ザ・ウィークエンド、いきなり新章スタート: 「Take My Breath」の先にある“夜明け”とは何か?

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Photo: Brian Ziff

2019年11月に発売した「Blinding Lights」が全米シングルチャートの在位歴代最長記録を更新、この曲を収録し2020年3月に発売したアルバム『After Hours』も大ヒットを記録したザ・ウィークエンド。

そんな彼が“New Era”として久々の新曲「Take My Breath」を8月6日に公開した。この楽曲、そしてザ・ウィークエンドが向かう道について、音楽・映画ジャーナリストの宇野維正さんに解説いただきました。

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ひと昔前まで、世界中のヒットチャートを席巻するメガヒットアルバムを出したアーティストといえば、その次のアルバムまで何年間もインターバルを開けるのが当たり前のことだった。ザ・ウィークエンドが2020年3月にリリースした『After Hours』は各国のストリーミングサービスで初動再生回数記録を塗り替えてその年を代表するアルバムの一つとなり、驚異的なロングヒットを記録した先行リリース曲「Blinding Lights」はアメリカを含む世界中で年間ナンバー1シングルとなった。特に「Blinding Lights」の社会現象と呼ぶに相応しい世界的ヒットは、北米地域での人気に偏重しがちな他の多くのシンガーやラッパーと違って、ザ・ウィークエンドが真のグローバルアーティストであることを改めて証明することとなった。

メガヒットアルバムの後には、ワールドツアーがくるのがお約束。ザ・ウィークエンドも例外ではない。2021年2月7日、フロリダのレイモンド・ジェームス・スタジアムで開催された第55回スーパーボウルで圧巻のハーフタイムショーを披露した4日前、ザ・ウィークエンドはアルバムのタイトルを冠した「The After Hours Tour」の日程を発表した。本来ならば2020年中にスタートするはずだったそのツアーは、新型コロナウイルスのパンデミックの影響によって2022年1月に地元カナダからスタートすることに。その後、アメリカ、ヨーロッパの各主要都市を隈なく回り、現時点では11月のロンドン公演が最終公演の予定となっている(残念ながら、今のところ日本での公演は発表されていない)。

ところが、メガヒットアルバム『After Hours』と過去最大規模のワールドツアー「The After Hours Tour」の間に、ザ・ウィークエンドは早々と新しいチャプターをぶち込んできた。2021年8月6日にリリースされた最新シングル「Take My Breath」は、ザ・ウィークエンド自身が《The Dawn》(夜明け)と名付けているニュープロジェクトの始まりとなる1曲。当然のように、早速世界中のヒットチャートを駆け上がっているが、そのプロジェクトの全貌は未だベールに包まれている。

ある年代以上の音楽ファンにとって、「Take My Breath」と聞いて思い浮かべるのは、アメリカの3人組シンセポップバンド、ベルリンが、エレクトロニック・ミュージックの巨匠ジョルジオ・モルダーのプロデュースによって送り出した1986年の大ヒット曲「Take My Breath Away」だろう(ザ・ウィークエンドの曲は「Take My Breath」だが、サビでは《Take My Breath Away》と《Away》まで歌われている)。映画『トップガン』の挿入歌やクルマのCMソングとして「愛は吐息のように」の邦題で日本でも大ヒットした同曲は、アトモスフィックな分厚いシンセサウンドと大仰な女性ボーカル(テリー・ナン)の歌唱スタイルが印象的な、どこを切っても「ザ・80年代」な徒花的シンセポップ・バラードだった。

80年代シンセポップは過去のザ・ウィークエンドの音楽においても常に主要なレファレンスの対象であったが、「Take My Breath」に流れ込んでいる強い影響は、同じジョルジオ・モロダー・プロデュース作品でも80年代のベルリンというより、それ以前の代表作であるドナ・サマー「I Feel Love」を彷彿とさせる、シンプルでドープな脈打つディスコビートだ。ジョルジオ・モロダーといえば、昨年正式に解散を発表したダフト・パンク(思えばザ・ウィークエンドの2016年のアルバム『Starboy』への参加が2人共同での最後の大仕事だった)が深く傾倒していたことでも知られているが、ザ・ウィークエンドは今回の「Take My Breath」において、ダフト・パンクとのコラボレーションをステップとしてよりダイレクトに往年のジョルジオ・モロダー・サウンドに接近したことになる。そのことは、露骨にイタロディスコなロゴとデザインがあしらわれたアートワークや、70年代後半〜80年代の12インチシングルの流儀通りに敢えて同音源からイントロと間奏を引き伸ばしただけのExtended Versionを続けざまにリリースしたことからも明らかだろう。

それにしても、「Take My Breath」はザ・ウィークエンドの「新しいチャプター」と呼ぶには少々不思議な楽曲だ。歌い出しの《I saw the fire in your eyes》はそのまま前作『After Hours』からのシングル「In Your Eyes」の曲名やリリックを連想させるし、コーラスの《feel the heat between your thighs》というフレーズも、2016年のダフト・パンクとのヒット曲「I Feel It Coming」の 《I can feel that body shake and the heat between your legs》をそのまま移植したかのようだ。ザ・ウィークエンド本人のほか、マックス・マーティン、オスカー・ホルター、ベリー(アフマド・バルシェ)というソングライター&プロデューサー・チームも「Blinding Lights」とほぼ同じ。もちろん、前作までの「勝ちパターン」を踏襲するのはポップアーティストとして当然のことではあるわけだが(そして実際に作品のクオリティー的にもセールス的にも今回も「勝ってる」わけだが)、それにしても「Take My Breath」に限って言うなら新基軸と呼べるものが少なすぎる。

ここからは二通りの推測ができる。一つは、来年に「The After Hours Tour」を控えていることもあって、次のプロジェクト《The Dawn》(現時点では同タイトルのニューアルバムが近々にリリースされることが予想されている)はかなり意図的に『After Hours』パート2的な作品になるのではないかということ。もう一つは、今回の「Take My Breath」は過去作との強い継続性を装ったフリで、実はニューアルバムはサプライズに満ちた作品になっているかもしれないということ。サプライズという意味では、先日リリースされたカニエ・ウェストのニューアルバム『Donda』への参加も音楽シーン全体を揺るがす超弩級のサプライズだった。ザ・ウィークエンドがリル・ベイビーと共に参加した「Hurricane」は現在、今年最大級のヒットを記録している『Donda』の中でも各ストリーミングサービスで再生回数が最も多い楽曲となっている。『Donda』リリース直後、ザ・ウィークエンドは「Hurricane」のリリックを引用しながら《the dawn is bright for me. no more dark for me》と、早速《The Dawn》との繋がりを示唆するツイートをした。今年の秋、きっとすべてが明らかになる。

Written By 宇野維正



ザ・ウィークエンド「Take My Breath」
2021年8月6日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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