【全パフォーマンス徹底解説】初のヒップホップアクト、2022年スーパーボウル ハーフタイムショー

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Photo by Kevin C. Cox/Getty Images

日本時間2022年2月14日に行われた第56回NFLスーパーボウルのハーフタイムショー。出演アーティストとセットリストは以下の通り。

2022 SUPER BOWL HALFTIME SHOW SETLIST
1. Dr. Dre & Snoop Dogg – Next Episode
2. Dr. Dre & Snoop Dogg – California Love
3. 50 cent – In Da Club  *事前発表なしのサプライズ出演
4. Mary J. Blige – Family Affair
5. Mary J. Blige – No More Drama
6. Kendrick Lamar – m.A.A.d city
7. Kendrick Lamar – Alright
8. Dr. Dre & Eminem – Forgot About Dre
9. Eminem – Lose Yourself
10. Dr. Dre – I Ain’t Mad at Cha (Instrumental)
11. Dr. Dre & Snoop Dogg – Still D.R.E

56回の歴史で史上初めてヒップホップアクトが出演した今回のハーフタイムショーについて、ライター/翻訳家である池城美菜子さんに徹底解説いただきました。

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コントロール卓のスイッチを徐々に上げるドクター・ドレーの指。56年の歴史を誇る、NFLスーバーボウル初のヒップホップ・アクトによるハーフタイムショーの最初のシーンだ。真っ白いスタジオでモニターの前に一人座るドレーの姿から始まったのは、すべては彼のスタジオがスタート地点だったといわんばかりの気の利いた演出。試合結果は、イングルウッドのソーファイ・スタジアムがホームコートである、ロサンゼルス・ラムズが残り1分25分でシンシナティ・ベンガルズに逆転した。ハーフタイムショーもスーパーヒップホップ・プロデューサー、ドクター・ドレーを中心に組まれた13分自体がヒップホップ・カルチャーの勝利、盛り上がりを止めようとする長年の動きに逆転した記念すべき時間だった。

 

「The Next Episode」のイントロが流れると7万人を収容できるスタジアム全体から歓声が上がった。LAの低層住宅を模したセットは、ソーシャル・ディスタンスをうまく保って出演者たちを配置するため。「ラディダディダー」と独特の声で先陣を切ったのがスヌープ・ドッグだ。青いバンダナ柄に黄色が入った衣装はラムズのチームカラーであり、彼がデビュー前にいたギャング、クリップスの色でもあるから確信的な匂わせだ。ネックレスは先日、カタログを買い取ったと報じられたデス・ロウ・レコーズの新しいロゴを象ったもの。

「The Next Episode」はドクター・ドレーの1999年のセカンド『2001』からの代表曲。スヌープは階下に降りて、ミュージシャンやボディポジティヴの動きを象徴するチアリーダーたちの間を大股で歩きながらラップする。「西海岸のみんな、大騒ぎして!」とのかけ声とともに「California Love」のイントロが流れた。1995年暮れに2パック『All Eyez On Me』のシングルとしてリリースされるやいなや大ヒットした曲だ。ファンク・バンド、ザップのロジャー・トラウトマンのトークボックスを使用したコーラスが特徴的な、ヒップホップのサブジャンル、Gファンクの名曲中の名曲。1996年に2パックが、1999年にはロジャーが射殺されているが、いたましい事件を乗り越えてカリフォルニア讃歌となったのだ。元曲どおり、ファースト・ヴァースをラップするドレー。スヌープが隣でハイプマン(盛り上げ役)に徹していた。

I been in the game for ten years makin rap tunes
Ever since honeys was wearin sassoon
Now it’s ’95 and they clock me and watch me
このゲームでもう10年選手、ラップの曲を作ってきた
女の子たちがサッスーンのジーンズを履いていた時代から
95年になって俺の動きを推し測ろうと見つめている

という箇所は「30年選手」と「2022年」に入れ替えていた。ここで最初のサプライズ。9月の発表になかった50セントが鉄棒に逆さ吊りになって出てきたのだ。ニューヨークはクィーンズの出身だが、地元のラッパーのディスソングで世に出て嫌われ(この人も撃たれた)、エミネムのシェイディ・レコーズと、ドクター・ドレーのアフターマスと契約できたところから快進撃を果たしたラッパーだ。逆さ吊り、衣装、クラブとも「In Da Club」のビデオそのまま。ちなみに、この曲とスティーヴィー・ワンダーの「Happy Birthday」が、アメリカで気の利いたバースデー・パーティーでかかる2大誕生日ソングなので、ぜひ参考にしてほしい。

中央のステージにダンサーたちと登場したのが、ヒップホップ・ソウルのクィーン、メアリー・J.ブライジだ。シルバーのボディスーツ、ニーハイ・ブーツがよく似合っていた。予想通り、ドレーがプロデュースしたナンバーワン・ヒット「Family Affair」をアレンジして歌い上げる。MJBは2017年のネットフリックス映画『マッドバウンド 哀しき友情』での演技が絶賛され、最近は俳優業も忙しい。アメリカ人全体から人気があるが、とくに中年以上の黒人女性からの支持が断トツ。カマラ・ハリス副大統領が演説の際に必ずかけていたのも彼女の曲である。

ダンサーが退いたあと、「No More Drama」へ。5枚目のアルバムのタイトル曲であり、「Family Affair」の次のシングルだ。もとはシンプルな失恋ソングだが、「もうドラマはたくさん 痛みもいらない」とのリリックは、ここ2年のパンデミックの苦痛、それによって生まれた軋轢との決別を心に決めたように響いた。絶唱してから「心の平和が必要なの!( I need peace of mind)」とのアドリヴを叫び、女王の風格を見せつけた。

地元、ロサンゼルスのコンプトンを指す2012年「m.A.A.d city」のイントロが流れ、ケンドリック・ラマーのラップが響く。「ドレーの日 (Dre Day)」とドレーの曲名にひっかけた書かれたダンボールから出てきたダンサーたちとマスゲームを披露。全身をルイ・ヴィトンの服で固め、ロスの空中写真の上に立つラマーのクールさといったら。「Humble」ではなく、BLMのテーマ曲のひとつ「Alright」を選んだのは驚いたが、この日、この街でパフォーマンスする意義を考えたら、2015年にリリースして以来、リリックにどんどん意味と思いが加重されている「Alright」がたしかにふさわしい。「俺たちは警官が嫌いだし」という箇所はさすがにミュートされたが、ヒップホップで初めてのピューリッツァー賞受賞者のケンドリックがこの曲をパフォーマンスしたこと自体、このカルチャーのひとつの達成点であった。曲の最後で、「Forgot About Dre」のフックをラップして次につなげた。

「Forgot About Dre」をラップするエミネムの高い声が響き、スモークの間から黒いフーディーの本人が登場。そのままギターのリフが流れ、「Lose Yourself」へ。自伝映画『8マイル』の主題歌であり、自らプロデュースしたこの曲で、エミネムはヒップホップ初のアカデミー賞楽曲賞を受賞。アメリカだけで1000万枚売り上げたモンスター・チューンだけあり、大合唱になっていた。卓の前にいるドレーを背後にし、バンドを従えてのパフォーマンス。横でドラムを叩いていたのが、アフターマス・レコーズ所属のアンダーソン・パークだ。ブルーノ・マーズとのシルク・ソニック『An Evening of Silk Sonic』のヒットでさらに知名度を上げたばかりだが、トレードマークの顔の半分が口になる笑顔でエミネムをサポートしていて、すばらしかった。出演者全員が首を縦に振ったり踊ったりして一丸となっている様は圧巻。

最後、エミネムは片膝をついて跪いた。2016年に物議をかもした、アフリカ系アメリカ人への警察官の暴力に抗議して、NFLの黒人選手たちの一部が国歌斉唱の際に行ったポーズだ。BLMの原因は根本的には解決されておらず、このポーズの発端となったコリン・キャパニック選手も契約先が見つからない状況だ。そのため、2020年にNFLはハーフタイムショーに出演するアーティストを探すのに苦労した経緯がある。ラッパーで実業家でもあるジェイ・Zとロックネイションが折り合いをつけて実現させたのが今回のショーだ。アメリカ人は「エンターテイメントと政治・社会状況は別物」とは考えないので、エミネムの行動は反発は出ても咎められないし、NFL側も勧告はしたが禁止もしていないと報じられた。邪推すると、いまの社会状況でヒップホップ勢が出演して完全にお祭りモードだけで終わるのも不自然であり、ケンドリック・ラマーの選曲、エミネムのパフォーマンスはメッセージを伝えるギリギリのラインで落としどころだったと思う。

ドクター・ドレーが白いピアノに座って「I Ain’t Mad at Cha」のメロディーを奏でた。これも2パックの曲だ。最後は出演者全員が揃っての、ハーフタイムショーのテーマに合致する「Still D.R.E」。「Still the beats bang, still doin’ my thing(まだ俺のビートで盛り上がるし まだ曲を作っているよ)」とのリリックが20年後も有効であるのに気づき、ハッとした。出演アーティストの平均年齢は47.6才。34才のケンドリック・ラマーを抜かすと50代に乗ってしまうのだが、それでこれだけ同時代性があるのだからヒップホップはやはり強い。

セットは90年代のロサンゼルスのオマージュで、コンプトンにあった有名クラブ「イブ・アフター・ダーク」や、ドクター・ドレーと同じN.W.A.出身のアイス・キューブの大ヒット映画『バーバーショップ』に引っかけた看板、ローライダーの車などが配されていた。

試合の前に「America The Beautiful」を日系も入っているR&Bシンガーのジェネイ・アイコが、国歌は黒人のカントリー・シンガー、ミッキー・ガイトンが歌った。どちらもLAのシンガーである。スーパーボウル初のヒップホップ・アクトによるハーフタイムショーは、ドクター・ドレーの功績とロサンゼルスのカルチャーを反映させたコンセプチュアルな演出とともに、非常にローカルな色合いが強かったヒップホップが全世界に浸透した事実をしっかり示すものだった。

ドクター・ドレーとスヌープ・ドッグが出てきた30年前、ロスのずっと東に位置する日本でもヒップホップ好きはマイノリティだった。私もよく変わり者扱いされた。ヒップホップ・アベンジャーズの勇姿に痺れながら「継続は力なり」を感じ入りつつ、だれへともなく「どうだ、見たか」とこっそり勝利宣言をした。

Written By 池城美菜子


<ハーフタイムショー出演者の楽曲をあつめたプレイリスト>



 

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