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ニーナ・シモン「Feeling Good」解説:名盤『I Put A Spell On You』に収録された黒人の希望を歌う曲

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Photo: George Pickow/Michael Ochs Archives/Getty Images

1964年にリリースされたニーナ・シモン(Nina Simone)による社会的・政治的なアルバムであり、代表曲「Missississippi Goddam」を収録した『Nina Simone in Concert』が好評を博し、そして公民権運動が私生活にも反映されたことで、次の作品にて彼女が新たなテーマに向かっていることは明らかだった。それは人種差別が激しく分断された国に住む黒人女性としての彼女自身の経験に主に焦点を当てたものである。

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そんななかで発売された、ノースカロライナ州出身でジュリアード音楽院の教育を受けたニーナ・シモンのアルバム『I Put A Spell On You』は予想外の展開を見せた。このアルバムは、実際の街で起きている騒動や混乱に直面しながらも、黒人の幸せと楽観主義を強調しているものだった(1963年と1964年には全国的に人種問題に起因した暴動が起きていた)。そしてこのアルバムは、彼女を本格的なポップスの領域へと導くことになった。

アルバムのタイトル曲「I Put A Spell On You」では、彼女のビロードのようなヴォーカルがブルース歌手であるスクリーミン・ジェイ・ホーキンスが歌っていたこの楽曲を新たな高みへと引き上げ、風変わりな「Marriage Is for Old Folks」では、優しく奏でられたピアノとノリの良い木管楽器の上で彼女はうっとりとした表情を浮かべている。しかし、彼女の軽快な音楽性は、ビッグバンドを伴奏にした「Feeling Good」で最もよく表現されている。

I Put A Spell On You

「Feeling Good」のレコーディング

ニーナ・シモンはニューヨークで「Feeling Good」をレコーディングした。彼女はアレンジャーであり作曲家でもあるハル・ムーニーと協力して、この録音では今日ではよく見かけるジャジーなホーンを使用することにした。さらに楽曲の最後のほうでは、スキャットやアドリブでの即興を披露し、音楽的にもテーマ的にも重くなったこのトラックに新たな感情を加えている。

もともと、アンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカスが1964年のミュージカル『ドーランの叫び、観客の匂い(The Roar of the Greasepaint – The Smell of the Crowd)』のために書いた「Feeling Good」は、役名がなく“The Negro”と呼ばれるキャラクターによって歌唱されるものだった。このミュージカルの舞台となっている1960年代のイギリスでの人種や社会的、経済的な不平等を批判するように、劇中のゲームで“The Negro”が2人の白人のキャラクターに勝利した後、彼はこの曲を歌うのだ。

黒人や貧乏人が勝つものではなかったゲームでのまさかの勝利、そして苦悩と挫折の中から生まれた解放としての穏やかなオペラ調の楽曲は、ニーナ・シモンの歌唱によって新たな意図をもたらされている。オリジナル・バージョンでは“The Negro”が経験した勝利を伝えることに重点が置かれていたが、ニーナ・シモンのヴォーカルからアレンジに至るまでの自然なジャジーさが彼女のテイクの核となっており、それ自体が名演となっている。

Feeling Good

「Feeling Good」の評判

ニーナ・シモンはアルバム『I Put A Spell On You』の発売タイミングにて「Feeling Good」をシングルとして正式にリリースすることはなかった。しかし、1994年にイギリスのフォルクスワーゲンのCMで使用されたことで人気が高まり、その年の7月には全英シングルチャートで40位を記録。

彼女が歌うバージョンは多くのテレビ番組、映画、コマーシャルで聴くことができ、マイケル・ブーブル、ミューズ、アヴィーチー、ザ・スローンなどのアーティストにもカバーやサンプリングがされている。「Feeling Good」は、ニーナ・シモンの影響力のあるキャリアやカタログのように、メディアやジャンルを超えて永遠に愛され続けているのだ。

Avicii – Feeling Good

ニーナ・シモンの「Feeling Good」がリリースから何十年も経った今でも愛されているのは、彼女の楽曲がいかに時代を超越したものであるかを示していると言えるだろう。伝え手によっては、「Feeling Good」は異なる意味での多幸感を持っているかもしれない。しかし、この歌詞の最初の意図は、黒人の希望を前面に押し出したものだった。

1965年と現代のアメリカの類似性を考えると、「新しい夜明け、新しい一日、新しい人生 / a new dawn, a new day, a new life」を楽しみにしているというニーナ・シモンの大胆な宣言は、最初に録音された時と同じくらいの意図とインパクトを持って鳴り響いている。

Written By J’na Jefferson



ニーナ・シモン『I Put A Spell On You』
1965年発売
LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music




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