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ヒップホップ・ジャーナリストがメタリカ愛に至る道程とその理由

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Metallica - Photo: Jeff Kravitz/Getty Images for P+ and MTV

ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第34回。

今回は4月に約6年ぶりの新作アルバムが発売となったメタリカついて。

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台湾(中華民国)にはヘヴィメタル議員として知られる林昶佐(Freddy Lim)という人物がいる。つまり彼は、国会議員であると同時に、台湾随一のメタル・バンド「CHTHONIC」のシンガーでもあるのだ。

そのフレディ・リムはかつてこう言った。

「人々は丸屋九兵衛をヒップホップ・ジャーナリストとして認識しているだろう。しかし彼はメタルにも入れ込んでいる」

というわけで、本職さんから“メタル好き認定”されたわたしが、「自分はなぜメタリカを愛するのか」について考えてみた。

 

ロッカールームの対決

1999年のアメリカン・フットボール映画『エニイ・ギブン・サンデー』に印象的なシーンがある。場所は架空のNFLチーム「マイアミ・シャークス」の更衣室。黒人選手たちがザップの「More Bounce To The Ounce」を聴いていると、白人選手たちが対抗してメタリカの「Motorbreath」をかけ、「ウォ〜〜〜」と盛り上がるのだ。

ことほどさように、ブラック・ミュージックとメタルは「互いの対極に位置するジャンル」と見られている。その代表格が片やザップであり、もう一方がメタリカである……が、わたしは両方が大好きなのだ。

Metallica Monsters Of Rock

 

メタリカ愛に至る道

映画『007』シリーズの挿入歌各種のおかげで、カリプソやジャズやUKソウルを入り口として音楽に興味を持ち、すぐにファンクやヒップホップや時にジュジュ・ミュージック(ナイジェリア)を聴くようになったわたしは、リスナーとしてのメイン・ジャンルが少年時代からの数十年にわたって一定しており、つまり、その過程で全くといっていいほどロックを通っていない。

にもかかわらず、大人になってからメタルに惹かれるようになったのは、「極端なものが好き」という生来のエクストリーム気質にもよるのだろう。

さらに言えば、それぞれのジャンルやサブジャンルの美学を突き詰めているアーティストに惹かれる。メタル界では、ジューダス・プリーストやアイアン・メイデンやダイアモンド・ヘッド、ポイズンやラットやプリティ・ボーイ・フロイド、さらにマノウォー。

そしてメタリカだ。

 

なぜメタリカを愛するのか?

もちろん「曲がいい」というのが最大のポイントだ。ただし、音楽についての「いい」「悪い」とは実のところ好き嫌いでしかないから、要するに「メタリカの曲が好きだからメタリカの曲が好きだ」と繰り返しているのと同じである。このままではアホみたいなので、もう少し理屈で語るなら「攻撃的なギター・リフの合間を縫うように繰り出されるヴォーカルのメロディが自分の好みである」となろうか。結局は好き嫌いなのだが。

※メタルにおけるギター・リフは、ファンクにおいて曲をリードするベースラインのequivalent(同等)だと思う。ただしスティーヴィー・ワンダーの場合、それはベースラインではなくクラヴィネットだ。

特に“ブラック・アルバム”こと『Metallica』からのメタリカが、BPMをグッと落としたこともポイント。メタルという美学の中で、より豊かなリズム表現を成し遂げたことにも魅了されている。

理屈っぽく言うと、肝心なのは「人間の脳の時間分解能力には限界があること」だ。ゆえに、BPMが上がれば上がるほど24ビートや32ビート、あるいはそれらの半分の長さである48分音符や64分音符による微妙で細やかなリズムのニュアンスは表現しにくく、リスナーにも聴き取りにくくなる。だからこそ、緩やかなテンポの中での細かい刻みの抜き差しを愛好するわたしにとっては、重く遅くなってからのメタリカが尊いのである。

 

ファンタジー好きであるがゆえに

先日、町山智浩先輩と話している中で「バードコア」の話題になった。

吟遊詩人(bard)に由来する“Bardcore”とは、現代のヒット曲を中世ヨーロッパ風にアレンジ&カバーしてみよう!というジャンル/ムーヴメント。YouTubeを検索すると「ドクター・ドレーの名曲を中世アレンジでお届けする1時間」等、楽しいアレコレが見つかる。

Dr. Dre Beats but they're MEDIEVAL | feat Still D.R.E, In Da Club, Xxplosive, California Love + more

このジャンルが隆盛を迎える前から、ファンタジー気分に浸れるアレンジ——いわば、バードコアより前からあったバードコア——が好きだったわたし。そんなわたしが同じ文脈で愛聴していたのが、サイモン&ガーファンクルの「Scarborough Fair/Canticle」と、メタリカの「Nothing Else Matters」である。

同じくメタリカの「The Unforgiven」は、そのバードコア気分を激しく表現した「激情バージョン」として聴きたいところだ。

The Unforgiven (Remastered)

わたしの場合、メタリカによって増強されたバードコア趣味が、Netflixシリーズ『ウィッチャー』劇中で実際に吟遊詩人キャラクターが歌う「Toss a Coin to Your Witcher」や、フランキー・Jに通じるスタッカート唱法を吟遊詩人テイストに加えたエド・シーランの「I See Fire」への偏愛に繋がっていくのである。

The Hobbit: The Desolation of Smaug – Ed Sheeran "I See Fire" [HD]

 

どんなジャンルにもダイバーシティがある

ここで人種の話をしよう。

例えばヒップホップ。このジャンルは当然ながら「ブラック・ミュージックだ」と言われてきたし、それはそれで間違いではない。だが、ニューヨークにおける黎明期においてすら、そこで活躍していたのは狭義のアメリカ黒人に限らないのだ。そもそもターンテーブルを2台使うのはジャマイカからやってきたDJ・クール・ハークが持ち込んだアイデアだし、一方、ブレイクダンスやグラフィティの面ではプエルトリカンたちの貢献も大きかった。

同様にレゲエも、スタジオ・ミュージシャンやプロデューサーとして活動した中華系ピープルの貢献があってこそ発展したジャンルだ。

このように、世界とは最初から多様性に満ちたものであり、わたしはそれを改めて教えてくれる人々が好きなのである。

 

USメタル界の横綱のようなメタリカがえらく多民族・多文化なバンドだということにわたしが気づいたのはいつだったか。わたしの脳内にある「メタルといえばホワイト・ミュージック」という思い込みを正してくれたのも、やはりメタリカだ

まず、アメリカのバンドなのに、「普通のアメリカ白人」がヴォーカル/ギターのジェイムズ・ヘットフィールドしかいない。一方、ドラムのラーズ・ウルリッヒはデンマークから来たテニスの王子様である。とはいえ、そんなラーズも白人には違いないが、メタリカの場合、あとの二人の存在がポイントだ。

 

この40年ものあいだリード・ギタリストを務めるカーク・ハメット。

父親こそイングランド/ドイツ/スコットランド/アイルランド系だが、母親はフィリピン系。「半分白人」とも言い得るだろうが、アメリカ的な捉え方ではバッチリpeople of color(有色人種)に分類される。

Too Much Horror Business: The Kirk Hammett Collection

そして、2003年からベースを担当しているロバート・トゥルヒーヨ。彼のフルネームはRoberto Agustin Miguel Santiago Samuel Trujillo Veracruzというラテン色の濃いものだ。

この姓名でカリフォルニア州出身ということから——ベースに描かれたアステカ紋様からも——想像される通りのメキシコ系であり、ネイティヴアメリカンでもある。ジェイムズ・ブラウンやスライ&ザ・ファミリー・ストーンを聴いて育ち、ジャコ・パストリアスを敬愛し、指弾き中心でチョッパーも得意な彼は、メタル界の多様さを象徴する存在とは言えまいか。

※メタルの世界ではベースもピック演奏が主流である

Metallica: Rob & Kirk's Doodle (Barcelona, Spain – May 5, 2019)

 

セーガンの呼び声

歌詞もメタリカの魅力の一つ。「Through the Never」が作家カール・セーガンの『COSMOS』から影響を受けて書かれたと聞いて、「こんなところに兄弟がいたか!」と思った記憶がある。

幻想と恐怖に満ちた「極悪版ピーター・パン讃歌」のようなダーク・ファンタジー・アンセム「Enter Sandman」も最高だ。

インストゥルメンタルではあるが邪神クトゥルーの名前(スペルは違う)がタイトルに含まれた「The Call of Ktulu」や、クトゥルー神話(「インスマウスの影」他)にインスパイアされた「The Thing That Should Not Be」等から窺えるラヴクラフト趣味にも共感する。

もちろん、「Wherever I May Roam」も。マーヴィン・ゲイの「Wherever I Lay My Hat (That’s My Home)」とジミ・ヘンドリックスの「Stone Free」を合わせたような放浪アンセムで、好感を抱かずにはいられないのだ。

Metallica: The Call of Ktulu (Hollywood, FL – November 6, 2022)

Written By 丸屋九兵衛

*月刊丸屋町山オンライン・トーク開催中(アーカイブ公開中)

【月刊丸屋町山:ダンジョンとドラゴンとファンタジー映画の世界】
アーカイブチケット販売期間:~2023年5月10日(水)23:55 〆切



メタリカ『72 Seasons』
2023年4月14日発売
CD / 限定2LP / 2LP / カセット /  iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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