トニー・アン来日直前インタビュー:ピアノが紡ぐ「言葉」と「星座」、そして未来への祈り

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世界がトニー・アンの存在を知ったのは、SNSに投稿された小さな奇跡のような瞬間からだった。ピアノの鍵盤に数字やアルファベットを割り当て、円周率や誕生日、名前や単語を即興で奏でる「#playthatwordシリーズ」。その映像は、まるで音と言葉がひとつの生命体となって踊り出すかのような驚きを放ち、瞬く間に世界中へ広がっていった。Z世代を中心に「自分の物語を音で表現する」という新しい共感の形を呼び起こし、彼の名はインターネットの枠を越えて広く知られることとなった。

カナダ・トロント出身のトニー・アンは幼少期からクラシックを学び、その厳密な技法を土台にしながらも、ポップの親しみやすさ、ジャズの即興性、さらにはエレクトロニカの色彩感覚までも柔軟に取り込み、自らの「声」としてピアノを磨き上げてきた。彼の演奏には、確かな基盤と自由な発想が共存し、聴く者の心に直接触れるような温度がある。
2025年10月、そんな彼が再び日本のステージに帰ってくる。しかも今回は、来日を記念した日本独自企画盤『トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025』を携えて――。

本アルバムでは、彼の音楽の軌跡と現在地を描き出すライナーノーツを筆者が担当し、聴き手がより深く作品世界に分け入るための道標となっている。SNSから世界へ羽ばたいた彼が、今あらためて日本のリスナーとどう響き合うのか。その瞬間が待ち望まれている。
来日公演に先立ってここでは、アルバム『360°』(2025)と『EMOTIONS (DELUXE)』(2023)をコンパイルした『トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025』、そして彼自身の音楽観や日本のファンへの思いについて、じっくりと語ってもらった。落合真理さんによるインタビュー。


――昨年に続き、今年は『トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025』のリリースとともに再来日となります。日本のファンと再び会える気持ちはいかがですか。
トニー・アン:日本という国そのものに強く惹かれています。文化も、言葉も、食べ物も、そして音楽も。特にシティポップはとてもクールだと思うんです。オンラインでも日本のファンからの応援をいつも感じていますし、ステージで直接再会できることは本当に胸が熱くなります。

昨年の公演で受けた印象はとても特別で、今回も心から楽しみにしています。それに、日本独自企画盤として『360°』と『EMOTIONS (DELUXE)』を組み合わせた作品を届けられるのは、とても感慨深いことです。

――日本の観客にはどんな印象を持っていますか。
トニー:とても集中して聴いてくれて、温かく、情熱的でした。ステージに立った瞬間から、観客の皆さんの尊敬と歓迎を感じて、すでに演奏が完成しているかのような感覚になったんです。あの安心感とリラックスできる雰囲気は忘れられません。

 

――『360°』と『EMOTIONS (DELUXE)』について、あらためてコンセプトを教えてください。
トニー:『360°』は12の星座をテーマにした作品です。子どもの頃から星占いに興味があって、新聞の占い欄を毎日読んでいました。各星座の個性や特徴を調べ、それを音楽で描こうと挑戦したのです。一つひとつの星座がユニークであるように、曲もすべて異なる表情を持っています。

一方で『EMOTIONS』のEP3部作は「色と感情」の関係をテーマにしています。ブルーは悲しみや憂鬱、レッドは怒りやプレッシャー、オレンジは情熱や輝きを連想させる。それぞれの色を音楽に翻訳するように作曲しました。日本独自企画盤は、その二つの世界を一つにまとめた特別な作品です。

 

――弦楽デュオのARKAIとのコラボレーション(※「ICARUS」で共演)はいかがでしたか。
トニー:彼らはニューヨークを拠点に活動するヴァイオリ二スト、ジョナサン・マイロンとチェリストのフィリップ・シーゴグのデュオで、僕と同じようにクラシックから出発して自分の音楽を模索している仲間です。共演することで編曲やオーケストレーションの学びがあり、ソロでは得られない発想をたくさんもらいました。

舞台で一緒に演奏すると、それはまるで会話のようで、三人で感情を共有しながら音を作り上げていく感覚がとても刺激的なんです。彼らと一緒に日本に来られるのも本当に楽しみです。

 

――SNSで話題を呼んだ「#playthatwordシリーズ」について伺います。このシリーズは「感情を音に翻訳する試み」といえますね。シリーズを始めたきっかけは?
トニー:実は父のアイデアなんです。3月14日の「円周率の日(Pi Day)」という記念日があって、父が「それを音楽で表現したら?」と言ってくれたのが最初でした。僕は鍵盤に数字を割り当てて、3.1415…を演奏してみたんです。そこから誕生日やアルファベットにも広げていきました。

例えば「LOST」という言葉なら、霧の森で迷子になったような暗い雰囲気を描いたり、「TIME」では催眠的で循環する感覚を表現したり。言葉や数字を音に変換することで、僕自身も想像力をかき立てられましたし、何よりリスナーと直接つながれるのが魅力でした。

 

――SNSでリスナーと直接つながることは、作曲家としてどんな意味がありますか。
トニー:とても大きいです。ただし大切なのは、SNSに振り回されないこと。僕の信条は「誰かの真似をしない」ことです。だからポップのシンプルさとクラシックの奥行きを融合させて、自分だけの音を作ることを目指しています。SNSのコメントを読むと、リスナーがどんな響きに心を動かされるのか分かります。

多くの人は「上昇感のある和声」や「シンプルで美しい旋律」に惹かれるんです。それは僕にとって大きな学びでした。

 

――なぜピアノ一台で表現し続けていることに、こだわりを持っているのでしょうか。
トニー:僕のキャリアはまだ始まったばかりで、今はピアノが一番自分を表現できる手段だからです。これは僕の「声」であり、観客と最も強くつながれる楽器です。ただし、これが永遠に続くわけではありません。将来は歌ったり、オーケストラや他のミュージシャン、DJと共演することも考えています。今は「始まりの段階」だからこそ、ピアノで自分をまっすぐ伝えていきたいんです。

 

――最後に、日本のリスナーへメッセージをお願いします。
トニー:日本の文化には以前から憧れを抱いていました。東京に戻れること、そして初めて大阪に行けることを心から楽しみにしています。昨年の日本公演で受けた温かい歓迎と深いリスペクトは忘れられません。再びその空気の中で演奏できることが待ちきれないし、新しい観客に出会えるのも楽しみです。そして特別な『トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025』を、ぜひ手に取っていただきたいです。

 

未来を照らすピアノの音
数字や言葉を音に変える独創的な発想。星座や色をテーマに広がる深い世界観。そして、ピアノを通じて心を結びつけようとする純粋な情熱。トニー・アンの音楽は、シンプルでありながら限りない広がりを秘めている。

「ステージで音楽を分かち合う時、そこにいる全員がひとつになれるんです」と彼は語る。その言葉の通り、彼の演奏には国境も世代も越えて人と人を結びつける力がある。

トニー・アンの歩みは、まだ始まったばかり。だからこそ、この日本のステージで響く音は、新たな物語の幕開けになるだろう。その瞬間を、どうか心の奥深くに刻んでほしい。

Interviewed & Written By  落合真理


■リリース情報

トニー・アン / トニー・アン – ジャパン・スペシャル・エディション 2025【来日記念盤】
2025年9月24日 発売
CD

トニー・アン / 360°
2025年2月21日 発売
Apple Music / SpotifyAmazon Music /  iTunes 

トニー・アン / EMOTIONS
2024年5月28日 発売
Apple Music / SpotifyAmazon Music /  iTunes 


■来日情報

TONY ANN JAPAN TOUR 2025
▼大阪公演
日程:2025年10⽉14⽇(⽕)
会場:大阪BIGCAT
OPEN 18:00 / START 19:00

▼東京公演
日程:2025年10⽉15⽇(⽔)
会場:東京 EX THEATER ROPPONGI
OPEN 18:00 / START 19:00

詳細はこちら



 

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