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マディ・ウォーターズ『The Folk Singer』デルタ・ルーツとスキルが融合した傑作

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近代で最も心を揺さぶるブルース・トラックを含むこのアルバムは、紛れもなく史上最高のブルース・アルバムの一つと言える。マディ・ウォーターズの『The Folk Singer』は、ミシシッピで生まれ育った男のデルタ・ルーツとシカゴで磨いたスキルを融合した傑作だ。

1947年に初めてアリストクラット・レコード(後にチェス・レコードへと発展する設立間もないレーベル)のスタジオにてレナードとフィル・チェスと会った時から、マディ・ウォーターズの地に響く溢れるうなり声、きらめくスライド・ギター、そしてその時々に集められたバンドの演奏によって後押しされるノリにデルタ・ブルース・シーンは活気付けられてきた。アコースティックな始まりと比べると、ウォーターズの解釈はまるで電気ショックを11のレベルにまで上げたようにパンチが効いている。


彼のデルタ・サウンドの再解釈は、喧しく、自信たっぷりで、まるで因習に生意気な態度をとっているかのようで、60年代半ばの社交的な若者たちを自然と惹きつけた。1963年9月に行われた『The Folk Singer』のセッションからほんの数ヶ月後にはザ・ローリング・ストーンズが彼の元を訪れたことは決して偶然ではなかった。

その荒々しいエネルギーこそがマディ・ウォーターズの大きな強みであることを考えると、彼のアコースティックな音楽がどのようにして若い白人の観客へと広まったのかを不思議に思うだろう。海外でもその名が知れ渡り始めていた頃に、ドイツとイギリスをツアーで巡るという作戦が功を奏し、このアルバムへと繋がったのだった。

卓越した内容でありながら過小評価されていたこの作品の魅力的なサウンドは、ローリング・ストーン誌の史上最高のアルバム500の280番目に選ばれている。アンプを使用した楽器を少なくすることで、ウォーターズのうなり声はベースとドラムに比べて更に前面に押し出され、もう一人のギター奏者であるバディ・ガイがアルバムを通して演奏し「Feel Like Going Home」ではソロを披露している。「Feel Like Going Home」ではそのマイクロトーンの扱い方と心を揺さぶるブルース演奏が完璧に届けられており、最終トラックとしてアルバムを締めくくる。

Muddy Waters – Long Distance Calls (Live)

 

アルバムのB面はマディ・ウォーターズのスライド・ギターの泣き声で始まり、ウィリー・ディクソンの優しく流れるベースとクリフトン・ジェームズのしっかりとしたスネアドラムによって元気な雰囲気が作られている。ボ・ディドリーのドラマーとして知られるクリフトン・ジェームズはセンスが感じられるミニマリズムと手捌きで控え目にぽつぽつと音を加えている。その結果として大きな空間が作り出され、マディ・ウォーターズの嵐のような声の波が自由に転がる。これほどにうるさい静かな音楽があるだろうか。クリアなデジタル音でさらに素晴らしく聴こえる。

マディ・ウォーターズの代表曲の一つである「Good Morning School Girl」は、必要最小限にまで削ぎ落とされた演奏でありながら、なぜかよりパワフルに聴こえる。スライド・ギターとそのヴォーカルは、聴いた者を引き込み、その心をかき乱し、新たな催眠作用を及ぼす。波の中へと投げ入れられるように、それは魅力的で同時に恐ろしいものである。

ウィリー・ディクソンの「The Same Thing」と手にしていたものを手放すことについて歌った「You Can’t Lose What You Never Had」、そして後のセッションにてレコーディングされたボーナス・トラックも楽しんでもらいたい。とにかく素晴らしい傑作であるのだが、何よりも魅惑的なのは、マディ・ウォーターズのベスト・アルバムに相応しい9曲のオリジナル・トラックである。

アルバム『The Folk Singer』は見落とされがちではあるが、一度出会えば必ず貴重な体験になることは間違いない作品なのだ。だから、これ以上先延ばしにするのはもうやめよう。この作品を聴けば、手にしていたものを手放すことができるはずだ。そしてこのアルバムを聴けばあの刺激的なブルース・トラック「My Home is in the Delta」の歌詞の一言一句すべてを信じられるようになるはずだ。

Written By Richard Havers


マディ・ウォーターズ『The Folk Singer』
 

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