90歳を迎えた映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズの半生を振り返る

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Photo by Paul Morigi/Getty Images for Capital Concerts

ジョン・ウィリアムズは、映画『スター・ウォーズ』、『ジュラシック・パーク』、『ホーム・アローン』などの最も象徴的なテーマ曲を書いた作曲家である。

ジョン・ウィリアムズは、単なるサウンドトラックの作曲家ではなく、誰もが認める映画音楽の巨匠だ。また、ポスト・ロマン主義のスタイルを持つクラシックの現代音楽の作曲家であり、偉大な指揮者、ピアニストでもあり、ジャズ好きで、かつてはマヘリア・ジャクソンのためにピアノを弾いていたこともある。まさに、“音楽博士”だ。90歳になった今もなお、その世界で圧倒的な力を発揮し続けている。スティーヴン・スピルバーグとの長年にわたる関係と同様に、ジョージ・ルーカスとの仕事も皆が知るところだが、近年は、ブームとなった『ハリー・ポッター』の映画などでも人気だ。これまでに米国のアカデミー賞を5回、ゴールデン・グローブ賞を4回、英国アカデミー賞7回に、グラミー賞では25回の受賞を果たしている。

華やかさからは少し離れて、彼の録音のキャリアを振り返ってみると、それは1950年代まで遡り、協奏曲や交響作品、室内楽にゴスペル・ミュージックなど、多岐にわたっている。実に膨大なディスコグラフィから無作為に選んだだけでも、1988年に放送されたレナード・バーンスタインへのトリビュート作品 「For New York」では、ボストン交響楽団を指揮しているし、1999年の 「American Journey」も、当時の大統領であったビル・クリントンからの依頼で、ミレニアムを祝うアメリカ合衆国公式行事のために作曲した偉業のひとつである。

ジョン・ウィリアムズは、アメリカのアイコン的な存在であり、国際オリンピック委員会から表彰され、『スター・ウォーズ』、『未知との遭遇』、『スーパーマン』、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』、『E.T.』、『アンジェラの灰』、『ミュンヘン』、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、そして『やさしい本泥棒』のスコアでグラミー賞のベスト・インストゥルメンタル・コンポジション賞を受賞した。

これはほんの一部で、例えば『アイガー・サンクション』など、より深遠な分野をとりあげたサウンドトラックがお気に入りの人もいるだろうが、彼の『ジョーズ』や『未知との遭遇』、『スター・ウォーズ』、『E.T.』 に『インディ・ジョーンズ』の“テーマ曲”が、映画のアクション(筋の展開)の重要な導線となっているのは確かだ。その音楽は、首筋の毛を逆立て、次の何時間かに起こる何かを予感させてくれる。それは単なる稀有な才能などではなく、天才の証である。

1932年にアメリカのニューヨーク州のフローラル・パーク(ロング・アイランドのナッソー郡に位置する)で生まれたジョン・タウナー・ウィリアムズは、ジャズ・パーカッショニストの父親のもと、音楽にあふれた環境で育った。16歳で家族とともにロサンゼルスに移住し、多くの映画関係者やミュージシャン、トップのスポーツ選手の子供たちが集まるノース・ハリウッド・ハイスクールに通った。カリフォルニア大学を卒業し、徴兵されてアメリカ空軍に入隊すると、任務の一部として指揮や編曲を担当し、その後、ニューヨークのジュリアード音楽院に入学した。学業の合間には、街のクラブやスタジオでジャズ・ピアノを演奏し、ヘンリー・マンシーニと友情を築いた。

マンシーニの爽快で軽やかなタッチにはある程度の影響を受けたが、ウィリアムズは、いわゆる新ロマン主義に深く傾倒していった。リヒャルト・ワーグナーやチャイコフスキーなど、19世紀の作曲家たちの大作を連想させるような作風だ。他にも、フランツ・ワックスマン、バーナード・ハーマン(アルフレッド・ヒッチコック監督の音楽のマエストロ)、アルフレッド・ニューマンといった作曲家たちにも影響を受けており、実験主義や映画的なムード・チェンジなどの要素をすぐにレパートリーに採り入れた。さらに、ジェリー・ゴールドスミスやエルマー・バーンスタイン(マンシーニも含む)との仕事にもミュージシャンとして参加し、『ピーター・ガン』、『酒とバラの日々』や『シャレード』の映画音楽でも、ウィリアムズ流の演奏を聴くことができる。

©Stephan Rabold

テレビの仕事が、映画でのキャリアを志していた彼を後押しし、その明らかな多才ぶりとともに、彼のスケジュールは、多くのハリウッドの作曲家たちの羨望の的となっていった。このようなソロ活動を行う一方、彼の時間は、大小のスクリーンの煌びやかな世界を行き来するのに費やされた。『哀愁の花びら』や『チップス先生さようなら』で経験を積んだウィリアムズは、『ジェーン・エア』の豪華なサウンドトラックの仕事で1970年代の幕を開けた。『シンデレラ・リバティー/かぎりなき愛』(1973年)や『アイガー・サンクション』は、ジェームズ・カーンとクリント・イーストウッドがそれぞれ主演した通好みの作品だが、今こそ触れてほしい、心からお薦めする作品だ。

そして、おそらく史上最もよく知られているかもしれないテーマ音楽、『ジョーズ』である。サメのテーマは、『サイコ』のシャワーのシーンを賢く再解釈したもので、古典的なサスペンスと迫りくる危険の究極の表現として、映画の公開当時、観客は恐怖に愕然とし、多くの人が映画館の座席の後ろに隠れてしまったという! 素晴らしいことだ。

公に認められたという意味では、『スター・ウォーズ』(1977年)の映画のオリジナル・サウンドトラックの感動的なスコアが、アメリカン・フィルム・インスティテユート(アメリカ映画研究所)から、“アメリカ映画史上最も記憶に残る映画音楽”と高く評されたことで、より尊敬を集めるようになった。

驚くことに、同年、ウィリアムズは『未知との遭遇』の音楽を作曲、指揮にプロデュースまで手掛け、エイリアンとの遭遇の重要な瞬間に現れる、「5音」のモティーフで、大衆文化に新しい象徴的なアイディアを宣言した。その音は今でも我々の涙を誘い続けている。

『ジョーズ2』と『スーパーマン』では、彼に他に類を見ないほどの快進撃をもたらした。前者は、部分的には1作目より恐ろしさが増しており、身の毛もよだつサスペンスの代表作となっている。どうやったら、あんなことができるのだろう!

答えが何であるにせよ、彼はそれを信じられないほどの規則正しさでこなし続けている。『1941』、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』と『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』は、探検への期待や愛国心、勇敢な行動に満ちており、ウィリアムズがそのような映画の、輝くような音楽性をもつテーマ曲を作るためには、何をすればよいのか知っている作曲家であると証明しているのだ。映画館に足を運んだ観客は、耳にジョン・ウィリアムズ節がこびりついて離れないまま、曲をハミングしながら家路につくことになる。

『E.T.』の愛らしさは、ウィリアムズの別の側面を明らかにしており、この時代の他のほとんどの作品と同様に、リマスターされたフォーマットで入手可能だ。この作品は、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、グラミー賞に英国アカデミー賞の4つの賞を受賞する史上4番目の快挙を成し遂げた(前の2作、『スター・ウォーズ』と『ジョーズ』もウィリアムズによる作曲のため、同一作品で全ての賞を複数回受賞した唯一の作曲家となった)。現在までに、4賞をすべて受賞しているのは、たったの6作品である。ロック・ファンにとっては、ウィリアムズが『E.T.』のスコアの制作を、ブルース・ボトニックと一緒にロサンゼルスで行ったことにも注目だ。ボトニックは、長年ドアーズのエンジニアを務め、彼らのアルバム「L.A.ウーマン」を制作した人物である。

1990年代のアルバムにも、多数の発見されるべき作品があり、楽しめること請け合いだ。『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』は、音楽は少しダークなトーンになっている。前者は、2013年の「20th Anniversary Edition (20周年記念エディション)」がお薦めで、デジタル・ダウンロード版には、作曲家自身の選曲によるエクストラ・トラックが含まれている。『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』のデジタル・ダウンロード版の再発もある。

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』、『アミスタッド』、『プライベート・ライアン』は、ウィリアムズ作品のドリームワークスへの移行を予感させるものであり、『パトリオット』(2000年)のテーマは、8年後の米国大統領選挙でバラク・オバマの勝利演説で使用されたことから、アメリカのフォークロア(民間伝承)への仲間入りを果たした。

驚くことに、ウィリアムズの作品への評価は、『マイノリティ・リポート』で再び高騰した。この作品は間違いなく、彼の作品の中でも最も説得力のある趣のスコアで、モダニズムと厳選されたクラシック曲を組み合わせ、全体がバーナード・ハーマンの不気味な場面設定(特に『北北西に進路を取れ』と『サイコ』、そして『鳥』で使われたゾクゾクするようなエフェクト)にオマージュを捧げるようなスコアとなっている。素晴らしい映画であり、サウンドトラックだ。

ウィリアムズは、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン、マーティン・シーンにエイミー・アダムスが出演したエンターテインメント性の非常に高い『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)のすべての管弦楽曲を作曲した。ライトなロマンティック・コメディ『ターミナル』にも明らかに楽しんで取り組んだようだが、『宇宙戦争』では、再び彼の名人芸のような、映画のアクションには不可欠な音楽的な恐怖の戦術や、リズムの切り替えに没頭し、恐怖のクレッシェンドへと回帰している。スピルバーグ監督の最も過小評価されている映画の一つである『ミュンヘン』では、ウィリアムズがアカデミー賞の作曲賞を獲得してもよかったはずだと多くの人が考えている。

定番の人気作品『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』ではホーム・グラウンドへ戻ったウィリアムズだが、『タンタンの冒険』(2011年)で初めてアニメ作品に挑戦し、居心地の良い場所から離れている。スコアの大部分が、映画のアニメーションがまだ初期の段階から書かれており、ウィリアムズは、“昔のディズニーのテクニックである、先に音楽を作り、アニメーターが音楽の動きを追う”という手法を踏襲しようとした。当然のように、彼はそれを成し遂げている。

2015年には、ウィリアムズによるオリジナルのテーマ曲が『ジュラシック・パーク』の音楽的なハイライトとして使われ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、遥か彼方の銀河系のファンまでをも揺るがした。そして、ジェダイの国へと我々を導いてくれるのは、サウンドトラックの皇帝以上の人物はいないだろう…。これから先もずっと、フォースが彼と共にあらんことを。

Written By マックス・ベル


■リリース情報


2022年2月4日発売

ジョン・ウィリアムズ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ベルリン』

CD初回限定版 / CD通常版
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music





 

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