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映画音楽の“マエストロ” エンニオ・モリコーネが91歳で逝去。その半生を辿る

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Photo: Muthmedia GMBH

セルジオ・レオーネ監督によるマカロニ・ウェスタン映画の中で、セリフのない、煮えたぎるような緊張感を際立たせ、脳裏に焼き付いて離れない独創的なスコアの生みの親で、アカデミー受賞作曲家のエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)が2020年7月6日に91歳で逝去した。

これまでに500作以上の映画音楽を手掛けたイタリア出身のエンニオ・モリコーネが、先週、転倒によって大腿骨を骨折し、その影響による合併症のためローマ市内の病院で亡くなったことを、彼の弁護士であるジョルジオ・アスマが公表した。

Ennio Morricone – The Best of Ennio Morricone – Greatest Hits (HD Audio)

“マエストロ”の愛称で親しまれていたエンニオ・モリコーネがつくり出す独創的なサウンドは、セルジオ・レオーネ監督による『荒野の用心棒』(1964年)、『夕陽のガンマン』(1965年)、『続・夕陽のガンマン』(1966年)、さらに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(1968年)、『夕陽のギャングたち』(1971年)といった低予算のマカロニ・ウェスタン映画作品を豊かに彩った。

2007年には“映画音楽芸術への壮大かつ多面的な貢献”が評価され、“アカデミー名誉賞”(クリント・イーストウッドがプレゼンターを務めた)を受賞している他、イタリア映画界の最高名誉である“ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞”を11度受賞している。

2015年にクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』の音楽で初めてアカデミー賞“作曲賞”を受賞。それまでには、テレンス・マリック監督の『天国の日々』(1978年)、ローランド・ジョフィ監督の『ミッション』(1986年)、ブライアン・デ・パルマ監督の『アンタッチャブル』(1987年)、バリー・レヴィンソン監督の『バグジー』(1991年)、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『マレーナ』(2000年)のオリジナル・スコアでもアカデミー賞にノミネートされていた。

近年では、2016年にデッカ・レコードと新たな契約を結び、モリコーネの作曲家・指揮者としてのキャリア60周年を記念してリリースしたアルバム『Morricone 60』には、彼が、過去のメジャー映画作品のスコアで共演してきたチェコ・ナショナル交響楽団との新録音源が収録されている。

Sergio Leone Greatest Western Music of All Time (2018 Remastered 𝐇𝐃 Audio)

 

6歳から作曲を始めた巨匠の半生

1928年にローマで生まれたエンニオ・モリコーネは、6歳の時にトランペットを手に取り、初めて作曲をした。クラシック音楽を学び、学校卒業後は演劇やラジオのための音楽を書き始めた。その後、イタリアのRCAレコードにアレンジャーとして雇われ、ポップ・アーティストのために作曲を始めた彼は、ポール・アンカ、フランソワーズ・アルディ、デミス・ルソスのヒット曲を手掛け、後にペット・ショップ・ボーイズとも共作している。また、実験的かつ即興的な作曲家集団として知られるGruppo di Improvvisazione Nuova Consonanzaとのコラボレーションでは、ジャンルの境界線を押し広げるような前衛的な作品を制作した。

そしてエンニオ・モリコーネの名を世に知らしめたのは、映画のスコアだった。彼は、1950年代半ばに別の人物がクレジットされた映画スコアのゴーストライターとしてスタートしたが、『Il Federale (英題:The Fascist) 』を皮切りに、ルチアーノ・サルチェとのコラボレーションにより、映画音楽界での地位を築き上げていった。

ほぼ全てのジャンルの映画音楽を手掛けてきたエンニオ・モリコーネが生んだメロディーの中には、おそらく映画そのものよりも有名になった作品がある。1971年のイェジー・カヴァレロヴィチ監督の映画『Maddalena』は、今日ではあまり人々の記憶に残っていないかもしれないが、エンニオ・モリコーネがこの映画のために作曲した「Come Maddalena」と「Chi Mai」は、彼自身が最も愛した作品でもあり、後者は1981年にBBCのドラマ・シリーズ『The Life and Times of David Lloyd George』でフィーチャーされたことで、全英TOP40で2位を記録している。

Chi Mai

1960年代、クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督によるマカロニ・ウェスタンの三部作『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』を支えたエンニオ・モリコーネのスコアは、大成功を収め、彼の代表作として知られていくようになった。口笛のようなメロディーと、シンフォニックな要素に銃声やギターを融合したそのサウンドは、西部劇そのものを想起させる。

1989年に亡くなった映画監督のセルジオ・レオーネはかつてモリコーネについてこう語っていた。

「私の作品は実質的に無声映画になりうるので、セリフのない演技や感情を際立たせるために音楽はなくてはならないのです。撮影前に彼に音楽を書かせたことがあったほど、まさに脚本そのものの一部でした」

これらの映画作品と彼のスコアは、クエンティン・タランティーノ監督に大きな影響を与え、彼は自身が監督した映画『ヘイトフル・エイト』の音楽に彼を起用している。同映画で、エンニオ・モリコーネは名誉賞以外では、自身初となるアカデミー賞作曲賞を受賞した。またそれ以前にも、クエンティン・タランティーノは、『キル・ビル』、『イングロリアス・バスターズ』などの作品でモリコーネの音楽を起用しており、『ジャンゴ 繋がれざる者』には、エンニオ・モリコーネがオリジナル楽曲を提供している。

Ennio Morricone – L'Ultima Diligenza per Red Rock (versione integrale) – Abbey Road

彼は、自身が手掛けたスコアからの代表作を演奏するコンサート・ツアーを頻繁に行い、2019年も自身のオーケストラを指揮していた。彼はこれまでに7,000万枚以上のアルバムを売り上げ、2つのアカデミー賞をはじめ、4つのグラミー賞と6つの英国アカデミー賞を受賞している。

エンニオ・モリコーネは、口笛、教会の鐘、鞭、コヨーテの遠吠え、小鳥のさえずり、時計の音、銃声、女性の声など、珍しいサウンドを取り入れた先駆的な作曲家としても知られており、典型的なスタジオ・アレンジではつくり出せない質感を音楽にもたらした。

彼は、アカデミー外国語映画賞を受賞した『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)をはじめ、ジュゼッペ・トルナトーレ監督と過去に何度もタッグを組んできた他、彼が手掛けた優れた作品郡の中には、ジッロ・ポンテコルヴォ監督(1966年『アルジェの戦い』)、ドン・シーゲル監督(1970年『真昼の死闘』)、ベルナルド・ベルトルッチ監督(1976年『1900年』)、ジョン・ブアマン監督(1977年『エクソシスト2』)、エドゥアール・モリナロ(1978年『Mr.レディMr.マダム』)、ジョン・カーペンター(1982年『遊星からの物体X』)、ウィリアム・フリードキン(1987年『ランページ/裁かれた狂気』)、ブライアン・デ・パルマ(1987年『アンタッチャブル』)、ペドロ・アルモドバル(1989年『アタメ』)フランコ・ゼフィレッリ(1990年『ハムレット』)、ウォルフガング・ペーターゼン(1993年『ザ・シークレット・サービス』)、マイク・ニコルズ(1994年『ウルフ』)、ウォーレン・ベイティ(1998年『ブルワース』)など、錚々たる監督とのコラボレーションが含まれている。

 

各界からの追悼

イギリスの映画監督エドガー・ライトは、自身のツイッターでこう追悼と賛辞を送った。

「アイコニックな作曲家エンニオ・モリコーネについては、(膨大すぎて)どこから話すべきかさえわかりません。彼は、平凡な映画を注目すべき映画へ、良い映画を芸術作品へ、そして素晴らしい映画を伝説的作品へと変えることができました。私の人生のステレオから彼の音楽が消えることはないでしょう。彼が残したレガシーはあまりにも偉大です。どうか安らかにお眠りください」

もう一人の偉大な現代映画音楽作家であるA・R・ラフマーンは、「エンニオ・モリコーネのような作曲家だけが、ヴァーチャル・リアリティ・ショウ以前、インターネット以前の時代に、イタリアの美しさや文化、そして余韻に満ちたロマンスを私たちの感性にもたらすことができたのです。私たちにできることは、巨匠の仕事を称え、学ぶことのみです」と追悼している。

そしてデッカ・レコードは次のような声明を発表している。

「デッカ・レコードはイタリアが生んだ世界的作曲家、エンニオ・モリコーネの死を受け、深い悲しみの中にいます。巨匠モリコーネは、60年以上に及ぶ輝かしいキャリアを通じ、600を越えるオリジナル楽曲を手がけてきました。デッカ・レコードと契約した2016年は、モリコーネが作曲家/指揮者人生60周年を祝った記念の年でした。彼は、2007年に映画界に果たした類い稀なる貢献が認められ、アカデミー賞名誉賞を受賞。その後、2016年にはクエンティン・タランティーノ監督による『ヘイトフル・エイト』で、自身初となるアカデミー賞作曲賞を受賞。その間には『天国の日々』『ミッション』『アンタッチャブル』『バグジー』『マレーナ』でオスカーにノミネート。これまでエンニオ・モリコーネが手がけた映画とテレビの主題曲は500曲以上。オリジナル作品も100曲を越えています。

アカデミー賞名誉賞を受賞した映画音楽作曲家はモリコーネを含め、これまでに2人のみ。彼の代表的作品は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『荒野の用心棒』『アンタッチャブル』『ミッション』そして何と言っても、心に残る音楽が映画を彩っていた『ニュー・シネマ・パラダイス』でしょう。なお、モリコーネが手がけた『続・夕陽のガンマン』の主題曲は、史上最も優れた映画サウンドトラックのトップ200ランキングで第2位に選ばれました。モリコーネは90歳まで現役でステージに立ち続けました。引退前、最後のコンサートはスタンディング・オベーションと絶賛の中、史上最も多作かつ影響力ある映画音楽の作曲家という地位を、さらに揺るぎないものにしたのです」

Ennio Morricone – Best tracks from Nuovo Cinema Paradiso Soundtrack

Written By Tim Peacock



エンニオ・モリコーネ『Morricone 60』
2016年11月11日発売
CD / iTunes /Apple Music / Spotify / Amazon Music




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