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ローリング・ストーンズ「Get Off Of My Cloud」解説: “放っておいてくれ”という切実な訴えの曲

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Photo: Michael Ward/Getty Images

ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』の発売を記念して彼らの名曲を振り返る記事を連続して掲載。

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「(I Can’t Get No) Satisfaction」の大ヒット

名声を手にしたがゆえに圧しかかるプレッシャーに苦しむ中で制作された「Get Off Of My Cloud (一人ぼっちの世界)」は、“放っておいてくれ”というザ・ローリング・ストーンズの切実な訴えそのものだった。だが、なぜそんな事態になってしまったのだろうか?

そもそも、ストーンズが活動に弾みをつけた1965年の多忙ぶりは凄まじかった。その1年を通じてグループは11回ものツアーをこなし、ヨーロッパのほか、オーストラリア、シンガポール、アメリカ、カナダと、世界中でライヴを行っている。その上、どこを訪れてもファンや記者、カメラマンがこぞって彼らのもとに押し寄せ、メンバーはその対応に追われていたのだ。

その年の5月、彼らは同年最初のアメリカ・ツアーを行っていたが、その合間を縫って新たなシングルのレコーディングが行われることになった。そのシングル「(I Can’t Get No) Satisfaction」はキースが考案したリフを基にした1曲で、彼とミック・ジャガーの二人が作詞に着手したのは、フロリダ州クリアウォーターのフォート・ハリソン・ホテルでプールに入っていた時だったという。

そして、その数日後には、ロサンゼルスのRCAスタジオでレコーディングが行われている。キースがフロリダから母親宛に送ったポストカードには、当時のスケジュールの過密ぶりがよく表れている。

「やあ、母さん。相変わらず毎日、馬車馬のように働いているよ。キースより、愛を込めて」

ザ・ローリング・ストーンズの面々がスコットランドを訪れていた6月の第二週、「Satisfaction」はアメリカのビルボード・チャートに初登場し、その1ヶ月後には首位まで上り詰めた。

一方、母国UKで1位となった9月の第二週 (リリース日程をめぐる意見の対立があったため、時期に遅れが生じた)には、彼らはすでにドイツに移動していた。ストーンズはこの曲の成功で世界的な名声を手にし、ロックンロール界のきっての不良グループとしての評判を一層高めた。一時代を代表するアンセムである「Satisfaction」は不動の傑作だが、ストーンズの面々が同曲の成功だけに満足することはなかった。キースはのちにこう振り返っている。

「ヒット曲を作り続けなきゃいけないという当時のプレッシャーは、とても理解できるものじゃない。あのころは、シングルを出すたびに楽曲や演奏の質を上げていかなければならなかった。新しい曲の出来がその前の曲に劣ると、“もう落ち目だ”って言われたもんだよ。だから“(I Can’t Get No) Satisfaction”が成功すると、俺たちはみんな“ああ、助かった。これでようやくゆっくり休める”と思った。でもそこへアンドリュー・オールダム (ストーンズのマネージャー兼プロデューサー) がやってきて、“よし。それで、次の曲は?”って訊ねるんだよ。結局は気の持ちようなんだ。俺たちは8週間おきに、2分30秒ですべてを伝え切ることのできる最新曲を作らなきゃならなかったんだ

そうしたプレッシャーの蓄積に過酷なスケジュールが追い討ちをかけたことが、次なるシングル「Get Off Of My Cloud」のリリースに繋がったのである。

The Rolling Stones – (I Can't Get No) Satisfaction (Live- Ireland 1965)

 

アメリカでのレコーディング

ザ・ローリング・ストーンズにとってアメリカでの4作目のアルバムに当たる『Out Of Our Heads』は、7月30日にリリースされた (一方、彼の国での3作目に当たる英国盤アルバム『Out Of Our Heads』は9月後半にリリースされている) 。当時の状況を考えればもっともだが、このアルバムの中でジャガーとリチャーズが共作したオリジナル・ナンバーは全体のおよそ3分の1にすぎなかった。世界中を駆け回りながら曲作りをすることの弊害といえるだろう。

それらの収録曲の一部はシカゴのチェス・スタジオで制作されたが、大半はロサンゼルスでレコーディングされている。それまでメンバーたちは、演奏の細かいニュアンスをレコードに落とし込めていないと感じていたという。だがロサンゼルスでは、エンジニアのデイヴ・ハッシンガーのおかげでそれを実現することができたのだった。

そのため、ハッシンガーへのメンバーからの評価は非常に高かった。実際、アイルランドでの日程とドイツでの日程の合間に当たる9月の第一週には、わざわざ彼のいるロサンゼルスに飛び、サンセット大通りにあるRCAスタジオにて2日間のレコーディングを強行している。スケジュールにねじ込まれた形の同レコーディング・セッションでは、オールダムのプロデュースの下、次なるヒット曲の制作が期待されていた。そして、その新曲のヒントは彼らの周囲に転がっていたのだった。

その年の夏にザ・ビートルズのジョン・レノンが「Help!」で助けを求めたのと同じように、ミック・ジャガーは新曲「Get Off Of My Cloud」の題材として、息がつまるような日々の責務に目を向けたのだ。

 

歌詞の内容

彼をはじめとするストーンズの面々は常日頃から、鳴り止まない電話や、何とかして彼らの時間を確保しようとする人びと、そして彼らの前に待ち受ける長期のツアー日程など、押し付けがましい上に正当性の乏しい要求の数々に押し潰されそうになっていた。同曲はそうした物事に対する真正面からの反抗だったのである。

キングスメンの「Louie Louie」を思わせる同曲のギター・リフは、自信たっぷりに鋭くかき鳴らされる。一方、チャーリー・ワッツによる揺るぎないビートとビル・ワイマンによるパワフルなベースラインは、ストーンズというグループの確固たる粘り強さを体現しているようだ。そして、そんな演奏に支えられる「Get Off Of My Cloud」は、彼らに重くのしかかっていた期待に力強い非難を表明し、それを反抗的な態度ではねのけた1曲だったのである。

この曲のそれぞれのヴァースでは、自分だけの空間を邪魔してくる物事についてミック・ジャガーが早口で不満をぶちまけている。はじめに、家で過ごしていた彼は、くだらないコマーシャルと隣人からの苦情電話に平穏な日常を乱されてしまう。最後には車で家を飛び出すが、今度は心地よい眠りを大量の駐車違反切符で台無しにされてしまうのである。ミックはリリースから30年を経てこう語っている。

「これは、“俺に構わないでくれ”という想いとか、10代を過ぎて感じる疎外感を歌った曲だ。1960年代前半の大人たちの世界は、すごく統制のきつい社会だった。だから俺はそこから抜け出したんだ。そして、アメリカはほかのどの国よりも統制されていた。思想にしろ行動にしろ服装にしろ、制限だらけの社会だったんだ」

「Get Off Of My Cloud」は、アメリカではレコーディングのたった2週間後にリリースされた (UKではその翌月になってようやく発売されている)。聴くだけでアドレナリンが噴出しそうなこの曲からは、衰えることのないストーンズの創造性のさらなる進化が感じられた。この曲は「Satisfaction」に続くシングルという大役を見事に果たしたのである。キースは自伝の中で同曲についてこう記している。

「もし“Satisfaction”の次の曲もファズ・ギターのリフにしていたら、俺たちはそれ以上の身動きが取れなくなっていただろう。同じことを繰り返して、“収穫逓減の法則”のように少しずつ落ちぶれていくだけだ。その落とし穴にはまって沈んでいったバンドはたくさんいる。“Get Off Of My Cloud”は、次々に要求を強めてくるレコード会社への反抗だった ―― つまり、放っておいてくれっていうメッセージだ。違った角度から攻撃を仕掛けたんだ。そして、これもまた成功を収めた

Get Off Of My Cloud (Mono)

 

発売後の反響

「Get Off Of My Cloud」は同年11月に、英米両国 (及びカナダとドイツ) のヒット・チャートで1位を記録した。結果的には、リリースを急いだことで「Satisfaction」の人気を最大限に活かすことができたといっていいだろう。彼らのシングルはこの曲で5曲連続チャートの首位に立った計算になるが、当時同じ記録を保持していたのはザ・ビートルズとエルヴィス・プレスリーの2組だけだった。

この曲はファンからの支持こそ集めたものの、作り手であるメンバーからの評価は芳しくなかった。リリースから2年が経ったころ、ミックは「Get Off Of My Cloud」について「あまりグルーヴィーじゃない」と表現し、歌詞に関しては「たわごと」だと断じた。そんなこともあってか、「Get Off Of My Cloud」は1967年のステージを最後に、21世紀に入るまでライヴで取り上げられなかった。そして、21世紀に入ってからも演奏される機会はごくわずかでしかない。

The Rolling Stones – Get Off Of My Cloud (Live) – OFFICIAL

彼らがこの曲に懐疑的なのは、制作が急ピッチで進められたせいでもあるだろう。キースはミキシングの質の悪さを指摘し、同曲をオールダム史上「最悪の作品」と評価している。だがその点にこそ、この名曲の本当の素晴らしさがある。

同曲ではキースとブライアン・ジョーンズの鋭いギターが、冷静にフレーズを繰り返すワイマンのベースや、隠し味のようにアクセントを加えるイアン・スチュワートのピアノ、そしてマシンガンのようなワッツのスネア・ドラムといったほかの楽器と空間を奪い合うようにして鳴り響いている。それもそのはず、すべてが同じボリュームに設定されているのだ。

このようにオールダムは大胆ともいえる“ウォール・オブ・サウンド”を作り上げることで、ストーンズの面々が勇敢にも立ち向かっていた逃げ場のない環境や、それに伴う彼らの苛立ちを楽曲の中で表現したのである。

音楽界のレジェンドであるニール・ヤングも、彼らの強い怒りがみなぎる同曲を高く評価している。彼は「Satisfaction」の張り詰めた曲調よりも、「Get Off Of My Cloud」の「無茶なほどの奔放さ」が好みなのだという。また彼の言葉からは、直感的に作られた楽曲である点に同曲の魅力が隠されていることがわかる。カナダを代表するアーティストである彼はこう説明している。

「この曲で肝心なのは、明らかに慌ててでっち上げた曲だってことだ。スタジオに向かう途中か、その前日に思いついたような感じだろう?俺はそこが気に入っているんだ。これぞまさにザ・ローリング・ストーンズ ―― そんな風に聴こえるんだよ」

Written By Simon Harper


最新アルバム

ザ・ローリング・ストーンズ『Hackney Diamonds』

2023年10月20日発売
デジパック仕様CD
ジュエルケース仕様CD
CD+Blu-ray Audio ボックス・セット
直輸入仕様LP
iTunes Store / Apple Music / Amazon Music


シングル

ザ・ローリング・ストーンズ「Angry」
配信:2023年9月6日発売
日本盤シングル:2023年10月13日発売
日本盤シングル / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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