クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団の日本ツアーがスタート。初日の公演レポートが到着

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撮影:堀田力丸

フィンランド放送響、ヘルシンキ・フィル、ライプツィヒ放送響など、一流オーケストラと共演し、「数十年に一度の天才指揮者の登場」とも評され、注目を集める若手指揮者、クラウス・マケラ。

2027年からロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 同楽団の首席指揮者への就任することが発表されており、世界中のクラシック音楽ファンから賞賛の声があがっている。そんなクラウス・マケラがパリ管弦楽団とともに来日。10月15日の東京・東京芸術劇場 コンサートホールを皮切りに日本ツアーがスタートしている。

DECCAがリッカルド・シャイー以来40年ぶりにとサイニングした指揮者、クラウス・マケラはどんな演奏を聴かせてくれるのか、音楽評論家・青澤隆明による公演レポートをご紹介。


撮影:堀田力丸

クラウス・マケラとパリ管弦楽団の日本ツアーが始まった。早速、東京芸術劇場での初日を聴いてきた。ドビュッシーの《海》、ラヴェルの《ボレロ》、そしてストラヴィンスキーの《春の祭典》。20世紀のパリを沸騰させた稀代の名曲を、彼らはどう現在に映し出すのか。

クラウス・マケラは魔法をかける。オーケストラが嬉々としてクリアに鳴り響く。音の鳴りが尋常ではない。あらゆる音がひらかれている。輝かしく精彩を放ち、すみずみまで細胞が目覚めるように、生き生きと湧き立ってくる。酵素が効いたみたいに。

誇り高きパリ管の自由な面々が、マケラとの音楽づくりを生き生きと楽しみ、一心に音を出している。なんとも心地よさそうだ。マケラが抽き出す息づかいが、終始伸びやかで自然だからだろう。しなやかに明敏な指揮で、細かな工夫も克明に凝らすが、決して全体の呼吸を傷つけることなく、全曲を通じての大きな流れをエレガントに保っていく。

だから、オーケストラの最上の音が優美に出てくる。適切な緊張を湛え、しかし余計な負荷はないから、あらゆる響きが汚れたり濁ったりせず、流麗に息づく。自分たちが美しい時間を創り出している、という誇りがオーケストラの面々に自ずと充ち満ちている。

高精度のレンズで率直に作品をみるように、マケラは明瞭な像を鋭敏に描き出す。明けていく《海》から光彩と歓喜に溢れ、明快な響きが満ちてくる。

撮影:堀田力丸

とくに《ボレロ》が精妙で、胸のすく快演だった。管の名手のソロも優美でそれぞれに巧いだけでなく、素晴らしい節度をもって全体に奉仕するのが絶妙だ。弦の響きも輝かしく満ちて、ピチカートでリズムを刻むときも音を出す喜びに弾けている。《春の祭典》は鮮烈な生命を敏捷に躍動させ、光の舞踊と化す。しかし、それはまだ若く眩い焔なのである。

いま26歳のスターは、名門の新たな希望だ。初共演が2019年で、音楽監督として2年目のシーズンをこの9月で幕開けしたばかり。今回の日本公演は言ってみれば、待ち焦がれたハネムーンのようなものだろう。

つき合いはじめの季節だからこそのわくわくやドキドキ、新鮮な期待や予感がまざまざと伝わってきた。相思相愛の関係はいつだって熱く旬なのかもしれないが、特別ないまは、やはりいましかない。いま生で体験するほかない。

日本を旅してコンサートを重ねるさなかにも、彼らの蜜月はみるみる幸福度を高めていくだろう。そして、クラウス・マケラが魔法をかけるのは奏者だけではなく、その場に立ち会う聴き手のまっさらな心すべてなのである。

撮影:堀田力丸

Written By 青澤隆明(音楽評論家)

■来日公演情報

セキスイハイム presents クラウス・マケラ指揮 パリ管弦楽団 日本ツアー
10月15日(土) 【東京】東京芸術劇場コンサートホール(プログラムA)
10月17日(月) 【東京】サントリーホール(プログラムA)
10月18日(火) 【東京】サントリーホール(プログラムB)
10月20日(木) 【名古屋】愛知県芸術劇場 コンサートホール(プログラムB)
10月21日(金) 【岡山】岡山シンフォニーホール(プログラムB)
10月23日(日) 【大阪】フェスティバルホール(プログラムA)

(プログラムA)
ドビュッシー:交響詩《海》
ラヴェル:ボレロ
ストラヴィンスキー:春の祭典

(プログラムB)
ドビュッシー:交響詩《海》
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 (ピアノ:アリス=紗良・オット)
ストラヴィンスキー:火の鳥(全曲)

公演の詳細はこちら


■リリース情報


クラウス・マケラ『シベリウス:交響曲第2番&第5番』
2022年10月5日発売
CD / Apple Music / Spotify /Amazon Music / YouTube Music


■アーティスト情報

©Marco Borggreve

クラウス・マケラ

1996年フィンランド生まれ。12歳からシベリウス・アカデミーにてチェロと指揮を学ぶ。若くしてスウェーデン放送交響楽団の首席客指揮者に就任したほか、これまでにフィンランド放送響、ヘルシンキ・フィル、ライプツィヒ放送響など、一流オーケストラと共演し、「数十年に一度の天才指揮者の登場」とも評される大成功を収める。

2020年、24歳の若さでノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任、北欧を代表するオーケストラが24歳の指揮者をシェフに選んだことはクラシック界で大きな話題を集めたが、そのポストに加え、翌2021年のシーズンからは、数多くの名指揮者の薫陶を受けた名門パリ管弦楽団の音楽監督にも就任。さらに、2027年のシーズンからオランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者への就任が発表されている。指揮者としてはほぼ前例がない若干20代前半での一流オーケストラからの高評価と重要ポストのオファーに世界中の音楽ファンから驚嘆と賞賛の声があがっている。


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