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ガンズ・アンド・ローゼズ『Appetite For Destruction』の聴きどころby増田勇一

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1987年に発売されロック史に残るガンズ・アンド・ローゼズのデビュー・アルバム『Appetite For Destruction』。2018年6月29日に発売されたこの名盤の初のリマスター、そして全5形態でのリイシューの中で気になる音源や楽曲について、バンドをデビュー前から現在まで追い続けてきた音楽評論家の増田勇一さんに寄稿頂きました。(増田さんの以前の記事はこちら


(c) Ross Halfin

【あらかじめ完璧だったものが、それ以上に素晴らしくなるというリマスターの魔法】

世に歴史的名盤と認知されるアルバムや長年親しんできた愛聴盤について〈曲は粒揃いなんだが、音がもうちょっと良ければな〉などと日々の音楽生活のなかで感じたことのある人は少なくないだろう。で、そんなちょっとした欲求を満たしてくれることがあるのがリマスター盤というやつだ。オリジナル盤では聴こえなかったはずの音が聴こえてきて驚かされたり、特定の楽器の音の聴こえにくさが解消されて〈そうそう、聴きたかったのはこの音なんだ!〉と感じさせられたり。そんな経験は僕自身にも何度もある。逆に、昔のCDの音量レベルの小ささが解消されただけで、ほとんど聴感上の差が感じられないケースもあるにはあるけども。

僕はこれまで、『Appetite For Destruction』というアルバムについて不満をおぼえたことがない。この作品との付き合いはもうすぐ満31年になるわけだが、〈この曲のこの楽器の響き方がちょっと〉とか、全体的なサウンドの立体感や奥行き不足とか、そうした物足りなさを感じたことは一度もないと言い切れる。だからこそ逆に、今回のリマスター音源の充実ぶりについては本当に驚かされた。ごく小さな音量で聴き流しているだけでは差を感じにくいところがあるので、できれば大きめの音で聴いてみて欲しい。周囲から苦情の来ない程度の音量で聴いても明らかに違うのがわかる。

ただ、それは、特定の曲の印象がガラリと変わる、というような差異ではない。アーティストや制作者自身に〈あの曲のあそこ、完全に判断を誤った!〉というような反省点の自覚がある場合などには、そこについてリマスターという作業で可能な範囲内での修正が加えられることがある。が、そもそも『Appetite For Destruction』は完全無欠と躊躇なく言いたくなるほどにマイナス要素の感じられないアルバム。何か特定のものを足したり引いたりする必要が元々ないのだ。なのに今回の音源は、旧音源と1曲ずつ聴き比べてみるまでもなく、奥行きが、広がりが、立体感が、ガツンと聴こえてくるべきもののガツンの度合いが違う。これは、オリジナル音源自体が優れているからこそ、現代の技術によってさらなるポテンシャルが引き出されることになった、ということなのだろうと思う。

たとえばCDで聴き慣れた曲にライヴで触れた時、低音が腹にズンズン来る感じとか、ギターが天まで突き抜けていくような感じとか,そういったライヴならではの感触を味わわされることがある。今回のリマスター音源にはそうしたメリハリの良さもあるし、完璧なバランスで成立していたものの美しさがいっそう際立つようになった、という印象がある。この音に一度触れてしまうと、ずっと愛着をおぼえてきたオリジナル盤を再生する機会がなくなってしまうんじゃないか、とさえ思えるほどだ。

【聴き慣れた名曲の〈生まれたままの姿〉に驚かされ、編曲の妙に唸らされる】

今回のリマスター盤はCD1枚にアルバム本編のみが収められたシンプルなものから、超豪華な仕様のボックスセットにいたるまで、さまざまな形態でリリースされている。もちろん何よりも聴くべきはアルバム本編に他ならないが、それ以外のディスクにぎっしりと詰め込まれたレア音源のなかにも注目に値するものが多々ある。

ことに〈1986 SOUND CITY SESSION〉という但し書きのついた楽曲については要注意だ。これはいわゆるデモというか、実際のレコ―ディング作業を開始する前にプロフェッショナルな録音環境で楽曲を最終的な完成形へと練りこんでいく作業、すなわちプリ・プロダクションの段階に録られた音源ということになるはずだ。そのうち4曲はCD2枚組仕様のデラックス・エディションでも聴くことができるが、たとえば“Welcome To The Jungle”は明らかにテンポも違えば曲構成(ヴァースの繰り返し方やギター・パートの挿入位置など)も聴き慣れたものとは異なっている。要するに初期のライヴではこの形で演奏されていたということなのだろう。“Nightrain”や“Paradise City”にもそうした〈おっ、いきなりそうきたか!〉という驚きを伴う箇所がある。

よりあからさまな違いがあるのは、〈LOCKED N’ LOADED EDITION BOX SET〉と〈SUPER DELUXE EDITION〉でしか聴くことのできない“Anything Goes”だ。この曲は実際にアルバム本編に収録されているものと比べ、サビに到達するまでのヴォーカル・メロディが完全に違っている。この曲がこのままの形で収められていたならアルバム自体の印象もだいぶ違っていたはずだが、同時に、プリプロという作業プロセスの重要さを痛感させられもする。


【疑惑の“Shadow Of Your Love”は新たな定番曲となるのか?】

今回のリリースに先駆けて先行配信された“Shadow Of Your Love”は、ビルボード誌による全米チャートのメインストリーム・ロック・ソングス部門でもトップ5入りを果たしていたりする。〈LOCKED N’ LOADED EDITION BOX SET〉と〈SUPER DELUXE EDITION〉の全収録音源を見渡してみると、この楽曲についてはライヴ・ヴァージョンと〈1986 SOUND CITY SESSION〉の際の音源、そしてそうした但し書きの伴わないものの3種類があり、先行公開されたのはその3つ目の詳細不詳のヴァージョンだった。それゆえにこの音源については〈もしかしたら最近になって新たに録られたものなのでは?〉というような期待のこもった疑惑の視線も向けられていたわけだが、実際の商品上のクレジットを確認してみると、こちらも1986年の録音ではあるものの、マイク・クリンクの手によってレコーディングされており、さらに2018年にクリス・ロード・アルジが新たにミックスを施しているということが判明。この際のセッションが、クリンクを『Appetite For Destruction』のプロデューサーに迎える決め手になったとの話もあるようだが、実際、それも頷ける仕上がりだ。

Guns N' Roses – Shadow Of Your Love (Tour Edition / Lyric Video)

 

すでに欧州ツアーでも演奏されているこの曲は、1987年6月のロンドンはマーキー・クラブでの公演時以来ずっと演奏されていなかったもの。しかし結果的に今回のリマスター作品を象徴する1曲になったともいえるだけに、今後はライヴの定番曲に仲間入りをすることになるのかもしれない。果たしてこの曲をここ日本で、生で楽しむことができる日は、いつ訪れることになるのか? 11月には台北、香港にまでやって来るものの、ガンズ・アンド・ローゼズがそのまま日本に再上陸するとの話は残念ながら聞こえてこない。しかし、いつかかならずその日が到来することを信じていたいものである。

さて、あれこれと書き連ねてきたが、もちろんこの画期的アイテムの聴きどころは他にもまだまだたくさんある。“Heartbreak Hotel”や“Jumpin’ Jack Flash”といったカヴァーもそうだし、ピアノ・ヴァージョンとアコースティック・ヴァージョンで収められている“November Rain”などについても〈ああ、実は1986年の時点でそこにあった楽曲だったのか〉と認識を新たにさせられる部分がある。そこで〈もしもあの曲ではなくこっちがアルバムに収められていたらどうなっていたのか?〉などと想像してみるのも一興だろう。ますます『Appetite For Destruction』との付き合いは、長く、そして深いものになっていきそうである。

Written by 増田勇一


『Appetite For Destruction』6/29発売
国内盤・輸入盤、限定超豪華BOX、Tシャツなど、全形態はこちら



増田勇一さんの著書『ガンズ・アンド・ローゼズとの30年
好評発売中


デビュー前から現在に至るまでバンドと並走し続けてきた
増田勇一氏ならではの30年間の歴史と想いを書き尽くしたファン必読の一冊!
(シンコーミュージック刊)

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