リアーナの新曲「Lift Me Up」に至るまでの6年の軌跡:『ブラックパンサー』続編のためのバラード

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リアーナ(Rihanna)が、2022年11月11日に公開される映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサウンドトラックのリード曲となる「Lift Me Up」を10月28日に発売した。

リアーナにとって約6年ぶりとなるこの楽曲について、池城美菜子さんに解説いただきました。

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新曲までの約6年間

リアーナ、突然の新曲「Lift Me Up」をドロップ。長らく新曲がリリースされていないのに、2023年2月のスーパーボウルのハーフタイム・ショーのヘッドライナーが決定している、バランスの悪い状態を打破した…かというと、そこは微妙だ。この曲は、2週間後に公開を控えた『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』サウンドトラックからのリード曲なのだ。

「6年ぶりの新曲」と全世界のヘッドラインで描かれているが、正確には6年9カ月。前作『Anti』がリリースされたのは、2016年の1月。自分のプロジェクトとしては7年近くリリースしなかったのだ。同作からはドレイクとの「Work」や「Needed Me」、「Love On The Brain」がヒット。客演も絶好調で、翌年にかけてカルヴィン・ハリス「This Is What You Came For」、フーチャー「Selfish」、サンタナ「Maria Maria」使いのDJキャレドの「Wild Thoughts」、そして、グラミー賞をもたらしたケンドリック・ラマー「LOYALTY」があった。

2019年には新作がレゲエ・アルバムになると発表したものの、暮れに発売を見合わせると伝えられた。2020年3月のパーティー・ネクスト・ドアの「Believe It」に参加したが、パンデミックもあり、音楽の面では話題が途絶えてしまう。28歳から34歳までという、シンガーとして気力と体力がもっとも充実しそうな時期にマイクから遠ざかったのは残念だが、その期間に実業家として頭角を現したのだ。

 

大成功した実業家の側面と私生活

2017年にスタートしたコスメティック・ブランド、フェンティ・ビューティーが大成功。ラグジュアリー・ブランドのLVMHと組んで、ファッション・ブランドや、ランジェリー・ライン、サヴェージを発表。日本でフェンティ・ビューティーの製品が入手できないのでピンと来ないかもしれないが、2019年の秋、ニューヨークでコスメ専門店のセフォラを確認したところ、一番目立つ場所に置かれていたうえ、品薄だった。

同時期にサウジ・アラビアの大富豪、ハッサン・ジャミールと交際を始めて3年で別れたり、その1年後にエイサップ・ロッキーと交際が発覚して今年の5月に母になったりと、私生活も大きな変化があった。

続けざまに世界的ヒットを飛ばすのはもちろん偉業だけれど、アイコンとなった存在感とセンスを生かして実業家になると同時に新しく家族ももったのだから、「スーパースター」の肩書きさえ窮屈に感じる成長ぶりだ。そのあいだに、ラストネームであるフェンティの商標登録を巡って実父を訴える羽目になったり、パートナーのエイサップ・ロッキーが逮捕されたりといった事件もあり、波瀾万丈ではあった。

ちなみに、『Anti』のワールド・ツアーの前座がトラヴィス・スコットや、結局辞退したザ・ウィークエンドだった。それくらい、音楽業界の6〜7年のサイクルは早い。天下のリアーナがどう復活するか見ものだが、活動再開の狼煙がスーパーボウルやMCU作品への参加であるのは、大胆不敵な彼女らしい。ただし、「Lift Me Up」で9作目のアルバムの方向性を占うのは性急だろう。

 

リアーナはバラードが得意

「Lift Me Up」は、故チャドウィック・ボーズマンに捧げられたバラードだ。同じコンセプトの2作目『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の世界観が凝縮されているアコースティックな曲調で、リアーナはいつもより低い声域で力強く歌い上げる。「抱き上げて/しっかり抱き止めて/私を引き寄せて/無事でいられるように」と訴える歌詞は、人間よりさらに大きな力、守護者にかわったボーズマンほか死者たちや自然へ祈りを捧げているように響く。壮大なアフリカを感じさせる、広がりがある曲なのだ。

生まれ育ったバルバドスで、アメリカ人のプロデューサーであるエヴァン・ロジャースの前でリアーナが最初に歌ったのが、デスティニーズ・チャイルドの「Emotion」とマライア・キャリーの「Hero」だった話は有名だ。「Emotion」はビヨンセがプロデュースしたやはりアコースティックなバラード、「Hero」も説明不要のバラードの名曲だ。

アップテンポのダンスナンバーで知られるリアーナだが、もともとはメロディの美しさと、後半にかけて盛り上がっていく形式のバラードが得意なシンガーなのだ。「Lift Me Up」は、その強みを生かした抜擢ともいえる。(下記動画は15歳の時に「Hero」を歌うリアーナ)

プロデューサーはチャイルディッシュ・ガンビーノの長年のコラボレーターにして、映画のスコアも多く手がけているルドウィグ・ゴランソン。『ブラックパンサー』の第1作もルドウィグだった。ライターはナイジェリアのテムズ、監督のライアン・クーグラー、ゴランソンとリアーナ本人。バックコーラスはテムズと、メキシコのグループ、モノ・ブランコが参加している。シンプルなようで、丁寧に作られた曲なのだ。

テムズは『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の予告編に使われたボブ・マーリーの「No Woman, No Cry」のカヴァーも担当し、そのままケンドリック・ラマー「Alright」につないだスケール感が夏に大きな話題になった。同作のサントラから3曲のEPがリリースされており、前述の「No Woman, No Cry」以外は、メキシコのグアナファト出身のラッパー、サンタフェ・クランの「Soy」と、ガーナのシンガー、Amaaraeの「A Body, A Coffin」が収録されていた。

ルドウィグ・ゴランソンとライアン・クーグラーはインスピレーションを得るためにメキシコとアフリカを旅したという情報もある。西インド諸島出身でレゲエやソカを聴いて育ったリアーナとも、サウンドトラック全体の親和性が高いはず。「Lift Me Up」がどのシーンで使われるか、そして、突然のリリースが増えている昨今、いつドロップされてもおかしくない9作目の全容がとても楽しみだ。

Written By 池城美菜子(noteはこちら



リアーナ「Lift Me Up」
2022年10月28日配信
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