改めて振り返る『ラ・ラ・ランド』、そしてこの“ミュージカル”作品が映画界に与えた影響

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本国で2016年12月に公開され、日本を含めた全世界で大ヒットを記録した映画『ラ・ラ・ランド』。“ミュージカル”映画としてサントラも大ヒットしたこの映画が2022年8月に『ハリウッド版 ラ・ラ・ランド ザ・ステージ』として初来日公演が決定した。

これを記念して、この映画やこの作品から影響を受けた他の映画について、映画や音楽関連だけではなく、小説も発売されるなど幅広く活躍されている長谷川町蔵さんに寄稿いただきました。

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「LA LA LAND Live in Concert : A Celebration of Hollywood ハリウッド版 ラ・ラ・ランド ザ・ステージ」と題されたイベントが8月に開催される。

これまでロサンゼルス以外では一度も行われていないこのフィルム・コンサートは、『ラ・ラ・ランド』のスクリーン上映に、16名のダンサー、60名の大合唱団、88名編成のフルオーケストラとジャズ・バンドの生演奏に、花火などの特殊効果が加わったスペシャルなもの。しかも同作の作曲を担当したジャスティン・ハーウィッツが指揮者として参加するという。ロサンゼルスのハイウェイを、実際に一時封鎖してロケ撮影されたオープニング・シーンで幕を開ける壮大な映画に相応しいイベントではないか。

それにしても公開後たった6年で、このようなイベントが行われるほど、傑作認定されている『ラ・ラ・ランド』をハーウィッツと作り上げた監督兼脚本家のデイミアン・チャゼルとは一体どんな人物なのだろうか?

デイミアン・チャゼルとは?

デイミアン・チャゼルは1985年生まれ。名前の響きがフランスっぽいのは、父親がフランス出身だからだ。彼の作品にジャック・ドゥミやミシェル・ルグランからの影響が見え隠れするのは、こうしたルーツにあるように思える。

幼い頃から映画製作を夢見ていたチャゼルだったが、同じくらいジャズにも夢中になり、高校時代は全米高校ビッグバンド選手権の常連校でドラマーとして活躍していたという。しかし部活の顧問との軋轢で疲弊してしまい、進学先のハーバード大学では映画製作を専攻することにした。

その大学の寮でルームメイトになったのが、前述のハーウィッツだった。脚本家志望だった彼もジャズピアノを学んでいたことから、ふたりは意気投合。学内で結成されたロックバンド、チェスター・フレンチで演奏しながら(後にチェスター・フレンチはふたり抜きでメジャーデビューしたが、チャゼルはアルバム『Love The Future』にドラマーとして参加している)、ミュージカル映画作りの夢を語り合ったという。

それが最初に結実したのが、卒業論文の一部として製作した、監督&脚本チャゼル、音楽:ハーウィッツがによるミュージカル映画『Guy and Madeline on a Park Bench』(2009)だった。

ジャズ・トランペッターを夢見る男と女の恋愛を描いたこの作品は、トライベッカ映画祭に出品され、チャゼルたちがハリウッドで注目されるきっかけをもたらした。現在、サントラは配信で聴くことが出来るが、『ラ・ラ・ランド』以上にミシェル・ルグランに傾倒したフレンチ・テイストなサウンドが印象的だ。

 

ジャズとミュージカル映画への愛

チャゼルとハーウィッツは、同作をアップグレードした本格的なミュージカル映画の製作を望んだが、完全オリジナルのミュージカル映画に出資するプロデューサーはなかなか現れない。やむなくチャゼルは高校時代の部活体験をもとにした映画を監督第二作として発表した。それが『セッション』(2014)である。主演は最近『トップガン マーヴェリック』(2022)で大量の新規ファンを獲得したマイルズ・テラーだった。

テラーの熱演もあいまってスマッシュヒットを記録した『セッション』だったが、そこで描かれたジャズ観を「古い」と批判する声もあったのも事実である。しかしそれは見当違いというものだ。チャゼルは、あくまで「過ぎ去った過去の音楽」としてのジャズを愛しているのだから。

それはミュージカル映画についても同じである。「既に終わってしまった華やかなもの」だからこそ、チャゼルはこのジャンルを偏愛しているのだ。そんなジャズとミュージカル映画への彼の愛をそれぞれ人格化させた存在が、『ラ・ラ・ランド』の主人公セブとミアなのである。

こうした経緯を踏まえて『ラ・ラ・ランド』を観ると、ミアがクライマックスで歌う「オーディション」の「Here’s to the Ones Who Dream Foolish As They may Seem(どうか乾杯を、愚かな夢を見る者たちに)」という歌詞が、時代錯誤なヴィジョンに賭けたチャゼルが自分を鼓舞するために作ったかのように思えてくる。しかしこうした無謀な挑戦にチャゼルとハーウィッツは勝利を収めた。『ラ・ラ・ランド』は世界中で大ヒットを記録して、ミュージカル映画というジャンルをリフレッシュさせたのだから。

 

『ラ・ラ・ランド』で生まれた新しい流れ

こうした新しい流れに乗った代表的なクリエイターが、『ラ・ラ・ランド』で作詞を担当したベンジ・パセック&ジャスティン・ポールである。もともと作曲もこなすチームだった彼らは、『ラ・ラ・ランド』の翌年に早くも自身のオリジナル・ミュージカルを発表する。それがヒュー・ジャックマン主演の『グレイテスト・ショーマン』(2017)である。19世紀に活躍した伝説的な見せ物小屋興行師、P・T・バーナムをピュアな夢想家として描くという離れ業をやってのけた同作からは「This Is Me」というクラシック・チューンが誕生した。

同作の大ヒットによって、ふたりのブロードウェイにおける出世作『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021、舞台初演は2015)も、舞台版でも主役だったベン・プラットを主演に迎えて映画化された。同作が描くのは、SNSの流行によってペルソナを被らざるをえなくなり、孤独を募らせていく現代のティーンの葛藤だ。

劇中では、こうしたテーマに即したエモーショナルなパワーポップ・チューンが次々と歌われる。エヴァンが高校への登校中に「いつまで窓の中から景色を見ていなければいけないんだ」と歌う冒頭曲「Waving Through A Window」から、「たとえ闇が押し寄せてきても誰かが見つけてくれる、抱えてくれる友人が必要なら誰かが見つけてくれる」と訴える「You Will Be Found」まで、現役ティーンなら(退役ティーンも)感涙必至だろう。

 

リン=マニュエル・ミランダ

『ディア・エヴァン・ハンセン』でメガホンを取ったのは、『ウォールフラワー』(2012)の原作者兼監督で知られるスティーヴン・チョボスキーだったが、映画版『レント』(2005)の脚本家でもあったことも監督に選ばれた理由だったはずだ。『レント』の作者であるジョナサン・ラーソンこそは、同時代のポップミュージックをミュージカルに持ち込んだ革新者だったからだ。

ラーソンは35歳の若さで亡くなったが、彼がやろうとした事を現在のブロードウェイで受け継いでいる存在が、アメリカ建国の立役者をラップで描いた『ハミルトン』で知られるリン=マニュエル・ミランダである。

才能の塊のようなミランダだが、ミュージカル映画への進出は実に慎重だった。まずはディズニーアニメ『モアナと伝説の海』(2016)で挿入歌だけを担当(同作で好評を得た彼は『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)でも楽曲を手がけてオスカーを獲得した)。続く『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)では音楽は手掛けず(楽曲を手がけたのはマーク・シャイマン)、俳優として、前作におけるディック・ヴァン・ダイク扮するバートのような立ち位置のジャックに扮し、歌い踊ってみせた。

そしてブロードウェイ公演時は自ら脚本、楽曲、主演の三役を務めた『イン・ザ・ハイツ』(2021)がついに映画化されたのだが、その際もミランダは、監督をジョン・M・チョウ、主演をアンソニー・ラモスに任せて、自身はプロデューサー(とチョイ役)に専念した。なぜ自分でやろうとしなかったのだろうか。そう、ミランダは膨大な人数のスタッフが関わる映画の撮影現場における様々な役割を、ひとつひとつ学んでいたのだ。

こうした学習の成果が現れたのが、前述のジョナサン・ラーソンが作った半自伝ミュージカルを映画化したミランダにとっての監督デビュー作『チック、チック…ブーン!』だった。スピーディーなカット割や、ミュージカル未経験だった主演のアンドリュー・ガーフィールドから、あれだけのパフォーマンスを引き出した演出力は賞賛に値する。

その『チック、チック…ブーン!』にもラーソンのメンターとして登場する『スウィーニー・トッド』(2007)や『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014)で知られる作曲家スティーヴン・ソンドハイムが、2021年11月に亡くなった。ノア・バームバック監督作『マリッジ・ストーリー』(2019)で代表作『カンパニー』の挿入歌が重要な役割を果たし、出世作のリバイバル映画化作『ウェストサイド・ストーリー』(2021)の撮影を見届けての逝去だったため、大往生といえるのだが、ひとつの時代が終わった寂しさも感じる。

それでもショータイムは終わらない。現在ぼくが最も楽しみにしているミュージカル映画は、そのソンドハイムが1981年に手がけたブロードウェイ・ミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』の映画化作品だ。オリジナルの舞台は、三人の旧友たちが曲を歌うごとに時を遡っていき、最後にティーンになるという前衛的なものだったが、監督のリチャード・リンクレイターはこれを『6才のボクが、大人になるまで。』方式で本当に20年間かけて撮影中なのだ(つまり初めの方に撮ったシーンほど後半のエピソードになる)。主演は前述のベン・プラットとビーニー・フェルドスタイン。公開は多分2040年頃である。

Written By 長谷川町蔵


「ハリウッド版 ラ・ラ・ランド ザ・ステージ 初来日公演」

公演日程:2022年8月18日(木) ~ 2022年8月21日(日)
会場:東京国際フォーラム ホールA
チケット発売中
公式サイト

<英語上映(日本語字幕有り)> ※本公演には、映画『LA LA LAND』のキャストは出演いたしません。 ※本公演は、ステージ上のスクリーンで映画本編を日本語字幕付きで上映、オーケストラのライブ演奏、ダンサー、合唱団、舞台用低温花火等の特殊効果の演出が加わる上演形態となります

大ヒットミュージカル映画 『LA LA LAND』公開時に米LAで、たった一度だけ開催されたスペシャルな夢のイベントが日本に上陸! 既存のフィルム・コンサートにはない、スケールアップした規格外の究極のステージ・エンターテイメントです。



『ラ・ラ・ランド(オリジナル・サウンドトラック)』
2016年12月9日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

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