【ライヴレポ】スティング、東京公演初日有明アリーナ:トリオでの全く無駄のないパフォーマンス

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Photo by 古渓 一道

9月12日(金)神戸GLION ARENA KOBE公演からスタートしたスティングの2年半ぶりとなる来日公演。全国5都市6公演の2日目であり東京公演初日となった有明アリーナ公演のライブレポートが公開となった。

また、この来日公演のセットリストがプレイリストとなって公開されている(Apple Music / Spotify / YouTube

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トリオ編成での来日

スティング、2年半ぶりの来日公演、東京公演の会場は、前回と同じ有明アリーナだった。東雲運河に面した、その美しく近代的な建物に向かって歩いていたとき、ふと、37年前の夏に彼のライヴを観たNY州のジョーンズ・ビーチ・シアターを思い出した。海面から浮き上がるようなイメージで建てられた素晴らしい景観の会場で、そのときスティングは、7人のミュージシャンを従え、自身はほぼヴォーカルに専念する形でステージに立ちつづけていたのだった。

そして2025年の初秋、間もなく74回目の誕生日を迎える彼は、あの当時とはまったく違うトリオ、つまり3人だけのユニットで有明アリーナを埋めた大観衆の前に立った。昨年2024年春から取り組んできた「スティング3.0」のプロジェクトが、ついに東京にもやって来たのだ。

開演時間ほぼちょうどに客電が落ちると、シャープな照明が飛び交うなか、ドミニク・ミラーのギターが響き渡り、そこに、クリス・マースのドラムスが斬り込むように重なる。そしてスティングのベースが加わり、東京初日の1曲目がスタートした。「Message in a Bottle(孤独のメッセージ)」だ。最小限の楽器編成によるまったく無駄のないパフォーマンスながら、客席に伝わってくる音圧には凄まじいものがある。どの音も、じつに芯が太い。そう表現したらいいだろうか。

あらためて紹介しておくと、ミラーは、90年代半ばからずっとスティングの創作活動にさまざまな角度から貢献してきたアーティスト。ジャズからハードなロックまでどんなスタイルも自然体でこなすことができる、スティングにとってはまさに相棒的な存在のギタリストだ。

マースはルクセンブルグの出身。2005年ごろからロンドンを拠点に、スタジオやツアーで経験を積み、腕を磨き、パンデミックの時期に出会ったスティングに認められて、「スティング3.0」のプロジェクトに参加することになったのだという。力強く、正確で、しかも表現力に富んだドラムスに刺激されて、そしてなにか大きな可能性を感じてスティングは新たな一歩を踏み出した、というほうが正解かもしれない。

2曲目は、「スティング3.0」としての最初のスタジオ録音作品で、『3.0 Live』にも収められていた「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」。ボ・ディドリーを彷彿させるヘヴィなリズムが貫かれていくこの曲は、3人による今後の活動の方向性を示すものでもあるのだろう。

さて、この東京初日、9月14日のスティングは、丈の短い山吹色のTシャツに、黒い細身のパンツとブーツ。Tシャツの色は使い込まれたプレシジョン・ベースともよくあっているのだが、その右胸のあたりにはヤシの木らしきものが緑色でプリントされていて、いつもながらのシェイプアップされた身体を際立たせていた。

 

名曲の‘reimagine’

このあと「If I Ever Lose My Faith in You」、「Englishman in New York」、「Every Little Thing She Does Is Magic 」とつづき、数年前からヘッドセット・スタイルのマイクを使うようになっているスティングは(つまり、マイク・スタンドの前に立つ必要がないということだ)、ステージの上を大きな歩幅で動き回りながら、オーディエンスをどんどん引き込んでいく。そして、ここで3人はぐっとテンポを落とし、ドミニク・ミラーの繊細なギターを大きくフィーチャーして「Fields of Gold」を聞かせてくれた。イングランド南西部の田園地帯、大麦畑の上を渡る風が感じられるような、あのなんとも美しい曲だ。

ここまで進んできて強く印象づけられたのは、本格的な始動からすでに1年半が経過しているプロジェクトが、日々着実に、意欲的に、スティングの名曲群に対する‘reimagine’を重ねてきたようだ、ということだった。『3.0 Live』収録の時点から、すでにバンドはもう何歩か前に進んでいるのだ。その感触をオーディエンスとともに楽しみながら、次の一歩を模索しているということなのだろう。

 

トリオ演奏での魅力

7曲目の「Never Coming Home」では、ジミ・ヘンドリックスが「Hey Joe」で聞かせたリフをさらりと取り込み、そして「Mad About You」。つづいて、「Wrapped Around Your Finger」と「Fortress Around Your Heart」を情感豊かに歌い上げると、一転して、世界各地から届くニュースに触れるたびに涙を禁じ得ない現実への怒りと悲しみ、喪失感を叩きつけるように歌う「Driven to Tears(世界は悲しすぎる)」。ステージ後方のスクリーンには、PROTESTの文字が何度か映し出される。

さらに「A Thousand Years」、「Can’t Stand Losing You」とステージは進んでいき、ここでまたドミニク・ミラーの繊細なギターに乗って歌う「Shape of My Heart」。向かいあってギターを爪弾くうちに生まれたメロディに、スティングがトランプのカードをテーマに書いた歌詞をあわせたという、二人の共作曲だ。これもまた、音の要素を極限までおさえたトリオによる演奏によって、さらに魅力を増したように感じた。

ポリス初期の「Walking on the Moon」と「So Lonely」がメドレーの形で演奏されると、照明などステージ上のイメージが大きく変わって、「Desert Rose」に。この複雑で大胆なリズムの曲でも、クリス・マースのパフフルなドラムスが光っていた。エフェクト類を駆使して北アフリカの砂漠地帯をステージ上に描き出すドミニクのギターにも素晴らしかった。

ポリス最後のアルバム『Synchronicity』から、「King of Pain」と、そして、最近のあの話題にはもちろんまったく触れずに「Every Breath You Take(見つめていたい)」を聞かせてくれたあと、3人は手を取りあって深々と頭を下げてから、いったんステージをあとにした。

アンコールは、まず「Roxanne 」。オーディエンスも一体となったライヴはこれまでに何度も観てきたものだが、新たなユニットによる今回のパフォーマンスは、さらなる可能性のようなものを感じさせていた。なによりも、じつに楽しそうなスティングの表情が印象的に残った。

最後は、「Fragile」。スティングがガット弦のアコースティック・ギターに持ち替え、ドミニクはエレクトリック・ギターのままというフォーマットで彼らは、残念ながら、いつまでたっても「この時代の世界には欠かせない曲」と思わざるを得ない永遠の名曲を静かに、聞かせてくれた。

そして、スティングがふたたび3人で挨拶しようとすると、ドミニクとクリスはもうステージ下手に下がっていたという、ちょっとしたお笑いもあり、有明アリーナでのコンサートは幕を閉じたのだった。

Written By 大友 博  / All Photo by 古渓 一道


スティング セットリスト:9月15日東京・有明アリーナ公演

Message in a Bottle *
I Wrote Your Name (Upon My Heart)
If I Ever Lose My Faith in You
Englishman in New York
Every Little Thing She Does Is Magic *
Fields of Gold
Never Coming Home
Mad About You
Wrapped Around Your Finger *
Fortress Around Your Heart
Driven to Tears  *
A Thousand Years
Can’t Stand Losing You  *
Shape of My Heart
Walking on the Moon  *
So Lonely
Desert Rose
King of Pain  *
Every Breath You Take   *

アンコール
Roxanne  *
Fragile
*ポリスの楽曲

セットリストはプレイリストで公開中
Apple Music / Spotify / YouTube



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2025年4月26日配信
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