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家族がテーマのクラシック:〈トロイメライ〉や〈私のお父さん〉などホリデーシーズンに聴きたい9の名曲選

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いつも忙しくしている人でも、久しぶりに会う友人と美味しいものを食べたり、旅行に行ったり家族でゆっくり過ごしたりと、楽しみがたくさん控えるホリデーシーズン。今回はそんなホリデーシーズンにぴったりな家族で一緒に聴きたいクラシック曲、家族をテーマにしたクラシック曲を厳選した。誰かに話したくなるエピソードも添えて紹介していきたい。ぜひそれぞれのホリデーシーズンのシーンを彩るお気に入りの1曲を見つけて楽しんでほしい。

音楽ライター/PRコンサルタント 田尻有賀里さんによる寄稿。

1.ロベルト・シューマン
《子供の情景》より〈トロイメライ〉

〈トロイメライ〉は、ドイツを代表する作曲家ロベルト・シューマンが作曲した《子供の情景》というピアノ曲集の中の7曲目の曲で、ドイツ語で「夢・夢想」という意味がある。シューマンは当時の恋人(後に妻となる)クララからの「あなたはときどき子どものようね」と言われたことから着想してこのピアノ曲集を作曲したと言われている。

シューマンは他に子ども向けの作品を書いていることから、子どものための曲だと思われがちだが、《子供の情景》は子どもの頃の情景を描いた大人のための作品である。長めの休暇の中でふと立ち止まってこれからの目標ややりたいことに悩むときにはこの曲を聴きながら子ども時代の気持ちに戻ってみるのも良いかもしれない。

Schumann: Kinderszenen, Op. 15 – 7. Träumerei

2.ピョートル・チャイコフスキー
組曲《くるみ割り人形》より第2曲〈行進曲〉

組曲《くるみ割り人形》は世界三大バレエの一つであるピョートル・チャイコフスキーが作曲したバレエ音楽《くるみ割り人形》の曲集の中から演奏会用に編成したもので、元のバレエは家族でクリスマスパーティーの準備をしているシーンから始まることから、このホリデーシーズンの始まりの時期には世界中で上演されるとてもポピュラーな作品である。

今回抜粋して取り上げる第2曲〈行進曲〉は子どもたちがクリスマスツリーの周りをはしゃぎ回りプレゼントを待つシーンで使用されており、冒頭のクラリネット、ホルン、トランペットの軽快でリズミカルなファンファーレから始まり弦楽器の弾むようなメロディは聴くだけでこれから何かが始まりそうな予感がしてワクワクさせられる。

Tchaikovsky: The Nutcracker, Op. 71, TH 14 / Act 1 – No. 2 March (Live at Walt Disney Concert…

3.ピョートル・チャイコフスキー
組曲《くるみ割り人形》より第7曲〈葦笛の踊り〉

組曲《くるみ割り人形》からもう1曲取り上げるのは、やはり家族がテーマだと外せないこの第7曲〈葦笛の踊り〉である。昨今お父さん犬で有名になった家族をモチーフにしたソフトバンクのCMで使用されたことから、曲名は知らなくてもメロディは誰もが聴いたことのあるお茶の間の曲として広く知られているのではないだろうか。

バレエの中でこの曲は、王子の姿に変わったくるみ割り人形がクララをお菓子の国に招待して世界各国のお菓子の精が歓迎の踊りを披露する曲の一つとして使用されており、バレエの場面ではこの曲以外にスペインやアラビア、中国、ロシアといった世界のお菓子の精の踊りが観られる楽しい見所でもある。〈葦笛の踊り〉はフランスのアーモンド菓子(アーモンドタルト)の羊飼いがミルリトンというおもちゃの笛を吹いて踊るという内容で、3本のフルートから始まるかわいいメロディは老若男女に愛される温かさも併せ持っていて、家族で過ごす団欒のひと時にみんなで聴きたい楽曲。

Tchaikovsky: The Nutcracker, Op. 71, TH 14 / Act 2 – No. 12e Divertissement: Dance of the Reed…

4.モーリス・ラヴェル
亡き王女のためのパヴァーヌ

家族の仲の良さが有名な作曲家といえば真っ先に挙がるのがフランスの作曲家モーリス・ラヴェル。ラヴェルはスイス人の発明家兼実業家の父とスペイン・バスク地方出身の母の元に生まれ、パリで弟と共にたっぷりの愛情を受けて育ち、ラヴェルの作曲活動にもその生まれ育った家族の関係性が色濃く反映されている。

ラヴェルの曲に母親の故郷スペインの民謡や舞曲の旋律やリズムを取り入れた曲があることは一般によく知られているが、実はこの《亡き王女のためのパヴァーヌ》もスペインに由来している。タイトルの「亡き王女」とは「昔、スペインの宮廷で小さな王女が踊ったようなパヴァーヌ」のことを意味し、「パヴァーヌ」とはスペイン語の「くじゃく」が由来となっているフランス語の音楽用語で、スペインに起源をもつ16世紀初期の宮廷舞踊の一つを指していて、ノスタルジックで哀愁漂う美しいメロディが心に残る楽曲である。

Ravel: Pavane pour une infante défunte, M.19 – Lent

5.ジャコモ・プッチーニ
歌劇《ジャンニ・スキッキ》から〈私のお父さん〉

イタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニが作曲した歌劇《ジャンニ・スキッキ》は、主人公ジャンニ・スキッキの親友の大富豪の遺産を巡って、ジャンニ・スキッキとその娘と大富豪の遺産を見つけた娘の恋人と親戚間の騒動を描いた喜劇で、その中に出てくるこの〈私のお父さん〉というソプラノが歌うアリアは娘のラウレッタが父のジャンニ・スキッキに恋人リヌッチョとの結婚を懇願するというオペラの中でも最も有名な曲。

歌詞はとてもピュアでかわいらしく、日本語ではタイトルが「私の愛しいお父さん」と訳されることもあり、世の父親はこんな曲を娘に歌われたら少し寂しい気持ちになりながらも何が何でも娘に愛する人と結婚させてあげたくなるだろう。父親と娘をテーマにしたクラシック曲は珍しく、結婚式などのシーンでも使いたい古き良き名曲の一つである。

Puccini: “O mio babbino caro” / Fleming · Marin · Berliner Philharmoniker

6.アントニン・ドヴォルザーク
交響曲 第9番 ホ短調 作品95《新世界より》より第2楽章:Largo

日本ではお正月に家族が待つ故郷に帰る人も多い。生まれ育った場所と違う新たな場所で受ける刺激は自分を成長させるし、また新しい場所から自分の故郷をあらためて見ることで故郷の良さを再認識できる。アントニン・ドヴォルザークのそんな新しい発見や成長への意欲と故郷を思う気持ちが融合した楽曲がこの交響曲第9番ホ短調作品95《新世界より》である。

1892年ドヴォルザークはアメリカ・ニューヨークに渡り、そのアメリカ滞在中に最後の交響曲となる交響曲第9番ホ短調作品95《新世界より》を書き上げた。《新世界より》という副題には、「新世界」のアメリカから故郷ボヘミアへ向けてのメッセージという意味がこめられている。今回は全4楽章の中から、日本で〈家路〉という歌曲で親しまれている主題を含む第2楽章:Largoを紹介する。イングリッシュホルンで奏でられる〈家路〉の部分のメロディを聴くと、自然に歌詞を口ずさみ自分が生まれ育った場所を思い出す人も多いのではないだろうか。

Dvořák: Symphony No. 9 “From the New World” / A. Fischer · Berliner Philharmoniker

7.ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618

《アヴェ・ヴェルム・コルプス》K.618は、1791年ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが亡くなる半年前の時期に作曲したカトリックの讃美歌。1992年に公開された副腎白質ジストロフィーという不治の病に冒された息子を救うため医学の専門知識がないにもかかわらず新薬の開発に奮闘する両親の実話をもとにした『ロレンツォのオイル/命の詩』というアメリカの家族映画の中で使用されている。家族の絆を描いたこの映画では専門家さえも手の尽くしようがないというような大きな難題に直面しても諦めずに立ち向かって一つひとつクリアしていく夫婦の姿に感動させられる。

この曲の特徴は詩の行ごとに転調していくところで、全部で4回転調し、最後は最初と同じニ長調に戻るのだが、この転調が絶妙なバランスで厳かさや優美さ、憂いといった様々な空気を作り神秘的な雰囲気を醸し出している。最近では、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の中でも使用されており、普段クラシックにあまり馴染みのない人の間でも親しまれている名曲である。

Wolfgang Amadeus Mozart – Ave Verum Corpus

8.ヨハン・シュトラウス1世
ラデツキー行進曲

新年を代表する曲といえば、オーストリアの作曲家ヨハン・シュトラウス1世によって作曲された《ラデツキー行進曲》をイメージする人も多いのではないだろうか。《ラデツキー行進曲》は毎年1月1日にオーストリア・ウィーンの楽友協会で行われるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのアンコール曲として演奏され、指揮者の合図で観客も手拍子で参加して一緒に盛り上がるという人気の曲。

ニューイヤー・コンサートの曲目はシュトラウス一家とウィーン・フィルやシュトラウス一家に縁のある作曲家の曲の中から選定され、本編の演目のワルツやポルカは息子のシュトラウス2世の曲が多いのだがアンコールではシュトラウス2世の《美しく青きドナウ》とシュトラウス1世の《ラデツキー行進曲》が連続して演奏されることから、シュトラウス親子の競演という視点でも楽しむことができる。

HERBERT VON KARAJAN (2/2) – Vienna Philharmonic Radetzky March New Year Concert 1987

9.リヒャルト・シュトラウス
家庭交響曲

《家庭交響曲》はドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウス自身の家庭の様子を曲にしたと言われている。楽曲の構成は4部に分けられ、第1部は家族のメンバーの各主題が演奏されるが、今回のプレイリストは第2部のスケルツォが表現する子どもたちが遊んでいる様子から母親の子守歌、第3部の子どもが眠った後の夫婦の夜、第4部の子どもが起きた後夫婦喧嘩が始まり仲直りして家族団欒に戻るという部分を抜粋している。

全体に明るく軽快でとても賑やかで楽しい家庭の様子を彷彿させる。とてもおもしろいのがこの第3部で夫婦の夜の営みが音楽で表現されているところ。その部分に悪魔の音程と呼ばれる不安定な音程を使っていて恐妻家と言われるシュトラウスの遊び心が感じられる。この楽曲は4管編成で、サクソフォンが4本(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン)使われているのがめずらしい特徴でもある。ちなみに同じシュトラウスという名前だが、ヨハン・シュトラウスとの血縁関係はないとのこと。

R. Strauss: Sinfonia Domestica, Op. 53, TrV 209 – Scherzo – Munter (Live)

それでは、素敵なホリデーシーズンを!

Written by 音楽ライター/PRコンサルタント 田尻有賀里




 

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