リアーナ『Good Girl Gone Bad』解説:大胆な変身を見せ、時代を象徴する存在となった第一歩

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リアーナ(Rihanna)の3枚目のアルバム『Good Girl Gone Bad』は、ジェイ・Zが彼女を「グッド・ガールがバッドになった (good girl gone bad) 」と紹介するところから始まる。しかしリアーナは当時既に新進気鋭のポップ・スターになっており、もはや連帯保証人など必要としていなかった。

この時点で彼女は2枚のアルバムで自らのポテンシャルを証明済みではあったが『Good Girl Gone Bad』でリアーナは変身することになった。クリーンなポップ・スターから「バッド・ガール・リリ」へと大胆に姿を変え、そのキャリアの方向性を大きく変更したのである。

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「Umbrella」の大ヒット効果

リアーナは当時既にNo.1ヒット「SOS」と3つのトップ10ヒット「Pon De Replay」「Unfaithful」「Break It Off」を出し、チャートで成功を収めていた。これらの曲はすべて商業的成功を収めていたが、それでも評論家たちは彼女のアーティストとしての才能に疑問の目を向け、他とは違う「何か」を彼女に求めていた。そしてリアーナ自身も劇的な変化の必要性を感じていた。その結果生まれたのが、2007年5月31日にリリースされた『Good Girl Gone Bad』だ。

アルバムのジャケット撮影の前夜、彼女は大胆にも髪を切り落とした。その反抗的な新しいスタイルは、やがて「Umbrella」のミュージック・ビデオで披露され、そのスタイルは、アリーナ・ロック風のギターとベース、そして「ella, ella, ay, ay」という決めフレーズに彩られたこの曲にマッチしていた。「Umbrella」は一夜にしてラジオを席巻し、2007年の夏を飾るヒット曲となり、年間を通してもベストセラーを記録した。

『Good Girl Gone Bad』のオープニング・トラックである「Umbrella」は、全米シングルチャートでリアーナにとって2度目となる首位を獲得。さらにはジェイ・Zのゲスト参加により、グラミー賞のBest Rap/Sung Collaborationをも受賞している。

さらに「Umbrella」はリアーナを美の象徴的存在やセックス・シンボルに変えるきっかけにもなった。その結果、彼女は紛れもない「セクシー女王」の地位へと押し上げられ、やはりポップ・シーンの歌姫的存在だったマドンナと同じ道を歩むことになる。リアーナ自身「黒人のマドンナになる」という大胆な宣言をしていたが、それは単なる希望的観測ではなく、予言にほかならなかった。

「Umbrella」が『Good Girl Gone Bad』の商業的成功の原動力となったのは明らかだ。とはいえ、このアルバムの反抗的な姿勢を確固たるものにしたのは「Shut Up And Drive」だろう。このときリアーナは、またもやニュー・ウェイヴのアンセムからインスピレーションを得ており、以前の「SOS」ではソフト・セルをサンプリングしていたが、この「Shut Up And Drive」ではニュー・オーダーの「Blue Monday」をエレクトロ・バックグラウンドとして使用している。

 

マイケルとブランディからの影響

『Good Girl Gone Bad』の誕生に影響を与えた2枚のアルバムがあるとすれば、それはマイケル・ジャクソンの『Thriller』とブランディの『Afrodisiac』だろう。当時のインタビューでは、リアーナはこの2枚が新たな方向性のインスピレーションとなったと述べており、『Good Girl Gone Bad』を通して聴くと、アルバムの美意識とアティテュードの両面でこの2枚からの影響が感じられる。

「Umbrella」に続くアルバム2曲目は、ダンスポップ調の「Push Up On Me」だ。この曲の印象的な効果音と80年代的な雰囲気は、さまざまな意味で「Beat It」を思い起こさせる。またストーリーの面では前の曲から連続しており、こちらの曲ではリアーナが「Umbrella」のパートナーを誘ってクラブに行くという設定になっている。

そしてこのストーリーは「Don’t Stop The Music」で完結する。マイケル・ジャクソンの「Wanna Be Startin’ Something」がエネルギッシュにサンプリングされていたこの曲は全米シングルチャートで3位を記録。リアーナは「クラブ・アンセムの新たな女王」という地位を確立した。

 

00年代で最も影響力のあるR&Bアルバムのひとつ

『Good Girl Gone Bad』はロックやダンス・ポップの影響を受けているが、2000年代に出たR&Bレコードの中で最も影響力のある作品のひとつでもある。レコーディング中のリアーナの発言によれば、彼女はクリエイティブな方向性の面で前述のブランディの『Afrodisiac』から影響を受けていたという。

『Afrodisiac』は2004年のブランディの新たな成熟ぶりを記録したアルバムだったが、サウンドの面では実験的な部分もあった。そうしたふたつの要素を、リアーナも『Good Girl Gone Bad』で意識的に探求していたのだ。

「今夜は男と闘う」と宣言した「Breakin’ Dishes」や「Shut Up And Drive」といった曲は苦悩あふれるテクノ・ポップ風の作品だったが、そのあとでリアーナは最高にピュアなR&Bサウンドを聞かせている。アルバムの3枚目のシングルとして発表された「Hate That I Love You」はNe-Yoをフィーチャーしており、Ne-Yoはこの曲のほか「Question Existing」や全12曲収録のオリジナル盤を締めくくるアルバム・タイトル曲も共作している。「Hate That I Love You」は全米シングルチャートで7位を記録。2007年の最も印象的なデュエット・ラヴ・ソングのひとつとなった。

 

サウンド面での進化

次の曲「Say It」は、90年代のマッド・コブラの人気曲「Flex」をサンプリングしている。ここでは、リアーナが自分の恋人に「好きなものを教えて」とはにかみながら尋ねている。この曲の後には、ティンバランドがプロデュースした曲がいくつか続く。トリッキー・スチュワート、ショーン・ギャレット、ザ・ドリームらと共に、ティンバランドはリアーナがシングル・アーティストから成熟したポップ・スターへと音響的に進化する上で不可欠な役割を担っていた。

「Sell Me Candy」では、リアーナが自らの激励会で歌い踊るバトンガールに変身。カリブ海とインドの影響を受けた催眠術的な音作りは、「Lemme Get That」でも聴くことができる。この曲では、リアーナが男を手玉に取る女になりきって、威勢のいいリズミカルな歌を聞かせている。

『Good Girl Gone Bad』には、ジェイ・Z以外にもトップクラスのコラボレーターが参加している。リアーナのとてつもないカリスマ性は、ティンバランドのパートナーであるジャスティン・ティンバーレイクも引き寄せた。2人はバラード・シングル「Rehab」でコンビを組んでいる。このアルバムはクラブで受けそうな曲を集めていたが、「Rehab」はリアーナが心のこもったラブ・ソングの領域を超えて、官能的なR&Bの世界に足を踏み入れたことを証明した。後に彼女は、この路線の完成形と言える「Love The Way You Lie」を発表している。

 

『Good Girl Gone Bad: Reloaded』

リアーナのクリエイティブな面での大胆な変身は吉と出た。彼女はグラミー賞の7部門にノミネートされ、アルバム・チャートでは2位に到達。このアルバムは6xプラチナ・ディスクに認定された。

評論家から絶賛され、商業的にも大成功を収めた『Good Girl Gone Bad』は、翌年に新曲を追加して『Good Girl Gone Bad: Reloaded』として再発された。新たに加わったのは、No.1ヒットとなった「Take A Bow」と「Disturbia」、そしてマルーン5とのコラボレーションによるロック全開の「If I Never See Your Face Again」という3曲だった。

『Good Girl Gone Bad』によってリアーナは人気の土台を固め、やがて彼女は2000年代で最も売れたアーティストのひとりとなった。さらにこのアルバムは、彼女がシングルをヒットさせるただのポップ・スターではないことを証明した。このあとリアーナは非凡なアーティスト、時代を象徴する存在として自らの地位を確立していく。その最初の大きな一歩となったこの作品は、2009年の『Rated R』でリアーナがさらに進化するための舞台を整えたのである。

Written By Da’Shan Smith



リアーナ『Good Girl Gone Bad』
2007年5月31日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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