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ザ・ウィークエンド『After Hours』は、いかにして「コロナ時代のサウンドトラック」となったか?

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2020年4月24日時点で全米アルバムチャート4週連続1位を記録し、全世界で今最も売れているアルバムとなっているザ・ウィークエンド(The Weeknd)の『After Hours』。なぜここまでの売り上げを記録し、人々に受け入れられているのか? 音楽・映画ジャーナリストの宇野維正さんに解説いただきました。

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早くも来年のグラミー最有力候補の呼び声も。
ザ・ウィークエンド『After Hours』は、いかにして「コロナ時代のサウンドトラック」となったか?

「コロナ時代のサウンドトラック」。ザ・ウィークエンドことエイベル・テスファイが現在の状況をどのように感じているかはわからないが、現象として、彼のニューアルバム『After Hours』はそのような役割を果たしている。2020年3月20日にリリースされた同作はビルボードのアルバムチャートで初登場1位を獲得すると、現在(4月25日付ビルボードチャート)まで1ヶ月にわたってトップを独走。リードシングルとして昨年11月29日にリリースされた「Blinding Lights」は日本以外のほぼすべての国でシングルチャートのトップに。さらに、その「Blinding Lights」はロックダウン中の運動不足解消のためのTikTokエアロビチャレンジ動画としてもネットミーム化して、そのムーブメントは日本にまで波及している。

 

『After Hours』の「光」と「影」

シンプルな8ビートと、主旋律を奏でるデジタル初期のシンセサイザー的な懐かしい音色。80年代の陽性なエレポップを現代に蘇らせた「Blinding Lights」は、タイトルにもある通り「光」と「影」で言うならアルバム『After Hours』の「光」の部分を象徴している楽曲だ。しかし、アルバム全体を覆っているのは、2010年代初頭に『House Of Balloons』『Thursday』『Echoes Of Silence』のミックステープ連作を発表していた頃のザ・ウィークエンドを思い出さずにはいられない、ダークで不穏でパラノイアックなムード。本作『After Hours』最大の達成は、まさにそこにあると言っていいだろう。ザ・ウィークエンドはメインストリームに攻め込むための変化(『Kiss Land』)でもなく、セックスシンボルとしての開き直り(『Beauty Behind the Madness』)でもなく、ポップアイコンであることを引き受けた覚悟(『Starboy』)でもなく、自身の原点に回帰したことによって世界中から熱狂的なリアクションを巻き起こして、キャリア史上最高の成果を収めているわけだ。

眉間や口から出血しているザ・ウィークエンドの顔を正面からアップでとらえたアートワーク。前作となるEP『My Dear Melancholy』から続く、恋人との破局がもたらした深い喪失感。マリファナ、コカイン、リーン、アンフェタミン……リリックのいたるところに散りばめられたドラッグの直喩と隠喩。そして死の恐怖。

『After Hours』を形成しているのは、肉体的にも精神的にも「傷ついた男」「病んだ男」のイメージだ。それに加えて、「Heartless」「Blinding Lights」「After Hours」「In Your Eyes」と連続して発表されたミュージックビデオや、CBSの人気テレビショー『The Late Show with Stephen Colbert』で大きな反響を呼んだパフォーマンスで、ザ・ウィークエンドが援用していたのは「ジョーカー」のイメージだ(ミュージックビデオには、他にテリー・ギリアム監督『ラスベガスをやっつけろ』やマーティン・スコセッシ監督『カジノ』などの映画作品のレファレンスもある)。

The Weeknd: ''Heartless''

 

ザ・ウィークエンドが体現する「ジョーカー」のイメージには、昨年のホアキン・フェニックスが演じたトッド・フィリップス監督『ジョーカー』だけでなく、ジャック・ニコルソンが演じたティム・バートン監督『バットマン』シリーズや、ヒース・レジャーが演じたクリストファー・ノーラン監督『ダークナイト」の歴代「ジョーカー」のイメージもブレンドされている(ちなみにザ・ウィークエンドは昨年のハロウィンのパーティーにジャック・ニコルソン版ジョーカーの仮装で現れた)。道化として、狂人として、病人として、社会規範や法律の外側に存在して、市民社会を撹乱し、時には暴動や騒乱まで扇動して世界に異化作用を及ぼす「ジョーカー」。ザ・ウィークエンドは自身をそんな「ジョーカー」に重ねることによって、「享楽的な社会不適合者」としての自画像を更新してみせた。

 

音楽的な「異化作用」:大胆な引用と奇跡的な邂逅

『After Hours』を語る上では、音楽的にも「異化作用」は重要なキーワードと言えるだろう。マックス・マーティンやメトロ・ブーミンをはじめとする、過去にもザ・ウィークエンドと組んできた超売れっ子プロデューサーが多数参加しているにもかかわらず、『After Hours』は現行の音楽シーンのどんなトレンドにも追従していない。例えば、「Hardest To Love」でいきなり飛び出すドラムンベースのビート。90年代前半に英国のダンスフロアを一世風靡したこのビートを、ここ数年メインストリームのポップミュージックで耳にしたことがあっただろうか? あるいは、まるでプロコル・ハルムの1967年の代表曲、「A Whiter Shade of Pale(青い影)」のハモンドオルガンで奏でられたあの有名なフレーズを思わせる導入部を持つ「Scared To Live」。この曲でザ・ウィークエンドは、ロッカバラード(パット・ブーンやポール・アンカといったポピュラー歌手によるロックンロールの要素を借用したバラードソング)という今ではほとんど誰も顧みることがなくなった音楽形式を大胆に復活させている。周到なことに、コーラス部分ではエルトン・ジョンの「Your Song」のフレーズまで引用して。それらが懐古的な試みではなく、むしろ未来からやってきた音楽のように響くのは、同時代のあらゆるポップミュージックやラップミュージックを凌駕するキックとスネアの音のヘヴィさや硬さや残響がもたらす「異化作用」によるものだ。

The Weeknd – Scared To Live (Audio)

 

さらに、『After Hours』における音楽的な「異化作用」として最も顕著なシグネチャーは、アルバム全編にわたって背景で(時には前面で)断続的に鳴り続けているアナログシンセサイザーのキッチュな音色だ。きっとそのサウンドデザインの方向性を決定づけたのは、「Scared To Live」「Repeat After Me」「Until I Bleed Out」に参加しているワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンだろう。アルバムのリリース直後、ノリノリでスタジオでの作業に勤しむザ・ウィークエンドの後ろ姿を収めた動画をソーシャルメディアにアップしたダニエル・ロパティンは、そこに「この男とスタジオで過ごしたすべての時間が喜びだった。(『After Hours』は)ザ・ウィークエンドとファンにとって大きな喜びになるだろう。これは化け物のような傑作だ」と書き添えていた。メインストリームのポップ(ザ・ウィークエンド)とアンダーグラウンドのエレクトロニックミュージック(ダニエル・ロパティン)、それぞれを代表するクリエイターの奇跡的な邂逅、それが『After Hours』を特別な作品にしている。

 

「コロナ時代のサウンドトラック」

最後に、どうして『After Hours』が「コロナ時代のサウンドトラック」として人々から熱狂的に受け入られているのかについての私見を述べておく。『After Hours』のテーマを簡潔に言うなら、失恋の痛み、富と名声の反動、ドラッグ中毒の苦しみからの脱却だ。その際、ザ・ウィークエンドは何か普遍的なものや大いなるもの(例えば家族とか宗教とか)に根本的な救い(=原因の消去)を求めるのではなく、あくまでも対症療法(=症状の軽減)として痛みや苦しみからの逃避を繰り返していく。「Faith」では

But if I OD, I want you to OD right beside me
I want you to follow right behind me

I want you to hold me while I’m smiling / While I’m dying
もし俺が過剰摂取で死んだら君も隣で同じように死んでほしい
俺の後を追って死んでほしいんだ

微笑みながら死んでいく俺を抱きしめてほしい

とまで歌っているザ・ウィークエンド(結局この曲の最後で、「俺」は救急車で病院に運ばれていく)。彼の本拠地であるカナダのトロントを含む北米全域では、鎮静・鎮痛効果のある合法ドラッグのオピオイドが蔓延していて大きな社会問題になっているが、『After Hours』はリリックの面においてもサウンドの面においても、まるで「聴くオピオイド」のような作品とは言えないだろうか?

新型コロナウイルスのパンデミックによって、少なくとも現段階において、この世界はまったく先の見えない暗闇に突入してしまった。そんな時代に、人々にとって現実的なのは「何か決定的な解決策」ではなく「目の前にある痛みや苦しみの軽減」なのかもしれない。「Scared To Live」で、ザ・ウィークエンドは人々に優しく歌いかける。

No don’t be scared to live again / Be scared to live again
だめだよ、怖がらないでもう一度生きて/生きることを怖がらないで

早くも、来年のグラミーの最優秀アルバム賞最有力候補の声まで上がっている『After Hours』。いつ終わるかもわからない「不幸な時代」へと突入してしまった2020年だが、『After Hours』を聴いている束の間だけ、我々は現実を忘れることができる。

Written by 宇野維正

*田中宗一郎さんとの共著『2010s』はこちら
SpotifyのPodcastでも本作を語られています



ザ・ウィークエンド『After Hours』
2020年3月20日発売
CD&LP / iTunes /Apple Music / Spotify


The Weeknd – Blinding Lights


 

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