マルーン5のアルバム・ガイド決定版:大ヒット曲のMVやライヴ映像とともにそのキャリアを完全網羅

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6枚のスタジオ・アルバムと17年間の長きにわたる成功のうちに、マルーン5は豊かなヴァラエティに富んだ名作・名曲を残してきた。「Payphone」や「Girls Like You」といった大ヒット曲は誰もが憶えているだろうが、バンドの膨大な全作品のどこから手をつければいいのだろうか?

このマルーン5のアルバム・ガイド決定版では、あなたが一聴してそれと分かるようなチャート上位曲を時系列順に整理するお手伝いをすると共に、各々のアルバムを細部にわたって考察し、傑出したライヴ・パフォーマンスを選び抜き、先鋭的なセンスが光るビデオ・クリップの数々や重要なアルバム・トラックを再訪してみたい。

そんなこと言われなくてもマルーン5のベストなら心得ているって? まあ、そう言わずにもう一度一緒に考えてみましょう…。

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Songs About Jane』(2002年 / 1st Album)

2002年6月にリリースされた (マーケットによっては翌年になるが)12曲入りの『Songs About Jane』は、かつてカーラズ・フラワーズという名前で活動していたラインナップにジェームズ・ヴァレンタインを加えてマルーン5となったバンドのデビュー作である。ファースト・シングルの「Harder To Breathe」はバンドにラジオでのブレイクをもたらしたが、アルバムが世界各国でトップ10入りを記録することになったのは、その後のより大きなヒット曲のおかげだった。

アルバム最大のヒット曲:「She Will Be Loved」

Songs About Jane』からの3枚目のシングル曲に選ばれた「She Will Be Loved」がリリースされた時には、アルバムの発売から実に1年近くが経過しており、アメリカだけで既に300万枚のセールスを挙げていた。この曲は全米チャートにおいては最高位第5位に留まったものの、オーストラリアでは彼ら初のNo.1ソングとなっている。ソフィー・ミュラー監督によるドラマティックなPVは、マルーン5にこれ以降のヒット・ビデオを作り出すきっかけを与えることとなった。

特筆すべきMV:「This Love」

今作のアプローチのシンプルさは、マルーン5の持つマジックを見事に際立たせるものだ。実に憶えやすい曲調を核にして、生々しいストーリー展開でスパイスを利かせつつ、手堅く落ち着いたパフォーマンス作品に仕上がっている。そしてリード・シンガーのアダム・レヴィーンと、彼が当時実際に付き合っていたガールフレンドとの絡みから立ち昇るセクシュアルなケミストリーは、手に負えないほどのレベルで物議を醸すこととなった。世間の注目を集める手段としては既に名人級である。

重要なアルバム・トラック:「Tangled」

このトラックの土台部分を支えるファンキーなリフが示すのは、バンドを成功に導いた進化形のDNAだ。それは誰にでも憶えやすいロックをダンス、ソウル、ファンクと融合させることが出来るという能力である。この3分間の奇跡ではアダム・レヴィーンが単独で作家クレジットを受けているが、これだけ強力なナンバーでもアルバムからシングル・カットされた5曲に入らなかったという事実が、このバンドのソングライティングにおける高い基準の証だ。

重要なライヴ・パフォーマンス:「Harder To Breathe」(『Ellen』生出演時、2003年)

バンドがデビュー間もないタイミングで披露したこのファースト・シングルの稀有なパフォーマンスの様子を見れば、何故彼らがこれだけ息の長い活動を続けて来られているのかが分かるはずだ。全米屈指の視聴率を誇るこの人気TV番組のおかげで、バンドの完璧なヴォーカルと素晴らしいギター・ワークが数え切れないほどのお茶の間に届けられたのである。すべてはここから始まったのだ。

 

『It Won’t Be Soon Before Long』(2007年 / 2nd Album

デビューから約5年の歳月を経て世に出た『It Won’t Be Soon Before Long』は、発売第一週目でいきなりビルボード・チャートのトップに躍り出た。また今作からは本国アメリカにおいて初のNo.1シングルが生まれ、バンドは様々な意味でギアをひとつ上げることとなった。ドラマーのライアン・デューシックが怪我のためにバンド脱退を余儀なくされたことを受け、後任としてマット・フリンが加入する。

最大のヒット曲:「Makes Me Wonder」

彼らにあまり注意を払っていなかった人々は、今作からの最初のシングル曲にソウルフルな方向性が打ち出されていることに驚いたかも知れないが、この曲は全米チャートのランキング創設以来最大のジャンプアップを記録して歴史を作った。後にはグラミー賞にまで輝いている。

特筆すべきビデオ:「Wake Up Call」

前作アルバム『Songs About Jane』の幾つかのシングルのセクシーなビデオは世の検閲官たちをやきもきさせたかも知れないが、「Wake Up Call」はマルーン5が初めて、明らかにキワドいストーリー性のあるPVを付け、世間の当惑にダメ押しをした曲である。ビデオの監督を務めたのはマドンナやビヨンセとの仕事で知られるヨナス・エクルンドだ。

重要なアルバム・トラック:「Kiwi」

様々な影響から形作られているマルーン5のサウンドは、時に解析するのが困難なほど、彼らの個性として昇華されている。この「Kiwi」などはまさにその一例で、スティーヴィー・ワンダーを思わせるソウル・テイストにシンセ・ポップ的なフック、先祖返りしたようなファンキーなビートが続くと思わせて唐突に強烈なギター・リフが炸裂するという何とも独特なフォーミュラを、彼らより上手にやりこなせるバンドはいない、と言うより誰にも真似できないだろう。

重要なライヴ・パフォーマンス:「If I Never See Your Face Again」(『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』生出演時、2012年)

この曲のシングル・ヴォージョンにはリアーナが参加していた。母体のアルバムではオープニング・トラックに選ばれているが、ここでのオリジナル・ヴァージョンのパフォーマンスはパワーの上では何の遜色もない。

 

『Hands All Over』(2010年 / 3rd Album)

ロバート・ジョン“マット”・ラングをプロダクション・サポートに迎えたことで、この2010年のリリース作にはコマーシャルな光沢が施された一方、『Hands All Over』制作中のスタジオにはいささか力学的な問題も生じていた。そんなところへあるひとつの曲が生まれて一変することになる…

最大のヒット曲:「Moves Like Jagger」

この曲は恐らくマルーン5のタイムカプセルには必ず入ることになるトラックに違いない。このスマッシュ・ヒットは生き生きしたエナジーに溢れていて、2011年夏のリリース以来ダンスフロアを常に満杯にしてきた。『The Voice』でアダム・レヴィーンと共演したクリスティーナ・アギレラは、このエレクトロ・ポップの名曲にはぴったりのパートナーだ。

特筆すべきビデオ:「Misery」

Hands All Over』からのファースト・シングルに選ばれた「Misery」に合わせて作られたのは、いまやマルーン5のビデオのトレードマーク要素となったセクシュアルな絡みにシアトリカルな暴力的刺激を加えたクリップである。このシングルはアメリカではトップ20、全英では最高位30位に食い込んだ。

重要なアルバム・カット:「How」

ファンクとソウルの要素をむき出しにしたこのメロディックなミッドテンポのポップ・ナンバーには、ナッシュヴィルからのインスピレーションが盛り込まれている。

重要なライヴ・パフォーマンス:「Stutter」(VEVO カーニヴァル・クルーズ、2011年)

マット・フリンがソングライターとしてクレジットされているアルバムの中でも出色のこのトラックがシングル・カットされずに終わったとは、実に驚きだ。

 

Overexposed』(2012年 / 4th Album)

ジェシー・カーマイケルが一時的な活動休止に入り、PJモートンがサポート・メンバーとして加入して、バンドはシングル「Moves Like Jagger」での圧倒的なパフォーマンスを超えるチャレンジに立ち向かった。超大物プロデューサーのマックス・マーティンをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎えたおかげで、『Overexposed』の12曲の制作は確かに捗ったが、つまるところこのアルバムの大ヒットの理由は、デビュー当時から一貫してバンドの強みとなっているソングライティングの力に他ならないのだ。

最大のヒット曲:「Payphone」

アルバムの先行シングルとして2012年4月にリリースされたアーバン・ポップのハイブリッド曲「Payphone」には、アメリカ人ラッパーのウィズ・カリファがフィーチュアされ、ベニー・ブランコとシェルバックがプロデューサーとして名を連ねている。この曲では素晴らしいPVが作られ、バンドにとって初の全英No.1を獲得する一助となった。

特筆すべきビデオ:「One More Night」

例えば家庭の問題を抱えたボクサーのような、肉体的な負担の大きい役をまっとうにこなせるバンドのフロントマンはまずいないが、アダム・レヴィーンにかかるとそれがいとも簡単に見えるから不思議だ。バンドの他のビデオと比べれば、爆発的にドラマティックな部分こそないものの、見事に調えられた濃やかな演技が堪能出来る。

重要なアルバム・トラック:「Fortune Teller」

フック満載のコーラスに無機質なエレクトロ系の基盤が巧みに組み込まれているこの曲は、『Overexposed』の裏テーマとなっていた折衷主義的アプローチがそのまま表れている。左折するチャンスに直面したら、バンドは少しの躊躇もなくそちらに進みたがるようだ。

重要なライヴ・パフォーマンス:「Daylight」(Playing For Change, 2012年)

この曲のシングル・リリースに際し、2本目のオフィシャル・ビデオとして編集されたマルチメディア・プロジェクト『Playing For Change』とのコラボレーションは、バンドが自ら選んで積極的にサポートに乗り出している数々のキャンペーンのうちのひとつに過ぎない。ここではストリート・ミュージシャンの演奏とファン・ビデオの映像が、バンドの『Overexposed』ツアーにおけるこの曲のパフォーマンス映像とカットバックする形で織り交ぜられている。

 

『V』(2014年 / 5th Album)

『V』はジェシー・カーマイケルの復帰作であり、ここから3曲の大ヒット・シングルが生まれた作品だ。レコーディングは断続的な形で約一年かけて行われた。批評家たちは彼らをどうカテゴリー分けしようか悩むばかりだったが、マルーン5に対する大衆の支持はそんなことに関係なく大きくなっていくようで、『V』は彼らにとって『It Won’t Be Soon Before Long』以来のアルバム・チャートNo.1作品となった。

最大のヒット:「Sugar」

何も知らされていないカップルの結婚式に、彼らがウェディング・バンドとして登場してサプライズのお祝いを演出するというPVが、この2015年のシングル曲に推進力を与えたことは疑いようのない事実だ。結果としてこの曲は、『V』からのシングルの中で最も成功したトラックとなり、世界各国でトップ10入りを記録、全米チャートでも最高位第2位となった。

特筆すべきビデオ:「Maps」

ビデオのダークなテーマと緊急治療室のトラウマが、鬱々とした曲の緊張感に更に際立ったエッジを与えている。このPVが、このアルバムからのファースト・シングルの全米・全英両方のチャートにおけるトップ10入りを後押ししたと言っても過言ではないだろう。

重要なアルバム・トラック:「My Heart Is Open」(feat.グウェン・ステファニー)

精力的なヒットメーカーであるシア・フラーのペンによるこの曲において、グウェン・ステファニーとタッグを組んだことは大正解だった。制作時点で既に名曲となることが分かっていたような、壮大なバラードである。このヴォーカルの組み合わせは鳥肌ものだ。

重要なパフォーマンス:「Animals」(ヴィクトリアズ・シークレット水着ファッションショー、2015年)

アルバムからのセカンド・シングルとして選ばれた曲で、アメリカではトップ3に食い込んだヒット・ナンバーのシンプルで余計なものが省かれたパフォーマンスは、始まりこそ地味だったがモデルたちが生き生きと動き始めた途端、ムードが確実に一変した。あの状況で彼らが多少なりとも集中力を欠いたとして、誰が責められようか?

 

『Red Pill Blues』(2017年 / 6th Album)

Red Pill Blues』で打ち出されたR&B的方向性は間違いなく彼らの勝ちパターンで、バンドはそのおかげでジョージア州アトランタにて行なわれた2019年のスーパーボウルの栄えあるハーフタイム・ショウの出演を射止めたのだった。サム・ファラーは既に長年ツアー・メンバーとしてバンドに帯同していたが、今作からメンバーとして正式に加入している。アルバムのリリースに合わせ、またまた北米から南米、アジア、ヨーロッパを回る大がかりな全世界ツアー日程が組まれた。

最大のヒット曲:「Girls Like You」(feat.カーディ・B)

Red Pill Blues』からのサード・シングル「Girls Like You」のラジオ及びデジタル・リリース用としてカーディ・Bを加えたヴァージョンは、全米トップ10に33週間も居座り、結果として現時点におけるマルーン5最大のヒット曲の一つとなっている。ビルボード・チャートでは7週連続No.1の座を譲らず、ビデオは10カ月で200万回の視聴数を記録した。

特筆すべきビデオ:「Cold」(feat. フューチャー)

ラッパーのフューチャーとのコラボレーションは、マルーン5の基準においてはそれほど大きなヒットにはなっていないが、このリッチ・リーによる映像は、年頃の子供を持つ母親なら必ず行くのを止めるように言うはずの、穏やかでないハウス・パーティーにまつわる物語だ。

重要なアルバム・トラック:「Lips On You」

12の佳曲が揃った『Red Pill Blues』の中でも、このチャーリー・プースがソングライティングとプロダクションでクレジットを受けている胸の中をさらうようなバラードはとりわけ出色だ。ソングライターのジュリア・マイケルズと、共同プロデューサーで「Girls Like You」にも参加していたジェイソン・エヴィガンが曲作りに貢献している。

重要なライヴ・パフォーマンス:ペプシ・スーパーボウルLIII、ハーフタイム・ショウ、2019年

マルーン5物語の最新版へのアップデートの仕上げは、何と言ってもこの2019年2月のパフォーマンスだろう。彼らはここで自らのこれまでのキャリアのハイライトを総ざらいした上で、『Red Pill Blues』から「Girls Like You」をプレイした。

アトランタでのバンドのパフォーマンスには、地元のヒーローであるビッグ・ボーイと南部仲間のラッパー、トラヴィス・スコットも加わり、バンドは「Sugar」と「Moves Like Jagger」というワン・ツー・パンチでセットを締めくくった。かくしてマルーン5の物語の第一章は終わりを告げ、ファンはいまやライヴ動員数でも世界最大級となったバンドが踏み出す次のアルバムを待ち構えているところだ。

Written by Mark Elliott


亡き友、マネージャーに捧げる最新アルバム

マルーン5『JORDI』
2021年6月11日発売
国内盤CDデラックス / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music





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