グレタ・ヴァン・フリートの経歴を振り返る:時代外れの4人による人生最初の集大成的作品
グレタ・ヴァン・フリート(Greta Van Fleet)が、ニュー・アルバム『Palace For The People』を2026年10月9日にリリースする。
このアルバムの前にバンドのこれまでのキャリアを振り返る記事と新作についてを音楽評論家の増田勇一さんに連続して寄稿いただきました。まずは第1回です。
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前作『Starcatcher』から3年3ヵ月ぶりとなるグレタ・ヴァン・フリートのニュー・アルバム、『Palace For The People』の国内盤CDが10月14日に発売を迎える(輸入盤発売及びデジタル配信開始は同9日より)。このアルバムの中からはすでに「Saw You Stand」と「Play Your Game」、そして「Tear It Down」の3曲が先行配信リリースされているが、まさに三者三様でありながら、いずれの楽曲もアルバムに向けての期待感を高めずにおかない。
ターンスタイルからフィオナ・アップル、ジョン・バティステに至るまでとの仕事歴を持つプロデューサー、マイク・エリゾンドと初タッグを組んで制作されたこのアルバムは、今年で結成14年、来年にはデビュー10周年を迎えるこの4人組にとって重要な到達点、今後に向けての分岐点になるのではないだろうか。
小さな町で育った“時代外れ”の4人
この新作に関する詳細についてはまた機会を改めてお伝えするとして、今回は彼らがシーンに登場し「ロックの未来」といった称賛の声を集めた当時のことを振り返っておきたい。
グレタ・ヴァン・フリートが米国はミシガン州サギノー郡にある小さな町、フランケンムース(ドイツからの移民により切り拓かれた町としても知られている)で結成されたのは、2012年のこと。4人のメンバーのうちジョシュ・キスカ(vo)とジェイク・キスカ(g)は双子の兄弟で、サム・キスカ(b)はその弟、ダニー・ワグナー(ds)は彼らの幼馴染だった。
ごく小さなコミュニティで同じ音楽を聴きながら育った4人は、まわりのクラスメートたちからは完全に浮いていたようだが、2019年1月の初来日時に筆者が行なったインタビューの中で、ジェイクは少年期を振り返りながら「みんなが好む当時のポップ・ミュージックは全然わからなかったけれど、4人でつるんでいたから寂しい想いをすることはなかった。しかも面白いことに、大人になっていくにつれ、他のみんなも俺たちが当初から聞いていたような音楽を聴くようになっていった」と語っていた。
そうした出自からも想像できるように、彼らの嗜好や価値観といったものは、親世代からの影響もダイレクトに受けながら、いわゆる都会的なトレンドには左右されることなく育まれていった。それはジェイクが同じミシガン州出身のボブ・シーガーについて「彼の曲は常にラジオから流れていたし、自分たちにとっては、大先輩というより文化のような存在」と語っていたことからもうかがえる。
世界を騒がせた「ロックの未来」
2017年の春には『Black Smoke Rising』と題された最初のEPがリリースされ、その音源が世に広まるや否や「Z世代向けのレッド・ツェッペリン」「新世代によるロックの再解釈」などと騒がれると同時に、懐古趣味だという反応も浴びることになったが、彼らは何年かに一度、突然変異か何かのごとく登場するツェッペリン再解釈型バンドとは根本的に違っていた。なにしろ当時まだ平均年齢20歳に達していなかった彼らにとって、その演奏スタイルは温故知新的なルーツ探求の賜物というよりは、単純にそれまでの音楽経験の結晶でしかなかったのだから。
ちなみに彼らは、当然ながらレッド・ツェッペリンをはじめとするロック史の偉人達からの影響を否定してはいない。ジョシュは自身の歌唱スタイルにロバート・プラントとの共通点があることを肯定しながらも「それを意識して狙ったことはない」と語っているが、ジェイクはジミー・ペイジやザ・フーのピート・タウンゼンドについて彼なりに研究を重ねていた時期があったこと、そして、他にもラッシュやクイーン、エアロスミスなどから影響を受けてきたことを認めている。
グラミーへと駆け上がった驚異の新人時代
その『Black Smoke Rising』に収録されていた「Highway Tune」はビルボードによる全米チャートのメインストリーム・ロック部門において4週連続で1位を独走し、さらに「Safari Song」が首位の座を引き継ぐことになった。そして2017年10月にはふたたびこの2曲をフィーチュアした第2弾EP、『From The Fires』が登場。これら2作品は収録量的にはEPであるが全米アルバム・チャートに顔を出し、デビュー作は最高182位にとどまったものの、この2nd EPは36位まで上昇し、のちにゴールド・ディスクを獲得している。
さらに2019年2月に発表された第61回グラミー賞において、彼らは最優秀新人部門を含む計4部門にノミネートされ、フォール・アウト・ボーイやウィーザー、アリス・イン・チェインズらを破って最優秀ロック・アルバム賞に輝いている。最優秀メタル・パフォーマンス部門、オルタナティヴ部門ではなく、ロック部門での受賞だったという事実にも興味深いものがある。
当時の彼らはロードの生活に明け暮れ、いつも翌日のショウのことで頭がいっぱいという状態で過ごしていたが、そんな状況下において毎日のようにチャート動向や権威ある音楽賞に関する新情報が届くのは、4人にとって当然ながら驚きでしかなかった。ジェイク自身もグラミー賞の件については「受け入れ難いぐらいの現実であり、途轍もなく名誉なこと」だと語っていた。
ここでひとつ、同年のグラミー賞での彼らの受賞対象作品が、2018年10月の時点でリリースされていた1stフル・アルバム『Anthem Of The Peaceful Army』ではなくどうして『From The Fires』だったのかという疑問も湧いてくるが、これは単純にノミネート対象期間の問題(年によって違いがあるようだが、発表前年の8月末もしくは9月末までにリリースされた作品が対象となる)だったものと思われる。
デビュー・アルバムに刻まれた未来への予兆
2枚のEPで早々に地盤を固め、さまざまな大型フェスへの出演や大物アーティストのツアーへの同行の好機にも恵まれた彼らは、まさに満を持して初のフル・アルバム『Anthem Of The Peaceful Army』のリリースを迎えることになった。それに対する世の期待感がいかに高まっていたかを裏付けるように、このアルバムは全米アルバム・チャート3位に初登場という快挙を成し遂げている。
『From The Fires』にはサム・クックの「A Change Is Gonna Come」、フェアポート・コンヴェンションの「Meet On The Ledge」といったカヴァー曲も収められていたが、このアルバムは10曲のオリジナル曲のみで構成されており(ただし日本盤には国内未発売だったEP『Black Smoke Rising』の4曲を追加収録)、この若き4人組のクリエイティヴィティの高さが無言のうちに実証されることになった。
もちろん、すべての反応がポジティヴだったわけではない。米国のメディアにおいては「人為的には作り出すことができない若々しい高揚感」、「時代遅れになりつつあったサウンドへの関心を再燃させる作品」といった好意的な評価ばかりではなく、レッド・ツェッペリンや芸術そのものに対する冒涜といった厳しい声もあがっていた。ただ、逆に言えば、一介の新人バンドでありながらそうした批判が湧いてくるのも仕方ないほど、彼らとこの記念すべきデビュー・アルバムは広く注目を集めていたのだった。
そしてひとつ確かなのは、このアルバムの時点ですでに彼らが新たな領域に向けての飛躍の兆しを見せていたことだ。誤解を恐れずにいえば、2枚のEPはこの若いバンドの本質的部分を生々しくパッケージしたものであると同時に、『Anthem Of The Peaceful Army』という画期的な作品が誕生するうえで必要だった準備段階のような位置付けの音源でもあった。
今になって改めて向き合ってみると、このアルバムに、のちの作品で開花することになる新たな可能性がまるで拡張端子のように散りばめられていたことにも気付かされる。その意味においては、この1stアルバムはグレタ・ヴァン・フリートの正式な起点ということになるはずだが、同時に、4人の若者たちがロック・ミュージックに目覚めてからこの地点に至るまでのすべてが集約された、人生最初の集大成的作品だったともいえる。
そして彼らは、2021年発表の2ndアルバム『The Battle At Garden’s Gate』で、自分たちにとっての宇宙を大きく広げていくことになる。そこから現地点に至るまでの過程については、また機会を改めて述べさせていただくことにする。
Written By 増田 勇一
グレタ・ヴァン・フリート『Anthem Of The Peaceful Army』
2018年10月19日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
最新アルバム
グレタ・ヴァン・フリート『Palace For The People』
2026年10月9日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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