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スティング『Ten Summoner’s Tales』解説:自宅で録音された名曲ばかりの傑作

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スティング(Sting)の素晴らしい4枚目のアルバム『Ten Summoner’s Tales』は、創造性と商業性が完璧に一致する機会のひとつとなった。大西洋を横断する大ヒットとなったこのアルバムは、マルチ・プラチナムを売り上げると同時に、Entertainment Weekly誌曰く「鮮烈なイメージの逸品」を収録した、創造的な力作でもあった。

タイトルは、スティングの苗字であるサムナー(Sumner)と、ジェフリー・チョーサーによる名著『カンタベリー物語』の登場人物(召喚人/the summoner)を組み合わせた語呂合わせに由来しており、内容は前作『The Soul Cages』よりも明らかにアップビートになっている。また、このアルバムの内省的な内容は、事実上、スティングの亡き両親への私的な弔辞でもあった。

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自宅で録音したアルバム

スティングは『Ten Summoner’s Tales』のリリース時に次のように語っていた。

「『The Soul Cages』は目的を果たしたと感じたんだ。僕はいくつかの霊を追い祓ったので、もう一度祓う必要性をあまり感じなかった。僕は、ただ楽しく曲を書くことに戻れるようなレコードを作りたかった。そして今回はまさにその通りになったんだ。とてもいい気分だった。バンドと一緒にいて、彼らや自分、そして家族を楽しませるために曲を書いていた。このレコードを聴くと笑顔になるんだ」

『Ten Summoner’s Tales』のポジティブな雰囲気を維持するための重要な要因は、通常のレコーディング施設を使用しないというスティングの決断だった。アルバムのミキシングはロンドンのタウンハウススタジオで行われたが、ミュージシャンたちはセッションのために400年の歴史を持つスティングのウィルトシャーの家、レイクハウスに移動し、プロデューサーのヒュー・パドガムとアシスタントエンジニアのピート・ルイスがスティングの新しいステアパイク SSLポータブルスタジオで楽曲を収録した。スティングはこう説明する。

「スタジオはあまり好きではないんだ。何ヶ月も空気を吸わず、日光も浴びない牢獄のような環境だと思う。だから、ダイニングルームからすべてを運び出し、バンドや楽器、プロデューサーやエンジニアなど、機材を運び込んだんだ」

隣接するキッチンでの家庭料理や庭での散歩は、グループの創造性をさらに高め、スティングとドミニク・ミラー(ギター)、デヴィッド・サンシウス(キーボード)、ヴィニー・コライウタという多才なチームによる、これまでにない共鳴によって音楽が創作されていった。

大衆意識に残るコーラス

このセッション中に、闊達でブルージーな「Heavy Cloud, No Rain」から人気のある「Shape Of My Heart」、ジャジーで『The Dream Of The Blue Turtles』風のグルーヴにネオクラシックのミドルセクションが入り込み、驚くべき効果をあげた「She’s Too Good For Me」まで、豊かで多様、そして大きな満足感を得られる曲が誕生した。

[和訳MV] Sting – Shape Of My Heart / スティング – シェイプ・オブ・マイ・ハート [公式] / 映画『レオン』挿入歌

また、『Ten Summoner’s Tales』には、スティングの最も時代を超えた発言もいくつか含まれている。ローリング・ストーン誌が後に指摘したように、軽快な「If I Ever Lose My Faith In You」は「純粋に形而上学的な問いかけが感じられる一流のポップソング」であり、鮮やかな求愛劇「7 Days」(歌詞ではザ・ポリスの「Every Little Thing She Does Is Magic」をこっそり引用)は、賞賛に値する軽妙なタッチで表現されていた。

しかし、このアルバムの最高傑作は間違いなく「Fields Of Gold」である。痛いほど美しいバラードで、スティングがこれまでに書いた曲の中で最も偉大なもののひとつに数えられる。

Sting – Fields Of Gold

 

発売後の評価

1993年3月9日にA&Mから発売された『Ten Summoner’s Tales』は、ほとんどすべての批評家から賞賛された。ローリング・ストーン誌は、このアルバムを「重要で感動的」と評し、スティングの歌唱力に注目し、「一貫して感動的なシンガーであり続け、現代のシーンで最高の一人である」と評価。一方、Entertainment Weekly誌は、「スティングはいまだにラジオヒットの稀有な錬金術を理解し、大衆意識に残るようなコーラスを作り上げている」と冷静に指摘している。

後者の批評は、まさに的を射ている。「If I Ever Lose My Faith In You」と「Fields Of Gold」は、大西洋の両岸でトップ30に入るヒットとなり、「Seven Days」とアルバムのゆったりしたフィナーレを飾る「Nothing ‘Bout Me」は、UKトップ40を記録した。

アルバム『Ten Summoner’s Tales』は、UKとアメリカで2位を記録し、グラミー賞の最優秀男性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞(「If I Ever Lose My Faith In You」)、レイクハウスでのアルバム全体の制作を撮影したダグ・ニコル監督の魅力ある映像による最優秀ロングフォーム・ミュージックビデオ賞など数々の賞を獲得した。

Sting – If I Ever Lose My Faith In You

 

残り続ける名曲

スティングのディスコグラフィーに欠かせない作品である『Ten Summoner’s Tales』は、ポピュラーカルチャーに浸透し続けている。「Fields Of Gold」と「It’s Probably Me」はエヴァ・キャシディやグレゴリー・ポーターなど様々なアーティストにカバーされ、「Shape Of My Heart」は1996年にNasが「The Message」で使用して以来、R&Bやヒップホップ曲で広くサンプリングされ続けている。

The Message

2007年、スティングは『Ten Summoner’s Tales』の功績を振り返り、このアルバムが永続的に成功したのは、自宅でレコーディングしたこと、そしてその決断が彼にもたらしたすべてのポジティブな要素に起因していると次のように述べている。

「僕は書くことにインスピレーションを感じ、何年かぶりに純粋な幸福感に包まれた 。壮大なコンセプトも計画もなく、思いつく限りの多様なスタイルとムードで物語を語ることを楽しむこと以外にはなかった。この屈託のない精神がこのアルバムを貫き、私の最も人気のあるレコードのひとつになるのを助けんだ」

Written By Tim Peacock



スティング『Ten Summoner’s Tales』
1993年3月9日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




 

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