17歳の新人d4vdとは:フォートナイトから生まれ、スマホで作り上げた“孤独”なサウンドの魅力

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d4vd - Photo: Nick Walker (Courtesy of The Oriel Co.)

2005年3月28日、米テキサス州ヒューストン育ちの現在17歳の新人シンガー・ソングライター、d4vd(デイヴィッド)は、Spotify USトップ50チャートで19位、Spotify USバイラルチャートで1位を獲得したシングル「Romantic Homicide」で注目を浴び、ビリー・アイリッシュが所属する事務所/レーベルのDarkroomと契約を果たした。(*2023年3月28日update:本日で18歳に)

ホームスクールで学び、ゲームのフォートナイトから生まれ、iPhoneだけで妹のクローゼットを借りて録音し、その楽曲がTikTokで大ブレイクと、“現代”から生まれた存在である彼について、音楽ライターの松永尚久に解説いただきました。

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昨今の新型コロナのロックダウンの影響により、人間同士がコミュニケーションをとりあいながら音楽をセッションできる機会が減少。また音楽アプリの進化によって、ひとりで思い通りの音楽を鳴らすことができるようになった現在。その時代性を巧みに活用させた楽曲を発表し、話題を呼んでいるのがd4vd(デイヴィッド)である。

人気ゲーム「フォートナイト」のモンタージュ用に使用した楽曲をきっかけに注目。ビリー・アイリッシュなどが所属するレーベル「Darkroom」と契約し、2022年7月に発表された楽曲「Here With Me」は、自身のTikTokアカウントからポストした早回し音源の楽曲が話題を呼び、この音源を使用して100万以上の動画コンテンツが作成され、結果10億以上の再生数を記録している、(2023年2月現在)17歳のシンガー・ソングライターである。

ビリーと同様、楽曲のほとんどは自宅で(しかも妹のクローゼットの中でひとり)制作されているという楽曲の数々は、自身のルーツであるというゴスペルなどのソウル・チャペル音楽だけでなく、ヒップホップやインディー系ロック・バンドからの影響を受けて制作されているという。たったひとり、しかも音楽アプリのみで完成させたとは思えないほど、感情を揺さぶる楽曲ばかりなのだ。音楽の新たな可能性、つまり人間以外とのセッションで生まれるライヴ感(生々しさ)のあるサウンドが作り出す興奮を味わうことができた。

 

1. 人気ゲーム「フォートナイト」がきっかけで音楽の道へ

d4vdは、ヒューストン育ち。敬虔なクリスチャンである両親のもとで、幼い頃はゴスペルなど教会で流れる音楽のみを耳にしていたという。やがて友人からヒップホップや、ポップスなどを教えられて、さまざまな音楽を知ることになったものの、13歳の頃から「自分の声に耳を傾けるため」ホームスクーリングで勉強をすることを選ぶ。

しかし、そのことで孤独感に苛まれてしまったd4vdは、ゲームの世界(特に「フォートナイト」)に熱中。さらに実況(モンタージュ)を動画サイトにアップしたところ、6万に迫る登録者を獲得するほどの人気に。当初は、その実況にアークティック・モンキーズやザ・ネイバーフッドといったインディー系バンドの楽曲をサウンドトラックとして流していたが、著作権の関係で使用することができなくなり、自身で制作することを決意。

2021年に初の楽曲「Run Away」を発表、続いて配信した「NEVER AGAIN」はSoundCloudにて3日間で2万回の再生を記録し、大きな話題を呼んだ。ちなみにd4vdという名前は、いくつか作っていた自身のアカウント名からとったものだという。

 

2. 日本のアニメから影響を受けた!?「Romantic Homicide」でブレイク

ゲームの世界から飛躍し、積極的に楽曲を発表していったものの、その後思うような評価が得られることがなかったというd4vd。どういう音楽を作ればいいのか、考えているなかで生まれた楽曲が2022年発表の「Romantic Homicide」だったと、Line Of Best Fitのインタビューで語っている。

「正直これがヒットするとか期待を持たずに制作したものというか。自分の中でスパークしたアイデアを純粋に表現した楽曲になります」

タイトル通り、ロマンティックなムードが漂うドリーミーでシンプルなギター・サウンドになっているものの、歌詞に関しては大切な人との別れを衝撃的に描いている楽曲。これは、自宅にある実妹のクローゼットにて制作されたものだという。実は、d4vdの楽曲のほとんどはそこで完成されている。

「そこは、自分の創造力を理解できるレベルにまで下げることができるというか。瞑想のようなことができる場所です。妹が乱入しない限りは、私にとって最高のスペースと言えるでしょう」

そのクローゼットにあるのは、スマートフォンとワイアレスのイヤホンのみ。

「自分に与えられたデバイスはそれしかなかった。そこで音楽を作れるアプリを探して、ひとりで制作していました」とV MANのインタビューで語っている。

シンプルかつ限られた空間、環境で自身と向きあい完成した「Romantic Homicide」は、リリースすると同時にTikTokを中心に大きな話題を呼び、米ビルボードトップ100に初登場でランクイン、Spotifyのバイラルチャートでは日本を含む世界各地で1位に。現在までに4億近い再生数を獲得している。

また、漫画・アニメ『東京喰種トーキョーグール』の世界をモチーフに表現したという、自身がディレクションを手がけたダークでショッキングなミュージック・ビデオも3,000万を超える視聴数になり、d4vdの名前が世界に広まったのだった。

 

3. TikTokで火がついた「Here With Me」

「Romantic Homicide」のヒットによって注目を集めたd4vd。続いてリリースした「Here With Me」も、さらなる話題を呼ぶ楽曲になった。

「Here With Me」はビリー・アイリッシュなどが所属するレーベル「Darkroom」からリリースされた、メジャー初シングル。自身お気に入りの映画であるディズニー&ピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』を見ながら、主人公カールとその最愛の妻エリーの2人の関係について、想像をしながら綴ったという内容。最愛の人のそばにずっと寄り添っていたいというピュアで甘い思いが伝わると同時に、今では遠くなってしまった時間に思いを寄せるような雰囲気を味わえる、現在ティーンエイジャーとは思えないほどのディープさも感じる楽曲。

TikTokでは、本人アカウントが投稿した早回し音源の楽曲がバズを起こし、この音源を使用して作成された100万以上の動画コンテンツの総再生回数は10億回を超えるほどの話題を呼び、現在、Spotifyだけで2.5億を超える再生数を獲得している。

また、「『Romantic Homicide』に登場したふたりが、もしうまくいっていたらどうなっているかを想像した映像」(オフィシャルのプレスリリースより)という、ミュージック・ビデオも1300万回の視聴数を記録し、こちらも話題に。

繊細な映像も含め、あらゆる人々に「そばにいてほしい」ものの存在について改めて考えさせてくれる要素のある楽曲。それが、大きな共鳴やバズを呼び起こしている要因になっているのではないだそうか。

 

4. <孤独>という魔法が与えた新曲「Placebo Effect」

「Romantic Homicide」と「Here With Me」では、メランコリックでディープな心象風景を描いた仕上がりであったが、ほかにも疾走感のあるロック・チューンや、ヒップホップやR&Bの要素を感じる楽曲などジャンルレスなサウンドをスマートフォンひとつで展開しているd4vd。その音楽性を培えたのは、ホームスクーリングの影響が大きかったと語る。

「学校でクラスメイトと囲まれて教育を受けていたら、自分は何も個性のない人間になると思った。何をいつ、どういうふうに学ぶのかを自分で決めたかったのです。結果、自分自身のために使える時間ができ、特定の考えに対してフォーカスし瞑想することができた。とても充実した時間だったように思います」

また、日々の<孤独>は音楽制作においても大切な要素になっていると続ける。

「ある時スタジオでいろんな人に囲まれて作業をしたことがありましたが、違和感しかありませんでした。楽曲がどんどん自分とかけ離れていくような気がして。音楽のフィーリングを伝える魔法が消えていくような」

2月8日に発表された新曲「Placebo Effect」にも<孤独>の匂いが漂う。本来は役割のないものが、症状が改善されたり多幸感を得られることをさす「プラシーボ(プラセボ)効果」をタイトルにした楽曲。ギターのメランコリックな響きをメインに、「Here With Me」同様に架空(夢)の世界を彷徨っている、もしくは甘い日々を振り返っているような仕上がり。<孤独>でいることのせつなさを滲ませながらも、その奥にひとりでいることの耽美を見出しているようなd4vdの表情がうかがえるのだ。

 

5. 自分の名前が音楽ジャンルとして確立できたら

<孤独>な環境のなかで作られるd4vdの音楽。しかし、その音にはバンドなどさまざまな人間が集まって描かれるアンサンブルが聴き取れる。その<生々しい>波動を生み出すセンスは、アプリで簡単に表現できるものではない。卓越した音楽センスがあるからこそ描き出せるものだと思う。実際、自身のソーシャル・メディアに寄せられたコメントにも、そういう発言が目立つ。

これらの反響を受けてか、当初はプロのゲーマーになることを目指していたそうだが、現在ではいずれはd4vdがひとつのジャンルとして認知されるようになりたいと語るほど、音楽に対する思いが強くなっているようだ。

「そうなるために、これからもたくさんの音楽要素や感情を作品に取り込んでいきたいと思っている。今は音楽に対するヴィジョンが明確にあるのです」(Line Of Best Fitより)

Written By 松永尚久



d4vd「Here with Me」

2022年7月17日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


d4vd「Placebo Effect
2023年2月8日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

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