ポリスのベスト・ソング20:ニュー・ウェーヴを代表する名曲の数々

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Photo: Bob King/Redferns

ポリス(The Police)は、1976年にニューカッスルで行われたライヴでの何気ない出会いから誕生した――。昼は教師として働き、夜は地元のジャズ・バンドでベースを弾いていたスティングはその日、UKのプログレッシヴ・ロック・バンドであるカーヴド・エアの演奏を見に行った。彼はそこでドラマーのスチュワート・コープランドと会話を交わし、会場をあとにする前に電話番号を交換。次にコープランドが連絡を受けたとき、スティングはニューカッスルからロンドンに拠点を移していた。

その当時、ロンドンではパンクが爆発的な人気を博し、ニュー・ウェーヴ (ポップ、パンク、電子音楽、ロックンロールの要素を融合させたサブジャンル) のムーヴメントも形成され始めたところだった。その中で二人はジャム・セッションを重ねるようになり、やがてこのリズム・セクションにギタリストのアンディ・サマーズが加わったのだ。

こうしてトリオバンドとなった彼らは、独創的でエネルギッシュなポップ/ロックを鳴らして急速にファン層を拡大。彼らが1978年に発表したデビュー・アルバム『Outlandos d’Amour』は、そのすべてが凝縮された一作だった。同作ではモッシュ・ピットを熱狂させる猛烈な叫び声ももちろん (特に「Roxanne」でスティングは、声が歪むほど母音を長く伸ばしている) 、緻密なアレンジや、オクターヴを軽々と飛び越えるハーモニー、幅広いジャンルを融合させたスタイルなどを存分に堪能できる。

ポリスの面々は、自分たちの愛するサウンドに独自のアレンジを施すことに長けていた。彼らは陽気なコード進行を取り入れながら、甘ったるい印象にならないサウンドを作り出すことができたのである。こうした特徴は、70年代が終わっても失われることはなかった。80年代に彼らは全米シングルチャートのトップ10に6曲のシングルを送り込み、世界中のリスナーを虜にしたのである。

そしてラスト・アルバムとなった5thアルバム『Synchronicity』をリリースしたころ、ポリスはニュー・ウェーヴの旗手となっていただけでなく、80年代きっての有力バンドにまで成長していた。ここでは初期のシングル曲から、彼らにグラミー賞やロックの殿堂入りの栄誉をもたらしたヒット曲まで、ポリスのキャリアの中でもとりわけ革新的な楽曲の数々を紹介していこう。

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キャリアを決定付けたヒット曲

1. Don’t Stand So Close To Me (高校教師)

ポリスは解散までに数多くの大ヒット作を生み出したが、そうした成功を一朝一夕で手にしたわけではなかった。実際、彼らにとって初めての全米トップ10シングルとなったのは、3rdアルバム『Zenyatta Mondatta』からの1stシングルである「Don’t Stand So Close To Me」だ。

そんな同曲は、ヒーローの誕生を描く壮大な映画を思わせる演奏でムードを盛り上げたあと、ポリス史上屈指にダンサブルなコーラス・パートへと一気に流れ込む一曲。一度聴いただけで、そのヒットの理由がよく分かるはずだ。

 

2. Every Little Thing She Does Is Magic

1981年には、ロマンティックで爽快感のある名曲「Every Little Thing She Does Is Magic」も同様の成功を収め、全英チャートでは1位、全米シングルチャートでは3位をマークした。

 

3. King Of Pain

「Every Little Thing She Does Is Magic」の2年後には、物思わしげなシンセと劇的なクレッシェンドが特徴の「King Of Pain」が同水準のヒットを記録した。サマーズがリフを弾き、コープランドがリズムを刻み、全員が高音域の完璧なハーモニーを披露する同曲は、ポリスのキャリアを代表する一曲である。

 

4. Every Breath You Take (見つめていたい) 

だが、そんな彼らのキャリアの中でも最大のヒットとなったのが「Every Breath You Take」だ。徐々に盛り上がりを見せる構成も実に見事なこの曲は、本国英国だけでなくアメリカでも1位を獲得。両国で首位に立ったポリスのシングルはこれ一曲のみである。

8週に亘り全米チャートを制した「Every Breath You Take」はまた、1984年のグラミー賞でも最優秀楽曲賞と最優秀ポップ・パフォーマンス賞 (デュオまたはグループ部門) を受賞するという輝かしい結果を残した。

その後も同曲はポピュラー文化の中での”第二の人生”を歩んでおり、特にパフ・ダディが故ノトーリアス・B.I.G.に捧げた1997年の楽曲「I’ll Be Missing You」でサンプリングされたことはよく知られている。

 

グループ初期のシングル曲

5. Fall Out

ポリスも駆け出しのころには湿っぽくビール臭いクラブで演奏していた。そうした空気感を感じられるトラックを探しているなら、かき鳴らされるギターのコードと叫ぶようなスティングのハイトーン・ヴォイスが特徴的な「Fall Out」をお勧めしよう (1977年にポリスのデビュー・シングルとして発表された一曲だ) 。

 

6. Next To You

また、その観点でいえば1978年のデビュー作『Outlandos d’Amour』の冒頭を飾った「Next To You」も素晴らしい選択肢といえる。

同曲ではコープランドが正確無比なリズムを刻んでいるほか、いまにもロック・スターになろうとしていたスティングも常軌を逸した見事な歌声を披露。コーラス・パートではコープランドとサマーズもそこに加わって三声のハーモニーを完成させている。

 

7. So Lonely

ポリスの初期のころは、スカやレゲエがイングランド全土で流行している時期だった。そしてスティングは、西インド諸島で生まれたそれらの音楽への憧れを込めて「So Lonely」を作曲。驚くほどエネルギッシュなこの曲で彼は、うねるようなカリブ海特有のリズムでベース・ラインを弾いている。

のちに本人が明かしたところによると、これはボブ・マーリーの「No Woman, No Cry」のメロディーに乗せて歌詞を書いたことから生まれたアイデアなのだという。

 

8. Can’t Stand Losing You

さらに、物議を醸した一曲「Can’t Stand Losing You」もレゲエからの影響が感じられるナンバーだ。スティングが曲の中で自殺について露骨に歌った同曲は、そのジャケット (ロープを首に巻いたコープランドが、溶けゆく氷の塊の上に立っているというもの) のせいもあってBBCから放送禁止処分を受けた。とはいえ、グループにとって初めて全英チャートでヒットを記録したのはこの曲だった。

 

9. Roxanne

だが、ポリスの1stアルバムにおけるベスト・ソングを挙げるとすれば「Roxanne」になるだろう。同曲は、権威ある賞に輝いた映画の中でも使用されるほど愛され続ける一曲だ (『ムーラン・ルージュ』の劇中歌で「Roxanne」をベースにした「El Tango de Roxanne」は脳裏に焼き付くほど印象的だった) 。

「Roxanne」は最初のリリース時こそほとんど話題にならなかったが、そのあとでポリスを世界的な成功へと導くこととなる。そのきっかけは、スチュワートの兄で、レコード会社を経営していたマイルス・コープランドがこの曲を気に入ったことだった。その結果、彼はグループのマネージャーに就任し、A&Mレコードとの契約をポリスにもたらしたのだ。

 

ニュー・ウェーヴ・サウンドの傑作

10. De Do Do Do, De Da Da Da

ポリスの名曲群には必ずと言っていいほど、金属的な響きのディレイが掛かったアンディ・サマーズの”例のギター・サウンド”が入っている。そしてその音色は、ニュー・ウェーヴの音楽に欠かせない必須要素となっていった。シンプルかつキャッチーな一曲にして、サマーズが全編を通して輝きを放つ「De Do Do Do, De Da Da Da」のギターはその好例といえよう。

 

11. Spirits In The Material World

他方、1981年作『Ghost In The Machine』の一曲目に配された「Spirits In The Material World」は、シンコペーションを多用したレゲエ特有のリズムに回帰したナンバー。同曲ではシンセサイザーがふんだんに使用されているが、81年当時、この楽器をスティングが取り入れるのはまだ珍しいことだった。

 

12. Invisible Sun

『Ghost In The Machine』はグループが一作を通して型破りな実験を試みたアルバムだったが、「Invisible Sun」はその実験性が頂点に達した驚くべき楽曲だ。北アイルランド紛争に心を痛めたスティングは、アイルランドにおける騒乱を表現したいと考えて同曲を書き上げた。だが同時に彼は、この問題にもいつかは終わりが来るという想いを歌い込んでもいる。

There has to be an invisible sun
That gives us hope when the whole day’s done
きっと見えない太陽が昇っているに違いない
夜がやって来ても、それが俺たちに希望をくれるんだ

「De Do Do Do, De Da Da Da」と「Invisible Sun」の作風は大きく異なるが、そのことはポリスがニュー・ウェーヴ界にもたらした多様性の証左といえるだろう。彼らはどんなに一般的なコード進行や感情でも、未来から届いた”音のメッセージ”のように仕上げることができたのである。

 

ジャンルに変化をもたらした楽曲

13. Message In A Bottle (孤独のメッセージ)

ポリスはすべての作品にレゲエの影響を取り入れていた。だが特に1979年作『Regatta de Blanc (白いレガッタ)』の名曲群においては、そうした要素が楽曲の根幹を成している。例えば同作からの1stシングルである「Message In A Bottle」は、ニュー・ウェーヴとレゲエの要素を完璧に組み合わせた一曲だ。

 

14. Walking On The Moon

こうした多ジャンルの融合はリスナーの心を捉え、同曲はグループにとって初となる全英1位をマーク。また、同じようにムード満点の曲調とリズム・パターンを特徴とする「Walking On The Moon」も世間からの厚い支持を集めた。

 

15. Driven To Tears (世界は悲しすぎる)

『Zenyatta Mondatta』収録の「Driven To Tears」は、飢餓に苦しむ子供たちや極度の貧困にあえぐ人びとに関する報道を目にしたスティングが、自身の想いを率直に表現した一曲。憂いを帯びたこのトラックは、彼が初めて書いた政治的アンセムでもある (彼は1985年の一大イベントであるチャリティー・コンサート”ライヴ・エイド”でもこの曲を披露した) 。

 

16. Tea In The Sahara (サハラ砂漠でお茶を)

他方、ポリスの楽曲群の中には、スティングの愛するジャズを基調とした艶かしい楽曲も数多く存在する。その一つである「Tea In The Sahara」は、ラウンジ・ミュージック風のサウンドの傑作。音数が少なくスローな曲調の同曲は、グループの初期の作品を代表するダイナミックなシングルの数々と好対照を成している。

 

『Synchronicity』に収められた秀作

17. Synchronicity I
18. Synchronicity II

ポリスが華々しい成功を収めたことは言うまでもないが、中でも最大のヒットを収めた作品が『Synchronicity』である。心理学の先駆者であるカール・ユングの理論からタイトルを取った同作は、米ビルボード200チャートで1位を獲得したポリス唯一のスタジオ・アルバムなのだ。

そんな同作には前述の「Every Breath You Take」だけでなく、混沌としたサウンドの「Synchronicity I」や未来的な響きの「Synchronicity II」なども収められている。同じ題名を与えられた上記の二曲はグループが電子音楽の分野へと舵を切った野心作で、疾走感のあるビートとシンセを多用したサウンドが特徴的である。

 

19. Wrapped Around Your Finger

『Synchronicity』はポリスのアルバムの中でもっとも幅広い要素を含んだ多様な作品だ。例えば抑制の効いた「Wrapped Around Your Finger」のサウンドは、一言で表現するのが難しい。ただ、この曲もチャートのトップ10に入っていることを考えれば、”ポップ・ミュージック”と形容してしまうのが一番簡単だろう。

 

20. Murder By Numbers

他方、アルバムのラストを飾る「Murder By Numbers」は、洒落た変化球といえるような遊び心溢れる一曲。コープランドのドラミングとサマーズの弾く一風変わったコードも相まって、犯罪映画の主題歌のような趣に仕上がっている。そして、これらの楽曲から成る素晴らしいラスト・アルバムは、1984年のグラミー賞で最優秀ロック・パフォーマンス賞 (デュオまたはグループ部門) を受賞した。

Written By Hilary Hughes


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