ニルヴァーナ『Bleach』解説:バンドを世界に知らしめた痛烈なデビュー・アルバム

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ニルヴァーナ(Nirvana)のデビュー・アルバム『Bleach』は歴史的な名作アルバム『Nevermind』の原型だった。そして、このバンドが世界的なスターに成長し、ロックン・ロールの未来をドラマティックに作り変えるきっかけでもあった。

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ニルヴァーナの傑作セカンド・アルバム『Nevermind』は、1991年の秋から冬にかけて超新星の爆発のような大ヒットを収め、このバンドの登場はさながら青天の霹靂のように思えた。ただし実際のところ、彼らはデビュー・アルバム『Bleach』で既に基礎固めを済ませていた。このアルバムは、1989年6月15日にシアトルの最先端のインディー・レーベル、サブ・ポップからリリースされた。

最近では、『Bleach』は『Nevermind』につながる重要な作品として高く評価されている。しかしこのアルバムの制作過程は、かなり場当たり的なものだった。今は亡きカート・コバーンは現在ではロックの世界の中でもとりわけ伝説的なミュージシャンのひとりとして認められているが、彼とベースのクリス・ノヴォセリックは『Bleach』を発表するまでの一年半のあいだ、散発的にしかライヴ活動を行っていない。しかもプロデューサーのジャック・エンディーノと最初のデモのレコーディングを行った1988年1月の時点では、バンド名がようやくニルヴァーナに落ち着いたような段階だった。

ドラマー選びも、初めのうちは問題続きだった。1987年から88年の初めごろまで、このバンドにはアーロン・バークハードやデイヴ・フォスターといったさまざまなドラマーが出入りを繰り返していた。初めての10曲入りデモを録音した際には、メルヴィンズのデイル・クローヴァーを一時的に雇っていたほどだ。

エンディーノのレシプロカル・スタジオは、マザー・ラヴ・ボーン、サウンドガーデン、マッドハニーといったシアトル出身の未来のスター・バンドが既に使っていたところだ。ここでニルヴァーナが録音した最初のデモも、彼らが次のステップに進む上で重要な役割を果たした。伝説的なインディー・レーベル、サブ・ポップの共同創設者であるジョナサン・ポーンマンがこのデモに興味を持ったのだ。ポーンマンはニルヴァーナの最初のシングル「Love Buzz」を1988年秋に発表した。これは、オランダのサイケデリック・ロック・バンド、ショッキング・ブルーのカヴァーだった。

ニルヴァーナはのちに偉大なバンドとなったが、「Love Buzz」は彼らのサウンドを世界に知らしめた最初の曲となった。このシングルは、当初はサブ・ポップの限定盤”Singles Club”シリーズの第一弾として発売されただけだったが、アメリカ以外の国でも注目を集める作品となった。たとえばロック・ミュージックを扱うイギリスの週刊誌サウンズやメロディ・メイカー誌では、”Single Of The Week”に選出されている。

「Love Buzz」のレコーディングでは、新たなドラマーとしてチャド・チャニングが起用されている。チャニングはアルバム『Bleach』のレコーディングにも参加。このアルバムは、ジャック・エンディーノのレシプロカル・スタジオで何度か短いセッションを繰り返して録音された。レコーディング・セッションは1988年の末から89年1月にかけて行われている。噂によれば、メンバーが支払った制作費は合計してもわずか600ドルだったという。

当時シアトルで出現してきたグランジ・サウンドと歩調を合わせるように、『Bleach』も徹底的にラウドでヘヴィな作品に仕上がっていた。「School」「Blew」「Negative Creep」といった中心的な曲は、どれもブラック・サバスのようなヘヴィ・メタル/ハード・ロックの先駆者からかなりの影響を受けていた。またニルヴァーナと同時代のシアトルのバンド、メルヴィンズからの影響も見逃せない。実際、メルヴィンズの画期的なスラッジコア・サウンドを、コバーンは高く評価していた。

とはいえ『Bleach』の中でも抜群の出来になっていた曲は、のちにニルヴァーナを世界的なスターにしたあのサウンドの原型を形作っていた。このアルバムの準備をしていたとき、コバーンは自分のステレオでビートルズの初期のアルバムやナックの『Get The Knack』を頻繁に聴いていた。そうしたアルバムの非常にメロディアスなところに影響され、彼は素直なポップ・ロック・ラブ・ソングを初めて作り上げた。その曲「About A Girl」は、当時のガールフレンド、トレイシー・マランダーのことを歌った作品だった。

『Bleach』のライナーノーツには、ニルヴァーナの友人ジェイソン・エヴァーマンの名前がクレジットされている。ただしエヴァーマンはこのアルバムの録音に参加していない。とはいえ彼は、アルバム発売後にニルヴァーナが行ったアメリカ全国ツアーで短期間ながらセカンド・ギタリストを務めた。このツアーの結果、「Blew」「Love Buzz」「About A Girl」といったこのアルバムの人気曲は大学のカレッジ・ラジオで定番の人気曲になった。

『Bleach』はNME誌をはじめとする各メディアでも大絶賛され、草の根的な支持を集めた。その結果ニルヴァーナは1989年後半にヨーロッパツアーを行い、それが刺激となってカート・コバーンは「Breed」「Polly」「In Bloom」 といった曲を生み出した。そうしてニルヴァーナはメジャー・レーベルと契約して、ロックンロールの未来をドラマティックに作り変えた。

『Bleach』は、米アルバム・チャートのトップ200圏内にはランクインしなかったが、『Nevermind』がヒットしたあとで再リリースされ、ニルヴァーナを世界的なスターに成長させる上で大きな役割を果たした。

Written By Tim Peacock


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