ロードが語る新作『Solar Power』のサウンドと前作との違い、アルバムに収録された“セミ”の音

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Photo: Ophelia Mik

ロード(Lorde)の約4年ぶりの新作アルバム『Solar Power』が2021年8月20日に発売となった。今回のアルバムは環境に配慮してCDの発売はなく、配信とLP、そして手書きのメモや限定写真、ダウンロード・カードが入った環境に優しい100%生分解性のハードエコボックスの“Music Box”が用意されている。

そんな新作アルバムの制作、前作との違い、TikTokやSNSとの向き合い方、アルバムに収録された“セミ”の音などについて、ロード本人が語るインタビューを掲載します。

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あなたは、ニュージーランドとアメリカで新型コロナウイルスのパンデミックを経験した数少ない一人ですが、この2つの場所での経験を比較できますか?

ニュージーランドとニューヨークの両方でパンデミックを経験したことは、とても興味深いことでした。ニュージーランドでは、多くの患者が感染するということはありませんでした。怖かったけど、それがニューヨークほどの怖さだったかどうかはわからない。一方で、私がニューヨークに到着したときには、症例数が大幅に減少していたので、(私がいたタイミングでは)どちらの場所でもパンデミックの中ではかなり穏やかな方だったと思います。でも、ニュージーランドでは家に家族と一緒にいて、料理をするということをとても大切にしていました。ニューヨークは完全に一人で、スタジオに行っても一人しか会わないし、お弁当を持って行って、とても孤独な体験をしました。ニューヨークの方がより孤独でしたね。

 

パンデミックの最中に『Solar Power』の多くをレコーディングしましたが、それがアルバムに与えた影響は?

パンデミックは、最終的にアルバムにはあまり影響しなかったと思います。でも『Solar Power』の歌詞のいくつかがその影響を受けているかのように見えていて面白いですね。このアルバムが意図的にパンデミックと関連しているかどうかは分かりません。というのも2019年の初めにテーマを決めていたので、パンデミックが起こる頃には書くべき曲が2、3曲しか残っていなかったんです。

でも不思議なもので、「流した涙は忘れよう もう終わったこと」(「Solar Power」の歌詞より)という、パンデミックと関係があるように感じられる歌詞があるけど、実際は関係ないんです。偶然このアルバムを作った年に、多くの人が自然の癒しの力や、精神的な栄養源としての偉大さを、身をもって体験したことは興味深いですね。みんな毎日1時間の散歩をしていて、それが家から出られる唯一の時間で、自然や季節の移り変わりをこれまでとは違った形で感謝しているけれども、これは私がこうなる数年前から日常的に取り入れ、経験し、書こうとしていたことなんです。私たちは皆、同じ時期に同じことに気付いたような気がします。このアルバムを聴いて、その力を新たに理解してもらえることを楽しみにしています。

 

このアルバムは、気候変動についてかなり直接的に言及していますが、それはどのようにして作品に反映されましたか?

自然や自然界の巨大な力をテーマにした作品を作るのは面白いんです。というのも、歩き回っていて、自然の中の何かしらの素晴らしさを楽しんでいると「ああ、これは長くは続かない。これは私の子供たちの世代までは続かないんだ」っていう考えが浮かんだんです。こうした愛と喪失の組み合わせ、それが私の作品の全て。

でも、気候変動をテーマにしたアルバムは作りたくはありませんでした。あまりにも大きなコンセプトですからね。その大きさに、時には頭の中で整理しきれないこともあったし。あまりにも大きすぎて、そのアルバムを聴きたいかどうかも分からないだろうし。そんなの嫌ですよね。人に罪悪感を抱かせることが、必ずしもこのようなコンセプトに取り組む助けになるとは思えない。遠ざかりたくさせるだけだと思う。私の場合は、環境についてのラブストーリーを語りつつ、喪失の瞬間や伏線を散りばめたかったんです。そのバランスをうまくとれるように努力しました。

 

サウンド的にはかなりの激変ですが、作った時、何を聞いていたのですか?

『Solar Power』は『Melodrama』とはサウンド的に異なると言われているけど、それはアルバムの舞台となる時間帯と関係しているのではないかと思っています。『Melodrama』は、午前0時から午前2時30分までの、真夜中の時間帯が舞台、太陽の光は当たらない時間帯。一方で、今回のアルバムは午後2時から午後5時までで、海辺の一日の終わりの時間帯。あの夕食前のゴールデンアワー。一日の中でも、静かで、ぼんやりとした、瞑想的な時間帯。このように、時間帯や経験によって、サウンドの処理も変わってきます。

この作品では、60年代や70年代の音楽、ローレル・キャニオン・ポップ、カリフォルニア・ポップ、フォーク・ミュージックなどを聴いて、インスピレーションを得たんです。クロスビー、スティルズ & ナッシュ、ママス&パパス、イーグルス、ジョニ・ミッチェルのような音楽です。私は豊かなヴォーカル・ハーモニーや温かみのあるアレンジをとても楽しんでいたんですが、同時にオーガニックな楽器を使うことも、新しい試みでした。今まで自分の音楽にギターは全く取り入れたくなかったけど、だんだんと取り入れるようになっていったんです。私は、木や布、自然に発生する音を聴きたかった。それが大きな影響でしたね。

それから、2000年代初頭の楽観的で、世俗的で、とても軽い、世紀末的なポップスにも興味を持ちました。オール・セインツ、TLC、S Club 7、ナターシャ・べディングフィールド、ネリー・ファータドとかね。こうした音楽には、私が理解しようとしていた溌剌とした楽観性があったんです。景気が良かったからなのか、それとも人々が新しい千年紀に対して楽観的だったからなのかは分からないけれども、その音楽には何か特別なものがあって、その多くはビーチや自然の中が舞台でした。

「Honey To The Bee」とかネリー・ファータド「I’m Like a Bird」、オール・セインツが「take me to my beach」って歌っていた(「Pure Shores」の歌詞)とかがそうですね。これらのイメージが私の心に残っていたから、この2つのジャンルを組み合わせたものがアルバムのサウンドになった。ちょっと不釣り合いな組み合わせだけど、うまくいっていると思います。

 

アルバムには「Royals」や「Green Light」のような大きなフックのあるポップソングが入っていますか?そしてその理由は何ですか?

何が大きなポップソングなのか、少しわからなくなってきている気がしますね。「Solar Power」のような曲を聞くと、凄まじくポップソングだなとは思うけど、私はポップについてもう十分に知っている。構造的にはポップソングだけど、ポピュラー・ミュージックで起こっていることとは違う。「Mood Ring」はクラブとかで盛り上がる曲だと思うけど、盛り上がる曲には色々な種類があって、もっと思索的で、言及しているものはさらに奇妙なんです。『Solar Power』に収録されている曲は、ラジオを席巻するようなものではないけど、ギターやピアノで演奏してみると、しっかり構成されているポップソングとして成立していると思うんです。

 

今回のアルバムで、あなたにとって成功とは?

面白いことに、年を重ねてレコードをたくさん作るようになると、プロジェクトの成功の概念が変わってくるんです。この作品に取り組み始めた頃、マネージャーとミーティングをした時に、私は“使い切れないほどのお金を稼いだ。もう十分だよ。これ以上、お金を稼ごうという視点で何かに取り組む必要はない。ベストを尽くそう、クールになろう”って。これは重要なこと。なぜならみんな自分がお金を稼ぎたいと考えていると思われているから。私は幸運にも、そのような観点から考える必要がありませんでした。家はあるし、スーパーで好きなものを買える。とても恵まれているから、そろそろ別の次元で考えて、自分が遺せるものについて考えてみたいと思ったんです。私はいつも、これらのレコードを身につけているのは私だと言ってきたし、タトゥーを入れてもいいくらい、レコードは私そのものだし、それくらい私は自分のレコード愛していて、信じている。

私にとってのこの作品の成功とは、人々が本当にこの作品と向き合い、『Melodrama』や『Pure Heroine』のように、この作品を受け止めて、楽しんでくれて、アーティストとして、キャリアを積んだアーティストとして、アルバム・アーティストとしての私との関係を深めるためにこの作品を使ってもらうことですね。また、自然との関係についても、意識して外に出ることがない人や、自然界に答えを求めたり、精神的な健康を改善したり、何かを乗り越えたりすることに縁がない人が、これをきっかけに外に出るようになればいいなと思っています。このアルバムを聴いて、そのような体験を得てもらえたら、私はやるべきことを務めたかなって。

 

ニュースレターは、ファンに直接伝える重要な場所になっているようですが、なぜそのメディアを選んだのでしょうか?

私はニュースレターを書くが大好きなんです。アナログな感じがして、昔のメーリングリストのようなコミュニティのような感じ。常に面白く、興味深いものでいつづけるよりも、何かを考えて1000文字ほどで反芻して、それを人々の受信箱に送ることができるから、私にはちょうど良いんです。私はいつも、インスタグラムのキャプションに十分なスペースを確保できないタイプの人間だと感じていた、だから、何でも話せるこのプラットフォームを手に入れて、人々が面白いと思うアルゴリズムに対応する必要がないというのは、私にとっては素晴らしいこと。ニュースレターを書くのは凄く楽しいから、ずっと続けていきたいと思ってます。

 

セミの鳴き声が聞こえてくることもありますが、ニュージーランドをどのようにしてアルバムに反映させたのですか?

このアルバムは、ニュージーランドのようなサウンドにしたかったんです。ニュージーランドについてのドキュメンタリーではないけど、私の具体的な経験であり、自分の出身地をある程度ロマンティックに表現してます。私は、ニュージーランドの夏とその感覚にとても強い関係があるんです。

10代前半の頃から、夏が来て学校が終わるという感覚は、可能性と変化に満ちた時間だったんです。少し背が伸びて、少し日焼けして、何かを学んで、別人のようになって学校に戻ってくる。12月になると、そのような興奮が私の中でまだ起こっているような気がするんです(*ニュージーランドは南半球なので12月が夏の季節)。これは、その気持ちを理解しようとする私の試みですね。特に、「早くビーチに行きたい」という気持ちから、「この季節から本当に精神的な栄養を得ていて、その理由を理解する必要がある」という気持ちへと変化し始めた。その中で、どうしても伝えたいことがいくつかありました。特に、ニュージーランドの水の中にいるときの感覚。ニュージーランドのさまざまなビーチや湖で、背中に乗って浮かんでいたときの記憶がとても強く残っていて、それは直感的で、原始的で、永遠の感覚なので、それをぜひ入れたかった。

「Oceanic Feeling」ではそれが表れていると思います。他に取り入れたかったのは、セミ。ニュージーランドの夏は私にとってセミの鳴き声に似ているんです。セミは、これから暑い日になるから外に出よう、という合図のように聞こえるし、小さなチアリーダーのようでもある。ニュージーランドの夏は、どこへ行っても大きなセミの声が聞こえてくるから、私は携帯電話を取り出してセミの声を録音し、レコードの中で永遠に残しておこうとしました。この曲は、私にとって非常に魅力的な曲になりました。

 

近年、TikTokが大人気になっていますが、あなたはTikTokを利用していますか?

私がTikTokを使わないのは、TikTokがスマートでクールじゃないと思っているわけではなく、私の脳を永久に繋ぎ止めてしまうかもしれないと思うから。私はTikTokをダウンロードしてから、信じられないような午後を過ごしました。2時間も顔を上げずにスクロールし続け、その間ずっと楽しんでた。そして、その瞬間に“もう二度とこんなことはできない”と思ったんです。なぜなら、TIkTokは強力な魔法で、アップされている動画を完全に尊敬し、愛しているけど、私には向いていないと思ったんです。TikTokを通して私自身を見る必要はない。TikTokの1番クールなところは、アプリが子供のためのものであって、子供たちこそ面白く、クリエイティブで賢いことをするということ。私は年を取った魔女みたいなものだから、私からそういうものは必要ないんですよ。

 

再びライブを行うことに興奮していますか?

ライブで演奏することにとてもワクワクしています。面白いことに、私は何年もかけてアルバムを制作するから、ツアーとツアーの間には大きな休みを取るけど、長い休みを取らなかったであろう私の仲間たちにとっては、こんなにもツアーを休むのは初めてのことで、皆がライブの経験を再び共有することにとても興奮している雰囲気を感じています。コンサートに行ってみんなと一緒に汗を流すことができることを楽しみにしています。でも、パフォーマーとしては、紛れもなく感情的に激しい雰囲気になることを、自分勝手にも楽しみにしています。きっと混沌としていて、人々の心が解放され、喜びと同時に感情的なものにきっとなる。私はそれを待っていました、絶対に待ちきれません。一度くらいは、私1人、部屋の中で1番情緒不安定な人間にならないことを楽しみにしています。

 

映像には独特の雰囲気がありますが、あなたとジョエル・ケファリ(監督)は何を目指していましたか?

『Solar Power』の世界観を表現するために、大量のビデオを作りたいと、このアルバムの制作のかなり早い段階から考えていました。そこで、私が16歳のときに最初の2本のミュージック・ビデオを制作したジョエル(ケファリ)に相談してみました。私たちは、ゼロから世界観を作り上げ、これらのビデオにズームインしていくという、全体的な方法で話を始めました。それは私たち二人にとって、まさにゼロからの経験でした。

撮影期間は10日間以上という、今までに経験したことのない長さでした。全く新しい経験だったし、監督をするのはとてもクールで楽しかった。ジョエルは、私が作りたいものを作ってくれました。このコミュニティを作るために、10人か15人の友人や家族をビデオ撮影に呼んだんです。本物の友人や家族がビデオに登場することで、娯楽目的で作られたものと、自分の個人的な思い出のために作るものとの境界線が曖昧になり、良い意味で私の脳の中のリールが再生されるようになるんですが、これはいつもより意味のあるものに仕上がります。

私にとっての個人的な投資がたくさんあって、本当に特別でした。このアルバムを作った後に、外でこのような動画を作り、自然界を祝福することは、多くのアイデアを集約したように感じたんです。また、天候に合わせて移動しなきゃいけないけど、(天候の具合と)うまく合わせられて、撮影したビーチと美しい天候の塊に抱かれているような気分だった。ビデオを作るのは、とても楽しかったです。

Written By uDiscover Team



ロード『Solar Power』
2021年8月20日発売
Music Box(CDに代わるフィジカル商品) / LPiTunes / Apple Music / Spotify / YouTube Music




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