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ザ・ルーツ『The Tipping Point』解説:マルコム・グラッドウェルの書籍から付けられたタイトルの傑作

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Cover: Courtesy of Geffen Records

2004年7月13日、ザ・ルーツ(The Roots)は、6作目のスタジオ・アルバム『The Tipping Point』をリリースした。

アルバムに書籍由来のタイトルを付ける彼らの流れはここでも続いており、1999年のアルバム『Things Fall Apart』は、チヌア・アチェベの先駆的な小説からその名を採っていたが、『The Tipping Point(邦題:ティッピング・ポイント)』は、2000年に刊行されたマルコム・グラッドウェルのポップ社会学書から名づけられている。

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The Roots – Don't Say Nuthin' (Official Music Video)

『The Tipping Point』は、一見すると異質に思えるさまざまな文化的要素を融合させ、批評性を保ちながらも親しみやすい作品へと昇華する、ザ・ルーツならではの手法を最もよく体現したアルバムと言える。サウンドは、ある瞬間には抑制の効いた落ち着きを見せ、また別の瞬間には意外性に富んだ展開を繰り広げる。そこには、ヒップホップ史の中で過小評価されてきた実力派アーティストたちや、後にレジェンドとなる新世代の才能が顔を揃え、ザ・ルーツ自身もポップカルチャーの中で確固たる地位を築きつつあった時期の姿が刻まれている。

その後もマルコム・グラッドウェルはベストセラーを次々と世に送り出しているが、一方で、彼の著作を逸話を積み重ねて疑似科学的な結論を導くものだと批判する声も少なくない。実際、『The Tipping Point』の理論的な土台となった社会実験についても、その信頼性を疑問視する指摘がなされている。もっとも、ザ・ルーツ自身もマルコム・グラッドウェルの理論を額面どおり受け入れていたわけではなさそうだ。彼らにとって『The Tipping Point』というタイトルは、著者の思想への賛同を示すものというよりも、文化や社会を考察するための出発点として借用したものだったように思われる。

 

文化的折衷主義

ザ・ルーツの文化的な探究は、アルバム・タイトルや政治的なジャケット・アートだけにとどまらない。『The Tipping Point』は、7分を超える2曲がアルバムの冒頭とラストを飾る構成となっており、一見すると対照的な楽曲でありながら、その折衷的(エクレクティック)な音楽性によって作品全体に一貫した統一感を与えている。

オープニング曲「Star」は、クラシック・ソウルをサンプリングした正真正銘のブーム・バップ・ナンバーで、カイリー・ミノーグやルーベン・スタッダードへの言及も盛り込まれている(もっとも、そうした時代性を感じさせるネタの中には、現在ではやや古びて聞こえるものもある)。

The Roots – Star (Official Music Video)

一方、アルバムを締めくくるインストゥルメンタルは、意外にもドイツ人ミュージシャン、ジョージ・クランツの「Din Daa Daa」のカヴァーである。ダンスホールとジャズ・フュージョンの中間を行き来するようなアレンジに、1980年代風のシンセサイザーを織り交ぜたサウンドは、初めて聴くと原曲とのつながりがすぐには分からないほど大胆に再構築されている。

それでも、この曲はアルバムの中でもひときわ印象的な存在感を放っている。「Din Daa Daa」はその後、イン・ヤン・ツインズ、ピットブル、フロー・ライダーらの楽曲でもサンプリングされることになるが、それらはいずれも、よりダンス・フロア向けのパーティー・チューンとして生まれ変わっている。

Din Da Da

 

謎めいたコラボレーション

『The Tipping Point』には、謎めいた魅力を放つ多彩なゲスト陣も参加している。2004年当時、アイス・キューブからアッシャー・ロスまで幅広いアーティストとの共演で知られ、アンダーグラウンド・シーンの重要人物として人気を高めていたデヴィン・ザ・デュードは、「Somebody’s Gotta Do It」に参加。同曲では、9thワンダーやリル・Bともコラボレーションしてきたラッパー、ジーン・グレイと共演を果たしている。

さらに、コメディアンのデイヴ・シャペルもアルバムに参加。これは、ザ・ルーツが映画『ブロック・パーティー』でパフォーマンスを披露したことへの“お返し”とも言える共演となった。

Somebody's Gotta Do It

本作で最も興味深いコラボレーターと言えるのが、スコット・ストーチだ。彼はザ・ルーツのオリジナル・メンバーの一人で、キーボーディストとして活動した後、プロデューサー業に専念するためグループを脱退。その後はヒップホップ/R&B界を代表するヒットメーカーへと成長した。『The Tipping Point』では、「Don’t Say Nuthin’」のプロデュースを担当。重厚なビートと印象的なキーボード・フレーズを軸にしたサウンドは、スコットらしさが存分に発揮された会心の一曲となっている。

当時のスコット・ストーチを起用したことは、まさに絶妙なタイミングだった。2003年にはビヨンセやクリスティーナ・アギレラのヒット曲を手がけ、2004年にはファット・ジョーの「Lean Back」をプロデュース。同曲は、スコットのキャリアを代表する最大級のヒット作として広く知られている。その後、2000年代後半には、数々のヒットを生み出したプロデューサーとしてだけでなく、莫大な財産を浪費したことでも大きな話題を集めることとなった。しかし、2010年代半ばには見事な復活を遂げ、再び第一線のプロデューサーとして活躍するようになった。

 

ポップ・カルチャーとの関わり

1990年代から2000年代にかけて、ザ・ルーツは社会的な問題意識を反映した作品を発表し続け、ポップカルチャーと誠実に向き合ってきた。彼らの音楽は、社会や文化を鋭く見つめながらも、その一部として積極的に関わる姿勢を貫いており、決して上から目線になることはなかった。その後、人気TV番組“Late Night with Jimmy Fallon”(のちの“The Tonight Show Starring Jimmy Fallon”)のハウス・バンドという大きな役割を担うようになってからも、キャリアを代表する傑作を次々と発表し続けている。

エンターテインメント界でこれほど影響力のあるポジションを築き上げたこと自体が、ザ・ルーツにとって大きな偉業と言える。そして『The Tipping Point』を聴けば、その飛躍がまさに形になり始めていた瞬間を感じ取ることができる。

Written By Patrick Bierut


ザ・ルーツ『The Tipping Point』
2004年7月13日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




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