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17歳の新人、オリヴィア・ロドリゴがいきなり記録的ヒットになった理由:音楽業界騒然の“謎”を解説

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オリヴィア・ロドリゴ
Photo Credit: Erica Hernandez

2021年1月8日にGeffen Recordsからアーティストとしてのデビュー・シングル「drivers license」を発売したオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)。このシングルが彼女の母国アメリカだけではなく世界中で様々な記録を更新する大ヒットとなっています。

彼女の楽曲はなぜこんなにもいきなり売れたのか? そしてコロナ禍で生まれた17歳(2021年2月20日に18歳に)のポップ・スターの背景について、様々なメディアに寄稿される辰巳JUNKさんに解説いただきました。

「drivers license」の主な記録
・全米全英シングル・チャート初登場1位
・全世界46か国のApple Musicで1位 / 30か国のSpotifyで1位
・女性アーティストとして史上最多の週間グローバル・ストリーミング数
・Spotify Globalデイリー再生数歴代1位(*クリスマス曲を含めると3位)
・Spotify Global週間再生数歴代1位
・Spotify史上最速で1億再生突破(8日間)
・UK史上最多デイリー再生歴代1位(*クリスマス曲をのぞく)
・Amazon Music初登場曲の週間再生数歴代1位
・Alexaで1日に呼び出された回数歴代1位(世界)

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オリヴィア・ロドリゴという名前にあまり聞き覚えはないかもしれない。しかし、音楽ファンならば、今後耳にしていく可能性が高い。2003年に生まれたフィリピン系アメリカ人のオリヴィアは、2021年1月にリリースしたデビュー・シングル「drivers license」によって、ドレイクやアリアナ・グランデをも超えて「ホリデーソングを除くSpotify史上最大のデイリーストリーミング数」の新記録を打ち立てた。破竹の勢いを証明する数字には事足らない。リリース一週間たらずでアジアやヨーロッパに人気が波及し、Apple MusicやSpotifyのグローバルチャート、そしてBillboardn HOT 100こと全米シングル・チャートを始めとする複数チャートで首位デビューを飾っている。

まさしく文化現象だが、同規模のヒットソングと比べても「drivers license」は特異なポジションにある。オリヴィアは、同曲のリリース直前にレーベル契約が発表された歌手だ。つまり、チャート常連のトップスターと異なり、アーティストとしての知名度が高くなかった。それなのに、何故たった一週間で、デビュー曲を記録級の大ヒットに導いてみせたのか? これこそ、Spotify社グローバル・ヒッツ担当のベッキー・バスをして「前例がない」と言わしめた、音楽業界騒然の「謎」である。

 

テイラー・スウィフトを継承するリリシズム

「drivers license」のヒットを読み解くことは、オリヴィア・ロドリゴの作家性の探求にもつながる。まず、大きな存在として君臨するのが、ご存知テイラー・スウィフトだ。2020年の時点で、「世界最大のスウィフティー(テイラーファン)」を名乗るオリヴィアは「Cruel Summer」のカバー歌唱が話題になったことで敬愛するスーパースターから才能を認められていた。「制作した曲すべて彼女からインスピレーションを受けている」と明かすだけあり、翌年に発表されたデビュー曲「drivers license」においても、テイラーの影響は見て取れる。ミュージックビデオを観てみよう。

[和訳MV] Olivia Rodrigo – drivers license / オリヴィア・ロドリゴ – ドライバーズ・ライセンス [公式]

ずっと二人で話していた通り あなたはすごくウキウキしていたよね
やっと私が車であなたの家に行けるって
でも今日は一人 郊外まで車を飛ばしていた
泣きながら あなたがそばにいなかったから

ドライバーズ・ライセンス、つまり運転免許証を取得したばかりの主人公が孤独のドライブ中に元恋人に想いを馳せて「まだ愛してる」と叫ぶ「drivers license」は、失恋の歌だ。加えて、2020年の夏、実際に運転免許を取得しているオリヴィアが体験した「深き不安」を詰めこんだ日記のような楽曲とも解説される。そのため、発表されるやいなや、下記のラインが注目を浴びた。

あのブロンドの女の子と一緒なんだろうな ずっと疑わずにいられなかった
彼女は私よりずっと年上で あらゆることで私を不安にさせる

これが実話なら、つらい三角関係と言えるし、元恋人は最悪浮気していたことになる。そして、具体的な特徴が言及される「年上のブロンド」とは誰なのか? 候補はすぐに浮かびあがった。世界的知名度は高くなかったと言え、オリビア・ロドリゴは幼少期から活躍する俳優であり、2019年にディズニープラス配信ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』で主人公にあたるニニを演じている。撮影現場では、ニニと複雑な恋模様を繰り広げるリッキー役のジョシュア・バセットとの交際の噂も出ていた。

しかしながら、この彼は、オリビアが運転免許を取得した2020年の夏、人気ディズニー女優サブリナ・カーペンターと一緒にいる姿が目撃されている。サブリナはオリビアよりも4歳年上であり、髪色はブロンドである……

こうして、ディズニースターの泥沼恋愛劇を告白するかのような「drivers license」が考察合戦を巻き起こしていき、アーティストの既存ファンダムを超える規模の話題を発生させたのだ。それもそのはずで、この楽曲には、さまざまな謎解きの仕掛けがほどこされている。

例えば、「本気じゃなかったのかな あの曲で私に書いてくれたこと」というラインは、ジョシュアが2020年にリリースしたラブソング「Anyone Else」を指すと推測されている。関係者のSNS投稿も重要資料だ。オリビアが昨年アップしたデモ音源を聴くと、制作途中で「ブルネットの女の子」という歌詞が「ブロンドの女の子」に変更されたことがわかる。ジョシュアとサブリナの関係を確信したことで変えられたのか、それとも……等々、インターネット探偵たちは次々と推理を披露していった。

つまるところ、「drivers license」は、私小説的ゴシップミステリとして受容されつつ大衆から共感を呼ぶポップヒットであり、オリビアの言葉を借りれば「自らの経験に基づいてリスナーを別世界につれていく」テイラー・スウィフトの作家性を継承した作品と言える。

[参考] テイラー・スウィフト『Speak Now』: 最も個人的な感情を歌った作品 

 

ロード・ファンも惹きつけた作曲スキル

さまざまな憶測について問われたオリヴィアが「この曲でもっとも重要じゃないこと」だと断言したように、「drivers license」のヒットは、ゴシップ的な話題におさまるものではない。メディア評論家を驚かせたのは、楽曲そのもののクオリティだ。そのため、インディポップ節のダークなピアノからエモーショナルなマルチコーラスへと膨んでいくこのパワーバラードをオリヴィア自身が共同制作した事実も重要である。

もとを辿れば、レーベル契約の決め手になったのは『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』におけるソロ曲「All I Want」が彼女一人の手で作曲された事実だったという。今現在は鮮烈デビューを飾ったディズニースターとして衆目を集める段階にあるが、幼少期より培ってきた作詞作曲スキルを考えれば、非常にポテンシャルの高いシンガーソングライターであることがわかる。

Olivia Rodrigo – All I Want (Official Video)

インディポップ旋風を牽引するスターとしての未来も期待できる。本人いわく「drivers license」に影響を与えた作品は、運転モチーフのサッドソング「Friend」を収録したグレイシー・エイブラムスによるEP『minor』だという。一方、評論家ふくむ多くのリスナーが比較対象に挙げたのは、オリヴィアが「テイラーに並ぶ最大のインスピレーション」と語ったロードによる2017年作「Green Light」だった。こちらもドライブを主題に傷心をエモーショナルなコーラスに昇華するサッドバンガーで、信号にまつわる歌詞が印象的に配置される点も共通している。

女性シンガーソングライターを愛聴してきたというオリヴィアは、その音楽愛を創作に活かし、アーティストとしての信頼を手にした段階にあるのかもしれない。たとえばSpotify上では、テイラー、そしてロードのリスナー層を惹きつけたことによって再生数が膨らんでいった経緯が報告されている。

Lorde – Green Light

 

ディズニーが認めた歌唱力

オリヴィアのボーカリストとしてのパワーもはずせないポイントだ。『ハイスクール・ミュージカル』シリーズの主役に抜擢されただけあって歌唱技術はディズニーお墨つきと言えるし、柔軟なコントロール能力、オリジナリティある声質も伴っている。コーラスからブリッジにかけて高揚するパートがTikTokでバイラルを起こした一因には、口パクをする者にも爽快感を与える声の力があるはずだ。

「本当に良い曲で、人々の心に深く訴えかける作品です」「我々としては、すぐに人気が冷めるとは思っていません」とSpotify社のベッキー・バスが語ったように、「drivers license」の特異なブームには、まずアーティストの作詞作曲、歌唱スキルに裏打ちされた楽曲のクオリティがあり、その上で話題性や関連アーティストによる相乗効果が働いた文化現象と言える。勢いはまだまだ加速中だ。

Olivia Rodrigo – All I Want (Live Performance) | Vevo

 

アンサーソングも話題沸騰

公開一週間後には、ジョシュア・バセットが「友人の嘘」を糾弾する新曲「Lie Lie Lie」をリリースした。続いて、その翌週には「ブロンド」の正体と噂されるサブリナ・カーペンターがその呼称に物申しながら「彼は私のもの」と反撃する実質的アンサーソング「Skin」を公開している。

こうした楽曲合戦は、それこそアメリカのポップ・スターの通過儀礼と言えるし、注目を集める分、アーティストとしての試金石としても機能する。孤独な運転を描く「drivers license」は、コロナ禍の閉塞感と呼応したヒットとも評されたが、久しぶりに若手アーティストの景気のいいイベントも提供してみせている。

Sabrina Carpenter – Skin (Official Lyric Video)

Written By 辰巳JUNK / 辰巳さんによる続報記事


オリヴィア・ロドリゴ『SOUR』
2021年5月21日発売
CD / iTunes / Apple Music / Amazon Music



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