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ラリー・クライン、レナード・コーエン最新トリビュート作品を語る

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photo by Alan Shaffer

伝説的シンガー・ソングライター、レナード・コーエン(Leonard Cohen)が亡くなってもうすぐ6年。そんなコーエンへのトリビュート・アルバムであり豪華ヴォーカリストたちが参加した『Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen』が2022年10月14日に発売となった。

このアルバムをプロデュースしたラリー・クラインがコーエン、そして本作品の魅力について語ってくれたインタビューを掲載。

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ラリー・クラインとレナード・コーエンとの出会い

「人生には突如やって来られ、世界の見方が変わるほど影響を及ぼされる相手が稀にいるものだ。私にとって、レナードはそんな一人」

と、ラリー・クラインは、『Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen』にコメントを寄せている。レナードとは、文字通り、聴き手の人生を決定づけるような多大な影響を与え、多くのアーティストたちから尊敬される詩人で小説家、そしてシンガー・ソングライター、レナード・コーエンのことだ。

ラリー・クラインは、プロデューサーとして、そして友人として今回のトリビュート・アルバムに尽力し、素晴らしいアルバムに仕上げた。若い頃、ベーシストとしてジャズの世界に飛び込み、その後、活躍の場を拡げて、ボブ・ディラン、ロビー・ロバートソン、ドン・ヘンリー、トレイシー・チャップマンなどの作品にもかかわり、近年はプロデューサーとしてもグラミー賞を受賞するなどの売れっ子だ。1980年から90年代にかけてはジョニ・ミッチェルと公私ともに活動を共にしていた仲で、1983年のジョニ・ミッチェルの来日公演にもバンドのベーシストとして同行していた。

「レナードと初めて会ったのは、ジョニとの結婚式だった。会ってすぐに好きになったよ。チャーミングでエレガントで、ユーモアがあって、もちろん、天才でね。 2度目の妻、つまりいまのルシアーナ(・ソウザ)との結婚式にも来てくれて、両方に出てくれたのはおそらく彼一人だよ(笑)。それ以降、レナードもぼくも興味があることが似ていて、本当に親しく、長く良い付き合いを続けていた。亡くなってからは淋しくて、ぽっかりと穴が開いたようだった。誰にもいるんじゃないかな、そうやって亡くなって初めてその存在感の大きさがわかるような相手が。このアルバムは、そんなぼくのレナードへの思いというか、彼の作品の中に身を置きたいという願いから生まれたものなんだ」

 

初めに声をかけたのはノラ・ジョーンズ

コーエンが亡くなったのは、2016年11月、82才だった。その直後には、ツアーの先々で彼の「Everybody Knows」を歌って死を悼んだノラ・ジョーンズを含めて、ピーター・ガブリエル、グレゴリー・ポーター、サラ・マクラクラン、ルシアーナ・ソウザ、ジェイムス・テイラー、イギー・ポップ、メイヴィス・ステイプルズ、ナサニエル・レイトリフ等々、今回、錚々たるシンガーたちが名を連ねた。

「最初に声をかけたのは、たぶん、ノラ・ジョーンズだったはずだ。彼女のことは前から知っていたし、ピーター・ガブリエルもデヴィッド・グレイも前からの知り合いだ。そうやって今回参加してくれたのは友人であり、ぼくにとってフェイヴァリット・ヴォイスと呼べる声の持ち主たちだ。それに加えて、アルバムの構想を練っていく過程で、頭に浮かんだ声たちが加わっていくことになった。ぼく自身が好きな声で、と同時に、アルバムを作る上でふさわしいと思える声が集まってくれたということだね」

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen – Steer Your Way – Norah Jones (Visualizer)

 

誰にどの曲を歌ってもらうのか

ノラ・ジョーンズの「Steer Your Way」やイギー・ポップの「You Want It Darker」のように、コーエンの生前最後アルバムから選ばれたのもあれば、グレゴリー・ポーターの「Suzanne」のように、コーエンの最も初期の曲もある。もちろん、サラ・マクラクランの「Hallelujah」のように、多くの人たちに歌いつがれてきたコーエンの代表作もある。コーエンのキャリアにまんべんなく光をあて、有名無名を問わずに曲は選ばれている。

「そのほとんどはぼくが頭の中で“この曲にはこの声がいいんじゃないか”と思ったものを相手に提案するという形で進行していった。例えば、ノラ・ジョーンズに“Steer Your Way”を提案したとき、彼女は知らなかった。でも、彼女は、その素晴らしさを理解してくれたし、ピーター・ガブリエルの“Here It Is”もぼくのほうから持ち掛けた。最初からこれはどうしてもやりたいと思っていたし、ピーターに歌ってもらおうとも決めていた。ただ、余り有名な曲ではないので、彼が知っていたかどうかはわからないが、喜んで歌ってくれた。それに、あれはアルバム・タイトルにピッタリだったしね」

Peter Gabriel – Here It Is.. A Tribute to Leonard Cohen…

「そのいっぽうでは、デヴィッド・グレイの“Seems So Long Ago, Nancy”のように、彼が以前から好きで、彼の方から“あの曲をやりたい”と言ってきたのもある。逆にぼくは、その曲に関してそれほど知らなかったけど、聴いてみたら、そこまで彼が惹かれる理由がわかったよ。そんな風に、シンガーの強い思いに引っ張られる形でやった曲もある」

Seems So Long Ago, Nancy

中には、「Coming Back to You」のジェイムス・テイラーのように、当初どうやって歌おうかと悩んでいたのを、二人で相談しながら、敢えて冒険を課することで生まれた嬉しい魔法もあった。

「ジェイムスはツアー中だったのでキーに関する話ができなかったんだ。それで、ぼくの一存でレナードのキーでやると決めた。それは、普段ジェイムスが歌うキーよりも少し低いキーだったんだけど、敢えて、これまでほとんど使っていないキーに、彼の声を置いてみるとどうなるんだろうと、二人の意見は一致したのでやってみた。彼も悩んでいたようだったけど、そうすることでぼくらは光をみることができた」

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen – Coming Back To You – James Taylor (Visualizer)

1992年の『I’m Your Fan: the songs of Leonard Cohen by…』や1995年の『Tower of Song: The Songs of Leonard Cohen」のように、過去、レナード・コーエンのトリビュート・アルバムは幾つか作られてきた。その中には、ピーター・ガブリエルの「Suzanne」のように、彼が演奏に参加したものさえあるくらいだ。それらを意識したのだろうか。

「いや、もちろん聴いたことはあるし、実際、ぼくはその中で演奏もしている。だけど、独自の個性を出したかったし、これまでとは違う、新しい鏡に映したいという思いがあったので、意識的に避けた。彼の曲をカヴァーしたものは多くあるが、それも敢えて聴こうとはしなかった。それとは違う、新しいものをミュージシャンたちと、新しい音楽の言語を用いて作ることに意識を集中したかったのでね」

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen – Suzanne – Gregory Porter (Music Video)

ラリー・クラインの奥さんで、ブラジル出身のルシアーナ・ソウザの「Hey, That’s No Way to Say Goodbye」も、そういった意識で取り組まれた曲だ。コーエンの最も初期のフォークっぽいのがオリジナルだが、それをルシアーナとバンドで、フォークでもない、ジャズでもない、ボサノヴァでもない、洗練された新しい景色を描き出した。

「レナードがやったのとは違う領域をみつけたいという思いで取り組んだからね。彼のやったことに近づこうなんて思いもしなかったが、新しいものにはしたかったんだ。と同時に、詩に忠実でありたかった。だからまず、ルシアーナと二人だけでどういう音楽的なトーンでアプローチすべきかと話をし、それをもとにバンドで拡げていった。バンドは、二人のアイディアを自然に拡げて、見事に形にしてくれたよ」

Hey, That's No Way To Say Goodbye

 

コロナ禍でのレコーディング

コロナ禍だったこともあって、レコーディング作業は困難を強いられ、ゲストたちの歌入れは、ロサンゼルス、ロンドン、バンクーバー、ニューヨーク、シカゴ等々、各地での作業という不自由さを課せられた。それでもアルバム全体に統一感がもたらされ、音楽的にも素晴らしい成果が得られたのは、腕達者なミュージシャンたちによって編成された一つのバンドが全曲を担当したことが大きい。ギターのビル・フリゼール、スティール・ギターのグレッグ・リース、サックスのイマニュエル・ウィルキンス、オルガンのラリー・ゴールディングスなど、ジャズとアメリカーナを結ぶ超一流どころだ。

「一つのバンドでやることは、ずっと考えていたんだ。最初から、このアルバムならではのユニークな音楽言語を作り出したい、と思っていたからね。それを実現するには、同じ顔触れでそれぞれの曲に取り掛かり、目指す音楽の密度やサウンドにあった空気を生み出さなければならない。メンバーたちはすぐに集まってくれた。ただ、サックスに関しては誰がいいか途方に暮れた。ぼくにとって最高のサックス奏者は、ウェイン・ショーターだからね。でも、彼は健康上の理由でもうやっていない。そんなとき、ドン・ウォズからイマニュエル・ウィルキンスを聴いてみるべきだと言われた。それで、彼のデビュー・アルバム『Omega』を聴いたんだけど、最初の2曲で、彼しかいないと思ったよ」

レナード・コーエンと言えば、哲学的というか、示唆に富んだ言葉で人間を語り、人生を問い、圧倒的な評価を得た人だが、そのウィルキンスの「Avalanche」、ビル・フリゼールの「Bird on the Wire」と、敢えて2曲のインストゥルメンタル・ナンバーをここに織り込むことで、クラインは、これをありきたりなトリビュート・アルバムとは異なる特別な個性と風情、そして価値をもたらすことに成功したのだ。

Avalanche

Interviewed & Written By 天辰保文


ヒア・イット・イズ『Here It Is: A Tribute to Leonard Cohent』
2022年10月14日発売
CDiTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music

【収録楽曲 – 参加アーティスト】

1. Steer Your Way – ノラ・ジョーンズ
2. Here It Is – ピーター・ガブリエル
3. Suzanne – グレゴリ―・ポーター
4. Hallelujah – サラ・マクラクラン
5. Avalanche – イマニュエル・ウィルキンス
6. Hey, That’s No Way to Say Goodbye – ルシアーナ・ソウザ
7. Coming Back to You – ジェイムス・テイラー
8. You Want It Darker – イギー・ポップ
9. If It Be Your Will – メイヴィス・ステイプルズ
10. Seems So Long Ago, Nancy – デヴィッド・グレイ
11. Famous Blue Raincoat – ナサニエル・レイトリフ
12. Bird on The Wire – ビル・フリゼール


 

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