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ドレイク『Scorpion』解説:過去の自分を超えた長大な傑作アルバム

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ドレイク(Drake)は、2018年の1年間を通して、「God’s Plan」「Nice For What」「In My Feelings」という3曲のヒット曲 を相次いで全米シングルチャートのトップに送り込んでいる。次にリリースしたトラックがその前にリリースした自身のトラックを1位から引きずり落とすという形になったこの3曲の連続ヒットは、ヒップホップ史に残る快挙だったといっていいだろう。

また、それらのシングルには、それぞれに特徴的なコンセプトを備えたビデオ・クリップも作られている。中には衝撃的な内容のものもあり、そうしたビデオ・クリップが、楽曲そのものを凌ぐほど大きな話題を呼ぶこともあった。

カナダ出身のアーティスト、ドレイクの作品は例外なくヒットを記録してきたが、こうした中で2018年6月29日にリリースされたアルバム『Scorpion』は成功することが約束されていた1作だったのである。

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過去の確執の再燃

文字通りの隣人であるドレイクとカニエ・ウェストのあいだの確執は、長年に亘ってくすぶり続けていたが、二人のコラボレーションの成果である「Glow」(ドレイクが2017年に発表した『More Life』に収録)の制作以降は沈静化していた。

しかし、『Scorpion』とカニエの『Ye』のリリース準備がそれぞれ進む中で二人の関係は再び悪化。結果として、ドレイクがリル・ウェインを擁護する形で始まったプッシャ・Tとの争いも再燃することとなった。そのため一時は前作同様、ドレイクの新作リリースの話題が他者とのいざこざのせいで霞んでしまうかと思われた。しかし、このときの騒動は個人的な側面が強かったため、影響は限定的なものになり、リリースされたアルバムはドレイクのキャリアでも指折りの大ヒット作となった。

Glow

 

2枚組の長大なアルバム

近年、2枚組アルバムに取り組もうとするミュージシャンは決して多くない。隙なく纏め上げるにはアルバム2枚分では曲数が多すぎるし、曲の取捨選択がうまくできなかったことを自ら認めているようなものだからである。そのため、曲数が多いほどストリーミング再生数が稼げる時代であるにもかかわらず、多くのアーティストが曲数を絞ったシンプルなアプローチを志向している。

『Scorpion』を制作していたころのドレイクのように人気の絶頂を迎えていてもこの点は同様で、2枚組のアルバムを発表するにはそれ相応の理由が必要になるのだ。だが、ドレイクにはそれを正当化する理由があった。つまり、1枚のディスクに収まり切らないほど良い楽曲が揃っていたし、(彼を擁護するわけではないが)『Scorpion』の総再生時間は『Take Care』のそれと数分しか変わらないのだ。そんな同作の2枚のディスクはそれぞれに強い個性を持ちながら、密接に結びついた内容になっている。

 

タブーに自ら切り込んだ楽曲

『Scorpion』の1枚目のディスクでは、ビートに乗ったドレイクの巧みなラップやフロウを堪能できる。その時間は40分余りだが、収録されているのはどれも鮮烈で耳に残る楽曲ばかりだ。

まず注目すべきは、最初の数曲を経てアルバムが軌道に乗ったところに配されている「Emotionless」や「I’m Upset」などの楽曲だろう。それらの曲でドレイクは断固とした態度を取りつつも、複雑な心の内を表現している。

Emotionless

さらに彼は、ほかのラッパーたちとの確執が自身のキャリアに与えてきた影響についても語ることで、タブーに自ら切り込んでいる。しかし、彼はそのようなテーマにアルバム全体を費やすようなことはしていない。また、両者の不和を疑う人びとが依然として存在していた中、「Talk Up」では再びジェイ・Zと手を組んでいる。この曲が、二人の関係を示す何よりの証拠である。

Talk Up

 

内省的で落ち着いた楽曲群

攻撃性の高い1枚目とは対照的に、2枚目のディスクには内省的で落ち着いた楽曲が並ぶ。抜け目なく順序立てられた楽曲群の多くは直球のラップ・ナンバーではないが、だからといって完成度が劣ることもない。

スロー・テンポの楽曲が中心のディスク2は、“パーティーそのもの”というより“パーティーが終わったあとの時間”のような雰囲気だ。それでいて、各収録曲はじっくりと耳を傾ければ新たな発見に満ちている。「Jaded」や「Finesse」のような曲を収めるディスク2は全体として、『Take Care』の系譜を継ぐ“アダルト・コンテンポラリー・ラップ/R&B作品”という印象である。

Jaded

そして、何と言っても忘れてはならないのが、絶大な影響力を誇ったシングル「In My Feelings」である。「Keke」の名前でもよく知られる同曲は、シギーというコメディアンとインターネットの拡散力のおかげでチャートの首位に輝いた。ソーシャル・メディアに精通しているドレイクは、インターネット・ミーム(訳注:インターネットを通じて拡散される画像や動画などのこと)についても十分に理解していた。

そこで彼は、同シングルのビデオに“ケケ・チャレンジ”(訳注:「In My Feelings」の楽曲に合わせて踊る動画をSNS上に投稿すること)の創始者であるシギーを出演させ、同曲の流行を決定的なものにしたのである。

Drake – In My Feelings

 

自身と同じラッパーたちとのコラボレーション

ドレイクとフューチャーは何年も前から度々コラボしてきた間柄だ。「Blue Tint」は、そんな二人が身内向けのショーのため特別に急ごしらえしたような趣の1曲。

Blue Tint

また、シンガー・ソングライターのパーティーネクストドアと共演した「Ratchet Happy Birthday」はコアなファンの心にしか響かないようなナンバーだが、その点こそが同曲の魅力である。他方、ニッキー・ミナージュのヴォーカルをサンプリングした「That’s How You Feel」には、彼女への甘く切ない想いが表れている。

That’s How You Feel

 

すべてをうまく纏め上げたアルバム

『Scorpion』はドレイクが自身のシングル、収録曲の配置、他者との確執、スキャンダル、コラボ仲間の著名人に至るまで、すべての要素をうまく処理して纏め上げたアルバムである。優れたラッパーというものの素晴らしさがここに凝縮されているといっていい。また、ドレイクはいまでもコラボ相手を成功へと導く実力者であり続けている。メンフィス出身のプロデューサーであるテイ・キースや、「In My Feelings」のビートを手がけたトラップマネーベニー、あるいはパーティーネクストドアなどの人物は、みな口々にそう言うだろう。

このアルバムでは、多彩でありながら纏まりのあるサウンドに乗せて痛烈なラップが展開される。だがそれだけでなく、ドレイクが得意そうに優しく歌い上げる曲もあれば、大ヒット・シングルも収められている。また、いくら人気絶頂を迎えても、ドレイクにはその状況に対してどこか思うところがあるようだ。「After Dark」や「Final Fantasy」といった楽曲には、そんな彼の想いが表現されている。

After Dark

そして、感情を吐露することには慣れているはずのドレイクも、「March 14」では苦しそうに胸の内を明かしている。同曲は、父親になったという事実に対して彼が気持ちの整理をつけようとする内容である。

March 14

ドレイクは、攻撃的なラッパーと繊細なR&Bシンガーという二つの顔を持っている。『Scorpion』は、1作の中でその二面性が見事に共存したアルバムなのだ。

Written By Patrick Bierut



ドレイク『Scorpion』

2018年6月29日配信
CD / Apple Music / Spotify / Amazon MusicYouTube Music



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