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Def Jam設立35周年:世界一にして唯一無二のヒップホップ・レーベルの軌跡をたどる

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今年2019年で創立35周年を迎えるヒップ・ホップ・レーベル、Def Jam Recordings(デフ・ジャム・レコーディングス)。今現在もジャンルの最前線で活動し続けるこのレーベルの設立から、現在までの軌跡を、音楽ライターの渡辺志保さんに解説頂きました。

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リック・ルービン()左)、ラッセル・シモンズ(右)

歴史的ヒップホップ・レーベルとして、今も世界にその名を轟かせるDef Jam Recordings(以下、Def Jam)。1984年、もともと、ニューヨーク大学の大学生だったリック・ルービンが立ち上げた事業にラッセル・シモンズが加わり、本格的にレーベルとして始動した。何と言っても、Def Jam初の<大発明>といえばLL・クール・Jだろう。Def Jam発のアルバム第一号となった『Radio』は発売後、数ヶ月が経つ頃にはすでに50万枚の売り上げを記録し、商業的にも大成功を収めた。シンプルかつハードなサンプリング・ビートに、キレの良いLL・クール・Jのライムが炸裂する『Radio』は、ラップとは何たるかを世界中に知らしめ、ヒップホップ・カルチャーの新たな扉を開いた。

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LL・クール・J

そして、同じくDef Jam初期にデビューしたもう一つの革命的ラップ・グループがビースティ・ボーイズだ。かつてパンク・バンドを組んでいたことでも知られるリック・ルービンだが、ビースティ・ボーイズも元々はニューヨークで活動していたハードコア・パンク・バンドであった。元のメンバーが抜け、3人組のラップ・トリオとして活動を仕切り直そうと考えていたビースティに声を掛けたのが、学生時代のリックである。LL・クール・Jのサウンドとは対照的に、オルタナティヴで独創的なビースティのサウンドは、幅広いリスナーの心を掴んだ。彼らのデビュー・アルバム『Licensed to Ill』は、スラッシュメタル・バンドのスレイヤーからケリー・キングもギタリストとして参加し、パンク・ロックとヒップホップ・サウンドの融合を実現。ビルボード・チャート上で初めて首位を獲得したアルバム作品となった。

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ビースティ・ボーイズ

こうして、レーベル設立時から常にシーン先読みし、あらゆる角度からアーティストを発掘し、リスナーのニーズを満たしていったのがDef Jamのスゴいところでもある。1987年には「ラップはブラック・アメリカンにとってのCNNだ」と発言したチャック・D率いるパブリック・エネミーがアルバム『Yo! Bum Rush the Show』でデビュー。翌1988年には、飄々としたラップと巧みなストーリーテリング、そして派手なピンプ・スタイルの格好が強烈だったスリック・リックがデビュー・アルバム『The Great Adventures of Slick Rick』を発表。1989年にはMCサーチ率いるラップ・グループ、サード・ベースのデビュー・アルバム『The Cactus Album』をリリースするなど、レーベル創立から勢いを落とす事なく、80年代のヒップホップ・シーンを席巻していった。

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パブリック・エネミー

90年代に入ると、ヒップホップ・シーンはさらに進化していく。<ヒップホップの黄金期>とも称されるこの時代、Def Jamからはまず、ソリッドな語り口と、サウンドに溢れるファンクネスが特徴的だったエリック・サーモンとパリッシュ・スミスによるMC&DJグループ、EPMDがデビュー。同じ時期、キャッチーかつファニーなマイクパスが見事なグレッグ・ナイスとスムース・Bによるナイス&スムースのアルバム『Ain’t a Damn Thing Changed』を送り出した。そして、レッドマンやオニクスといった当時のニューヨーク・ヴァイブスを生々しく伝える若手アーティスト/グループらを次々とデビューさせていくとともに、傘下レーベルも増やし、Def Jam帝国はますます巨大なものへと成長していった。また、これまでニューヨーク出身のアーティストが大半を占めていたDef Jamだったが、サウス・セントラル・カーテルやウォーレン・Gといった西海岸のアーティストらをも引き入れ、より多角的に自社のヒップホップ・マーケットを拡げていったのだった。同時に、「This Is How We Do It」のヒット・シングルで知られるシンガーのモンテル・ジョーダンや、どこまでもセンシュアスな路線を突き詰めたケースといった男性R&Bシンガー、そしてワイエンヴィー(Y?N-Vee)やモーケンステフら女性R&Bグループらをも輩出していった。

90年代後半に入ると、ストリートのタフなイメージを売りにしていたDMXジェイ・Zを引き入れ、Def Jamはどんどん拡大していく。特に、自身が設立したRoc-A-Fella RecordsごとDef Jam傘下に置いたジェイ・Zの勢いは凄まじく、「Can I Get A…」「Hard Knock Life (Ghetto Anthem)」(ともに1998)など幾つものミリオン・ヒットを生み、Def Jamの新たな顔となった。また、フィメールMCのフォクシー・ブラウンがDef Jamに加入したのもこの時期だ。1999年になると、Def Jamはより本格的に多角的な経営へと乗り出していく。スピン・オフ・レーベルのDef Soulを立ち上げてシスコやケリー・プライスといったR&Bシンガーも多く送り出していったほか、プロデューサーのアーヴ・ゴッティ率いるMurder Inc. Recordsを傘下に置いて、ジャ・ルールやアシャンティといったアーティストを引き入れ、2000年代へと続く基盤を作っていった。さらに、当時、勢力を伸ばしていったサウス(南部)のシーンに目を付け、Def Jam Southを設立。リリース第一弾としてアトランタ出身のラッパー、リュダクリスのアルバム『Incognegro』を発表した。

Jay-Z

そんな中、世界進出の一環として2000年に設立されたのがDef Jam Japanである。第1号アーティストとしてDABOと契約し、2001年にデビュー・アルバム『Platinum Toungue』を発売。その後も、AIやS−WORDら、勢いと実力を兼ねそろえたアーティストらを揃え、日本におけるDef Jamブランドを確立させていった。一時、Def Jam Japanはその看板を下ろしたものの、現在は再びDef Jam Recordingsが日本でも再ローンチされ、AK-69、SWAY、そしてIOといった多彩なMCたちが名を連ねている。

2000年代に突入し、さらに走る続けるDef Jamは、新たなニューヨーク・サウンドを継承するかのごとくハーレム出身のキャムロンやジュエルズ・サンタナら、ザ・ディプロマッツの面々を引き入れる。フリーウェイやジョー・バドゥンといった実力派の新人ラッパーたちとも契約を交わしたDef Jamに、2004年に大きな転機が訪れる。なんと、あのジェイ・Zが社長に就任したのだ。すでにラッパーとしても実業家としても大きな成功を収めていたジェイ・Zだが、そのパワーは微塵も衰えず、レーベル拡大に大きく寄与したのだった。その代表格が、カニエ・ウエストリアーナのデビューだろう。また、ソングライターとして活躍していたNE-YOもソロ・シンガーとしてデビューさせ、Def Jamはさらなるミリオン・ヒット・レーベルへと成長していった。2000年代後半になると、アトランタのヤング・ジージーやマイアミのリック・ロスといったローカル・スターたちを招き入れ、2006年にはジェイ・Zとの長年のビーフを解消したナズがアルバム『Hip Hop Is Dead』でDef Jam入りを宣言。ヒップホップの商業的成長とともに、Def Jamもまた大きくシーンを変えていったのだった。

そして、2010年代になるとDef Jam傘下のレーベルもさらに多様化していき、細分化するヒップホップ・サウンドに呼応するようにリリース作品も増えていく。現在はプシャ・Tが社長を務めるG.O.O.D Musicからはレーベル設立者でもあるカニエ・ウエストやビッグ・ショーンキッド・カディ、デザイナーやシェック・ウェスらが名を連ね、YGのレーベルである4Hunnidや、ナズが立ち上げ、ハーレムの新鋭ラッパーであるデイヴ・イーストらが所属するMass AppealもDef Jamの傘下だ。近年も、ロジックやデイヴ・イースト、ダニー・レイやマクソ・クリームなど、さらなる新時代に向けて新たなアーティストを発掘中だ。抜群の商業的センスを持ちながら、設立当初より常に多角的なヒップホップ・サウンドを世に送り出してきたDef Jam Recordings。世界一のヒップホップ・レーベルの名にふさわしい、唯一無二の存在だ。

Written By 渡辺志保


Def Jam 35周年を記念してSpotifyではレーベルの歴史を網羅した公式プレイリスト公開中
「Hip-Hop Classics: Def Jam」



 

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