ザ・ストラッツ『Strange Days』インタビュー:コロナ禍で豪華ゲストが参加した作品が出来るまで

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2020年10月16日に発売となり、ザ・ストラッツの3枚目のアルバムであり、自身最高位となる全英アルバムチャート11位を記録した 『Strange Days(ストレンジ・デイズ)』。このアルバムについてヴォーカルのルーク・スピラー、そしてギターのアダム・スラックとのオフィシャル・インタビューが到着。

デフ・レパードのフィル・コリンとジョー・エリオット、英国を代表するアーティストのロビー・ウィリアムス、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロ、そしてザ・ストロークスのギタリストであるアルバート・ハモンドJr.といった豪華ゲストが参加した本作アルバムについて、音楽評論家の増田勇一さんがインタビュー。アルバムの視聴・購入はこちら

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10日間での制作

――本日はとにかく新作の『Strange Days』ついて聞かせてください。こんなコロナ禍の最中、まさかアルバムを完成させていたとは驚きでした。誰にも気付かれないうちに超極秘のうちに作ってしまうというのが、目論見のひとつだったんでしょうか?

ルーク:その通り! そもそも考えていたのは、とにかくスタジに入ること。ちゃんと検査を受けて全員陰性とわかったから、そのまま10日間、プロデューサーとエンジニアを含めた顔ぶれで、自主的にロックダウンに入ることにしたんだ。超シークレットにしてたのは、単純に、多分できるのは2曲か3曲、うまくいっても4曲ってところかな、と自分たちでは思ってたからでね。

ところが3日目、4日目あたりに差し掛かってきたあたりで、それどころの順調さじゃないことが見えてきたんだ。「ワオ! なんかすごくいい流れができてるんじゃないの?」ってね。それで結果、アルバム1枚作ってしまおうってことになったんだ。つまりそもそもは、俺たちのうち誰ひとりとしてアルバムを作るなんてつもりじゃなかったってこと(笑)。おかしな話だけど、ホント急転直下って感じだった。でも基本的に、この件について秘密にしておくことにはこだわってたし、そこは意図的だった。理由は、外部の大勢の人間の意見から自由になりたかったから。マネージャー連中も例外ではなくて、彼らもすべて完成するまでひとつの音たりとも耳にしてない状態だったんだ。そういう意味じゃ、かなりの実験だよね。そして、最高の結果が生まれたってわけ。

 

――誰からも指図されない環境で好きにやれた、ということですね。マネージメントからの信頼も厚いということがよくわかります。

ルーク:うん。できたものを信じてくれたとは思うし、いわゆるポストプロダクションの段階でマッサージを施す感じで手伝ってくれてはいるよ。やっぱり、ロジスティック面でかなり大変なところもあったからね。ロビー・ウィリアムス、アルバート・ハモンドJr.とか、デフ・レパードの面々とか、フィーチャリング絡みの問題でいろいろと面倒もあって……実は今回は、そこがいちばん大変だった。レコーディングは簡単だったんだけど(笑)。

ただ俺たち、実はこんなふうにレコードを作りたいって前々から思ってたはずなんだよ。そしたら世界が停止してしまった。そのことがきっと、何かやりたいという俺たちの燃えるような欲求の炎に油を注いだんだろうな。そして持ち前の創造性がドッカーンと爆発したというわけ。

アダム:今のルークの話にあったように、誰も俺たちが何をしてるか知らなかったし、自分たちでもそのままアルバムを完成させることになるとは思ってなかったし、まさかツアーができなくなるとは思ってもみなかった。だから世の中がストップしたことが俺たちの創作意欲を焚きつけた、というのは間違いないと思う。

前々からこうやってアルバムを作りたいと思ってたんだ。プレッシャーを感じずに、曲を細かく解剖するようなこともせず……。これまでは毎回そうだったんだよ。いわゆるヒット曲を期待されてそれを書こうとしてしまう、みたいな傾向もあった。でも今回はそういうのは一切無しで、自分たちがいいと思ったら何でもアリ。実際こういうのは初めてだったから、すごく新鮮だった。

Photo by Beth Saravo

 

――スタジオに入る前の段階で、曲はどの程度できていたんですか?

ルーク:2つか3つ、メロディのアイデアっぽいものはあった。たとえば「Strange Days」のメロディは考えてあったな。あとは……あの時点で何があったっけ?

アダム:「I Hate How Much I Want You」じゃないかな。あれはヴァースとコーラスを考えてあった。とりあえずアコースティック・ギターで、という状態ではあったけど。

ルーク:うん。その2つを除いてあとは全部、スタジオに入ってからその場で作っていったんだ。ただ、ひとつ補足しておきたいのは、歌詞やコンセプトに関しては9割方、すでに俺のノートに書きつけられてたり、携帯電話に録音してあったりしたってこと。それが理由のひとつでもあったと思うんだよね、曲作りの作業があんなにも速かったのは。毎日だいたい6時半頃には起きて、歌詞を見直して。それはスタジオ入りする前に俺が思いついてたやつで、結構な量があった。

同時に、みんなでジャムってる原案の良さげなやつをボイスメモに録り溜めてあったから、それと歌詞のアイデアを突き合わせながら組み立てていった。すると、10回やったうち9回は見事に嵌まってね。そういうことが起きるのってホントに初めてのことだったんだよ。結果、1日に3曲書けちゃったりすることもあって、自分でもビックリだった。なんかそれもまたストレンジな体験ではあったな。あらかじめ考えてあったメロディのアイデアは、いくつかあったとはいえ数えるほどだったし、曲としてまとまって仕上がっていったのは、ほぼすべてその場でのことだったから……。

アダム:うん。俺も俺でリフはあらかじめ山ほど考えてあって、思い付いたらすぐ形にして録音しておくようにしてたんだけど、あくまでそれはリフでしかなかったし、しかもおそらくその全部を使い切ることになったんじゃないかな。それも結構驚きだった。今まではそんなにたくさんリフを用意しておいたところで、いざ使おうと思うと〈うーん、イマイチ満足いかないな〉みたいなことになりがちだった。だけど今回は、迷ってる暇もないまま、持ってたリフのすべてを披露できた。あれは気分良かったよ(笑)。俺が何か弾くと、みんながノッてきて、その場でジャムが始まる。最高だったな。

 

 

『Strange Days』というタイトルの意味

――作品自体からすごく勢いを感じます。これまでの2枚のアルバムももちろん大好きですけど、〈このバンドに期待してたのはコレ!〉という感じで、一気に聴けてしまう気持ち良さがある。そして、さきほどの回答のなかでストレンジという言葉が出てきましたけど、それはまさに今作にとってのキーワードになっているんじゃないかと感じます。アルバム自体も『Strange Days』と命名されることになったわけで。

ルーク:そのタイトルについてはまさに文句なしの決定だったよ。だって、このレコードの曲作りとレコーディングは、ロックダウン下というきわめて不安定な時期に行なわれたわけで、その閉塞感みたいな要素もここには現れてると思うんだ。スケールの大きな曲でも、音的には小さな部屋で録った感じが伝わるはずだし。そういったことも含めて、〈今回の体験を総括してどんな感想を?〉と自問してみた時に、もうあのタイトルで決まりだった。

「Strange Days」という曲自体が完成したのは最後から2番目で、曲作りの流れにおける、そこがひとつのクライマックスだった。理由はいくつかあるけど、ひとつには、その後に作ったのが「Am I Talking To The Champagne (Or Talking To You)」で、あれもその数日前からアイデアをいじくり回してた曲だったから、「Strange Days」が片付いたところでみんな〈ふーっ。よし、ここまで来ればもう大丈夫!〉って感じになれてたというのがあって。あと、歌詞的にも「Strange Days」は間違いなくこのアルバム全体を物語るものになってるし。

あと、ミックスが施された音源が戻ってきた時、全曲を通しで聴いてみて思ったんだ。あの表題曲をアルバムの中盤とかに持ってくるのは無理だなって。2曲目に配置するのもあり得ないし、アルバムの幕開けか最後か、そのどちらかにしか相応しい場所はないと思った。これはアルバム完成前にもみんなでちょっと話してたことなんだけど、あの曲でアルバムを始めるというのは結構思い切った判断だったし、大きな変化でもあったと思う。あの曲が最初に置かれてることで、アルバムを一通り聴いて旅を終えたところで、また冒頭に戻ってあの曲を聴きたくなるというストレンジなループに嵌まる感じがするんだ。つまり、「Am I Talking To The Champagne (Or Talking To You)」を聴き終わると、なんとなくまた振出しに戻りたくなって〈あれ? なんか繰り返し聴けちゃうな、この感じは〉ということになる(笑)。

だから、あの曲がああいう仕上がりになったのは自分でもすごく嬉しくてね。というのもあれは俺が結構前から抱えてたもので……。変な話、場所がどこだったかは忘れたけど、ほぼ1年前に浮かんだアイデアがあって、全然ラフな感じでデモを録っておいたものが結果的に「Strange Days」のヴァースとプリコーラスになってるんだけど、そのデモは丸1年にわたり放置されて、ずーっと手付かずの状態にあったわけ。で、今回、スタジオに入った時に、前々からやりたいと思ってたことをもうひとつ思い出したんだ。それは、スケールの大きな、まさしくミュージカルの冒頭とかでオーケストラが演奏するやつみたいなオープニング・ソングが欲しいってことだったんだけど、いざスタジオに入ってみて、まさしくそういう感じであの歌い出しの感じを試してみたんだ。つまりあの曲は、コンセプト先行で、なかなかそれに見合う音楽がついてきてなかったってこと(笑)。

そんな一方で、今回のアルバムを作るにあたって、是非ロビー(・ウィリアムス)に参加してもらいたいっていう願望がすでにあった。それは、彼のような昔ながらのソングライティングの感じが欲しかったからなんだけど、参加してもらうんだったら彼の最高傑作に負けないくらい豊かなテクスチャーを持つ曲じゃないと駄目だよな、と思ってね。たとえばそれは、彼の曲で言うなら「Angels」とか「Feel」、「She’s The One」みたいな、それこそビートルズが書いたんじゃないかと思えるような素晴らしいバラードとかのこと。

だけど「Strange Days」はわりと早い段階でそういう感じの曲になっていったんで……うん、そういったいくつかのアイデアのマリアージュみたいな感じで、本当に特別な曲になった。しかもあの曲が、今回の体験全体を総括するものになっていたりもする。俺たちみんな、レコーディングを始めるにあたって〈もしも今のこの空気を形にできたら最高なんだけどな〉と思ってたし。

 

ロビー・ウィリアムスの豪邸でのレコーディング

――アダム、あなたもロビーの曲とか、彼がいたテイク・ザットとかに思い入れを持っていましたか?

アダム:ロビーのソロ作のファンだよ。子供の頃に『Sing When You’re Winning』ってアルバムを聴いて、すごく好きになったのを憶えてる。俺の世代はテイク・ザットを知るにはちょっと若過ぎるというか、当時はまだ小さ過ぎたかな(笑)。だけどロビーの音楽は、子供時代の記憶の一部だったと言っていい。イングランドではとにかくビッグな存在だったし、彼のヒット曲は誰もが知ってた。「Angels」とか「Strong」とか、その辺の曲はイングランド育ちだったらかならず聴いてるはず。ある意味、オアシスとかと同じ感じだね。90年代の、特に95年以降のサウンドって感じ。だから俺も前からファンだったし、まさに夢が叶ったようなもので、こないだも従兄弟と話してたんだ。〈彼が俺たちの曲で歌ってるなんて、すごくない?〉ってね(笑)。

――ロビーのヴォーカル録りには、アダムも立ち会えたんですか?

アダム:いや、コロナのせいで制約があってね。いちばん安全なのはルークだけ行かせてロビーと一緒に歌うところを撮影することだ、という判断になったんだ。だから俺は会えてない。FaceTimeで簡単に挨拶はしたけどね。そのうちきっと会えるだろうから、楽しみにしてるんだけど。

――ではルークに話してもらうしかないですね。そのロビーのヴォーカル・レコーディングの時のことを教えてください。確か、彼の家の玄関先で録ったんですよね?

ルーク:うん、あれはマジで滅多にない経験だった。まず俺は、ビバリーヒルズにある彼の豪邸に赴いたんだけど、のっけからすごくストレンジな感じでね。俺は門のところで車から降ろされたんだけど、すぐそこに玄関があってチャイムを鳴らして、というつもりでいたらとんでもなかった。そこから玄関まで、なんと1マイルぐらいありやがるんだ!(笑)『ジュラシック・パーク』かと思うようなゲートから入って、15分ぐらい酷暑の中を歩く羽目になって、それでようやく家に辿り着いたんだ。

目の前にそびえる馬鹿でかい豪邸の左側には彼の所有する車が何台も並んでいて、右側はいわゆるポーチになってるんだけど、そこにまた堂々たる柱が2本立っていて、建物の中に入るのに階段を4~5段上るような造りになっていてね。そこに、俺よりもちょっと先にプロデューサーのジョン・レヴィーンとエンジニアが到着していて、ラップトップやらインターフェイス、マイク2本がセッティングをしてあった。

そしていよいよロビーの登場だよ。娘さんもいて、彼女が俺たちの大ファンだそうなんで、俺の人形(FUNKO POP)をプレゼントしたら大喜びしてくれたんだけど、そんなことすらストレンジなもので、すぐに消毒しなきゃならなかったり、せっかく会えたのに10フィートとか11フィート(約3メートル)とかお互いに離れて話さなきゃならなかったり、ドア越しにやりとりをしたり……。ロビーとはまず庭で、ちょっと近況報告をし合って、その間にジョンが準備を整えた。ロビーは〈すごく気に入ってずっと聴いていたんだ。すごく特別な曲だと思う〉と言ってくれて、すごくいい雰囲気だった。〈君たちは本当にユニークなことをやっているよ。俺も参加できて嬉しい〉ってね。俺はもう、ただただ彼に感謝するばかりだった。

そして15分後に歌入れが始まったんだけど、まさにマジックだった。ああいうのってあんまりないし、俺的にストレンジだったのは、彼が曲を覚えてくれてはいたけど歌いこなすところまではいっていなかったから、不肖ルーク・スピラーが世界最大のスターのひとりであるロビー・ウィリアムス様の隣に立って、ああしろこうしろ指図しているという図だよ。歌い方とかをね。〈これって、どうなの?〉って感じだった(笑)。

でも、最高に楽しかった。俺自身はすでに自分のヴォーカルを入れ終わってたけど、結果、全部歌い直してる。あの段階では、最初に歌を録ってから2=3週間経ってたはずだからね。あと、曲の冒頭のところで鳥がさえずってるのは、サンプリングとかじゃなくて本物の鳥の歌声なんだ。ビバリーヒルズの野外の音がそのまま入ってるんだよ。野外録音というのもなかなかの経験だった。たまに飛行機が飛んできて録り直しになったり、メイドさんか誰かが車で入ってきて、その音が入ってしまったり。でも、なんとかやり遂げたよ。1時間ちょっとで全部終わったんだ。

 

――話を戻しますけど、プロデューサーのジョン・レヴィーンもまさかアルバムを作ることになるとは思わずにあなた方を自宅に招いたわけですよね?

ルーク:そう。当初はその作業がアルバム制作になるなんて、誰も想定してなかった。ただ全員一致してたのは、とにかく何かやりたいってことだけ。ジョンもそうで、彼は週に6日は曲を書いたりレコーディングしたりプロデュースしたりしてる人で。相手はポップ系のアーティストばかりなんだけどね。俺はたまに彼と会って話をしていて、特に今年の初めなんかは、彼が自宅でパーティを開くというんで、俺が出向いてふたりでゲストのためにピアノを弾いたり歌ったり……。そういうのが彼は大好きなんだ。プレイするのが大好きな人なんだよ。しかもピアノがめっちゃ上手くて、本格的なジャズの人なんだ。

だから一緒にレコーディングをするにあたって重要視したかったのは、彼にも手伝ってもらうこと。俺からジョンに直接言ったんだ。〈君にも俺たちと一緒に演奏してもらうようにしなきゃ。一緒に弾きながら思いついたことをアレンジするのを手伝って欲しいし、ピアノやハモンド・オルガンも入れたいし、それを是非やって欲しい。バンドと一緒にリアルタイムで〉とね。だから、曲の構成という部分では、彼の存在が大いなるゲーム・チェンジャーになった。グループ外から意見を言ってくれるのみならず、一緒になって曲と暮らし、曲を育ててくれたんだ。それがまた、全体に勢いを与えることになった。

彼もまったく俺たちと同じで、3曲ぐらいできたところで〈このままやろうよ。みんな楽しんでるし、君たちもようやく目が覚めたって感じじゃないか。4曲目ができる頃が昼だとすると、それからいよいよ出かけるぞ、どこへ行こうかって感じだろ?〉とか言いだしてね(笑)。結果、〈何か他にもやろうよ〉みたいな話にもなって、ホントにいい時間だった。バンドにとってももちろんだけど、彼にとっても新鮮味があったんじゃないかな。

アダム:今まで手掛けてきた仕事のなかでいちばん好きだって言ってたな。彼のお母さんはどうだったかわからないけど(笑)。でも、そう言われて嬉しかったし、俺のこれまでの人生における最高のひとときに数えられるのは確かだよ。

――しかし、自宅にバンドを泊められるというのもすごいなと思います。

アダム:だよね。みんなでルームシェアして、俺とジェド(・エリオット)は、空気で膨らますマットレスをベッドにして、数年前の生活に逆戻りって感じだった(笑)。でも楽しかったよ。起きたらすぐ作業を始めて、一日中クリエイティヴに過ごす。セッティングしたままだから、ドラムのところにもマイクが立ててあってすぐ叩けるし、〈まずはスタジオで音を出してみよう、何かできるかもしれないし〉みたいな感じで1日を始めることができてたんだ。

ルーク:俺が思うのは、今回のことが間違いなく今後のプロジェクトの雛形になるはずだってこと。絶対そうなってくるよ。自分たちにも、ファンにも、レーベル側に向けても証明できたと思うんだ。ザ・ストラッツを最小限の人間とひとつ屋根の下に放り込んで9日とか10日とか放っておけば、それだけですごくいいものを持って帰ってくるぞ、ということをね(笑)。少なくとももう一回は、こういうやり方でやることで前進できるはずだと俺は思ってる。それくらい新鮮な体験だった。

対象の美学というやつを俺は信じていてね。たとえば『Young & Dangerous』(2018)と『Everybody Wants』(2014)は、曲作りもレコーディングもよく似たやり方で取り組んだ作品で、結果も似ていた。それと同じように『Strange Days』には、並んで歩く妹なり弟なりにあたるアルバムが必要なんじゃないかと思っていて。そういう気持ちもあるし、あのやり方で、まだまだ行ける気がしてるんだ。だからもう一度は同じような手法でやってみたい。10日間と限定する必要はないから、12日間もらってもいいけど(笑)。

ジョー・エリオットとフィル・コリンとのエピソード

――これはアダムに聞くべきことだと思うんですけど、「Am I Talking To The Champagne (Or Talking To You)」にはデフ・レパ―ドのジョー・エリオットとフィル・コリンが参加してますよね? あの曲のギター・パートは、フィルとどんなふうにしてアレンジしていったんですか?

アダム:あれにもやっぱり2020年ならではのシナリオというのがあって。まず、メインの〈♪ダンダーン“っていうリフは、俺がなんとなく弾いてたのをジョンが聴きつけて、すぐさま〈それをリフにしよう!〉と言ってきたやつなんだ。で、自分のリズム・パートもひと通り弾いて、基本、あの曲では最初から彼らの参加を想定してたので、一応は自分でもギター・ソロを弾いてはみたけど、フィルをフィーチャーするんだったら当然ソロも彼に弾いてもらうのがいいだろうと思ってね。

それで曲を送って、彼のソロを入れてもらったんだ。俺が弾いたのも入った状態で渡したんだけど、それに被せる感じで弾いてくれたソロがすごくカッコ良くて、いい感じのギター・ハーモニーになった箇所もたくさんある。でも、彼ともまだ会えてないし、話も直接できてなくてね。是非会いたいよ。とにかく曲の仕上がりはバッチリだし、彼のパートもすごくいいと思う。

ルーク:実を言うとね、最初に考えていたのは、ジョーとフィルをフィーチャーした形で、ガールの「Do You Love Me」をやることだった。

アダム:あ、そうそう。当初はそうだったね。

ルーク:フィルは昔、ガールのギタリストだったからね。だから「Do You Love Me」を一緒にやれたらストーリーが一巡する感じになってクールなんじゃないかと考えて、実際、曲を送ってみたんだ。でも、彼らからは丁重に断られてしまった。違う曲をやりたい、と言われたんだ。そこで改めて考え直してみて、〈じゃあ、これは?〉と提案してみたら、先方からの回答は〈イエス、もちろん!〉だった。

デフ・レパ―ドとのコラボレーションはそういった過程を経て実現したもので、本当にやって良かったと思ってる。彼らのおかげで曲がグンと個性的になって……まあ、そもそも原曲がすごくいいんだけど(笑)、頭のスキット(=寸劇的要素)とか、ソロとか、ジョーのヴォーカルが加わったことで一段と良くなった。それがフィーチャリングの効力ってやつだよね。他の曲たちについてもいえることだ。

――「Do You Love Me」はそもそもKISSの曲だし、ガールのヴァージョンはそのカヴァーだったわけですけど、あなた方はガールの持ち曲として取り上げようとしてたんですね? とはいえ、あなた方が生まれた頃にはすでにいなくなっていたバンドですよね、ガールは。

ルーク:うん。俺はガールについては、マネージャーのジェイムズに話を聞いて知ったんだ。彼は歩くロックンロール百科事典みたいな人でね。俺とアダムはL.A.滞在中、しょっちゅうジャムっていて、そのための参考音源みたいなプレイリストを作ってあるんだけど、その中にジェイムズから教わったガール版の「Do You Love Me」も入ってたんで、ビデオもチェックしたし、曲のアティテュードがすごく気に入ってた。

しかもYouTubeでメイキング映像まで発見して、見てみたらこれが傑作でね! そんな経緯があった後でオリジナルのKISSヴァージョンを聴いて……正直言うと俺、ガール版のほうが好きだな、と思っちゃった(笑)。あくまで俺視点での話だけど、KISS版はOK、ガール版はグレイトって感じ。で、〈これを俺たちがやったらすごいことになるんじゃね?〉みたいな話になったわけ。まあ俺に言わせれば、この曲のザ・ストラッツ版はこれまでのすべてのヴァージョンを凌ぐものだから、

アダム:おまえ、それフィルに言える?(笑)

ルーク:ふふっ。断っておくけど、俺たちは結局、巨匠たちの肩にとまらせてもらってるに過ぎないわけで、すでにめっちゃ良いヴァージョンが存在する曲をさらに良くするのは簡単なことなんだよ(笑)。元を辿れば35年ぐらい前からあるんだもんな、あの曲(注:KISSによる原曲が収録されたアルバム『DESTROYER(地獄の軍団)』は1976年に発売されており、来年には発売45周年を迎える)。とにかく、あの曲が俺たちのやってきたことと見事に符号したというのもあるし、あれが入ることによってグラム・ロック的観点からもちゃんと筋が通るアルバムになった。それってすごく大事なことだと思うんだ。

アダム:うん、そこは同感だな。

ルーク:あれ、いかにもグラムな音だもんね。シンプルでキャッチーで、俺たちらしさが溢れてる。いい選曲だったと思う。

 

――「I Hate How Much I Want You」の冒頭には、ジョー・エリオットとの電話での会話が入ってますよね。すごくいい雰囲気ですけど、彼との付き合いはどんなふうに始まったんです?

ルーク:ジョーとは、ずっと前からメールのやりとりをしてきたんだ。彼は2015年、2016年あたりからザ・ストラッツの庇護者であり、大のサポーターであり続けてくれてる。俺たちという存在が、ずっと彼のレーダーに引っ掛かってたんだよ(笑)。

今回、スタジオに入る2週間ぐらい前から俺はあちこち電話して、興味を持ってくれそうな人を探していた。〈もしもの話だけど、いい曲が用意できたら、フィーチャリングという形で参加してくれる気はありますか?〉みたいな感じでね。最初ジョーに相談して、すぐ彼からフィルを紹介されて、フィルとも話が盛り上がってね。実は、今回は形にならなかったけどフィルもアイデアを出してくれて、クリエイティヴな関係に発展したんだ。

で、あの曲ができあがって彼らのパートの録音が進んでた頃、俺自身は実はハワイに行ってたんだけど、ミックスを進めながらジョーやフィルとは電話で話をしていて……。で、本当は曲の頭にもうひとつ別のスキットを用意していたんだ。なんかこう、一息入れてまた曲が始まるところで、リスナーの注意を引くようなものをね。そこで当初は、ちょっとワザとらしくはなるんだけど、スタジオでアイデアのやり取りをしてる会話をボイスメモで録ったようなものを作って、入れようとしてた。ただ、結構面白いのはできたんだけど、曲と上手く繋がらなくてね。

そんな時、マネージャーが言ってきたんだ。曲の冒頭にスキットを入れるというアイデアはすごくいいし、うまくいけば効果的で曲に勢いがつくけども、それを聴いてリスナーが、〈これはジョー・エリオットが喋っていて、これから彼が歌うんだ!〉ってワクワクするような言葉が入ってないと駄目だ、とね。その時点で録ってあったスキットだと、そこがハッキリしないというわけ。そこで俺はなるほどね、と思い、〈わかったよ。考えがあるから24時間待ってくれ。また連絡する〉と答え、ジョーに電話したんだ。〈この曲にあなたが参加していることにみんなが気付くようにする必要があるから、冒頭部分でそれを説明しようと思う。超ワザとらしいけど、そっちから電話してきたっていう設定でやってもらえませんか?〉ってね(笑)。

で、あれが2本目のテイク。結構笑えるよね。フェイクだってバレバレだけど、それも含めてユーモアっていうか。とにかく、あの曲にジョーとフィルがフィーチャーされているということを知らしめることが重要だったわけだよ。あれはクールな思い付きだった。ヒントになったのは2000年代の初めの頃の、超流行った頃のヒップホップ。エミネムの『The Marshall Mathers LP』とかドクター・ドレーの『2001』みたいに、曲ごとに頭にかっこいいスキットが入ってるのがいっぱいあって、〈なんでロック・バンドはこういうのをやらないんだろう?〉って俺は思ってた。もっとこういうことをやってもいいんじゃないかな、とね。ドクター・ドレーやエミネム的なエトスから誕生したって考えるとさらに変わってるけど、そういう面白い効果を狙った演出でもあったわけ。

 

トム・モレロとアルバート・ハモンドJr.

――さて、あと2人のゲストの話もしてもらわないと。アダム、トム・モレロはあなたとはだいぶ違うタイプのギタリストだけど、彼のことはどう思っていて、「Wild Child」での彼のプレイについてはどう感じましたか?

アダム:あの曲での彼のプレイは、まさに完璧だと思う。世界有数のユニークなプレイヤーだと思うし、何よりもまず、あんなに多彩な音がギターから出てくるっていうのが俺には驚きだ。彼とはステージで共演したこともあって、そのさまを目の当たりにできたのはすごく嬉しかった。あの曲は俺が家でリフを書きながら、実はアークティック・モンキーズの「R U Mine?」っぽいリフを狙ってたんだけど(笑)、めっちゃヘヴィなのができちゃったから、〈これをウチで使うことはないな。このバンドにはヘヴィ過ぎる〉と思ってた。だけどそれをスタジオで弾いてみたら、曲になってしまったんだ。

途中、すごくレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンっぽい〈♪ダダーンダダーン〉みたいなところがあって、〈これは!〉と思い立ち、ルークが彼の電話番号を知っていたから連絡してみて……。そんな形で話が進んでいったんだ。今回の曲の中で彼に入ってもらうとしたら、やっぱり「Wild Child」しかないよね。作っていても楽しい曲だった。そこにトムの尋常じゃないソロが入ったことで、とんでもないことになったよ。やっぱりこれも俺には夢が叶ったような出来事で、彼が俺たちの曲で弾いてくれているなんて、自分の頬をつねりたくなるよ(笑)。

 

――そして、アルバート・ハモンドJr.です。彼とのコラボもまたちょっと意外でしたけど。

ルーク:彼とは、何度かラジオ番組で一緒になったんだ。そこから俺、〈男が男に一目惚れ〉みたいな感じになっちゃって、なんとなく連絡を取り合っていた。それがしばらく続いて、今回、直前に電話してみたんだ。〈実はレコードを作ろうとしているんだけど……いや、レコードっていうか、とりあえず何かやろうってことなんで、実際どうなるかはまだ誰にもわからないんだけど、頼んだら都合をつけてもらえるかな。何かやってもらえる?〉ってね。そしたら最初のうちはて〈いやあ、どうかなあ、うーん〉みたいな調子で、きわめて丁重かつノンシャランな感じで……。でも、そりゃそうだよね。ロックダウンっておかしなもので、反応は本当に人それぞれだったから。

それで、俺たちサイドの作業が終わって、フィーチャリングで参加してもらうことが決定した人たちに作業に入ってもらうような段階になった頃にまた改めて話を振ってみたら、どうも彼はあんまり良い状態じゃなかったらしく、とても沈んだ感じで、〈すごくストレンジなんだ。オフなんだけどオフじゃない。家で仕事をするようになって、本来そこから切り離されて充電をするべき場所で物事を生み出したり発電したりしなければならないのに、なんだか何もピンとこないんだ〉とか言い出してね……。ただ、そんな状態にあったのに、あの曲を聴いたらすごく気持ちが上がって、やる気になったんだって。それで結果、〈あのさ、ファッキンやるよ、これ!〉みたいな回答をくれて(笑)、それから2日か3日で彼のパートを一通り用意してくれたんだ。

彼が作ってくれた最初のヴァージョンを聴いた時、すごく圧倒されたのを憶えてる。「おお、そう来たか!」って感じでね。あとはバランスを整えるだけ、という感じだった。今回参加してくれた人はみんなそうだったけど、彼も本当にいい人で、気前よく時間を割いてくれて、辛抱強くて、そして熱心に取り組んでくれた。彼とのコラボレーションは特にユニークだったね。だけど俺たちぐらいだよな、ロビー・ウィリアムスとアルバート・ハモンドJr.を同じアルバムに登場させられるバンドなんてさ。そう思わない?(笑)

 

コロナ禍でのドライヴ・イン・コンサート

――まったく同感です。さて、まだまだ聞きたいことはあるんですが、そろそろ時間のようです。ひとつだけちょっと聞いておきたいのが、この夏、あなた方がペンシルヴァニア州で体験したドライヴ・イン公演について。どうでしたか、車に向かって演奏するというのは(笑)。

ルーク:洒落を言うつもりはないんだけど、あれはなかなかイヤらしい(=horny)経験だったよ。観客は声援できない代わりに車のクラクション(=horn)を鳴らし続けてたんだからね(笑)。あれだとまったく抑揚がないから、ずーっと〈プーーーッ〉みたいな感じでさ。でもまあ、何もやらないよりはマシだったけど(笑)。

実際、以前とまったく同じようだったとは言い難いけども、それでもステージに上がって演奏できたのは嬉しかったし、そういう意味ではいい経験だった。ただ、それでもやっぱり従来のライヴと同じというわけにはいかない。ステージ前に何百人も押し寄せてきて、お客さんが思いきり反応してくれて、何もかも激しくて……。そんな従来のライヴとドライヴ・イン公演が同じであるはずもない。俺たちのショウはオーディエンスの参加に頼る部分というのもすごく大きいんで、あの時はショウのあり方を考え直してアプローチを変えなければならなかった。だからチャレンジだったし、いい経験にはなったけど、間違いなく……

アダム:本物のライヴには及ばない。

ルーク:だよね。本物には敵わない。

 

――それがわかっていても、こうしてアルバムを聴くとライヴが観たくなるものです。

ルーク:そこがザ・ストラッツらしいところなんだよ。どんな状況にあろうと、ツアーに出てショウをやる術をなんとか見つけ出すバンドがいるとしたら、それは絶対に俺たち、ザ・ストラッツであるはず。だから、信号が青になったらすぐに動き出すよ。それは俺の口から保証してもいいと思う。誰よりも先に飛び出せるように、すでにラインの後ろで助走の準備をしてるから。

アダム:うん。日本公演の予定もあるしね。このままうまく進んで行けば、4月には会えるはずだし。

――とはいえ実際、日本でも今後のライヴ開催についてはまだ不確かな部分が多いと言わざるを得ません。ただ、現状では、今年行なわれるはずだったジャパン・ツアーの振替公演が来年4月に控えています。あなた方との再会を心待ちにしているファンに向けて、最後にメッセージをいただけますか?

アダム:どうもありがとう。我慢して待っていてくれてありがとう。かならずまた行くからね。そして、このアルバムを俺たちと同様、愛してくれると嬉しいな。

ルーク:まずは何よりも、みんなが新しいアルバムを気に入ってくれますように。何故なら、このアルバムはファンのために書いたもので、それはもちろん世界中のファンのことを指してるわけだけど、日本のファンは俺たちがこれまで出会ってきた中でいちばん情熱的でユニークな人たちだし、このレコードのユニークさも理解して楽しんでもらえるはずだと思うからね。俺たちは作っていて楽しかった。すごく楽しかった。だから、楽しんで欲しい。というわけで、うん、また会えるのが楽しみだよ!

Interviewed By 増田勇一



ザ・ストラッツ『Strange Days』
2020年10月16日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
*日本盤CDには2019年サマーソニックの音源3曲を収録




 

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