ニール・ダイアモンドは米国では大人気だが、なぜ日本では難しかったのか?

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2026年4月17日に日本劇場公開が決定した映画『ソング・サング・ブルー』は、『ハッスル&フロウ』などで知られるクレイグ・ブリュワーが脚本・監督を務め、ヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンが、ニール・ダイアモンドのトリビュート・バンド“ライトニング&サンダー”として活動するマイクとクレア・サルディナ夫婦を演じる感動エンターテインメント作だ。

この映画の実質的なメインキャラクターとして登場するニール・ダイアモンド、そして彼の音楽について、音楽ライターの石川 真男さんのレビューを掲載します。

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我々の想像を遥かに超える米国での人気

ニール・ダイアモンドの米国での愛されっぷりは、日本にいる我々の想像を遥かに超えるものだ。

野球場ではダイアモンドの歌で大合唱が巻き起こり、パーティー会場やバーなどでは知らない者同士でも一緒にコール&レスポンスを行うのがお約束だ。米国だけで5,500万枚を超えるレコードを売り(全世界では1億3千万枚以上)、3曲の全米No.1シングルをはじめ数多くの自作曲をチャートに送り込んでいる。

また、エルヴィス・プレスリーやフランク・シナトラ(ちなみに英国勢ではかのディープ・パープルやUB40、さらに日本では加山雄三や南沙織まで!)といった面々がダイアモンドの曲をカヴァー。野球やマラソンやフットボールなどのスポーツイベントをはじめ、オリンピックや大統領選挙まで、様々な場面でダイアモンドの綴ったメロディと歌声が響き渡る。

2026年4月17日に日本劇場公開が決定した映画『ソング・サング・ブルー』でも、ニール・ダイアモンドのトリビュート・バンドがストーリーの中心となり、ヒュー・ジャックマン演じる主人公が「軽々しくカヴァーできない」と思うほどこの国民的スターに心酔しているのだ。

1966年のシングル「Cherry, Cherry」で全米6位まで上昇するスマッシュヒットを放ったダイアモンド。同年作曲家としてもモンキーズに「I’m A Believer」を提供して全米No.1という大成功を収める。1960年代末~70年代には、「Sweet Caroline」「Holly, Holy」、自己の名義で初の全米No.1となった「Craklin’ Rosie」、2曲目の1位となった「Song Sung Blue」、バーブラ・ストライサンドとのデュエットでNo.1を獲得した「You Don’t Bring Me Flowers」といったヒットを放つ。

1980年には映画『ジャズ・シンガー』に主演。1990年代に入ると「Sweet Caroline」「America」といった曲が野球やオリンピックや大統領選挙など大規模イベントで使用される。自身のヒットが少なかったこの時期にも、ダイアモンドの音楽はそれまで以上に米国民に届き、そのことが彼を国民的歌手へと押し上げていったのだ。

 

楽曲から見るその人気の理由

では、ニール・ダイアモンドがなぜ米国でこれほど支持されるのだろうか?

まずは、何より楽曲の魅力であろう。口ずさみやすいメロディ。ぐいと引き込まれる展開。例えば「Cracklin’ Rosie」。穏やかな足取りで進むカントリー調ポップだが、「ここで歌ってくれ」と言わんばかりにリズムが変わってサビへと突入。サビ終わりにはリズムがドロップし、「Play it now」というフレーズを繰り返して次のコーラスに進む。

「Crunchy Granola Suite」では、疾走するビートの上でキャッチーなスキャット・パートがしばしば挟み込まれる。

そして「Soolaimon」。サビで連呼されるこのタイトルは、ダイアモンド自身がアラブ語に着想を得て創作した言葉で、「こんにちは」「さようなら」「安らかであれ」といった意味があるそうだ。この印象的な言葉とメロディは意味も分からず口ずさみたくなる。

そしてもちろん「Sweet Caroline」。サビの「Sweet Caroline♫」の後のブラスによる三音のフレーズは、つい言葉を発したくなるものだ。そこで「bah bah bah」という合いの手を入れるのが定番化されているが、これほど自然にこうした合いの手を引き出す展開はなかなかないだろう。

歌詞もシンプルながらも聴き手に深く刺さるものが多い。穏やかな口調で「悲しい気持ちも歌にして歌い飛ばそう」と励ます「Song Sung Blue」。

ジーンズのCMなどにしばしば使用される「Forever in Blue Jeans」は、「君と一緒にいられる限り、ブルージーンズをずっと履いていたい」と歌い、平凡でも愛する人との生活を望む気持ちを表明する。

アメリカへ自由を求めてやってくる移民のことを歌った「America」。ダイアモンド自身がユダヤ系移民の家系に生まれており、そんな彼が、作曲家という裏方から表舞台へと出てきて、数多の栄光と挫折を繰り返しながらも国民的スーパースターへと上り詰めていく様は、まさに”アメリカン・ドリーム”を体現するものであり、彼の綴る言葉にいっそう説得力を与えている。

 

日本では難しかった“立ち位置”

それに比べると、日本ではこうした地位が築けているとは言い難い。その要因はニール・ダイアモンドの立ち位置の“曖昧さ”にあるのかもしれない。

当然ながら日本では、ダイアモンドは洋楽として受容されてきた。となれば、やはり“文脈”で語られる必要があった。今でこそネットで様々な情報が手に入るが、それまでは“生の声”や“動く姿”などに接する機会はほぼ無く、代わりに「どういった背景から出てきたのか」「どんな音を鳴らすのか」「シーンにどんな影響を与えているのか」を文脈によって定義付ける必要があった。その点ダイアモンドの場合は、“どの棚”に置くべきかを判断するのが少々難しいと言えるだろう。

エルヴィス・プレスリーのようなセックス・シンボルではなく(そうした要素が無いだけではないが、健全なイメージとのバランスを取っていた印象だ)、フランク・シナトラのようなゴージャスさで売っていたわけでもなく、ボブ・ディランのような社会派でもなく、ザ・ビートルズのような音楽的革新性があったわけでもなく…。良くも悪くも中庸のイメージであった。

音楽性も同様である。ロックンロールやフォーク、ゴスペルやカントリーやエスニックなど多彩な要素を内包するが、それらに過度に傾くことはなく、あくまで“ポップス”という立ち位置を維持しながら、とにかく優れたメロディやハーモニーを追求しており、それは音楽的分析や文脈的解釈とはあまり相性がいいものではなかった。

だがそうした特性は、むしろリスナーを選ばない普遍性を帯びているとも言えるだろう。あらゆる属性に対して門戸が開かれたニール・ダイアモンドの楽曲。ゆえにダイアモンドを米国での国民的歌手の座へと導くことができたのだ。これは、このネット時代、サブスク時代にいっそう有効となるかもしれない。ストーリーを仕立て、強力なプロモーションでユーザーに猛プッシュする時代は終わり、今やリスナーが自らが見つけ、選択していく時代。マニアックな洋楽がTikTokなどで突然バズる時代。そんな中、ニール・ダイアモンドの“思わず歌いたくなる”ポップ・チューンは、世界中で、そしてここ日本でも思わぬ強さを発揮するかもしれない。

Written By 石川 真男


映画『ソング・サング・ブルー』に登場する
楽曲のオリジナルをまとめたアルバム

ニール・ダイアモンド『Neil Diamond Originals – Song Sung Blue』
2025年12月12日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

映画『ソング・サング・ブルー』
2026年4月17日 日本劇場公開
公式HP




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