BECK『Guero』解説:引き続き新たなスタイルに挑戦したアルバム

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2025年5月28日(水)に大阪・Zepp Namba、5月29日 (木)に東京・NHKホールでの単独来日公演が、そして6月1日にASIAN KUNG-FU GENERATION主催のロックフェスティバル『NANO-MUGEN FES.2025』への出演が決定したBECK。

2018年SUMMER SONICでのヘッドライナー出演以来となるバンド編成での来日を記念して、彼の過去のアルバムの解説記事を連載として順次公開。

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現在のベックを形作った代表作

ベックは、25年以上のキャリアを積んでもなお芸術性の新たな高みを追い求めている数少ないアーティストの一人だ。簡単に言えば、ベックの次のアルバムがどんな作風になるかは誰にも予想できない。2005年3月29日にリリースされ、彼にとって6作目のフル・アルバムとなった『Guero』は、現在の彼を形作った数多くの代表作の一つである。

同作は、全米アルバムチャートで初登場2位をマーク。これは現在でも、同チャートにおけるベックにとっての最高成績であり続けている。このアルバムの前作となったのは、その2年半前にリリースされた『Sea Change』だ。ベックは英国人プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチとの2度目のコラボレーションとなったこの作品で、自らの内面的な感情を表現していた。

だが彼は同作でその作風に区切りをつけ、再び音楽的な路線転換に着手。その結果、取っ付きやすさと落ち着きが同居したアルバムを作り上げた。

34歳のときに発表したこのアルバム『Guero』でベックは、マルチ・プラチナに認定された1996年作『Odelay』を想起させる新たなサウンドを展開。だがその視点は以前より成熟し、物の見方にも説得力が増していた。

さらにこの作品では、ダスト・ブラザーズが非常に重要な役割を果たしていた。彼らは共同プロデューサーを務めたほか、「E-Pro」「Girl」「Hell Yes」(女優のクリスティーナ・リッチが声でゲスト参加)という3つのシングルを含む収録曲のほとんどに作曲でも関わっているのだ。

また、ジャック・ホワイトは作曲者にも自ら名を連ねる「Go It Alone」でベースを弾き、ベックの父にして優れたストリングス・アレンジャーでもあるデヴィッド・キャンベルは前作に続いてこのアルバムにも参加している。

さらに、メロディアスなアメリカン・ロックのファンにはお馴染みの存在であるロジャー・マニングもこれまで通り参加。ジェリーフィッシュやインペリアル・ドラッグの結成メンバーである彼は、現在でもベックのバンドを支え続けている。

そしてこの『Guero』では、トニー・ホッファーもプロデュース・チームに復帰した。ホッファーはダスト・ブラザーズ、ミッキー・ペトラリア、ベックとともに1999年作『Midnite Vultures』を共同プロデュースしていた人物だ。

ベックの主たるコラボ相手としてダスト・ブラザーズが加わったことは、現代的なロック調のビートを基調として『Guero』を作り上げる上で重要だった。二人は“ブラザーズ”を謳ってはいるが、実際はE.Z.マイク(マイケル・シンプソン)とキング・ギズモ(ジョン・キング)から成るデュオ。彼らはベックが単独で書いた2曲を除き、アルバムのほとんどの曲を彼と共作している。

両者のコラボレーションは『Midnite Vultures』や『Odelay』でも大きな成果を上げており、特に1996年発表の後者はグラミー賞で最優秀オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス賞にも選ばれた。

オープニング・トラック「E-Pro」の力強いリフは、ベックの新たな作風をはっきりと示すものだった。この曲では、ビースティ・ボーイズが1992年に発表した代表作『Check Your Head』に収録された「So What’cha Want」のトラックがサンプリングされている。サウンドを変革した甲斐あって、同曲はビルボードのモダン・ロック・トラックス・チャートで首位を獲得。ベックがこの栄冠を手にするのは実に11年ぶりだった。

また「Qué Onda Guero」(タイトルは”白人の坊や、調子はどう?”と優しく声をかけるメキシコのスラング)は、彼のスタイルに通じる中南米風のグルーヴを取り入れた1曲である。

全編で1時間近くに及ぶこのアルバムにはほかにも、東洋の音楽に接近した「Missing」など様々な魅力を持つ楽曲を収録。さらにはミシシッピ・ジョン・ハートやウディ・ガスリーから生涯に亘る影響を受けてきたベックが、古き良きソウルも同様に愛好していることが分かるトラックもある。

例えば「Earthquake Weather」ではテンプテーションズやスレイヴの楽曲が、「Hell Yes」ではオハイオ・プレイヤーズやラヴ・アンリミテッドの楽曲がサンプリングされているのだ。

 

50セントに次いで惜しくも2位

ベックは時代の最先端を走り続けていた。そのことは、『Guero』の収録曲のうち5つもの楽曲がフォックス放送の若者向けテレビ・ドラマ『The O.C.』に使用されたことからも明らかである。アルバムはアメリカで初週に16万2千枚という好セールスを記録したが、ラップ界の王者である50セント(彼の『The Massacre』が1位になるのはこれで5週連続だったが、それでも『Guero』の売上を5万枚ほど上回っていた)をトップから引きずり下ろすことはできず全米2位という結果に終わった。

ベックの人気が世界中に広がっていたことを示すように、『Guero』はデンマークとノルウェーでトップ5に、イギリスやオーストラリアではトップ15にランク・イン。さらにフィンランドからフランスまで幅広い国々でまずまずのチャート成績を残した。そして同作は最終的にアメリカではダブル・プラチナに、カナダでもゴールド・ディスクに認定されたのである。

ベックはこのアルバムを引っ提げて大規模なツアーを敢行。アメリカ国内だけでなく世界各地を回り、ツアー序盤にはロンドン北部のイズリントンにあるO2アカデミーや、パリのヌーヴォー・カジノのステージにも立った。

また4月に“Saturday Night Live”に出演すると、そのあとはホームランズやハリケーンといったフェスに登場。6月にはハマースミス・アポロで2夜のロンドン公演を行ったほか、ヨーロッパでさらにいくつかのフェスにも出演。そのあとの北米ツアーは秋に入るまで続いた。

 

 アルバムの評価と変化

ビルボード誌のレビューはこう評している。

「ベックはアルバムごとにスタイルやムードを変化させてきたが、彼の場合はそれがことごとく成功してきた。そして『Guero』もその例外ではない。頼りがいのある作曲面でのサポートと刺激的なビートをダスト・ブラザーズに再び求めたベックは、前作『Sea Change』の繊細な作風を捨て、パーティーのような賑やかなアルバムとともに舞い戻ってきたのだ」

このほか、数え切れないほどのメディアが同作を賞賛。イギリスのアンカット誌は次のように称えた。

「魅力的なビートとグルーヴを堪能できるご馳走のような作品。彼のその他の傑作に劣らず満足度の高いアルバムだ」

また、スタイラス誌はこう絶賛した。

「我らが”都会の職人”が帰ってきた。彼は埃を被った古いレコードをサンプリングという形で蘇らせ、古いものの中に新しいものを、新しいものの中に古いものを何度だって見せてくれる」

ニューヨーク・タイムズ紙は同作の収録曲に円熟味を見出し、こう評した。

「彼のこれまでのアルバムは喜劇性と絶望を行ったり来たりしていたが、『Guero』はその二つの要素の融合にかつてないほど迫っている」

またNME誌は「『Guero』は非常に聡明な男が、自分の得意分野をしっかり理解する聡明さを持っていたために生まれた」とし、ローリング・ストーン誌の論評はもっと簡潔で、同誌はこの作品を「ここ数年の彼のキャリアでもっとも活気と変化に富んだアルバム」と表現した。

ベック自身は予測できないその作風について、さほど大したこととは考えていないようだ。彼はビルボード誌にそう語っている。

「漠然としたアイデアしかないか、アイデアなんてないままスタジオに入るからそうなるだけだよ。日々、自分自身を追い込んでいるだけなんだ」

Written By Paul Sexton


ベック『Guero』
2005年3月29日発売
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ベック 7年ぶりバンド編成での来日公演 in 2025

5月28日(大阪 Zepp Namba)
5月29日(東京 NHKホール)
6月1日(神奈川 Kアリーナ横浜 *NANO-MUGEN FES.2025)
公演公式サイト



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