピレーションの源である。

エリカ・バドゥは「ネオソウルのファースト・レディ」として君臨していた時代から、何層にも重なったニュアンスのある歌詞と、彼女自身のイメージとスタイル、そしてソウルとヒップホップ、ジャズを織り交ぜた音楽でファンを魅了し続けている。

バドゥラ・オブロンゲータやサラ・ベリウム(共に変名)、デジタル世界のアナログ・ガール、DJや司会、助産婦など、芸術的な多面性を見せているせいで、彼女の歌唱力はほとんど話題に上らない。だが、ファンの間で人気の高い「Green Eyes」などを聴き込めば、彼女のヴォーカルがいかに重要か、すぐに理解できる。バドゥの歌い方は、彼女の芸術性を理解するためには欠かせない要素なのだ。

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10分間の「Green Eyes」では、自分の緑色の目は野菜をたくさん食べたせいであり、恋人の新しい彼女に嫉妬しているわけではない、と皮肉っぽく歌っている。エリカは、ジャズの影響を受けた曲に乗せ、軽やかな歌唱を使って歌詞に潜む攻撃性を包み込む。「あなたなんてもうどうでもいいの だからお友達のところへ行けば」と柔らかに申し出ながら、本音では軽蔑している証として、最後の言葉はやっとのことで絞り出す。「Other Side of the Game」や「Window Seat」といった曲では、もっとも脆い、受け入れてほしいという絶望の感情を、目印でもある南部の訛りとしなかやに伸びる歌声で表現している。

代表曲「Tyrone」では、浮気っぽい恋人に腹を立て、からかう調子のゆったりした歌い方で、鮮やかに物語を際立たせている。プロデューサー、作詞家であり、ザ・ルーツとアーティスト集団のザ・ソウルクェリアンズの両方のメンバーであるジェイムズ・ポイザーは、彼女のデビュー・アルバム『Baduizm』で「Other Side of the Game」を一緒に書くなど、早いうちから仕事をしてきた。彼は、バドゥについて「不完全だからこそ、完璧な歌い方」と評し、こう語っている。

「生々しさがあるんです。彼女の感情の吐き出し方、唸り方、そしてビリー・ホリディみたいなトレモロは非常に効果的なんですね。エリカの登場以来、彼女みたいな歌い方をするシンガーが大勢出てきました」

シンガーのドゥランド・ベルナールは約10年前にYouTubeでエリカ・バドゥの「That Hump」を歌っているのを、ダラス出身の彼女本人が目にしたことをきかっかけにバックアップ・シンガーを務めるようになった。彼は、エリカの音楽やリリシズムに影響を受けた若いアーティストたちが「バドゥ・ベイビーズ」と名付けられたと話す(エリカが助産婦として実際に取り上げた本物の赤ちゃんと混同しないように)。

ベルナールは子どもの頃、バドゥの「身持ちの悪い女性のような、完全に訛った鼻声」の歌声に最初に惹かれたと話す。「バンドの音がなかったら、彼女はブルース・シンガーです」とも。ベルナールは、ゴスペルとジャズしか流さない両親のもとで育ったが、エリカは聴いてもいい人気アーティストの一人だったという。10代で自分の歌の才能と真剣に向き合うようになると、彼は歌声のウォームアップのために、「エリカ・バドゥの曲に合わせて歌い、ハーモニーをつける」ようになる。2010年に『8ight: The Stepson of Erykah Badu』というタイトルのアルバムをリリースさするほど、彼はバドゥ・ベイビーとしての自分を大事にしている。

シンガー以外にも、バドゥに忠誠を誓っている音楽家はいる。ダラスのプロデューサー、ザック・ウィトネスは、インスタグラムで彼女とチャットをしたあと、音楽を作るために本人が家まで来てくれたという驚くべきことがあって以来、彼女の二人目の母親だと慕っている。この突然の訪問をきっかっけに、彼は2015年のエリカのミックステープ『But You Can’t Use My Phone』をプロデュースしている。

エリカ・バドゥに影響を受けた新しいアーティストたちの中でも、アリ・レノックスはもろに彼女から学んでおり、後継者ともいえる。パフォーマーとしてアリ・レノックスは、はっきりと自分のアイデンティティと才能を持ってはいるが、彼女の大げさな鼻声を使った歌い方は、若いエリカのようだと思わせる。

「BMO」でレノックスは言葉を伸ばすときも、ヴァースでもコーラス部分でにずっと「エイ」と歌い続ける。この歌い方は、エリカ・バドゥの曲群、たとえば「Window Seat」でもよく聞かれる「ヘイ」のアドリブから取り入れているはずだ。エリカと同じように、レノックスの音楽も現代的でありながらどこか懐かしく、過去のジャズやソウル・シンガーを思い起こさせる。

エリカ・バドゥを有名にした鼻から抜ける軽やかな歌い方は、SZAやジリアン・ハーヴェイのヴォーカルでも聴き取れる。最近、第2子を助産師としてエリカに取り上げてもらったテヤナ・テイラーも、彼女の影響を受けている。ふたりはテヤナの『The Album』に収録された「Lowkey」で最近、共演したばかりだが、この曲はエリカの「Next Lifetime」を再解釈した曲だ。

ベルナールが呼ぶところの、バドゥ・ベイビーたちの一番いいところは、彼女の音楽全体をまねしようとはしていない点だ。「誰かから影響を強く受けながらも、自分の音楽を作れる人はいる。それはとても重要ですよね」とベルナールはいう。これらのアーティストが自分のスタイルを注入しているおかげで、未来のR&Bシンガーたちはそこから影響を受けるだろう。ちょうど、彼らがバドゥから影響を受けたように。

Written by Jewel Wicker

uDiscoverミュージックで連載している「ブラック・ミュージック・リフレイムド(ブラック・ミュージックの再編成)」は、黒人音楽をいままでとは違うレンズ、もっと広く新しいレンズ−−ジャンルやレーベルではなく、クリエイターからの目線で振り返ってみよう、という企画だ。売り上げやチャート、初出や希少性はもちろん大切だ。だが、その文化を形作るアーティストや音楽、大事な瞬間は、必ずしもベストセラーやチャートの1位、即席の大成功から生まれているとは限らない。このシリーズでは、いままで見過ごされたか正しい文脈で語られてこなかったブラック・ミュージックに、黒人の書き手が焦点を当てる。




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