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山田和樹 最新インタビュー:DGデビュー盤とバーミンガム市交響楽団との歩みを語る

2025年6月に小澤征爾、佐渡裕に続く14年ぶりの日本人指揮者としてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団へのデビューを果たし、さらに2026年秋よりベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者兼芸術監督に就任予定の、いま最も世界で活躍する日本人指揮者・山田和樹。
ドイツ・グラモフォンからのデビュー・アルバム『ウォルトン:交響曲第1番・第2番 他』発売に際し、本作およびバーミンガム市交響楽団について話を聞いた。音楽ライター・高坂はる香さんによるインタビュー。
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—バーミンガム市交響楽団(CBSO)とヤマカズさんの関係は、もう12年になります。音楽監督に就任された2024年に本拠地であるバーミンガムのシンフォニー・ホールで「KAZUKI CONDUCTS BEETHOVEN 9」を聴きましたが、終演後、聴衆がみんな本当に嬉しそうな笑顔で会場を後にしていたことがすごく印象的でした。
それはオーケストラが本質的にものすごくポジティブなエネルギーを持っているからだと思いますよ! 僕ももともとポジティブな人間なので、さらにポジティブな人たちと触れ合うことで、良い相乗効果が生まれているのだと思います。
さらにいうと、お客さんもポジティブなんですよね。イギリスは紳士淑女の国ですが、演奏会はすまして聴いているだけではなく、“来たからには絶対にエンジョイして帰るぞ”という雰囲気が満ち満ちているんです。それが独特の盛り上がりを生むのだと思います。
実はバーミンガム市は財政破綻してしまっているので 、CBSOも経済状況はまったく良いといえないのですが、それでも彼らは常に仕事に対してポジティブです。……もしかしたら仕事だと思っていないのかもしれませんけれど。
—会場では、その空気にヤマカズさんがとても合っていること、オーケストラと聴衆の両方から“カズキ”と呼ばれて親しまれていることが伝わってきました。
どうでしょうねぇ(笑)、ファーストネーム呼びは、おそらくサイモン・ラトルから続くことだと思いますけれど。以前はイギリスの人々も指揮者をマエストロと呼んでいたはずですが、ラトルが25歳でバーミンガムの首席指揮者に就任した時、新聞に「Don’t call me Maestro」という見出しの記事が出て、そこから変わったのだと思います。それがロンドンにも広がり、今ではイギリスではほとんどの人が指揮者をファーストネームで呼びます。
CBSOには子供の合唱団があるのですが、そこに在籍している小さい子供たちもみんな僕のことを「カズキ!」って呼ぶんです。ちょっとおもしろい感じもしますが、親しんでもらえているのはうれしいですね。
よく音楽に国境はないと言いますが、僕は英語が得意なわけでもないし、やっぱり壁はあるんだと思うんです。外国で働くのって大変だな……とシンプルに思うんです。ただ逆も真で、では日本語で日本人とコミュニケーションをとるなら全くストレスがないかというと、そこには言葉が通じるがゆえのストレスが生じることもある訳ですから難しいですね。
特に人種のるつぼであるイギリスは英語が母語でない人にも寛容で、みんながうけとめてくれるので、僕がそこに甘えている部分もあるんです。恋人なり結婚相手なり親友なり、近いからこそ甘えられる関係というのがありますが、今のところそれがうまくいっているんだと思います。
お互いに長所短所があっても、共同作業のなかでは短所も織り込み済みで、良いものを作っていこうとしてくれます。そういうところでもやっぱり彼らはポジティブで、尊敬しますね。
そしてCBSOの演奏には、“今日はイマイチだった”ということがありません。不得手なレパートリーだからしょうがないとなることなどは、我々には絶対にありません。彼らも僕も、お客さんが来ている限り絶対いいものにするという気持ちがすごく強いのです。

©Hannah Fathers
—今回はそんなCBSOとのライブ録音がリリースされました。本拠地のシンフォニーホールは素晴らしい会場ですね。
はい、世界の素晴らしい会場と比べても全く引けをとらないホールです。ラトルの在任中にできたホールで、彼が音響などの設計にもかかわっています。天井を上げ下げすることやオルガンの脇のドアの開閉で音響を変化させる機能もあるので、曲によって調整できます。そんなイギリス随一のホールで、イギリスのオーケストラがイギリスの作曲家を演奏するという、すべてがうまくマッチした録音です。
—収録曲には、20世紀の作曲家、ウォルトンから、生誕100年の英国女王エリザベス2世の戴冠式のために作曲された「戴冠式行進曲《宝玉と王の杖》」と、交響曲第1番、第2番を選ばれました。
彼らとの初めての録音で「戴冠式行進曲《宝玉と王の杖》」を収録できたことは、まずとても良かったですね。交響曲については、1番はわりとよく演奏されますが、2番は録音自体が少なく、さらに1、2番が揃って収録されていることはとても珍しいんです。
でも僕にとっては、この選曲は必然でした。自分の中で今一番熱を持って取り組める作品であり、新しさやフレッシュさを打ち出すという意味で、とてもいい選択だったと思います。
ウォルトンの作品はあまりイギリス以外で演奏されることがありませんが、それがなぜかというと、演奏がすごく難しいから。とにかく音符が多いんです。
音符が多いというのはイギリスの作曲家に共通する現象で、エルガーしかり、ものすごく分厚く書く傾向にあります。ウォルトンはそのうえ伝統に根差したフーガなども書きます。
他の国のオーケストラだとちょっと苦労すると思うのですが、その点、イギリスのオーケストラはウォルトンの特徴をキャッチするのが早く、手強いといいながらも、エンジョイしながら難なく演奏してしまいます。
—ウォルトンの音楽のどんなところがイギリスの演奏家の感覚になじむのでしょうか?
そうですね……彼らはもちろん紳士淑女の文化を持っているのだけれど、根源にある原始的な感覚というか、もともと彼らが国民性として持っているグルーヴ感とウォルトンの独特のグルーヴ感が、すごく合うんじゃないかなと思うんです。エルガーの場合はもうちょっとノーブルにまとめてあるんだけれど、ウォルトンはダイレクトなので、それに乗るとすごく楽しいんだと思います。
—イギリスはハウスなどのクラブミュージックも発展しているイメージですが、それと通じるような?
そうそう、似ているんだと思いますよ。イギリスのオーケストラが過去に録音したウォルトンの名演奏って、総じてものすごくイケイケで、グルーヴに乗っかって突き進む演奏が多いんです。
ウォルトン、エルガーから歴史を遡っていくと、イギリス伝統の民族音楽や宗教音楽、さらには教会以前に、原始の人たちが集まって神に祈っていた時の音楽にいきつくはずです。音楽って民族の血と深いつながりがありますから、イギリスの音楽だからこそ感じられる独特の魅力があって、同時にある意味で他の国では演奏されにくくなったりするわけです。
イギリス人が信心深い人ばかりかというとそうでもないとは思いますが、それでもやはり、ふとした瞬間、イギリスの風景や空気の中に神様の存在を感じることが僕にはあります。そういう原始の感覚が脈々と続いて、今に至っているのでしょう。
僕自身はイギリス人ではないから、そこに僕なりのエッセンスが加わって、今回の演奏になっていると思います。
—ヤマカズさんご自身は、どんなところにウォルトンの音楽の魅力を感じますか?
どうやってもスタイリッシュになる、 でもかっこいいだけでなく、どこかで人の心に訴える叙情的な部分が必ずあるところです。そこが20世紀の作品としては珍しいと思います。
例えば同時代を生きたショスタコーヴィチの作品とは対照的です。彼の場合は、政治的な背景もありますし、元々寒い国の人ですから、暗いトーンにはじまってその中で光が見え隠れすることに心が動くタイプの音楽を作りました。
一方でイギリス生まれのウォルトンは、わりと女性にも奔放でしたし、後半生はイタリアの暖かい島に移り住んだ人です。交響曲1番には、失恋したせいでフィナーレが書けなくなったというエピソードもあるくらいで、人間くさいところもありました。
以前、そのウォルトンが暮らしたイスキア島の家を尋ねたことがあります。ウォルトン夫妻が作った庭は、そこがウォルトンの住まいだということに関係なく訪ねる人もいるほど有名な公園になっています。公園というよりほとんど山で、登っていくと絶景が広がっていました。ここでおいしいものを食べ、おいしいお酒を飲み、若い奥さんと悠々自適な暮らしをしていたんだなと思うと、作品がショスタコーヴィチと対照的になって当然だなと思うわけです(笑)。
そこからもわかるように、ウォルトンの作品ってすごくポジティブなエネルギーところから生まれています。それがまたCBSOのポジティブさとマッチするのでしょう。
聴けば聴くほど良さがわかってくるところもイギリスらしいですね。例えば少し前までよく、イギリスの食事はまずいと言われていましたけれど、 フィッシュ&チップスなんて、食べれば食べるほど味わいがわかってくるものだと思うんです。イギリスの仕事を長くやることで見えてくる良さは他にもいろいろありますが、それと似たものを感じます。
—では最後に、そんな相性抜群のCBSOとこれからやってみたいことはありますか?
これまでやってこなかったことにチャレンジしたいですね。彼らだったら何でもできるんじゃないかと思えるので、大変なことでもトライしてみたくなるんです。お互いに分かりあえるオーケストラですから。
2年前「蝶々夫人」をやってみたら、彼らはオペラにも適性があることがわかりました。 僕にとっては初めてのプッチーニでした。そこで次は「トスカ」をやることにしました。
僕には取り組んだことのない名曲がいくつもありますが、例えば「展覧会の絵」はラヴェル版をやったことがないので、今度のツアーでチャレンジするつもりです。ジョン・アダムズのような作品も僕は手をつけたことがありませんでしたが、彼らとならやってみたいと思うので挑戦しています。
今年の 9月には、毎回開催都市が異なるスヴェトラーノフ国際指揮者コンクールをバーミンガムで開催します。これもまたCBSOにとっては新しい出来事になるでしょう。
—ヤマカズさんにとっても、CBSOとの出会いはいろいろな扉が開くきっかけになったのですね。
まさにその通りです!! 彼らといると勇気をもらえるから、いろいろなことに挑戦できるんです。
もちろんCBSOに至るまでにいろいろな出会いがあって、それら一つ一つのおかげで今があります。ずっと遡っていけば、お母さん産んでくれてありがとう、みたいなところまで行き着くわけですけれど……とにかく感じるのは、今、こうして活動できているのは、本当にCBSOのおかげだなということですね。
Interviewed & Written by 高坂はる香
■リリース情報

山田和樹『ウォルトン:交響曲第1番・第2番 他』
2026年3月6日(金)発売
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