史上最高のブルース・アルバムのジャケット12枚

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私たちの生きている現代において、音楽の消費はますますデジタル・ミュージックによって定義され、主流になりつつあり、そのためにアルバム・ジャケットの重要性はますます薄れつつあるように思われる。少なくとも音楽を聴く上で、いくつかの曲の集まり1曲単位でのストリーミングの方が、より望ましい聴き方だとされる世代においては。しかしながら、この数年の間に急激なセールスの増加を記録しているレコード人気は、アルバムのアートワークが再び隆盛となる予感を十二分に匂わせている。

実際の話、優れたアルバム・ジャケットは最強だ。出来の良いものであれ悪いものであれ、美醜に拘わらず、そこには物語がある。そこには見る者の心に訴えかけ、刺激し、引き込み、魅了する力が宿っている。そして、そのアーティストについても多くを語る。優れたアートワークは、文字通りの視覚的メッセージであれ、コンセプトを表現したものであれ、あるいは象徴的な符丁として機能するものであれ、単なる言葉だけでは大抵伝えるのに苦労するような内容を瞬時に伝えることが出来るのだ。LP全盛時代の初期こそ、アルバム・ジャケットは殆ど何の考えもなしに決められることもしばしばだったが、時代の移り変わりと共に、アルバム・コンセプトという発想が進化し、レコード会社にとってマーケティングが重要なセールスの道具となるにつれ、アートワークは確実に洗練されて行ったのだった。

ポップ・アーティストと違って、ブルース・ミュージシャンの大半は音楽第一主義を重んじることを好み、イメージの部分には往々にしてあまり積極的に強いこだわりを持たない伝統があった。だがそうは言っても、ブルース・シンガーたちが自分のアルバム・ジャケットにおける自己演出について、全くお構いなしだったり、関心がなかったわけではないのだ。中には素晴らしく印象的で、記憶に残るブルース・アルバムのジャケットも勿論数々あったわけで、ここではそのうちの12枚ほどを挙げてみることにしよう……

■ロバート・ジョンソン『King Of The Delta Blues Singers(邦題:デルタ・ブルースの王様)』(1961)
ロバート・ジョンソンの短い生涯にまつわる様々な神話(伝説によれば、彼は悪魔に魂を売り渡し、そのために殺された)を思えば、彼の作品の最初で最後のベスト盤のジャケットを飾ったのが、写真ではなく肖像画だったのはいかにもそれらしく、それによって更に彼の神格化が更に強調されることになったとも言えよう。バート・ゴールドブラットのシンプルだが力強いポートレート――非常に珍しい頭上からのアングルで、ハッキリとした輪郭線と生き生きとした色使いにより、キアロスクーロ(明暗対照画法)的な太陽の光と影とのブレンドが独特の効果を挙げている――は、ブルース・アルバム・ジャケットの最も代表的な作品とされるに相応しい作品だ。

■ビル・ブルーンジー『The Bill Broonzy Story』(1961)
元々はヴァーヴ・レコードから出た5枚組LPのセットだった、このビル・ブルーンジーの回顧録(彼の歌だけでなく、半生についての語りも収録されている)は、ロバート・ジョンソンのアルバム同様、1960年代初期のフォーク&ブルース・リヴァイヴァルの最中にリリースされたものである。また、アートワークに絵画を使用したブルース・アルバムのジャケットという点も共通項だ。50年代から60年代に数々のアルバムジャケットを手掛け、多作で知られたイラストレーターのデヴィッド・ストーン・マーチンが鮮やかな、と言うよりけばけばしいほどの色使いで描き出した熟練ブルースマンの顔である。アートワークに写真ではなく絵を採用することで、ブルーンジーの歴史的存在意義が強調され、伝説的人物という像を作り上げる一助となったのだ。

■ミシシッピ・フレッド・マクダウェル『I Do Not Play No Rock’n’Roll』(1969)
強烈なボトルネック・ギターのパッセージでその名を知られたミシシッピ・フレッド・マクダウェルは、御年63歳にして、アコースティックからエレクトリック・ギターに持ち替えるという大きな分岐点となったこのアルバムをレコーディングした。アルバム・タイトルの『I Do Not Play No Rock’n’Roll』(俺はロックン・ロールなんか演らないぜ)は孤高のアーティストらしい血気盛んな決意表明であり、ジャケットに掲げられた、玄関前のポーチの階段でギターを弾いているミシシッピ・フレッド・マクダウェルの飾り気のないセピア・トーンの写真は、彼の音楽の粗削りで赤裸々なまでの正直さをそのまま投影したものだ。

■ジョン・リー・フッカー『The Real Folk Blues』(1965)
1949年に最初のヒットを記録したしゃがれ声のジョン・リー・フッカーは、チェス・レーベルでこのLPをレコーディングした当時、既に筋金入りのブルースの古参兵だった。ジョン・リー・フッカーの顔を斜めから大写しで捉えたモノクロームの写真で、彼の目だけが上向きのアルバム・ジャケットは肩透かしなほどシンプルだがパワフルな画で、ジョン・リー・フッカーの音楽の粗削りな生々しさと素朴な本質を十二分に表現するものだ。

■アルバート・キング『Born Under A Bad Sign』(1967)
「悪運さえないなら、俺には運なんてものとはまるっきり縁がないことになる」と、絶大なる影響力を誇ったエレクトリック・ブルースマンはこのアルバムの印象的なタイトル・ソングで嘆いているが、いみじくも悪運に憑りつかれた男というこの曲のテーマが、ブルース史上屈指の素晴らしいアルバム・ジャケットを生み出すきっかけとなった。デザインを手掛けたローリング・ユートミーは、不吉な物事や迷信(黒猫、スカルと交差させた2本の骨、カレンダーの13日の金曜日のページ等々)に関連する様々なイメージを組み合わせて見せた。ジャケットの大胆で色鮮やかな図柄も、キングの音楽の強烈なヴァイタリティとよく合っている。

■ハウリン・ウルフ『Howlin’ Wolf』(1962)
ブルース初心者の感覚からすると、オオカミのような怖い動物をもじった名前を持つアーティストのアルバムに、ドン・ブロンスティーンによる空っぽのロッキング・チェアにギターという人畜無害な静物画然としたジャケット絵というのは、どこか奇妙な取り合わせに思えるかも知れない。しかも多くのブルースのアルバム・ジャケットと違い、音楽的内容も反映されておらず、ウィリー・ディクスンの肉欲の塊のような物語「The Red Rooster」 や 「Back Door Man」の超刺激的なヴァージョンが収められているとはとても思えない。このアートワークが象徴しているのは、ハウリン・ウルフの音楽の持つ根源的かつアーティスティックな純粋さなのだ。

■ライトニン・ホプキンス『Lightnin’ Hopkins』(1959)
フォークウェイズ・レーベルからリリースされた、目にも鮮やかなジャケットを掲げたこのブルースマン唯一のLPは、アルバム1枚分の値段で4枚分のライトニン・ホプキンスの音源が手に入る寸法だ。アンディ・ウォーホルの影響を感じさせるポップ・アート・スタイルを先取りし、デザイナーのロナルド・クライン(フォークウェイズで500作以上のフォークやブルースのアルバム・ジャケットを手掛けた)スーツとサングラスでキメた4人のライトニン・ホプキンスの姿を、左から右に行くにつれて徐々に強烈な色使いにして描いた。それはアルコール依存による気分の浮き沈みぶりで知られたこのミュージシャンの、カメレオンのように変幻自在なパーソナリティを見事に表わしていたのである。

■ジョン・メイオール『Blues Breakers With Eric Clapton』(1966)
この何とも愉快でくだけた雰囲気のナチュラリスト的ジャケットで、他のメンバーたちが倦怠から物思いに耽る様子、自意識過剰まで様々な表情を見せる中、エリック・クラプトンはもっぱら漫画雑誌『Beano』を夢中になって読みふけっている。バンド全体の写真撮影に対するあからさまな無関心ぶりは、彼らがヴィジュアル・メディアではなく音楽を通して自分たちのアイデンティティを確立したいという思いの表れだった。バックドロップになっているグラフィティがいっぱいに描かれた壁も、彼らの音楽のストリート的な肝の据わりっぷりを強調する小道具である。

■ジョニー・ギター・ワトソン『A Real Mother For Ya』(1977)
70年代後期、映画『Super Fly』スタイルの盛装でめかし込んだジョニー・ギター・ワトソンは、ブルースとディスコ・ファンクのビートを組み合わせ、このジャンル屈指の不埒なペルソナを作り上げた。歴代ブルース・アルバムのジャケットの中でも断トツに笑えるこの異色のジャケットは、誰もが知るアメリカン・スラング表現を文字通りの解釈で図案化しており、彼が乗るいかにもポン引きが乗り回すような車に改造した乳母車を、ジョニー・ギター・ワトソンの母親が押しているという構図だ。これはジョニー・ギター・ワトソンが過剰に深刻ぶることなく、自分自身を愉快なジョークのネタにすることも厭わない姿勢を示している。

■ボ・ディドリー『Have Guitar Will Travel』(1960)
チェスのチェッカー・レーベルの下でリリースされたこのLPの、カスタム・モデルの長方形ギターを肩に、同じ赤白の車体の横に彼の名前が飾り文字であしらわれたスクーターにまたがった彼の写真が使われたアートワークは、本名をエラス・マクダニエルというミシシッピ生まれのブルースマン独特の派手好みの、まさしく真骨頂である。

■チャック・ベリー『One Dozen Berrys』(1958)
ブルース・アルバムのジャケットの中には、どうしようもなく悪趣味だったり、明らかにアーティスティックな意味での真剣な努力が欠けているためにかえって記憶に残るものがある。チャック・ベリーがチェスで出した12曲入りのセカンドLPがそれに当たるかどうかは、是非ともご判断をお任せしたいところだ。画面いっぱいのイチゴ(その上にベリーの小さな写真が無造作に載せられている)の写真とタイトルのつまらない語呂合わせは、確かに目を引くものではある。不出来も悪いばかりとは限らないという好例だ。

■リトル・ウォルター『Little Walter』(1976)
ハーモニカの天才、“リトル”・ウォルター・ジェイコブスがチェスから出したこの2枚組回顧録的LPのジャケットを手掛けていた際、イラストレーターのニック・カルーソの頭の中に去来したものは一体何だったのだろうか? もしかすると彼はこれを無人島レコード(訳注:もしも無人島にレコードを1枚持って行くとしたら、というのはアメリカでは非常にポピュラーな質問)にすべきだという考えがあったのかも知れない。 とは言いながら、この絵にはリトル・ウォルターのもの悲しい声とむせび泣くハーモニカの寂寥感と孤独感が的確に描き出されている。

Written By Charles Waring


♪プレイリスト『Blues For Beginners

By Charles Waring


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