ベック最新アルバム『Hyperspace』、本人が参加したロンドンでのアルバム試聴会レポート

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2019年11月22日に発売となるベック14枚目のアルバム『Hyperspace』。この発売に先駆けて今年の夏、関係者・メディア向けに新作アルバムの試聴会がロンドンで開催された。本人も登場してアルバムを語るというまたとない機会に参加された元レコード会社の社員で、現在はロンドンにある音楽スタジオ「Metropolis Studio」で働くHitoshi Yoshioka氏による試聴会レポートを掲載します。


試聴会の場所はロンドンのキングス・クロス駅の近くにあるSpiritland。ハイ・レゾDJバーとして人気のスポットだ。キングス・クロスは 2000年前半までいわゆる売春小屋やホームレスが居たエリアだったが、最近の再開発でGoogleやYouTube、ベックの所属レコード会社のユニバーサル ミュージックのUK本社も同じ敷地内に引っ越してくるなど新興地域となっている。ユーロスター駅の終点でもあるので、観光客で絶え間なく行き来する町でもある。デペッシュ・モードやマッシヴ・アタックなどがプレイしたクラブやゲイ・カルチャー、エレクトロなどの礎を築いた工場地帯の跡地でもあり、そんなアンダーグラウンド・パーティが行われていたエリアとは思えない変貌ぶりだ。

会場で待つこと45分くらいだろうか、ユニバーサル ミュージックの社員や、メディア、ラジオなどから呼び込まれた約100名のオーディエンスが期待する中、ベック本人がライトアップされたステージに登場。黒のピン・ストライプのジャケットに黒いハット姿だ。これまでベックを至近距離で見たことがないのでなんとも言えないが、アーティストが放つ独特のオーラみたいなのは正直感じなかった。むしろベックのほうが恐縮しているような素振りをしていたせいかもしれない。14作目とあってこのようなリスニング・パーティは当然ながら慣れているはずではあるが。司会進行をBBCラジオ6のマット・エヴェリットが行い、ベックとひざを並べる形で2名の質疑応答が始まった。

まずは、2年ぶりの14作目のアルバムですねという問いに「共同プロデュースを行ったファレルがこのアルバムのエンジン部分となってるんだ」とベックが答える。偶然にも2年前にロンドン市内のエレベーターで出会ったという2人だが、「サウンド・プロダクションは僕がピアノを弾いたりして、ファレルがどんどんアイデアを出してくる。スタジオ内をところ狭し動き回ってね。とてもエネルギーにあふれパワフルなやつなんだ」とのエピソードも披露してくれた。

テーマがあるとしたら何ですか?という問いには「アルバムのタイトルはHyperspace(ハイパースペース)って言うんだ。いろんな意味でのエスケープ。音楽を通じての現実逃避だ。(本来の意味のSF映画の『時空間移動』という意味というよりは)いま居るその場所から、自分の部屋、いまいる場所の雰囲気からの逃避。例えば、僕らが昔プレイしていたTVゲームみたいな感じさ。キャラクターが突然画面から、ふわっと消えていなくなってしまうようなね』

ベックが一旦ステージ袖に引っ込んだ後にアルバム全体を通して聴ける幸運に恵まれたが、アルバム収録楽曲は全て粒ぞろいで、どれもシングル・カットのクオリティといってよい。アルバム・フィラー(シングルとしてリリースするクオリティに満たないが、取りあえず入れておきました的な楽曲)は見受けられない。今現在のポップ・ミュージックの流れを充分に反映させていながら、ベック印、もしくはベック・スパイスをどの曲にも上手い具合に染み込ませてある。5曲目の「Chemical」では文字通りケミカル・ドラッグを摂取してハイになっている現実逃避をトラップっぽいビートにアコースティック・ギター、ボコーダーが有機的に拡がっていく。

2曲目の「Uneventful Days」は「マイアミのショッピング・センターでかかっているようなイメージで作った」という若干不思議な設定。「ファレルはポスト・マローンのような感じのイメージで作ったに違いない!(笑)」と制作時を思い出しながら語りながら、断片的にこの曲のフィーリングを表現する言葉を手探りで言葉を探して「うーん、映画とか、カラー・パレット、とか。あと、昔初めて手にした車がぼろぼろのトヨタ車だったんだ。クソみたいな車でも僕にとっては宇宙船みたいなものだった。宇宙に飛んでいくという意味じゃなくて、自分の中の小宇宙に行くためのね」

 

既にオンライン・ストリーミングも始まっているファースト・シングルの「Saw Lightning」をぜひチェックしてみて欲しい。ファンであればベックならではのフォーク・サウンドとファレルのトラックとがピッタりと決まっていることに気づくだろう。ファレルとエド・シーランのコラボ作「Sing」も記憶に新しく、これまでに多くのコラボ・ヒットを排出してきたファレルだが、今回の「Saw Lightning」は、ファレルとスヌープ・ドッグとのコラボ「Drop It’s Like It’s Hot」(前作アルバム『Colors』のシングル「Wow」にも若干似ている)、もしくはファレルとロビン・シックとの「Blurred Line」と同等のバリューと破壊力を持つアッパー・チューンだ。

 

ベックは前作の『Colors』でグラミー賞2部門を受賞。今作も確実にグラミーを狙えるサウンド・クオリティで、アルバム全体としての仕上がりの良さでは群を抜いている。

Written by Hitoshi Yoshioka, London, UK



ベック「Hyperspace」
2019年11月22日発売
CD / iTunes / Apple Music

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