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サブリナ・カーペンターNY公演ライヴレポ:“過剰”な遊び心と天才的エンターテイナーとしての輝き

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Photo: Kevin Mazur/Getty Images for AEG

2025年8月に発売された『Man’s Best Friend』が英米を含む全世界17か国で1位を獲得してロングヒットを続け、第68回グラミー賞では主要3部門を含む6部門でノミネーションされたサブリナ・カーペンター(Sabrina Carpenter)

そんな彼女が2024年から14ヶ月/72公演にわたって行なわれた『Short n’ Sweet』ツアーが先日11月23日に最終日を迎えた。そのツアーの中からニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンのライブ・レポートが到着。

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NYで“最も手に入らないチケット”

わずか1年前、サブリナ・カーペンターはNYのマディソン・スクエア・ガーデンに初めて立ち、あふれる歓声の中で涙をこらえきれなかった。今年は同じ会場でまさかの5公演を開催。それでもすべて即完し、NYで“最も手に入らないチケット”となった

昨年9月に始まった初のアリーナツアー“Short n’ Sweet”は全72公演を駆け抜け、LAでの6公演で華やかに幕を閉じたばかり。この1年は、サブリナが“世界的スーパースター”へと飛躍していく瞬間をリアルタイムで映し出したドキュメントそのものだった。

会場にはサブリナ風ファッションに身を包んだファンが早くから集結。プラットフォームシューズ、超ミニのプリーツスカート、スパンコールやシースルー――ガーリーなスタイルで溢れたフロアは、すでに祝祭のような雰囲気。去年チケットが取れなかった人々の期待が、一斉に弾けそうな空気をつくっていた。グッズ売り場には開演前から長蛇の列会場全体が高揚で満ちていた。

昨年はテイラー・スウィフト“The Eras Tour”のオープニングを務め、「Espresso」「Please Please Please」の世界的大ヒットで一気にスターダムへ。アルバム『Short n’ Sweet』はグラミー主要4部門を含む6部門にノミネートされ2冠を獲得。続く最新作『Man’s Best Friend』も世界各国で1位、「Manchild」など再び大ヒットし、こちらも6部門にノミネート。ロンドン・ハイドパークの13万人公演、そして来年のコーチェラではヘッドライナー。テイラーとのコラボも重なり、サブリナの飛躍は加速し続けている。

この1年で改めて明らかになったのは、サブリナが“ポップの美学そのもの”を更新した存在だということ。ヴィンテージ・グラマー、現代ポップの快楽性、女性主体の新しいセクシュアリティ――強度のある要素を自在に混ぜ合わせ、独自の世界観に仕上げてしまうアーティストは他にいない。最新作ジャケットが“挑発的すぎる”と言われた際も、「人の意見はそれぞれあって良い。私の中ではあれはメタファー」とさらと答えた。そのしなやかな強さも彼女の美学だ。

そして彼女の特異点は、刺激的でときに過剰な要素さえ、遊び心とセンスで“ポップ”へと昇華してしまう鋭いバランス感覚を持った天才性にある。その“サブリナらしさ”を全身で味わえるのが、このライブだ。

今回のNY公演は構成こそ昨年と近いが、『Man’s Best Friend』の新曲3曲が加わり、セットリストは“最新版”へアップデート。加えて、多くのファンがSNSで演出を“予習”済みのため、楽しみどころを理解したうえで反応しており、会場の熱量と一体感は昨年以上に高まっていた。

💋 New York, see you soon!!!

 

Act I : Morning – お出かけの準備

「I’m Coming Out」が流れた瞬間、大歓声とともにショーが開幕。60〜70年代のハリウッドグラマーを思わせる豪華マンションのセットの中、架空番組『ショート・アンド・スウィート TV』の“朝→夜→真夜中”の3部構成で、サブリナの“お出かけ前の1日”が物語として展開されていく。

バスタブに浸かるアニメ版サブリナの映像から、タオル姿の本人がスッと登場。流れるのは、グラムのきらめきに“カントリーのフック”を効かせた「Taste」。タオルを開くとスパンコールのコルセットが現れ、客席が大歓声。コルセットは公演ごとに異なり、NYではシルバーに赤いリップマークのキュートなデザイン。さらにブリジット・バルドー着想のベイビードールドレスをふわりと羽織ると、音と光に呼応してステージの華やぎが一気に広がった。

新作の大ヒット曲「Manchild」では、巨大スクリーンに映る“成長しない男”をサブリナが“マンチャイルドスプレー”で消していくコミカルな映像からスタート。直後に始まるカントリー調の“ダメ男に振り回される歌”の大合唱は、痛快そのもの。

弾き語り「Lie to Girls」でシンガーとしての確かな実力を見せたあと、Act Iのハイライト「Bed Chem」へ。ベッドに横たわるサブリナを真上から映したショットを背景に、セクシーなのに軽やか、挑発的なのに下品にならない――その絶妙すぎるバランスが炸裂し、会場は一気に魅了される。ラストには、シャドウの中で2人の男性と向き合う挑発的なシルエットが浮かび上がり、客席からざわめきが広がった。

 

Act II : Evening – カクテルアワーの夜

スーツ姿のバンドがジャジーなムードを奏で、曲も“少しお酒が回ったみたいな”アレンジに。黒のレースのボディスーツで登場したサブリナは、映画『パリの恋人』のオードリー・ヘップバーンを思わせるクラシックな洗練に艶やかさを重ね、ステージを掌握する。「Feather」では毎公演色の異なるボレロをまとい、花道を駆けながらピンナップガールのようなポーズで観客を翻弄。

アクト2最大のハイライトは「Sharpest Tool」。トイレの便座に腰掛けて歌う大胆な演出で、スターの彼女がふと“生身のリアル”を見せる瞬間だ。「We never talk about it(話し合ったりはしない)」の大合唱、鏡ごしに語りかけるまなざし――飾らない歌声の痛みが真っ直ぐ胸に届き、ショー全体に奥行きを与える。

「Because I Liked a Boy」は、甘いプリンセス調の旋律と傷ついた恋の歌詞が重なり、ラストのほぼアカペラで空気が張りつめる。続く「Coincidence」では、ハート型ステージでバンドと輪になり、キャンプファイヤーのような温かなアコースティック演奏へ。ここで恒例の“ボトル回し”。選ばれたのは最新作『Man’s Best Friend』から「Nobody’s Son」。失恋の痛みを抱えながらもレゲエ・ポップの軽快さが跳ねる一曲で、スクリーンに歌詞が映ると、会場は一気に“巨大なカラオケ”状態に。

サブリナは「みんな新作を聴いてくれているのね!」と喜びをあらわにし、さらに同作からの「House Tour」へ。ピンクのシャンデリアが輝く“家”のセットを背に軽やかにステップを踏み、ふっと微笑んで囁く――「私の“家”、ツアーしてみる?」送り届けてくれた彼を誘うような、この小悪魔的な言葉遊びが、彼女らしく鮮やかに決まった。

 

Act III : Midnight – ドリーミーな深夜

レナード・コーエンが“ポエム”を語る映像が流れ、ステージは一気に深夜のムードへ。甘く膨らむストリングスの中、サブリナはマリリン・モンロー着想のグラマラスなスパンコールのロングドレスで登場。胸元の“I ❤️ NY”ロゴに、NYならではの歓声が上がる。

「Dumb & Poetic」ではアコギ1本の切ない歌声が静かに染みわたり、観客は息をのんで聴き入った。

続く名物“ホットすぎて逮捕”コーナーでは、この日、ディズニー・チャンネル時代の仲間コーリー・フォーゲルマニスを“逮捕”。過去にはアン・ハサウェイや最終日のミス・ピギーまで登場した人気シーンだ。そして“ホットすぎて”ドレスは一転、超ミニへ早替わり。そのままステージは終盤のハイライトへ突入していく。

 

終盤のハイライト : 熱狂が頂点へ

「Juno」では、上昇するハート型ステージで妖艶なポーズを決めた瞬間、熱気が爆発。「さあ、みんなで!」の掛け声から大合唱へ。スクリーンには蛍光ピンクの“HORNY=今まじでムラムラしてる”の文字。この挑発的なワードを笑いながら歌うことで、観客の心が一気に解放される――これぞ彼女の楽曲が持つ魅力そのものだ。セクシーさもポップさも茶目っ気も、ここで最大限に弾けた。

続く「Please Please Please」では、女性コーラス隊とサブリナの透明感ある高音が重なり、澄んだハーモニーが会場を包む。

そして最新作からの「Tears」。雷鳴と“涙の雨”の映像の中、ピンクの光に包まれて歌われるこのディスコ・ポップは、女性を尊重し誠実に向き合うことこそが最高にセクシーだという思いを、ユーモアと官能性で描いた一曲。ここでも新たなサブリナ節が輝く。

多彩な演出を見せてきた彼女が、本編ラスト「Don’t Smile」では階段に腰かけ、スマホライトの海の中でエモーショナルな歌声を届ける。その“声”が夜を静かに締めくくり、余韻を残した。

 

Encore : Morning – “Espresso”で迎える朝

物語は“朝”へ。「みんな、おはよう」と登場したサブリナは、シルバーのスパンコールに“I ❤️ NY”ロングブーツでキュートに装い、大ヒット曲「Espresso」を踊り歌う。紙吹雪が舞い、会場は幸福感に包まれた。

「マディソン・スクエア・ガーデン、ありがとう!」

24曲。セクシュアリティ、ポップさ、ドラマ、そして圧倒的な歌声――その“過剰”を遊び心でポップへと変換しながら、サブリナ・カーペンターは天才的エンターテイナーとしての輝きを放ち、今のポップシーンを確かに牽引していた。

ACT 1 : Morning
1. Taste
2. Good Graces
3. Manchild
4. Slim Pickins
5. Tornado Warnings
6. Lie to Girls
7. decode
8. Bed Chem

ACT2 : Evening
9. Feather
10. Fast Times
11. Busy Woman
12. Sharpest Tool
13. opposite
14. because i liked a boy
15. Coincidence
16. Nobody’s Son
17. House Tour
18. Nonsense

ACT 3: Midnight
19. Dumb & Poetic
20. Juno
21. Please Please Please
22. Tears
23. Don’t Smile

Encore
24. Espresso

Written By Akemi Nakamura


サブリナ・カーペンター『Man’s Best Friend』
2025年8月29日発売
*国内盤CD10月31日発売
CD&LPiTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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