ニール・ダイアモンド「Cracklin’ Rosie」解説:自身初の全米1位となったロマンスと謎に満ちた名曲

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Photo: RB/Redferns

ニール・ダイアモンド(Neil Diamond)は数多くの名曲を作り出してきたが、その中でも彼が解説にたくさんの時間をかけてきたのが「Cracklin’ Rosie」だ。これは魅惑的な女性についての歌ではない。少なくとも文字通りの意味ではそうは読めないはずだ。

それに、”さあ、乗り込もう / get on board”というフレーズで幕を開けるとはいえ、高速で走る列車の歌でもない。だが真っ赤なワインが思い浮かんだなら、正解に近づいている証拠だ。

この曲のヒントになったのは、彼がツアーでカナダに滞在したとき耳にした言い伝えだった。両親が宣教師をしているというインタビュアーと話した彼は、その女性から地元の民話をいくつか教えてもらったのだ。その中でも彼の印象に強く残ったのは、男性比率の高い保留地に関する話だった。

そうした場所では週末になると「売れ残った哀れな男たちが地元の小売店に駆け込み、クラックリング・ローズという名の安ワインを大瓶で買い込む。そのワインこそが週末の彼らの女になるのだ」という話だ。

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レッキング・クルーとも録音

その話から発想を膨らませた彼は、ロマンスと謎に満ちた楽曲を作り上げて1970年の晩夏にリリースした。上記のような背景を知らなくとも、多幸感溢れるこの曲の雰囲気に浸ることはできるはずだ。そしてそのムードは、曲の主人公の”酔い”とともに高まっていく。それどころか、彼は週末のお供となるワインと頭の中に流れる歌への愛に我を忘れかけているようにも思える(アカペラのブレイクが二度も入るヒット曲がほかにあるだろうか?)。安酒とともに乗り越える週末も、この曲では特別な時間として描かれているのだ。

参加ミュージシャンたちの活躍も忘れてはならない。ニールはこの曲に、名うての名手たちから成るレッキング・クルーの面々を起用。ドラマーのハル・ブレイン、キーボーディストのラリー・ネクテル、ベーシストのジョー・オズボーン、ギタリストのアル・ケイシーがトラックに華を添えている。それにもかかわらず、かつてニールは曲中に小さな欠陥があることをこう明かしていた。

「“Cracklin’ Rosie”では先にリズム・トラックを録音して、それから僕が何度かギターをオーヴァーダビングした。自分で弾きたいフレーズがいくつかあったからね。そのあとでヴォーカルを吹き込んで、次に管楽器やらベルやらクラッシュ・シンバルやら女性コーラスやらを加えて、最後にブリッジのセクションを録音した。これを話すと曲を聴くたびに気になってしまうだろうから言うべきじゃないかもしれないんだけど、最後のコーラス・パートはその直前のパートとテンポがまるで違うんだ。僕が“play it now, play it now my baby / 鳴らそう、さあ鳴らそうよ”と歌って転調するパートのテンポが全然合っていないんだよ。あれじゃ踊れないね」

 

リリースとアルバム

そんな欠点があったにもかかわらず、「Cracklin’ Rosie」は全米1位獲得というニール・ダイアモンド史上初の偉業を達成。ニールはこれを含め、70年代に全米チャートを三度も制している。とはいえ、彼はこのシングルの何年も前からヒット作の山を築いていた。

「Sweet Caroline」「Holly Holy」「Shilo」「Solitary Man」などの楽曲はどれも好セールスを記録していたのだ。一方、「And the Grass Won’t Pay No Mind」は珍しい失敗作となったが、ニールがこれに関して不満を口にすることはなかった。同曲は彼の楽曲として初めてエルヴィス・プレスリーにカヴァーされたからだ。2人のシンガーはこれをきっかけに友情を育み、一時は隣同士で暮らしていたこともあった。

「Cracklin’ Rosie」がリリースされたころ、ニールは依然としてシンガーソングライター・ブームの波に乗っていた。そして1970年当時、このことはこれ以上ないほどの追い風となっていた。その界隈からは重要作が次々に生まれており、同年にもジェームス・テイラー、キャット・スティーヴンス、エルトン・ジョン、ジョニ・ミッチェルらが揃って名作を発表。キャロル・キングの『Tapestry(つづれおり)』は少し遅れて1971年の前半に世に出た。

その中にあってニールも、より聴き応えのある作品をアルバムのフォーマットで制作するようになっていた。彼がユニ・レコード移籍後に発表した最初の2作『Velvet Gloves And Spit(思い出のシャイロ)』と『Brother Love’s Travelling Salvation Show(ニール・ダイアモンドの肖像)』はいずれも緩やかなコンセプト性と高い実験性が特徴のアルバムで、シングルには到底ならないようなトラックもいくつか含まれていた。ニールはこの時期を通じて、溢れ出す創造性とヒットへの嗅覚との適切なバランスを探っていったのである。

そしてその完璧なバランスに辿り着いたのが、「Cracklin’ Rosie」をリード・トラックとする1970年作『Tap Root Manuscript(クラックリン・ロージー)』だった。この早い時期から死について考察していた1曲「Done Too Soon」や、同作唯一のカヴァーで「Cracklin’ Rosie」に続くシングルとしてヒットを記録したホリーズのヒット曲「He Ain’t Heavy, He’s My Brother(兄弟の誓い)」を含むA面の5曲はシリアスだがとっつきやすいものばかり。

一方で“African Trilogy / アフリカ3部作”(副題はfolk ballet /フォーク・バレエ)と題された約20分の組曲が占めるB面は作風が一変。語り、民族的なリズム、子どもたちの合唱、インストゥルメンタル・ナンバーなどを含むこちらの面には、ニールの特徴的な歌声を聴ける楽曲が1曲、シングルとしてヒットした「Soolaimon」しか入っていない。

当時としては非常に画期的な試みであり、同様にワールド・ミュージックの影響を取り入れたポール・サイモンの『Graceland』やピーター・ガブリエルのソロ作を大きく先駆けていたと言える。

 

「Cracklin’ Rosie」のその後

ニール・ダイアモンドは『Tap Root Manuscript』のあともカヴァー曲が大多数を占める弾き語りスタイルのアルバム『Stones』、こちらも野心的なコンセプト・アルバムの『Moods』と、実験的な作品群をユニ・レコードから発表し続けた。だがそれ以上の重要作と言えるのが、1972年後半にリリースされライヴ・パフォーマーとしての彼の成熟ぶりを示した『Hot August Night(グリーク・シアター・コンサート)』である。

同作の終盤に登場する「Cracklin’ Rosie」は、スタジオ版から大きな変貌を遂げていた。このアルバムにおける演奏は、より壮大で、テンポも速く、熱烈で、劇的だったのである。そしてニールは、以降もこの作風を継続していくこととなる。

ニール初の全米1位曲となった「Cracklin’ Rosie」は最近でも、彼の半生を描いたミュージカル『A Beautiful Noise, The Neil Diamond Musical』の重要なパートに据えられた。この作品のキャストたちが劇中の楽曲を歌ったアルバムのプロデュースを担ったのは、フォー・シーズンズの創設メンバーであるボブ・ゴーディオ。

そのキャリアを通じて数え切れないほどの功績を残してきたゴーディオは、『You Don’t Bring Me Flowers(愛のたそがれ)』、『September Morn』、同名映画のサウンドトラック盤である『The Jazz Singer』(1980年)など、プラチナ・ディスクに認定されたニールのアルバム群も手がけている。

Written By Brett Milano


ニール・ダイアモンド『Tap Root Manuscript』
1970年10月15日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


映画『ソング・サング・ブルー』に登場する
楽曲のオリジナルをまとめたアルバム

ニール・ダイアモンド『Neil Diamond Originals – Song Sung Blue』
2025年12月12日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

映画『ソング・サング・ブルー』
2026年4月17日 日本劇場公開


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