グレタ・ヴァン・フリートの2ndと3rd:伝説と歴史を現代と繋ぎ、未来を模索しようとする姿

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Photo: Timothy Norris/Getty Images

グレタ・ヴァン・フリート(Greta Van Fleet)が、ニュー・アルバム『Palace For The People』を2026年10月9日にリリースする。

このアルバムの前にバンドのこれまでのキャリアを振り返る記事と新作についてを音楽評論家の増田勇一さんに連続して寄稿いただきました。第2回は2ndアルバム『The Battle at Garden’s Gate』と3rdアルバム『Starcatcher』について。

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ツアー経験とパンデミックを挟んで生まれた第2作

2枚のEPのリリースを経たのち、グレタ・ヴァン・フリートが満を持して初のフル・アルバム『Anthem Of The Peaceful Army』を世に放ったのは2018年10月19日のこと。それは彼らにとって同年の北米ツアーがちょうど一段落ついた時期でもあったが、バンドにはその月の下旬からヨーロッパ・ツアーが控えていた。

彼らは2018年全体を通じてトータル108本ものライヴを行なっているが、そこでの経験値向上が当然のごとく次なる作品に反映されることになった。ライヴを重ねていくことで楽曲が咀嚼され、演奏やパフォーマンスの精度が向上していくのは当然のことだが、地元を離れて全米各地を巡演し、国外にまで足を延ばすという経験自体が、それ以上に4人にとっては大きかったといえる。

 

文学性と哲学性を増した歌詞世界

第2作『The Battle At Garden’s Gate』が実際にリリースされたのは、2021年の春のことだったが、彼らは前作の制作を終えた時点からすでに曲作りに着手しており、当初は2019年のうちに発売されるものと報じられていた。それが結果的に2年近く遅れることになった一因が、パンデミックにあることは言うまでもない。実際、前述のとおり2018年には総計108本、2019年にも80本近いライヴを行なっている彼らだが、2020年は一度もステージに立っておらず、ようやくライヴ活動が再開されたのは2ndアルバムの発売から4ヵ月後、2021年の8月に入ってからのことだった。

このアルバムのリリースに際してジョシュ・キスカにインタビューした際、彼は「コロナ禍以前に大半の歌詞を書きあげていたから、未曽有の異常事態がその内容に影響することはなかった」と言いながらも、同時に「皮肉なことに、そうした状況を経てきたことで自分が綴ってきた歌詞世界の意味がより理解できるようになった」とも語っていた。

とはいえ、危機的状況といったものが同作のテーマになっているわけではない。このアルバムには全12曲が収められており(日本盤にはライヴ音源2曲を追加収録)、ブックレットを眺めてみると、各曲の歌詞にはそれぞれ異なったシンボルマークが添えられている。そうした打ち出し方については、やはりどこかレッド・ツェッペリン的な匂いが感じられるが、ジョシュの説明によれば各曲の歌詞は“自由”、“母なる地球へのリスペクト”といったテーマに基づいたもので、聖書や古代文明などからもあれこれと引用しつつ、文学的な要素を重んじながら書きあげられたものだった。

実際、その音楽自体も、時代感を超越しつつもあくまで本能的でプリミティヴな印象だった前作と比べると、かなり壮大さと深みを増していて、よりダークで内省的な手ざわりを伴うものになっている。しかも歌詞は哲学的な色味を強めているわけで、この音源に最初に触れた際には「少しばかり頭でっかちになっているのではないか?」といった思いも頭をかすめたものだった。

ただ、人生において最も多感ともいうべき時期をツアーの生活に費やし、それまでの狭いコミュニティから果てしなく広い世界へと飛び出し、さまざまな異文化に触れてきたあとで制作されたアルバムなのだから、こうした変化は当然の結果でもあった。

 

広い世界を知った若者たちの内面的成長

そうした創作上の探求は、若い時分にありがちな“自分さがし”の過程にも重なるところがあるものだが、彼らからすれば、それまで平らなものだと信じてきた世界が球体だったことを知ってしまったぐらいの衝撃をツアーの日常で味わっていたはずだし、それが肉体面ではなく内面的、精神的な成長に繋がったのはごく自然なことといえるだろう。なにしろ彼らは、自分たちが生まれ育った町の人口の10倍もの人たちの前でプレイするような日常を、国境を越えながら過ごしてきたのだから。

そして僕自身の中で特に印象に残っているのは、当時のジョシュがそうした稀有な経験自体について「それは非常に美しいものでもあり、恐ろしいものでもある。しかも一度体験したら、二度と未体験な状態には戻れない」と語っていたことだ。その言葉は、人生を探求する旅を始めた途端、もう後戻りすることが許されないほどどっぷりとこの世界に深入りしてしまった若者の心境を伝える、誇張のない本音だったのではないだろうか。

しかも、現実の物語が劇的に展開していく中で、パンデミックは世の中のすべてを停滞させたわけだが、それによってジョシュには、彼自身が書いたものとじっくりと向き合う時間がもたらされることになったのだ。

こうして完成された『The Battle At Garden’s Gate』は、全米アルバム・チャートで3位まで上り詰めた前作にはやや及ばなかったものの、最高7位を記録。しかもベルギーでは首位に輝き、ドイツとスイスでは最高3位を記録している。ひとつ補足しておくと、この作品ではフー・ファイターズなどとの仕事でも知られるグレッグ・カースティンがプロデューサーに起用されている。自分たちの宇宙を際限なく拡げていこうとする4人を、絶妙なバランス感覚で原点的な座標から離れ過ぎぬようコントロールしていたのが他ならぬ彼だったのではないか、とも感じられる。

 

進化からの揺り戻しの3作目

第2作のリリースを経てツアーの日常を取り戻した彼らは、それから2年後の2023年7月には第3作『Starcatcher』を発表している。もしも彼らのアルバムに触れたことがない人たちに、ここに至るまでの全3枚の作品を、発表順を知らせずに聴かせたならば、この『Starcatcher』が2枚目、『The Battle At Garden’s Gate』が3枚目だろうと感じる向きも多いのではないだろうか。つまりこの第3作においては、前作での拡がりを伴う進化からの、ある種の揺り戻しが感じられるのだ。実際、2022年当時のインタビュー記事で、彼らは「より生々しいサウンドに戻り、ガレージ的感覚に回帰する」といった発言をしていたりもする。

このアルバムの淡い色調のジャケット写真は、敢えて言ってしまえば地味で味気ないものに感じられるが、ブックレットに用いられた砂漠に剣が刺さった写真には神秘的な匂いが伴っているし、民族的とも宇宙的ともいえるコスチュームをまとったメンバーたちのたたずまいには、映画の一場面のような趣がある。こうした映像的センスは、前作で文学的な感性を発揮していたジョシュによるところが大きいようだ。

この作品は、スラッシュとの仕事でも知られ、カントリーやアメリカーナ系の作品も数多く手掛けてきたデイヴ・コブのプロデュースのもと、テネシー州ナッシュヴィルにある伝説的なRCAスタジオの広い空間で録られている。そして実際に聴こえてくるのは、ガレージという言葉で形容するにはあまりにクオリティの高いサウンドだ。

しかしその音像は過度に作り込まれてはおらず、ひとつひとつの音がとても鮮明で生々しい。ある意味、めちゃくちゃ解像度の高いスタジオ・ライヴ作品のような感触がそこにはある。だからこそこの作品は、前作というよりもデビュー作の発展形であるようにも感じられるわけだが、第2作で音楽的なボキャブラリーを豊かなものにしていたからこそ、こうした作品になり得たのだともいえるはずだ。

この作品は、全米アルバム・チャートで最高8位まで到達。その記録自体には、前2作に比べてもさほど特筆すべき点はないが、普遍的なハード・ロック作品を平均年齢20代のバンドが、3作連続でトップ10に送り込んできたという実績は、もっと評価されてもいいはずだ。

実際、こうして時間経過と正比例の関係で進化と深化を重ねてきたグレタ・ヴァン・フリートは、もはや“驚異の新人”といったものめずらしげなインパクトを伴う存在ではない。ただ、それでも彼らはロック・ミュージックの歴史においては新しい世代であり、そんな彼らが伝説と歴史を現代と繋ぎ、未来を模索しようとする姿には胸を打つものがある。そして次回は、ついに完成に至った待望の第4作、『Palace For The People』について解説していきたい。

Written By 増田 勇一



グレタ・ヴァン・フリート『The Battle at Garden’s Gate』

2021年4月16日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



グレタ・ヴァン・フリート『Starcatcher』

2023年7月21日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


最新アルバム


グレタ・ヴァン・フリート『Palace For The People』
2026年10月9日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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