『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』とMCUの音楽:受け継いだヘンリー・ジャックマンの功績

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Disney+(ディズニープラス)にて2021年3月19日から全6話が配信されたマーベル・スタジオによるオリジナルドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』。今年1月に配信された『ワンダヴィジョン』続くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)2作目のテレビ・シリーズとなった本作のサウンドトラックについて、ライターの杉山すぴ豊さんに解説いただきました。

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ヒーローのテーマ曲とアラン・シルヴェストリ

そのアメコミ・ヒーロー映画が盛り上がるかどうかの大事な要素に音楽があります。やはりヒーローにあわせたテーマ曲は重要。古くはジョン・ウィリアムスの『スーパーマン』のテーマ曲。その後ダニー・エルフマンが手掛けた『バットマン』『スパイダーマン』。最近だとハンス・ジマーの『ダークナイト』の曲や、ハンスとジャンキーXLによるワンダーウーマンのテーマ曲「Is She With You?」がヒーローたちの冒険をより印象深く素敵なものにしてくれました。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)も名曲の担い手が多い。その中でも代表格はアラン・シルヴェストリ。彼は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』の作曲家として有名ですが、MCUでは『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)から参加。『アベンジャーズ』(2012)のあのテーマ曲も作曲しました。キャプテン・アメリカやアベンジャーズのおなじみのテーマ曲と言えばアラン・シルヴェストリのあのメロディが頭の中で浮かぶでしょう。

 

作曲家ヘンリー・ジャックマン

そしてもうひとりMCUで活躍する作曲家と言えばヘンリー・ジャックマンです。彼がMCUに参加したのは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)ですが、MCUではないマーベル原作映画として『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(2011)、『キック・アス』(2010 / *この原作はいわゆるマーベル物ではないんですが、マーベル系の出版社から発売されています)を手掛けました。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』以降は『キングスマン』(2014)や『ベイマックス』(2014。実はこの作品も原作はマーベルです)も担当しています。というわけでMCU以外にもアメコミ・ヒーロー映画の作曲に数多く携わってきたと言えるでしょう。ただ彼はアメリカ人でなくイギリス出身ですが。

僕は彼の作品の中で『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』がとても好きです。映画自体が今までのX-MEN映画をリセットして若い世代の超人を描く作品でした。それまでのX-MEN映画が人類と新人類の確執というちょっと重めの人間ドラマだったのに対し『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』は若者たちのほろ苦い旅立ちを描く青春ドラマです。これから巣立っていく若きX-MENへのエールを感じさせる楽曲だったのです。極めて当たり前のことを言いますが、やはり作品の内容やカラーとあった曲というのは印象に残るのです。

ヘンリー・ジャックマンは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』以降、キャプテン・アメリカ映画3作目となる『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)を経て今回のドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を手掛けます。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は“キャプテン・アメリカ3.5”と言ってもいい作品なので、つまり1作目のアラン・シルヴェストリのバトンを受け継ぎずっとキャプテン・アメリカの映画に関わっていきます。

シリーズ2作目以降の音楽

先にも言ったようにキャプテン・アメリカのテーマ曲と言えばアラン・シルヴェストリです。しかしそれはヘンリー・ジャックマンの素晴らしい仕事を否定するものではありません。ここにアメコミ・ヒーロー映画特有の法則があります。ヒーロー物は2作目以降が面白いと言われることが多い。なぜか? 1作目はどうしてもキャラクターの誕生秘話(オリジン)を描く必要があります。そのヒーローを世の中に紹介することに時間を割いてしまう。しかし2作目以降は、ヒーローの紹介をする必要はない。ヒーローを使ってどれだけ面白いストーリーを作れるか?なのです。ものすごく大雑把に言うとヒーロー映画の1作目はキャラ重視、2作目はストーリー重視です。1作目を引き受けたアラン・シルヴェストリがキャプテン・アメリカのテーマ曲に注力したのは当然で、とにかくこのキャラ自体の印象を強めねばなりません。それに対しヘンリー・ジャックマンは、もうキャプテン・アメリカのための曲を作る必要はない。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』という物語に曲をつけるのが彼の仕事です。

とりわけ『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』はMCU屈指のサスペンス・アクション。ヘンリー・ジャックマンはこの映画に相応しい緊張感のある曲を提供しました。とりわけこの映画に登場するウィンター・ソルジャーは最恐かつ最凶のヴィラン。本作におけるウィンター・ソルジャーをフィーチャーした曲は、とにかくこのキャラの怖さをよく表現していました。ファンの中にはこのウィンター・ソルジャーの曲を“one of the most chilling themes in the MCU”(MCUの中で最も身の凍るテーマ曲の1つ)と評する人もいます。

この『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でのヘンリー・ジャックマンの仕事を知っていると『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のテーマ曲の素晴らしさに感動するはずです。本作ではウィンター・ソルジャーはもう怖いヴィランではない。そしてこのドラマはファルコンとウィンター・ソルジャーのバディもの。従ってこのテーマ曲も『リーサル・ウェポン』とか往年のバディ系アクション映画のような明るいノリ。ホラーなテーマ曲はもうウィンター・ソルジャーにいらない。彼のキャラが変わったことがこの曲の変化でもよくわかります。

しかしながらドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は決して明るいだけの話ではありません。社会の分断、ブラック・ライブズ・マター、正義という名の暴虐等を描く社会派のドラマです。しかしそうしたシリアスさを必要以上に暗く・重くせず、この2人のかけあいの面白さでみせていく見事なエンタテインメントです。どんなに世界が大変なことになってもこの2人がいれば大丈夫、そういう気持ちにさせてくるテーマ曲なのです。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でファルコンが次のキャプテン・アメリカになりました。彼を主役に映画『キャプテン・アメリカ4(仮題)』が作られるそうです。ヘンリー・ジャックマンが続投し今度は新キャプテン・アメリカのためのテーマを彼にぜひ作ってもらいたいですね。

Written by 杉山すぴ豊



サウンドトラック『The Falcon and the Winter Soldier: Vol. 1 (Episodes 1-3)』
2021年4月9日配信
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