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音楽界とNFT:改めてNFTの音楽化とは?そしてデス・ロウの戦略とは?

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Photo courtesy of dj2high / 18歳の時にスヌープ主催のドッグパウンドに入った、日本人唯一のメンバー、DJ 2Highとスヌープ・ドッグ

デジタルのコンテンツを購入・出品できることでにわかに話題となっている「NFT」。アートやゲームといったジャンルで広まりつつあるこの新しい分野に音楽業界も参入し始めている。それではこの「NFT」とは何なのか? どういった例があるのか? カタログのNFT化を宣言したデス・ロウの戦略とは?ヒップホップジャーナリストの塚田桂子さんに寄稿いただきました。

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NFTというメディアが注目を浴びるようになって久しいが、それが具体的に何なのかを正確に把握している人は、実はまだそれほど多くないのではないだろうか。そういう筆者もそのひとりで、「気になってはいるけれど、よく分からない」というのが正直なところだ。ここではその謎を解くべく、特にNFTの音楽化、デス・ロウ・レコードのNFT化に焦点をあて、スヌープ・ドッグと親しくNFTにも詳しい、LA在住のプロデューサー、DJ 2Highさんにお話しを聞きながら、その実態に迫ってみたい。

 

そもそもNFTとは?

NFTとは、「非代替性トークン」を意味するNon-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)の略であり、ブロックチェーンという技術を使って、アートや音楽、ゲームなど、唯一無二のデジタル資産の所有権を証明するものだ。このブロックチェーンというのは、大勢の参加者に同一のデータ作品を分散して保持させ、かつ参加者の改ざんや不正が困難な「分散型の台帳」のような役割を果たしている。具体的には、デジタル上でアートやゲームを発表するアーティスト/クリエイターたちが、“物”として存在しないが、自身が創りあげたデジタル上の作品の所有と売買をするために使用されている。

 

音楽のNFTとは?

音楽をCDで聴く方法から、ダウンロードやストリーミングサービス(サブスク)でデジタルコンテンツにアクセスする方法に移行したのが2000年代。このサブスクでは、消費者が1,000円ほどの月額であらゆる音楽を無限に聴けるようになった反面、アーティストには曲の再生回数によって収益が支払われるため、CD販売に比べて彼らへの還元率が低いことが問題視されている。ストア上やプレイリストで展開される大物アーティストが桁違いの再生回数を獲得するため、不均衡が発生する。また、アーティストたちの取り分について、UKでは2021年に下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会が音楽家へのストリーミングの報酬をあげるような提言を行っている。

それに対してNFTは、一点もののデジタル音楽作品に所有権の証明書を付けて、アーティストが言い値で売ることができるため、確実なファン層があれば、アーティストの労力がより報われるメディアと言えるかもしれない。さらに買い手が作品を転売することで、その二次収入がアーティストに入る仕組みがあり、新しい可能性に期待を向けるアーティストも少なくないのではないだろうか。

また、様々なレーベルやエンターテイメント会社が音楽コンテンツのNFT化を進めていく意向を発表するなど、数多くの大手企業がNFTに参入する動きが相次いている。

 

話題のNFTプロジェクト

最近話題になったセレブの作品をいくつか紹介しよう。ザ・ウィークエンドは今年4月、デジタルアート専門のオンラインマーケットプレイス“Nifty Gateway”で、期間限定で開催されたオークションに参加し、新曲とビジュアル・アート作品の独占販売を行った。この曲は今後もストリーミングで配信されないため希少価値が高く、「The Source」というタイトルのこの作品は、最終的に約5,400万円の値が付いたという。

クイーンのヴォーカリスト、故フレディ・マーキュリーの生誕75周年を記念して、昨年9月に彼にインスパーヤーされたアーティストによるNFTアート作品4点が販売された。その収益金は、世界規模でエイズと戦う非営利団体「マーキュリー・フェニックス・トラス」に寄付された。

大物セレブがこぞって購入している、猿人類をデザインしたNFTの人気プロジェクト「Bored Ape Yacht Club」も話題を呼んでいる。例えばエミネムも自分にそっくりなキャラのNFTを5,300万円で購入し、ツイッターのプロフアイコンにも使っている。

DJ 2Highさんによれば、ユティリティと呼ばれるこれらの作品を所有することによって、例えば会員制の高級クラブに入って、お金持ちの客と違ったタイプのコミュニケーションが楽しめるベネフィットが提供されたり、最近では、「エイプコイン」という仮想通貨がアート所有者に発行されたのだという。(*6月23日にリリースされたエミネムとスヌープの新曲「From The D 2 The LBC」では、この「Bored Ape Yacht Club」のキャラを模倣したふたりが登場する)

Eminem & Snoop Dogg – From The D 2 The LBC [Official Music Video]

さらにユニバーサル ミュージックの次世代レーベル10:22PMが、去年11月にこの「Bored Ape Yacht Club」のキャラで構成されたNFT音楽グループ「KINGSHIP」の結成を発表し、話題を呼んだ。KINGSHIPは、オリジナルの楽曲のリリースの他、ビデオゲームやバーチャルリアリティ、ライブパフォーマンスなどにも出演していくという。

 

デス・ロウのNFT化とは?

今年2月、スヌープ・ドッグ率いる新生デス・ロウ・レコードが、全カタログ(2パックなどの作品を除く)をNFT化すると発表し、衝撃を呼んだ。実際に音楽ストリ―ミンスサービスではデス・ロウ作品が聴けなくなり、もうNFTを知らないでは済まされない事態となった。常に新たな業界に進出し、時代の先をいくビジネス手腕を見せてきたスヌープだが、フル・センド・ポッドキャストのインタビューで、史上初のNFTレコードレーベル化に踏み切った背景と戦略を語っている。

「デス・ロウの作品がもうストリーミングで聴けなくなった人たちの気持ちは分かるよ。でも音楽を作ったのに正当に支払われなかった人たちはどうなるんだ?どっちの方が大事だ?だから俺が構築し直して、正しいビジネス構造にして、相応しい人に確実に割り振られるようにするんだ。これはショウビジネスと呼ばれていることをファンは理解しなちゃくちゃならない。多くの場合、俺たちはビジネスがうまくいっているときにショウを提供する。でも今はビジネスの状態がおかしいんだから、直さなくちゃならない。でもショウは続けなくちゃならないだろ。ファンは今でも俺たちの昔の作品を断片的に見ることはできる。でも大事なのは、今俺たちがどういうやり方でやっているか、どうやって俺たちのレガシーを継続していくかってことだ。俺が仕切り直すときにはリアルな形でやりたい。買い手が音楽を所有する権利を手に入れて、金を稼げる形でね。独占販売でも音楽は聴けるけど、俺たちには所有権がない。NFTではファンに所有権を手に入れて欲しい。ファンが30年以上もの間、俺の音楽を聴いてきてくれたからこそ、今日の俺が在る。だから彼らが俺たちに与えてくれたものを、彼らに返す任務があるんだ」

デス・ロウ事情に詳しく、自身もメタギャングスというNFTコレクションを制作、販売するDJ 2Highさんが、非常に興味深いNFT音楽の現場の声と、将来の展望を聞かせてくれた。

「NFTを所有する事によって得られるユティリティと言われるベネフィットが肝で、1番の成功例はBAYC(Bored Ape Yacht Club)のとった会員制のメンバーシップ。最近ではエイプコインという独自の仮想通貨も作ってオフィシャルのグッズなどはエイプコインでしか売買できない仕組み。そしてBAYCのNFTを所有する人にエアドロップ(プレゼント)として約1,000万円分のエイプコインが還元されたのが話題になりました。

NFTと音楽。全く新しいプラットフォームでの取り組みなので未来しかない!

今まで漫画やCDの中古を買っても作者に一切還元されなかったけれど、NFTならブロックチェーンで永遠に設定したロイヤリティーが入ってくる仕組みなわけです!そろそろNFTプレイヤーアプリも出てくるだろうから、どんどん広がっていくと思います!」

「所有権」がキーとなり、新たな展開が期待されているNFT。果たしてアーティストとファンの両者を満足させるメディアとして、ストリーミングと取って代わる日がやって来るのだろうか。

Written By 塚田桂子



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