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映画監督イーライ・ロスが語る自身選曲のコンピ『Eli Roth’s Red Light Disco』と70年代映画への愛

映画監督のイーライ・ロスは、2002年に公開されたブレイク作『キャビン・フィーバー』で鮮烈なデビューを飾った。それ以来、『ホステル』シリーズ、『グリーン・インフェルノ』、『ノック・ノック』などのヒット作を次々と手がけ、現在ではホラー界を代表する有名脚本家・映画監督としてその地位を確立している。
また、彼はクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』や2023年のテレビドラマ『THE IDOL/ジ・アイドル』などに出演し、俳優としてもスターの仲間入りを果たした。
彼のポッドキャスト番組『History Of Horror』を聴いたことがある者ならご存知の通り、ロスは自身が大の映画マニアであり、特に70年代のイタリア映画やそのサウンドトラックをこよなく愛している。そのため、2,000作以上の映画音楽カタログを誇る伝説的なイタリアのサウンドトラック専門レーベルCAMシュガーから、イタリア映画黄金期の作品からお気に入りのトラックを集めたコンピレーション・アルバムの制作を打診されたとき、ロスに断るという選択肢はなかった。
そうして完成したアルバムが『Eli Roth’s Red Light Disco』である。2枚組のアナログ・レコードであるこのパッケージには、セクシーなディスコ・ナンバー、骨太なファンク・ナンバー、クールなジャズ・ナンバー、そしてきわどい内容のサイケデリック・ナンバーなど、秘蔵の未発表トラックがたっぷりと収録されている。
これらの楽曲を通じて、イタリア映画界を代表する偉大な、しかし過小評価されてきた作曲家たちにスポットライトを当てている。今回、ロス本人がuDiscoverに対し、70年代映画への熱烈な愛、お気に入りの楽曲、そしてこの編集盤の制作秘話などを語ってくれた。
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イタリア映画への愛
――『Red Light Disco』は、すべてがもっとクールだったあの時代にタイムスリップしたような感覚になれるアルバムですよね。当時のイタリア映画の大きな魅力はどんなところにありますか?
あの頃の作品がクールだったのは、無理にクールを気取ろうとしていなかったからなんだ。つまり、自然体で、嘘や虚飾がなかった。それが、この作品で取り上げたような映画が大好きな理由だね。だけどイタリア国内の批評家からは、これ以上ないほど過小評価されてきた。
イタリア映画といえば、まず(フェデリコ・)フェリーニや(ミケランジェロ・)アントニオーニといった、名前が”イーニ”で終わる監督たちが思い浮かぶだろう。個人的には(ダリオ・)アルジェント、(ルッジェロ・)デオダート、ルチオ・フルチなど、名前に”オ”の音がつく監督たちも大好きだ。
しかし、世間からは見向きもされないイタリアのセックス・コメディのジャンルにも傑作は存在する。基本的に、コメディ映画はチャーリー・チャップリンの作品でもない限り、国境を越えて成功することは難しい。アクションやホラーの世界で自国を代表するスターになれば、海外にも名が知られるだろうが、コメディ界のスターというのは、基本的にその作品を生んだ文化や時代と深く結びついた存在なんだ。
『ホステル』の関係でイタリアに行ったとき、あるビデオ店で”フェデラル・ビデオ”というレーベルを見つけたんだ。英語字幕のついていない風変わりな映画がたくさん揃っていて、イタリア語を学ばないとジョークが理解できなかった!とはいえ、スクリーン上で起こっていることのすべてを完全に理解できなくても、笑えるシーンはあるし、どういうジョークなのか大体は掴める。
それに、登場人物が運転している車やファッションといった外見的な部分にも目を奪われた。「あのソファーいいね」とか「あの壁紙もいいね」とか言いながら、僕はいつも参考になる素材や、作品のヒントになるものを探しているんだ。でも、そうした映画で何より強い印象を残すのは、素晴らしい映画音楽なんだよ。
イタリアの映画音楽家といえば真っ先に(エンニオ・)モリコーネが思い浮かぶだろうけど、僕はブルーノ・ニコライ、ステルヴィオ・チプリアーニ、ニコ・フィデンコ、フランコ・カンパニーノ、リズ・オルトラーニといった作曲家も大好きだ。この時期にはたくさんの名作曲家が活躍していて、その音楽は元になった映画の枠を越えている。そのような映画音楽は、本当に時空を超えさせてくれるんだ。
つまり、自分が体験したことのない時代にタイムスリップした気分になれるのさ。当時、僕は5歳くらいだったからね。幼かった70年代の記憶はおぼろげにしか残っていない――肘当てのついた服の男たちがレストランでタバコを吸っている風景とか、そんな断片的なものだけだ。でもそこには独特の雰囲気や独特な空気感がある。70年代にあった危険な感じにも憧れがあるし、そういうところも大好きだ。これらの映画音楽は再評価に値すると心から思っているし、音楽をきっかけにして映画そのものにもまた光が当たればいいなと願っている。
――ご自身も映像作家であるがゆえに、評価されていない映画を支持したくなる部分があるのでしょうか?
そうだね。僕は既成概念に挑戦するのが好きだし、世間の話題になるくらい罰当たりなものを作るのが好きなんだ。「何でこんなものを作れるの?」とか「よくもこんなものを……」と世間を騒がせるような作品だね。映画作りにおいては、僕の中のそういう悪戯っぽい一面が出てしまって、危険な要素を加えたくなるんだ。
中には、精神的に不安定な語り手に自分が身を委ねているような、あるいは「この監督は正気じゃない」と思わせるような映画を撮る映像作家もいる。そういう作品では、何が起こってもおかしくないという感覚に包まれるんだ。
そんな映画に僕は惹きつけられる。デヴィッド・リンチとか、ジョン・ウォーターズとか、テリー・ギリアムとか、(クエンティン・)タランティーノみたいな型破りな監督たちにね。だけど僕の子どものころに見ていた作品には、『人喰族』や『ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー』のように批評家たちから駄作の烙印を押されている映画もある。僕は昔から『ポーキーズ』や『グローイング・アップ/ラスト・バージン』が大好きだった。これらの作品がイタリア映画と相互に影響を与え合っていたことには、あとになって気づいたんだ。
僕はイタリア映画とアメリカ映画の関係や、その双方向の影響にとても興味がある。50年代にアメリカで西部劇が作られ始めると、イタリアの映画監督たちも自分たちなりの西部劇を作るようになった。しかしそのとき彼らは、スクリーン上で血を見せちゃいけないという決まりを知らなかった。だからアメリカ映画では撃たれた人が胸を押さえて死んでいくだけだったけれど、同じような規制法のないイタリアでは、セルジオ・コルブッチが派手に血を飛び散らせた。
それに、イタリア映画は映画音楽のあり方も変えたんだ。モリコーネはエレキギターを映画音楽に使うという、アメリカでは誰も考えつかなかったことをやった。すると突然、アメリカの西部劇で使われていたオーケストラの大仰な音楽が古臭く感じられるようになったんだ。そんな中で誕生したのが『ワイルドバンチ』だった。(サム・)ペキンパーはスタジオ主導で製作されるアメリカ映画にイタリア流の暴力描写を入れ込んだ。それが今度は、イタリアの映画監督やジャッロ映画などに影響を与えていったんだ。
宝の山=CAMシュガー
―― CAMシュガーと仕事をすることになったきっかけは何だったのでしょうか?
ずっと一度は足を踏み入れたいと思っていたんだ。宝の山のような場所だってことは分かっていたからね。そんな中、同社のスタッフとミーティングをした友人のアレックス・ブラウンから、彼らがアメリカでも作品をリリースしたがっているという話を聞いたんだ。彼らは、限定盤のアナログ・レコードという形で作品を発売するのが一番クールだと知っていた。映画ファンはみんなコレクター気質で、レコードも集めているものだからね。
それに僕は、20年前なら誰も知らなかったような楽曲が若い世代に発掘されつつあることも知っていた。僕はニコ・フィデンコが手がけた『Porno Holocaust』や、ブルーノ・ニコライが音楽を担当した『The Red Queen Kills Seven Times』のサントラ盤を20年前から持っているんだ。だから、そういう音楽がTikTokやInstagramのショート動画に使われているのを見ると本当に驚く。今の若い世代は、自分たちの動画に使うクールな曲を常に探しているよね。映画のレビューや監督に関する投稿に使っているわけではなくて、たまたま耳にした曲を「このビート、格好良いな。何ていう曲だろう?」って感じで動画に使うんだ。それは、マイナーな曲であるほど好ましい。
だからヨーロッパのDJたちにこのアルバムを取り上げてもらって、大胆なリミックスをしてもらいたいよ。そう思うのは、長年ずっと聴き続けてきたこの楽曲群が本当に大好きだからさ。自分の手柄をアピールするつもりは一切ない。僕の作った曲じゃないからね。だけど、僕もこれらの曲を世間に紹介するソムリエにはなれる。クエンティン・タランティーノが昔の映画でやっていたみたいにさ。
―― CAMシュガーのテープ倉庫で一番驚いた掘り出し物は何でしたか?
ダニエレ・パトゥッキの「Running Around」だね。ホラー映画『Pieces』のエアロビクスのシーンで使われていたトラックだ。グラインドハウスのボブ・ムラウスキーも含め、これまで誰も見つけられていなかったらしい。彼は『Pieces』の権利を持っていて、映画館で再上映したり、サントラ盤を出したりしていたのにね。この曲は、80年代スラッシャー映画の知られざる楽曲の中でも特別レアな逸品として知られていたんだ。
CAMシュガーのアンドレア・ファブリッツィが「8千曲もあるから、数百曲まで絞っておいてあげよう」と言ってくれたんだ。そのリストに入っていた「Running Around」を聴いたとき「何てこった、今までずっと探していた曲だ」って驚いた。まったく信じられなかったよ。もともとは『Strawberry Blonde』(原題は『Bionda Fragola』)に使われていた曲だってこともそのときに知ったんだ。アメリカでは全然知られていない作品だから、そこでこの曲が見つかるとは夢にも思わなかった。
―― そういう楽曲を一般のリスナーに届けられることについてどう感じますか?
もう最高だよ。例えばニコ・フィデンコの「Sexy Night」はすごく面白くて、何年も聴いてきた曲だ。ニコ・フィデンコの音楽は大好きで、彼の手がけたサウンドトラックは何作も持っている。この曲で彼は、”セクシーな彼女を見てみろよ。ああ、何て綺麗なんだろう!”って感じで歌うんだ。本気で、アメリカのディスコ・ナンバーかニュー・ウェーヴの楽曲を装おうとしているのが伝わってくる。熱意や誠実さが感じられるし、ふざけている部分なんて一切ないんだ。
でも歌詞を聴いてみると、「これ、誰が書いたんだろう?」とか「これって何語?」みたいな疑問が湧いてくる。英語ではあるんだけど、僕らが使うような普通の英語の言い回しじゃないんだ。そこがたまらないんだよ。
歌が入っていない楽曲も、リスナーの人生のサウンドトラックになる。車の運転中も、ショート動画を作るときも、どんなときも、これらの楽曲群はその瞬間を見事に彩ってくれる。特にディスコ・パーティーにはぴったりだね。『Taxi Girl』のテーマ曲も最高だ。それに、ステルヴィオ・チプリアーニは史上トップクラスの偉大な作曲家だと思う――スタジオ54(かつてニューヨークに存在したディスコ)を思わせる「What Can I Do」のサウンドは驚異的だよね。
―― 全面的なリマスタリングを施された状態でそうした楽曲を聴けるのは最高なんじゃないですか?
僕は、こうした楽曲を綺麗な音で聴けるのが本当に嬉しかった。以前は、DVDから抽出した音源を聴いていたりしたからね。フランコ・カンパニーノが手がけた『大人になる前に・・・』の音楽もそうだ。あるいは、YouTubeに動画が上がっている場合もあるだろう。
そういう映画をYouTubeで見られることもあるんだけど、もれなく80年代初頭に販売されていたPAL形式のVHSのデータだから、基本的に音質はひどい。だからこうして、これらの楽曲を今朝レコーディングしたみたいに鮮やかで綺麗な音で聴くと、ようやくその本来の魅力を堪能できている感じがするんだ。
ホラー映画のコンピを作ること
―― ご自身の築き上げてきた評価を考えたときに、ホラー映画の楽曲を含む編集盤をまとめることにプレッシャーは感じませんでしたか?
確かに、中には「Running Around」みたいにホラー映画に使われている曲もある。「Running Around」はこのアルバムで一番の名曲かと言われると違うけれど、ホラー映画のファンにとっては超レアな楽曲だ。だからホラー好きの人は、この曲をレコードで聴きたいがためにこのアルバムを買ってくれるだろうね。何しろこれまでリリースされたことがなくて、誰も完全版を聴いたことがなかった曲なんだ。実際は5分以上ある曲だけど、映画では30秒ほどしか流れない。YouTubeに上がっている動画の20分時点にそのシーンがある。運動をしている主人公がモンタージュで映される場面なんだけど、曲はほんの一部しか流れない。だからホラー映画のファンには喜んでもらえると思う。
あと、僕は『The Red Queen Kills Seven Times』に使用されたブルーノ・ニコライの「Servizio Fotografico」という曲がなぜだか大好きで、自分で作ったプレイリストには必ず入れているんだ。車を運転するときは、いつもこの曲を聴く。誰かがこの曲を別の映画に使っていたときは「ちくしょう」と思ったけど、とにかくこれはすでに世に出ている。でも今回、「よし、この曲は自分のために入れよう。この曲をレコードで聴きたい」と決心したんだ。
このアルバムのほかにCDでもあの曲を聴けるし、DVDでも聴けるけれど、とにかく好きでたまらない。自分で決めたルールに反しているのは分かっていた。だけどそんなのどうでもいいと思った。2枚組にするんだし、この曲だけは入れようと決意したんだ。
―― アナログ・レコードも集めているんですか?
そうだよ、大好きなんだ。妻と一緒に上質なターンテーブルを買って、レア盤やオリジナル盤を集めている。ホラーの映画音楽を集めるのも好きで、イタリアの音楽のレコードもよく夫婦で探しているんだ。リトフィーバやラファエラ・カッラの作品もたくさん持っているよ。
お互いにプレゼントをし合うときは、いつも70年代のアルバムのオリジナル盤を探す。『黄金の七人』のサントラも持っているし、誰もが手に入れたいと思うようなレア・アイテムもいくつか所有しているんだ。
―― パッケージングにもこだわったのではないですか?
そうだね。もともとはジャケット用の写真撮影をするつもりだった。でもオリジナルの映画ポスターのスキャンとか、使える素材を見せてもらって考えを変えたんだ。当時のロカンディーナ(イタリア映画の小型ポスター)もたくさんもらった。どれも素晴らしいデザインだったよ。このジャケットは、子どものころに見ていたレコードのパッケージを意識したものなんだ。あのころに眺めていたアルバム・ジャケットの雰囲気を再現したかった。
CAMシュガーにはものすごく腕の良いデザイナーもいて、その人も手を貸してくれた。ブックレットや写真を70年代前半のプレイボーイ誌のような感じに仕上げたいというコンセプトも完璧に理解してくれた。僕らは完成形について明確なヴィジョンを共有できていたんだ。映画自体やポスターをデザインの明確な指針にすることができたから、作業はかなりスムーズに進んだよ。
―― 最後に、”第2弾”の予定について訊かないわけにはいかないのですが……。
何ていうか、もし『Red Light Disco』が売り切れが続出するくらい本当に好評だったら、CAMシュガーのアーカイヴにはあと8千曲も候補があるわけだ。個人的にはもちろん第2弾もやりたいけれど、まずはこのアルバムの売れ行きを確かめないとね。僕はとにかくこの企画に関われただけで嬉しい。僕はどんな仕事にも、次はないかもしれないという覚悟で臨んでいるんだ。
Written By Jamie Atkins
『Eli Roth’s Red Light Disco』
2025年3月21日発売
CD・LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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