ビーチ・ボーイズが最も輝いていた瞬間『1967 – Sunshine Tomorrow』

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ブライアン・ウィルソンが伝説的な『Smile』を制作していた1966年秋から67年の春にかけて、ビーチ・ボーイズの創造性はピークを迎えていた。その同時期にザ・ビートルズは『Sgt. Peppers’s Lonely Heart Club Band』の制作準備に取り掛かっていた。最終的に制作開始から40年後にようやくリリースされ、バンドにとって初のグラミー賞を獲得した『Smile』の完成が暗礁に乗り上げたが、ビーチ・ボーイズは才能の頂点を極めていた。近年ようやくその完成版を聴くことができる『1967- Sunshine Tomorrow』が発売となった。

当初『Smile』のリリースは単なる延期としか考えられていなかった。キャピトル・レコードのA&Rだったカール・エンゲルマンのメモによると「私はブライアンと話し合った結果、『Smiley Smile』のパッケージに『Smile』のブックレットを加えず、次回作にその10曲を加えようという案で合意した」とされている。

当時、ブライアン・ウィルソンもレーベル側も『Smile』の完成の見込みがないとみなしておらず、近いうちに完成するだろうと考えたあたりが、60年代のレコード会社の体質を少なからず示唆していると言えるだろう。『1967- Sunshine Tomorrow』には、引き続きブライアン・ウィルソンが『Smile』モードで制作している楽曲(「Cool, Cool Water」、「Can’t Wait Too Long」、「Surf ‘s Up」)もあれば、バンドと共により前進させ、後に『Smily Smile』や『Wild Honey』、そして当時未発売となったライヴ・アルバム『Lei’d In Hawaii』といったより軽く、風通しの良い楽曲をも作る様になった。

モンタレー・ポップ・フェスティバル以降、ビーチ・ボーイズは自分達が出演しないで、自分達に出来る方法を模索していた。提案された『Lei’d In Hawaii』の映画と音源は結局完成せず、撮影された67年8月のコンサート映像は、1985年に発表されたマルコム・レオ監督によるドキュメンタリー映画『The Beach Boys: An American Band』に使われている。『1967- Sunshine Tomorrow』にはホノルルでのコンサートが収録されているだけでなく、翌月にハリウッドのカフエンガ・ブールヴァードにあるウォリー・ヘイダーのスタジオで行ったレコーディングも収められている。

このレコーディングは、コンサートで行われたアレンジメントをスタジオで再現する目的がだったが、ボックス・トップスのヒット曲「The Letter」、ウェイン・フォンタナ&ザ・マインドベンダーズの「The Game Of Love」、そしてザ・ビートルズの「With A Little Help From My Friends」といったカヴァー曲を収録したことが大変興味深い出来栄えとなっている。また、冒頭では東ロサンゼルスのジー・ミッドナイターズが「Whittier Blvd.」を彼らの地元にささげたように、自分達の地元であるサウス・ベイを題材にした「Howthorne Boulevard」を収録している。

ビーチ・ボーイズの1967年後半からの作風は、それまでの『Pet Sounds』や『Smile』といった濃いプロダクションから、後に90年代のオルタナティヴ・ロック系のファン達によって模倣された‘サンシャイン・ポップ’の領域へと移行し始めていた。このタイプの音楽は、60年代後半にママス&パパスやアソシエイション、タートルズ(ビーチ・ボーイズが地元でヒットを出していた頃の同世代)によって演奏されていた。ビーチ・ボーイズにとって67年の最後のシングルとなった「Darlin’」はバンドにとって新たな風を吹き込んだ新鮮な1曲となり、その後30年間彼らのコンサートの冒頭飾る曲に定着した。(コンサートの冒頭では崇高な「California Girls」で始まったかと思いきや、カール・ウィルソンがいきなり「Darlin’」に突入し、会場を一気にダンス・モードにさせる秀逸な流れになっている)。この曲には‘more soul that I ever had(今までにないくらいの想いをくれた)’や‘Dog-gone outtasight(もう最高すぎる)’といった、この時代を象徴し永遠に語り継がれるキャッチーなフレーズが満載だ。コンサートで長年歌われたこの「Darlin’」は、全米チャートでは最高19位、UKチャートでも11位とある意味控えめな成績を収めている。

 

『Pet Sounds』の様なメロディを求めていたファンには「Let The Wind Blow」や「Country Air」がオススメだろう。複雑な曲構成やトリッピーさがトーンダウンし、楽曲に必要な空間を与えつつ、リスナーが勘違いしない様にちゃんと鶏の鳴き声のエフェクトはしっかり収録されている。

1967年に漂う空気感をビーチ・ボーイズは読み取っていた。一般的に『Wild Honey』の方向性を表す、驚きの一節が「I’d Love Just Once To See You」の終わりに出てくる。“In the nude(裸で)”という歌詞と軽妙な“ドゥー・ドゥー・ドゥー”というヴォーカル『Wild Honey』の中ではこのコーラスは多用され、『1967- Sunshine Tomorrow』では新たなミックスのおかげでさらによく聴こえるのである。当時、世間では性の改革がそのピークを迎え、このシンプルなメロディをアコースティック・ギターで奏でたブライアン・ウィルソンは、“In the nude(裸で)”という言葉で完結させたのだ。

その後、元々マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、ブルース・ジョンストン、ブライアン・ウィルソンによる「How She Boogalooed It」をカール・ウィルソンがスウィングさせ、”Sock-it, sock-it”となった一節は、アリサ・フランクリンの「Respect」程ではないが、ゴールディー・ホーンが『Laugh-In』(当時アメリカで一番人気だったコメディー番組)でゴー・ゴー・ダンスを踊ってしまう様な曲にした。“the wall is movin”、 “ceilin’s a reelin”といったフレーズを熱唱するカール・ウィルソンに呼応し、ブルース・ジョンストンも最高のガレージ・ロック・サウンドのキーボードで応えている。

1967年はビーチ・ボーイズにとって上々だったが、メンバーの一人による謙虚で楽しい行動により、彼らの60年代初期の曲がさらにヒットしたのである。「A Thing Or Two」(カール・ウィルソンとブライアン・ウィルソンと共にアル・ジャーディンがヴォーカルに参加)で使ったいくつかのコード音が、彼らが1968年に行った「Do It Again」のリハーサル・セッションの時の音階とまるで同じだったのだ。

こうした小さなことがもしかすると間抜けに聞こえるかもしれないが、ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴによるソングライティング・チームという束の間の原点回帰によって、軽やかな中に重厚さを与えているのだ。Crawdaddy!編集部のポール・ウィリアムズは「『Wild Honey』は去年のベスト・アルバムのひとつだ」「愛らしく元気に満ちた歌声と、美しく喚情的な音楽だ」と賞した。

この様にアンダーグラウンド・シーン初のロック媒体からも賞賛を得ることにより、バンドは反体制的な文化人の賛辞を得る為に1967年にさらなるジャムセッションを強いられることもなく済んだ。そしてビーチ・ボーイズのこのミニマリズム回帰は、早速功を奏することになる。メンバー達は次回作の『Friends』、『 Sunflower』の制作の為にスタジオに戻り、この時点でブライアン・ウィルソンは兄弟達であるデニスとカールに積極的に、さらに軽快なサウンドを進化させ再提示するサウンドを得る方法を教え、共有するようになっていた。

バンドの絶頂期が収録されたひとつの例をあげるならば、『Smile』と『Wild Honey』のセッション中で使われることのなかった素晴らしく良質な楽曲を、制作時の高音質オーディオでまとめたものが『1967 − Sunshine Tomorrow』と言えるだろう。完成されることのなかった「Lonely Days」は、より自由な風潮の70年代の感じで、「It Never Rains In Southern California」のアルバート・ハモンドに似た楽曲として、ブライアン・ウィルソンのマジカルなファルセットで歌われている。『Wild Honey』のミニマルなトーンと美しさは、大げさな“仕上げ”を除いた1969年ヴァーションのアルバム『20/20』に収録されている「Time To Get Alone」でも聴くことができる。

ヴォーカルや歌詞を取り除いた「Honey Get Home」は『Wild Honey』のサウンドを形容し、最も喜びにあふれている。さらにここに収録されているビーチ・ボーイズ版、ザ・ハニーズの「Hide Go Seek」のように、ブライアン・ウィルソンが時に新たな楽曲を作るために、古いメロディを引用することも聴くことができる(例えば「Darlin’」は彼が作ったシャロン・マリエの曲「Thinkin’ Bout You Baby」を書き直したものである)。

『1967 − Sunshine Tomorrow』のリリースは、ビーチ・ボーイズの歴史の中で『Pet Sounds』『Smile Sessions』と並んで重要なものだ。このアルバムの中で、彼らがいかにしてライヴ用のアレンジを再構築したのか、『Smiley Smile』のセッションの中でいかにして「Little Pad」や「Wind Chimes」といった楽曲を作っていったかという驚きの瞬間を聴くことが出来る。そして、その年の後半にブライアン・ウィルソンがひとつひとつのピースを完成させる為の最後の仕上げをしていくという、音楽の歴史の中でバンドが最も輝いていた瞬間が切り取られている。

By Domenic Priore


『サンシャイン・トゥモロウ~ビーチ・ボーイズ1967』

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