『Nevermind』のプロデューサーを起用したソニック・ユースの『Dirty』

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ニルヴァーナが『Nevermind』で大成功を収めたすぐ後にソニック・ユースが『Nevermind』のプロデューサーのブッチ・ヴィグを迎えたことは、一見したところ同じようにメインストリームを狙った計算済みの試みのように思える。しかし、アルバム『Dirty』を聴けば、そんな考えは一気に吹き飛ばされるだろう。

確かに、ラジオ向けの3〜4分の曲を多く含む作品を作るのはバンドにとって初めてのことであった。ブッチ・ヴィグのプロダクションはバンドの激しいギターに更なる活気を与えており、これらはわずかでも“ユニット・シフター”(*訳注:ニルヴァーナの「Radio Friendly Unit Shifter」にかけている。ラジオ・フレンドリーにするという意で使用)に近付くために妥協された曲だったのかも知れない。

曲は短いといっても(プロト・ハードコアのDCバンド、ジ・アンタッチャブルスの「Nic Fit」の理解不可能なカヴァーは1分にも満たないが)アルバム全体として短く感じる訳ではなく、『Dirty』はまるで1時間続く集中砲火のようで、片側にはサーストン・ムーアとリー・ラナルドのきらめくギター、そしてもう片側にはキム・ゴードンの息まじりのヴォーカルとしゃがれたヴォーカルが交互に届けられる。

ハードコアの偶像イアン・マッケイが参加した「Youth Against Fascism」に更なる鋭さを加え、そのトラックをシングルとしてリリースするとUKでは52位にランクインしたが、ソニック・ユースは『Dirty』を新しいファンたちにとってバンドの入口となる作品にするには難しい作品となった。

しかし、それこそがソニック・ユースの才能である。7枚のアルバムと何十年にも渡って実験的音楽を作ってきた経験上、サーストン・ムーアとメンバーたちはその風変わりな本能を短くてシャープな攻撃として凝縮し、妥協することなくグランジの優勢に乗っかっている。

シアトル音楽シーンの成功のお陰で、ニルヴァーナと同じレーベルのアーティストに対する期待は高かった。『Dirty』は今でもUKチャートで最も高い位置(6位)にランク・インしたアルバムで、同時にUSでは83位となり、当時アメリカでは最も高いランキングとなった。

しかし、仕事場でのセクハラを歌った「Swimsuit Issue」(名ばかりの雑誌モデルたちの地味な点呼が印象的)、又は最後の方に収録されサーストン・ムーアが音楽器材の電源を入れた時の音を元に作られた「Crème Brûlèe」(キム・ゴードンは“昨晩ニール・ヤングとキスした夢を見た/自分が男の子だったら楽しかったかもね”と歌う)をソニック・ユース初心者たちがどう受け止めたかは分からない。

しかし、ソニック・ユースがニューヨーク市のアヴァンギャルドでどんちゃん騒ぎな感覚で、グランジが目立つメインストリームをハイジャックする機会を大いに楽しんだことは間違いない。



ソニック・ユース『Dirty

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