ボブ・シーガーのベスト・ソング20:デトロイト生まれのロックの名曲たち【動画付】

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Photo: Michael Ochs Archives/Getty Images

10代の後半を、1960年代の前半から半ばにかけて迎えたアメリカ人の多くがそうであったように、ボブ・シーガー(Bob Seger)もまた、ザ・ビートルズに憧れてバンドを始めたひとりだった。しかしシーガーや米ミシガン州アナーバー出身の彼のバンドメイトたちは、ジェームス・ブラウンに対しても同じくらい強い憧れを抱いていた。

メロディックな”ファブ・フォー”と激しい”ソウルのゴッドファーザー”という強烈なふたつの個性に、ミシガン州生まれのシーガーのルーツを組み合わせたもの。そんな風に説明すれば、のちに彼が生み出していく音楽がどんなものなのか、おおよそおわかりいただけるはずだ。

シーガーが初めてアメリカのヒット・チャートで成功を収めたシングルは1968年の「Ramblin’ Gamblin’ Man」だったが、この曲はビートルズのようなタイトで精緻なソンライティングと、ジェームス・ブラウンのような熱量と緊張感が綯交ぜになった1曲だった。一方で、そのサウンドはあくまでシンプルで、一歩間違えば地味ともとられられかねないものだった。

この”繊細さと無骨さが共存する地元のバンド”という例えが当てはまるサウンドは、ライヴでの名演「Turn The Page (ページをめくって) 」や後期の佳曲「The Fire Inside」に至るまで、その以降数十年に亘ってシーガーが残していく諸作にそのまま引き継がれていくことになる。

数多くのヒット曲や、すばらしいアルバム・トラック、ステージでの名演などがある中で、シーガーの作品群を一から紹介するのは容易なことではない。ここでは、彼の音楽の真髄に迫るべくボブ・シーガーのキャリアを代表する20曲を紹介していこう。

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物語性を備えた思索的な楽曲

1. Turn The Page

ボブ・シーガーは決して焦らなかった。ロック・スターになりたいとは当然願っていたが、職人のようにコツコツと活動に勤しみながらその夢を追い続けた。そうした姿勢から生まれる抑制の効いたサウンドが、彼のいくつかの代表曲の大きな特徴にもなっている。

1972年、シーガーはまだ20代であったにもかかわらず、「Turn The Page」で旅する男の痛切な孤独感を見事に表現してみせた。「Turn The Page」はボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンドの名を冠した最初のアルバムになったライヴ盤『Live Bullet』(1976年) にも収録。このライヴ・アルバムはロック専門のラジオ局で大きな人気を博し、その結果、「Turn The Page」はシーガーの作品の中でもとりわけ広く知られる1曲になっている。

 

2. Beautiful Loser(美しき旅立ち)

『Live Bullet』の成功によって、シーガーの過去の作品にもあらためて注目が集まるようになった。彼が1975年にリリースしていた『Beautiful Loser (美しき旅立ち) 』はその好例と言っていいだろう。このアルバムのタイトル・トラックは、当時、シングルのA面に採用されるも、惜しくもビルボードのホット100チャート入りを逃ていたが、この上なくシーガーらしいサウンドが楽しめる1曲だった。

そこではシンプルでゆったりとしたドラムのビートに乗せて、ピアノ、オルガン、そして壮大なホーン・セクションといった、その他さまざまな楽器が遠慮がちに加わってくる。

曲が進むにつれ、少しずつ盛り上がりをみせていくが、決して制御不能には至らない。そのことはシーガーの歌にも表れている。

He wants to dream like a young man
With the wisdom of an old man
He wants his home and security
He wants to live like a sailor at sea
あいつは若者のように夢を見たいと願いながら
老人のような知恵も求めている
あいつは家庭と安定を望みながら
航海士のように暮らしたいんだ

シーガーは、若者の理想主義と中年の現実主義の葛藤というこのテーマを、のちのちまで繰り返し取り上げていくことになる。

 

3. Night Moves

「Night Moves」は、間違いなくボブ・シーガーのブレイクを決定づけた1曲だった。「Beautiful Loser」がそうであったように、シーガーはこの曲でも遠い昔の出来事や叶わぬ理想に想いを馳せる夢想家を演じている。平凡な大人になっていく中で青春を懐かしむ「Night Moves」は、非常に懐の深いシーガーの代表曲である。

ブルース・スプリングスティーンが『Born To Run (明日なき暴走) 』で国民的な人気を揺るぎないものにした翌年にリリースされた「Night Moves」には、どこかスプリングスティーンのその名盤の続編のような趣があった。そのためこの曲もまたロック・ファンから愛され、米シングル・チャートでは4位まで上昇。これを収録したアルバムの『Night Moves (炎の叫び) 』も6×プラチナ・ディスクに認定される成功を収めている。

 

4. Fire Lake

「Fire Lake」と「Roll Me Away」は、どちらも落ち着いたテンポの楽曲で、物語性のある歌詞でリスナーを魅了するシーガーの手腕が十二分に発揮されている。

シーガーと彼のチームはキャピトル・レコードを説得し、1980年のアルバム『Against The Wind (奔馬の如く) 』からの最初のシングルとして「Fire Lake」をリリース。この判断はまったくもって正しく、イーグルスのメンバー(グレン・フライ、ドン・ヘンリー、ティモシー・B・シュミット)がバック・コーラスを担った同曲は最高位6位に達する好成績を収めた。

 

5. Roll Me Away

「Turn The Page」から10年後にリリースされた「Roll Me Away」では、「Turn The Page」がそうであったように、旅をする男の姿を描かれている。将来への不安や難しい決断が歌われたこのミドル・テンポのトラックもまた傑作だ。

 

胸に迫るバラード

6. Mainstreet

ボブ・シーガーは悲痛な失恋を歌にすることにも長けていた。学生時代の憧れの女性や昔の恋人への想いを歌うソングライターが多勢を占める中、シーガーは「Mainstreet」を書き上げている。

『Night Moves』に収録されているこの曲は暗く憂鬱な作品だった。男は下町の店で働く魅惑的なダンサーに想いを寄せるが、話しかける勇気さえ出ないのだ。

 

7. We’ve Got Tonite(愛・ひととき)

それと似た絶望感を湛えたもうひとつの曲が「We’ve Got Tonite」である。聴き手が悲しみに沈んでいないとき、この曲は驚くほど甘い歌に聴こえるが、 (残念ながら) 恋に破れ、この曲を聴きたくなるようなときには聴き手に悲劇として迫ってくる。シーガーが恋する相手は、何度誘ってみても決して彼のそばにいてはくれないのである。

Turn out the light / Come take my hand now
We’ve got tonight / Why don’t you stay?
明かりを消して / そばで俺の手を取ってくれ
どうか今夜は / 一緒にいてくれないか?

 

8. Against The Wind

一方、「Against The Wind」は、そんな絶望的な気持ちを跳ね除けてくれるような曲だ。シーガーは過去の栄光や失敗を振り返った上で、それらをひと括りにして「カウボーイは向かい風に逆らって走るものさ / Let the cowboys ride against the wind」と歌っている。

 

9. Shame On The Moon(月に吠える)

カントリー・シンガーであるロドニー・クロウエルの楽曲をカヴァーした「Shame On The Moon」もシーガーによる隠れた名演のひとつで、ここでは (カントリー・バラードの名曲に相応しく) 恋わずらいに苦しむ男の心情が表現されている。

 

全力疾走のロック・ナンバー

10. Rock And Roll Never Forgets

ボブ・シーガーのハイ・スピードなロック・ナンバーを聴くと、ほかのアーティストの音楽からの影響が随所に感じられる。「Rock And Roll Never Forgets」はそれを裏付ける作品のひとつで、ザ・ビートルズによる「Twist And Shout」のカヴァー・ヴァージョンや、ジェームス・ブラウンのアンセム「I Got You」、荒削りなガレージ・ロックとの共通点を聴き取ることができる。

スタックス・レコードの諸作のようなホーン・セクションが印象的で、歌詞やサウンドにチャック・ベリーへのオマージュを取り入れたこの「Rock And Roll Never Forgets」で、シーガーはロックンロールに年齢は関係ないと歌っている。

Sweet 16’s turned 31
Feel a little tired feeling under the gun
Well all Chuck’s children are out there playing his licks
Get into your kicks
Come back baby, Rock ‘n’ roll never forgets
可愛らしかった16歳の少年も今や31歳
焦りや疲れも感じるが
チャックを聴いて育った奴らはみんな彼のフレーズを弾いている
自分なりに楽しめばいい
さあ戻っておいで, ロックンロールは裏切らない

 

11. Hollywood Nights(夜のハリウッド)

シーガーがよく取り上げるテーマは前述のもの以外にもある。それは、途方に暮れながら栄光を掴むためもがく人物の物語だ。激しいドラムとギターが特徴の「Hollywood Nights」は、カリフォルニアでの成功を夢見る恋人たちを描いた1曲だ。

 

12. Feel Like A Number

ブギウギ調のピアノが疾走感を醸し出す「Feel Like A Number」には、自分のことを「広大な大地の中の小さな草の葉のような / like a tiny blade of grass in a great big field」存在と感じながらアメリカン・ドリームを追い求める男が登場する。

 

13. Shakedown

10年ものあいだシングルをヒット・チャートのトップ40に次々と送り込んでいたシーガーだが、その頂点にはなかなか手が届かなかった。だが「Shakedown」は映画『ビバリーヒルズ・コップ2』の劇中歌として使用されたことで、ついにチャートの首位に輝いている。

猛烈なスピード感をもつこの1曲で、1988年になってシーガーを知ったファンも少なくなかった。同曲は「Axel F」の作者でもあるハロルド・フォルターメイヤーと共作したことで、1980年代的なキーボード・サウンドが目立つ仕上がりになっている。

 

壮大な長尺曲

14. Sunburst(光の中へ)

ボブ・シーガー率いるシルヴァー・ブレット・バンドに関しては、旅する男を題材にしたラジオ向きの楽曲ばかりが注目され、長尺で内容の入り組んだ楽曲は見過ごされがちだが、そうした楽曲にもやはり一聴の価値がある。その筆頭に挙げられるべきは5分間のロック・シンフォニーと呼ぶに相応しい「Sunburst」だろう。

明らかにザ・ビートルズの「Dear Prudence」を意識したイントロから始まるこの大作は、ザ・フーさながらのロック・オペラに展開し、ゆっくりと終わりに向かう終盤にはフルート・ソロ (こちらもシーガーと長い付き合いのアルト・リードによるもの) まで飛び出す。

 

15. Brave Strangers(誇り高き来客)

総尺6分半に及ぶ「Brave Strangers」は、対照的なふたつのセクションを行き来する1曲である。初めは肩の力の抜けた明るいピアノのコードが軽やかにリードするが、その後は1970年代前半にヴァン・モリソンが生み出した神秘的なソウル・ジャズのような世界へと切り替わる。

 

16. Little Victories(ささやかな勝利)

また、それと同じくらいの長さを誇る「Little Victories」は1982年作『The Distance』の最後を飾る1曲。一定のスロー・ペースで進んでいく同曲では、ギタリストのワディ・ワクテルがそれぞれ1分近い強烈なギター・ソロを2度に亘り披露する。

 

17. The Fire Inside

「The Fire Inside」も6分と長尺ゆえに、そのちょうど真ん中あたりでソロ・パートが設けられている。ここでソロをとるのは、ゲストとして参加したE・ストリート・バンドのピアニスト、ロイ・ビタンである。

 

昔ながらのロックンロール

18. Mary Lou

ボブ・シーガーは若いころにAMラジオで親しんだ楽曲への思い入れをたびたび表現してきた。直接カヴァーしたものもあれば、そうした楽曲へのオマージュを込めた自作曲もある。

ロニー・ホーキンスからスティーヴ・ミラー・バンドまで幅広いアーティストが取り上げたスタンダード・ナンバー「Mary Lou」は、1950年代のダンス・ナンバーと冷笑的なパンク・ロックの中間に位置するような仕上がりになっている。

 

19. Old Time Rock & Roll

おかしな話だが、ボブ・シーガーの楽曲の中で最もよく知られている「Old Time Rock & Roll」は、そもそもはアラバマ州マッスル・ショールズのフェイム・スタジオで働いていた友人から送られてきたデモを基に生まれている。

シーガーはオリジナルの歌詞を手直しし、名セッション・ミュージシャンのバリー・ベケットがロカビリー調のピアノを加え、さらにアルト・リードがサックス・ソロ (「Charlie Brown」といったコースターズの名曲を想起させる) を加えて完成したのが、「Old Time Rock & Roll」であり、やがて世界的に有名な1曲になったのである。映画『卒業白書』の劇中におけるトム・クルーズのこの曲の”口パク”がその一助になったことはいうまでもないだろう

 

20. Tryin’ To Live My Life Without You(暴走マイ・ライフ)

往年のファンキーなソウルに対するシーガーの敬意は、オーティス・クレイの「Tryin’ To Live My Life Without You」のカヴァー・ヴァージョン (1981年のライヴ・アルバム『Nine Tonight』収録) からも感じられる。

メンフィス・スタイルのホーン・セクションと、曲間でサウンドが一変する演出 (ジェームス・ブラウンとブラウンの無駄のないライヴ・パフォーマンスからの影響は疑いないだろう) が印象的なこのカヴァー曲は、トップ40入りしたヒット曲が満載の同作の中でも一際輝きを放つ。

Written By Jed Gottlieb





 

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