イマジン・ドラゴンズは瀕死の米ロックを救えるのか?ここ数年で孤軍奮闘するロックバンドへの期待

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Photo by Neil Krug

2021年3月12日、2018年以来となる新曲「Follow You」と「Cutthroat」を2曲同時に公開したイマジン・ドラゴンズ(Imagine Dragons)。この2曲の新曲や、ここ数年の全米年間アルバムチャートで孤軍奮闘していた記録、そして現在制作中の5枚目のアルバムへの期待について、『rockin’ on』5代目編集長、現在は音楽ライター/ジャーナリストとして活躍されている粉川しのさんに寄稿いただきました。

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3年ぶりの新曲

イマジン・ドラゴンズの新曲「Follow You」が色々な意味で話題だ。3月にリリースされた同シングルはもう1曲の新曲「Cutthroat」と合わせてニュー・アルバムからの先行シングルであることが既にアナウンスされている。彼らのニュー・アルバムは前作『Origins』から3年ぶりの5作目で、2曲の新曲ではリック・ルービンとジョー・リトルという両極端な個性を持つプロデューサーが揃って起用されている点でも、イマジン・ドラゴンズにとって大転機の一作となりそうだ。

ちなみに「Follow You」が話題なのは、ファン待望のニュー・アルバムからの先行シングルだという理由だけではない。既にご覧になっている方も多いと思うが、とにかくミュージック・ビデオが傑作なのだ。夫の誕生日プレゼントとして彼の大好きなザ・キラーズのライブを会場貸切でプレゼントしようとする妻。しかし、期待に胸躍らせソワソワとキラーズの登場を待つ夫の前に現れたのは妻が大好きなバンド、イマジン・ドラゴンズだった!しかもステージ上ではダン・レイノルズ(Vo)がおもむろに半裸になり、妻を誘惑し始め……という自虐風味でユーモラスなプロットに加え、ギラギラした照明といい、ピンクやブルーのネオンカラーが交錯する80S風のステージセットといい、『Hot Fuss』期のキラーズのパロディを真剣にお金をかけてやりきっているのも最高だ。

イマジン・ドラゴンズとキラーズにはラスベガス出身という共通点がある。彼らは同郷の先輩であるキラーズへのリスペクトをしばしば語っており、同じステージに立ったこともある。だからこそ愛のあるパロディに仕上がっているわけだが、「Follow You」はこのMVのようにポップでユーモラスで笑える曲であり、同時に誠実でシリアスで切実なメッセージ性を持ったナンバーである点も注目すべきだろう。何しろ同ナンバーは離婚届にサインしようとした寸前に妻からメッセージを受け取って改めて恋に落ち、結婚生活をやり直して子供まで授かったというダンの実体験をベースに書かれたナンバーなのだ。

MVの中では半裸でおどけているダンが「君がどこに行こうが君についていくよ」と(ちょっと重いくらいの)愛の誓いを歌う、そのギャップこそが「Follow You」の核心であり、これまでも如何なる逆境や苦しみも最高のポップソングに昇華してきたイマジン・ドラゴンズのプライドが改めて強く感じられる。例えば彼らが米人気TV番組のために収録した同曲のスタジオ・ライブ映像見れば、「Follow You」の誠実でシリアスで切実なメッセージ性をダイレクトに感じられるはずだ。

そう、色々な意味で話題の「Follow You」は、色々な意味でイマジン・ドラゴンズの真骨頂と呼ぶべき快作でもある。そこには2020年代最初のオリジナル・アルバムとなる新作に賭ける彼らの意気込みがひしひしと感じられるし、来たるニュー・アルバムがイマジン・ドラゴンズにとってだけではなく、USロックの未来を占う極めて重要なアルバムになることを、彼ら自身も自覚しているのではないだろうか。

 

瀕死状態のUSロックの現状とイマドラの孤軍奮闘

2010年代以降、常態的に不振が続いてきたUSロックは、昨年のパンデミックによって停止したライブ産業の影響もあって壊滅的な打撃を受けた。そういう意味でも2021年は瀬戸際に追い詰められたUSロックにとって起死回生を賭した1年だ。その先頭に立つべきは2010年代のUSロック・シーンで稀有な成功を収めたバンド、イマジン・ドラゴンズであるのは言うまでもない。

USロックが瀬戸際に追い詰められているのは、データの上でも明らかだ。例えばビルボードの年間アルバム・チャートの直近3年分を振り返ってみよう。2018年の年間1位はテイラー・スウィフトの『Reputation』で、ロック・アルバムでの最高位はイマジン・ドラゴンズの『Evolve』の11位だった。

2018年には計11枚のロック・アルバムが年間アルバム・チャートのTOP100にエントリーしているが、そのうちの5作品はいわゆるクラシック・ロック・アルバムで、最新ロック・アルバムはイマジン・ドラゴンズ(『Evolve』『Imagine Dragons』)、パニック!アット・ザ・ディスコ(『Pray For The Wicked』)、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー(『Youngblood』)、トゥエンティ・ワン・パイロッツ(『Blurryface』)他7作品にすぎない。

2018年全米年間アルバムチャートTOP100ランクインロックアルバム
(緑はクラシックロック=過去の名盤

11. Imagine Dragons – Evolve
57. Panic! At The Disco – Pray For The Wicked
71. Imagine Dragons – Night Visions
72. 5 Seconds Of Summer – Youngblood
74. Tom Petty And The Heartbreakers – Greatest Hits
77. twenty one pilots – Blurryface
81. Five Finger Death Punch – A Decade Of Destruction
90. Journey – Journey’s Greatest Hits
91. Fleetwood Mac – Rumours
93. Creedence Clearwater Revival Featuring John Fogerty – Chronicle The 20 Greatest Hits
95. Dave Matthews Band – Come Tomorrow
96. Queen – Greatest Hits

ビリー・アイリッシュの『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』が年間1位を制した2019年はさらに最新ロックの肩身は狭くなり、TOP100にはパニック!アット・ザ・ディスコ(『Pray For The Wicked』)、イマジン・ドラゴンズ(『Origins』『Evolve』)、トゥエンティ・ワン・パイロッツ(『Trench』)、マムフォード・アンド・サンズ(『Delta』)とわずか5作品しかエントリーしなかった。それでも2018年に続き2枚のアルバムを送り込んでいるイマジン・ドラゴンズが如何に破格か、ご理解いただけるかと思う。

ちなみに2019年は映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットによって世界的にクイーンがリバイバル・ヒットした年で、クイーンのベスト盤他3作品がエントリーしたことにより、一層クラシック・ロック(8作品エントリー)の強さが際立つ年でもあった。

2019年全米年間アルバムチャートTOP100ランクインロックアルバム
(緑はクラシックロック=過去の名盤。*『ボヘミアン~』のサントラは新曲がないのでクラシック・ロック扱い

12. Queen – Bohemian Rhapsody (Soundtrack)
27. Queen – Greatest Hits
39. Panic! At The Disco – Pray For The Wicked
44. Imagine Dragons – Origins
50. Imagine Dragons – Evolve
57. The Beatles – Abbey Road
65. Creedence Clearwater Revival Featuring John Fogerty – Chronicle The 20 Greatest Hits
70. Journey – Journey’s Greatest Hits
73. twenty one pilots – Trench
80. Queen – Greatest Hits I II & III: The Platinum Collection
90. Fleetwood Mac – Rumours
97. The Beatles – 1
100. Mumford & Sons – Delta

そして2020年、新型コロナ・ウィルスの感染拡大によってUSロックはほとんど息の根を止められたかのような状況に陥った。ポスト・マローンの『Hollywood Bleeding』が年間1位に立ったこの年、年間TOP100入りした最新ロック・アルバムはなんと「ゼロ」。

ちなみにクラシック・ロックは2019年同様に堅調なセールス(8作品エントリー)を維持しており、最新ロックだけが一人負けの状態だった。なお、2020年のビルボード・チャートで1位を獲ったロック・アルバムはマシン・ガン・ケリーの『Tickets to My Downfall』とAC/DCの『Power Up』のわずか2作品のみで、同作ですら年間TOP100には入れなかったのだ。

アメリカのポップ・ミュージックはもうずっとヒップホップ一強の時代が続いている。次いでポップ、カントリー、R&Bというセールス順で、ロックは最新+クラシックの合算でなんとか体裁を保っている状態であり、最新ロック・アルバムだけにフォーカスするとかくも悲惨な数字が浮き彫りになってしまったのが2020年だった。

2020年全米年間アルバムチャートTOP100ランクインロックアルバム
(緑はクラシックロック=過去の名盤

25. Queen – Greatest Hits
53. Fleetwood Mac – Rumours
63. Creedence Clearwater Revival Featuring John Fogerty – Chronicle The 20 Greatest Hits
66. The Beatles – Abbey Road
71. Journey – Journey’s Greatest Hits
76. The Beatles – 1
81. Tom Petty And The Heartbreakers – Greatest Hits
89. AC/DC – Back In Black

なぜ2020年のUS最新ロックはかくも壊滅的な状況に陥ったのか。それは身も蓋もなく言えば、イマジン・ドラゴンズ、パニック!アット・ザ・ディスコ、トゥエンティ・ワン・パイロッツのリリースがなかったからだ。直近3年間のチャートを見渡しても明らかなように、USロックのセールス的成果はこの3組の肩に掛かっていると言っても過言ではない。

 

イマジン・ドラゴンズの強さの秘訣

中でもイマジン・ドラゴンズはロック・バンドとしてここ数年でUS年間チャート最高位、及び最多チャート・インを果たしているバンドだ。それにしても、彼らのほぼ孤軍奮闘に近いこのポジションは、いかにして築かれたものなのだろうか。

「ジャンルやスタイルの壁がなくなりつつある今の時代は、自分達にとってはむしろ都合がいいんだ。特定のジャンルやスタイルを売り物にしてるバンドにとっては受難だろうけど」。イマジン・ドラゴンズが2018年に単独初来日を果たした際のインタビューで、ダン・レイノルズはそう言って笑った。彼のこの認識こそが、ロック不毛地帯と化した2010年代後半のUSシーンで孤軍奮闘を続けたイマジン・ドラゴンズの強さの秘訣だろう。

ロックがロックであることで勝てないのであれば、ロックの中に勝てるジャンルをどんどん取り込んで、勝てるロックを新たに作り上げていくしかない。イマジン・ドラゴンズは、それを極めて自覚的に突き詰めてきたバンドだ。

前述のように彼らはラスベガス出身であり、下積み時代には自分たちに全く興味のないカジノ客相手のライブを連日行っていたという。そんな彼らのバックグラウンドが、万人に届く音楽=ポップ・ミュージックに対する徹底してシビアなマインドを鍛え上げた。ジャンルを大胆に横断していく彼らのハイブリッド・ロックの原点が、そこにはある。

実際、イマジン・ドラゴンズのサウンドは常にごった煮を極めている。ヒップホップもあればフォークもあり、センシュアルなEDMと端正なピアノ・バラッドが同居している。思いっきりギターをブーストするラウド・ロックはもちろんのこと、彼らのライブではそこにアフロ・ポップやラテン・ポップまで器用に折り重ねていく力技を目の当たりにすることができる。

例えば現時点で最も売れたイマジン・ドラゴンズのアルバムである『Evolve』(2017)はビルボード・チャートが発表する「トップ・ロック・アーティスツ」では1位に輝いた一方で、同年のグラミー賞では「最優秀ポップ・グループ・パフォーマンス」と「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム」の2部門にノミネートされた。そう、彼らはロック・バンドであり、当たり前のようにポップ・グループであるのだ。現代の優れたモダン・ロックは、優れたモダン・ポップ・ミュージックでもなければならない。イマジン・ドラゴンズやパニック!アット・ザ・ディスコらの希少な成功は、その証左だと言えるだろう。

 

2021年に通じる「モダン・ロック勝利の法則」ともう一つの新曲

そして今、イマジン・ドラゴンズは「Follow You」によって過去の自分たちが証明してきた「モダン・ロック勝利の法則」を改めて展開してみせた。でも、2021年の彼らはそれだけではないということを、もう一曲の新曲「Cutthroat」が示している。

ギシギシと岩が擦り合わされるようなギターといい、インダストリアルなビートといい、ダンの鞭のようにしなるシャウトといい、イマジン・ドラゴンズ史上最もダークでハードなこの曲には、彼ら必勝のハイブリッド・ロックをむしろリセットするかのような力が働いている。「Cutthroat」のプロデューサーはレッド・ホット・チリ・ペッパーズやリンキン・パークを手がけたリック・ルービンであり、彼らとルービンのタッグはかつて考えられなかったものだ。

ちなみに「Follow You」のプロデュースを手がけたジョー・リトルはテイラー・スウィフトやロードとの仕事で知られるポップ系のプロデューサーで、イマジン・ドラゴンズとも既に『Evolve』の時点でタッグを組んでいる。「Follow You」と「Cutthroat」の振れ幅、ルービンとリトルの対極性は、そのまま来たるニュー・アルバムの要注目ポイントになってくるはずだ。

「『Evolve』は言うなれば、“僕はどこに行くのだろう?”という問いかけのアルバムだった。対して『Origins』は、“ここが君のたどり着く場所だ”という答えのアルバムだ」とかつてダンは語った。前作『Origins』はバンド結成10年の節目にリリースされたこともあり、自ずと彼らの歩みを集大成する作品になったということだろう。

だとしたら、年内リリース予定のニュー・アルバムはイマジン・ドラゴンズにとって新たな一歩、新章の幕開けとなる作品なのではないだろうか。そしてイマジン・ドラゴンズの新章が、USロックの新たな活路を示すものであることを期待せずにはいられないのだ。

Written by 粉川しの



イマジン・ドラゴンズ『Mercury: Act I』
2021年9月3日発売
CD&LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




 

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