映画『スペース・プレイヤーズ』サントラ全曲解説:オリジナルをリスペクトした楽曲たちの聴きどころ

Published on

アメリカで2021年7月16日に公開され興行収入1位を獲得し、日本では8月27日から公開された映画『スペース・プレイヤーズ』。マイケル・ジョーダンが主演してヒットを記録した1996年の映画『スペース・ジャム』の続編となる今作のサントラについて、ライター/翻訳家である池城美菜子さんに寄稿いただきました。

<関連記事>
リル・ベイビーが担当、『スペース・プレイヤーズ』サントラ曲先行公開
リル・ベイビーのベスト10曲:カリスマと才能でシーンを席巻する若きスター


 

NBAの大スター、レブロン・ジェームズのチームメイトがバッグス・バニーにトゥイーティー? 『スペース・プレイヤーズ』は、1996年の大ヒット映画『スペース・ジャム』の四半世紀を経ての続編であり、アメリカでは『Space Jam: A New Legacy』とのタイトルがついている。

発端はさらに遡って1992年。シカゴ・ブルズがチャンピオン・シップを続けて獲り、キャリアのピークにいたマイケル・ジョーダンがナイキのCMで意外な共演をした。その相手が、ワーナー・ブラザースの看板アニメ「ルーニー・テューンズ」のバッグス・バニー。改めてCMを確認したところ、MJと並んだひょろっとしたうさぎのキャラクターが、「ぼくたちの美しい友情の始まりかも」と予言めいたことを言っていて驚いた。このCMが予想以上に大ウケし、バスケの神様がアニメの世界に入り込み、宇宙を舞台にダンク・シュートを決める『スペース・ジャム』が制作されることに。

多額の予算をかけたハリウッド映画の大ヒット作には、続編はつきものだ。だが、元祖『スペース・ジャム』はジョーダンが一旦、NBAを引退して野球のマイナーリーグにいた時期に制作、その後NBAに戻ったのもあり、続編はなかった。続編に興味がないことは、当時から本人が明言していた。『スペース・ジャム』は、実写とアニメーションを結合させた技術は高く評価されたものの、作品そのものは賛否両論があったうえ、マイケル・ジョーダンの演技そのものは酷評された記憶がある。ついでに書くと、前年にニューヨークに引っ越したタイミングだった筆者は、街中に貼られたポスターを観て「アメリカ人って、思った以上に能天気だな」と変に感心した。それくらい、妙な組み合わせに映ったのだ。

レブロン・ジェームズは現NBAの最高のプレーヤーであり、抜群の人気と知名度でしばしばマイケル・ジョーダンと比べられる選手だ。MJに並々ならぬ敬意を払っていることでも有名な彼は、今回のオファーを受けたときの気持ちをこう説明している。

「最初は脅威を感じました。『スペース・ジャム』が公開された1996年、私はまだ12才でそれまで観た最高のスポーツ映画だと思ったし、ルーニー・テューンズのキャラクターにも思い入れがあったし、もちろん偉大なマイケル・ジョーダンが出演しているのにも驚きました。だから、この役を引き受けるのは、チャレンジだったんです」

大成功を収めた第1作目に恥じないように、というプレッシャーがあったのはサウンドトラックも同じだ。1996年の『スペース・ジャム』のサウンドトラックは、クアッド・シティ・DJズによるテーマソング「Space Jam」、シール「Fly Like A Eagle」、そしてR. ケリー「I Believe I Can Fly」がヒットし、600万枚以上を売り上げた。とくに、「I Believe I Can Fly」は最優秀楽曲賞こそ逃したものの、3つのグラミー賞を受賞する1996〜1997年を代表する曲になった。また、前年にデビュー作を出したばかりだったディアンジェロ(「I Found My Smile Again」)、モニカ(「For You I Will」)、ジェイ・Z(R.ケリー「All of My Days」にチェンジング・フェイセズと参加)などが期待の大型新人としてフィーチャーされていて、いま聴いても十分聴きどころが多い名作なのである。

『スペース・プレイヤーズ』のサントラもそのレガシーに則り、収録曲の構成を参考にしつつ人気者と新人の両方を起用している。違いは、世代をまたがって楽しむように作られた映画の世界観を反映して、尖った音よりも60年代調だったり、オールドスクールのヒップホップを取り入れたりとノスタルジックは雰囲気が強い点だ。最初の『スペース・ジャム』を観た人が子供や孫を連れて映画館を訪れることを期待してだろう。各曲紹介に入ろう。

 

1. リル・ベイビー、カーク・フランクリン「We Win」

幕開けは、ジェイ・Zの代表曲で知られるジャスト・ブレイズが手がけた華やかな曲だ。クリスチャン・ヒップホップの第一人者、カーク・フランクリンが教会の説教さながらに煽り、ここ1、2年でトップに躍り出たリル・ベイビーが「勝つぞ!」と連呼する前のめりなラップを披露する。映画のスピリットを音楽化しつつ、サントラ全体のトーンを決めている。

 

2. 24kゴールデン feat. リル・ウェイン「Control The World」

サンフランシスコのエモ系ラッパーの24kゴールデンとリル・ウェインという異色の組み合わせ。トラックは覆面の人気DJ・プロデューサーのマシュメロによる。曲のテーマのほとんどが恋愛である24kゴールデンがまず曲を書き、そこに甘酸っぱい恋愛は100年くらい前に卒業しているであろうリル・ウェインがまぜっ返すようなラップを入れていておもしろい。

 

3. チャンス・ザ・ラッパー、ジョン・レジェンド、シンバ「See Me Fly」

グラミー賞の申し子であるジョン・レジェンドと、アトランタの人気者チャンス・ザ・ラッパー、そして2020年に『Don’t Run From R.A.P』でデビューしたばかりのシンバが絡む。このサントラでは、1996年にR.ケリーが担った役割をジョン・レジェンドが肩代わりしており、この曲のタイトルもゆるく「I Believe I Can Fly」をオマージュしている。「I Believe I Can Fly」はアメリカの卒業式ソングとして人気だったし、「飛んでいる僕を見ていて」というコンセプトのこの曲も、旅立ちを祝う曲として重宝されそう。

 

4. スウィーティー feat. ソルト・ン・ペパー、キャッシュ・ドール「Hoops」

フィメイル・ラッパーのパイオニア、ソルト・ン・ペパーと、いまどき女子代表のスウィーティー、キャッシュ・ドールが肩を並べるガールズ・パワー賛歌。ピアスのフープとバスケのゴール、それから「jumping through hoops(要求通りやらせる)」の3つを掛けている。1980年代に大ヒットを飛ばしたソルト・ン・ペパーはシンプルで、いまどき女子ふたりのラップが複雑なのは興味深い。

 

5. リル・ウージー・ヴァート「Pump Up The Jam」

1989年の世界的ヒット、ベルギーのテクノトロニクス「Pump Up The Jam」はオリジナル『スペース・ジャム』でも使用されていた。それを大胆に敷いたのが同じタイトルのこの曲だ。リル・ウージー・ヴァートが器用なところを見せて、ハウスにヒップホップを取り入れた原曲の雰囲気を忠実に再現している。アメリカではスポーツの試合前や合間に観客席を盛り上げるためにかかる定番の曲があり、このサウンドトラックにもぴったりの新定番がいくつか収録されている。この曲はまさにそのタイプ。

 

6. セイント・ジョン feat. シザ「Just For Me」

セカンド・アルバムが待たれるSZAと、「Roses」のリミックスの大ヒットで名を上げたセント・ジョンの組み合わせ。「Roses」自体はディープ・ハウスの曲だが、セント・ジョンは、メランコリックなラップとR&Bを得意とするガイアナ系アメリカ人のラッパー/シンガーソングライター/プロデューサーだ。南米に位置しながら文化的にカリブ圏内に入るガイアナとブルックリンの両方で育っているため、引き出しが多そうな注目株。SZAとの相性は抜群で、コーラスから二人が掛け合う箇所の美しさにハッとする。

 

7. ジョン・レジェンド「Crowd Go Crazy」

再登場のジョン・レジェンが、ビッグヒット職人のライアン・テダーと組んだ曲。ワンパブリック出身のテダーは、アデル、ビヨンセ、テイラー・スウィフトらに曲を提供しているプロデューサーであり、直球のポップソング、パワーバラードが得意な印象があったが、ここでは60年代のモータウン・サウンドを意識したトラックになっている。

 

8. ジョナス・ブラザーズ「Mercy」

2019年に再結成を果たして以来、絶好調のジョナス・ブラザーズ。この曲も彼ららしい、ポップなラヴ・ソングだ。ディズニー・チャンネルなどに出演し、アメリカでは長年アイドル的な人気を誇る彼らは映画の世界観に合っている。最後のギターの掛け合いが聴かせる。

 

9. リル・テッカ、アミーネ「Gametime」

またヒップホップ・モードに切り替わって、カリフォルニアのアミーネと8月26日に18才(!)になったばかりのリル・テッカが「試合開始!」と叫ぶ曲だ。アメリカの多くの少年のようにNBAの選手を夢見ていたというテッカと、アミーネのフローの脱力具合がいまっぽくていい。対照的にサンプルで挿入されるのはやたら熱量が高い、ヒップホップ・クラシックの「Slam」。ラン・DMCが育てたオニックスが1993年に放ったヒットである。「Let the boys be boys(男の子たちを好きに暴れさせるんだ)」という有名なフックを使うのがまず決まっており、いまのシーンで「ボーイズ」っぽいふたりを採用したと察する。

 

10. デイム・D.O.L.L.A.、Gイージー、P-Lo、ホワイト・デイヴ「About That Time」

スタジアムの天井に掲げられたデジタル時計を見上げてそろそろ(試合の)時間だ、と気合を入れるポッセ・カット。HBKギャングのP-Lo が中心となって作ったトラックに、P-Lo自身、Gイージー、ホワイト・デイヴとカリフォルニア州出身のラッパーが集結している。Dame D.O.L.L.Aの正体は、ポートランド・ブレイザーズのデイミアン・リラードであり、彼もオークランドの出身だ。映画中でも敵チームのプレーヤーとして登場するなど大活躍している。「NBAの中でもっともラップがうまい」と豪語しているが、本職と並ぶとやはり差がある。

 

11. ブロックハンプトン「MVP」

テキサス州サンマルコスで結成されたブロックハンプトンは、自称ボーイ・バンド、実態はプロダクションやヴィジュアル周りまで自分たちで手がけるヒップホップ・グループだ。コーラスはリーダーのケヴィン・アブストラクト、ジョバ、マーリン・ウッドが声を合わせ、ヴァースはドム・マクレノン、マット・チャンピオン、ジョバがマイクを回している。フックは1992年の大ヒット、クリス・クロスの「Jump」を使用。大御所プロデューサーになったジャーメイン・デュプリが19才のときに作った曲で、彼が発掘したクリス・クロスのふたりは当時12〜13才だった。メンバーのクリス・ケリーが2013年に34才の若さでドラッグのオーバードーズで亡くなっているため、背景を知っている人には少し辛い曲だが、ここまで解体・転用されると「レガシー」の一部になったのだな、と納得できる。

 

12. コーデー、ダックワース「Settle The Score」

2020年、YBNクルーの解散によりYBNを外したコーデーと、ロス出身のダックワースのタッグ曲。ダックワースは、ラップも歌もイケるタイプで、この曲のセクシーで挑発的なコーラスは彼の歌声だ。大坂なおみ選手との交際でも知られるコーデーは、様々なフローを披露する知性派ラッパーなので、ふたり以上が参加しているように聴こえる。

 

13. ビッグ・フリーディア「Goin’ Looney」

本作でもっともルーニー・テューンズのセリフを忠実に取り入れた楽しい曲だ。ビッグ・フリーディアは女装もするゲイ・ラッパーとして有名で、ニューオーリンズで盛んなバウンス・ミュージックを広めたアーティスト。バウンス・ミュージックはダンス・ミュージックとヒップホップを掛け合わせたベース・ミュージックのサブジャンルであり、オリジナルの『スペース・ジャム』のテーマ曲、クアッド・シティ・DJズの「スペース・ジャム」がマイアミ・ベースだった点を意識したのだろう。

 

14. ジョイナー・ルーカス「Shoot My Shot」

マサチューセッツ出身のシンガーソングライター、ラッパーのジョイナー・ルーカスによるバスケ用語を散りばめた曲。歌とラップのちょうど中間を取る流行りのスタイルで存在感をアピールしている。

 

15. リオン・ブリッジス「My Guy」

親友を指す「マイ・ガイ」と、団体スポーツに不可欠なチームメイト愛をひっかけた曲。歌うのは、アトランタのソウル・シンガー、リオン・ブリッジズだ。2015年『Coming Home』をヒットさせ、4回グラミー賞にノミネートされたうち、2019年に「Bet Ain’t Worth the Hand」で最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンスを受賞したアーティストで、実は1930年代から存在するルーニー・テューンズの普遍的な存在感にマッチした曲でもある。

 

16. アンソニー・ラモス「The Best」

最後を締めるアンソニー・ラモスは、『ハミルトン』、『イン・ザ・ハイツ』などで知られる人気ミュージカル俳優だ。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーの『アリー/ スター誕生』でアリーの友人役を演じた人、と説明するとわかりやすいか。ミュージカルで培った歌唱力でまっすぐなテーマの曲を歌いきっていて清々しい。

 

以上16曲、オリジナルの映画とサウンドトラックをリスペクトしつつ、しっかり2021年らしいサウンドに仕上がっていて聴きどころが多い。『スペース・プレイヤーズ』は、NBA、ルーニー・テューンズ、ヒップホップ・カルチャーのどれか(もしくは全部)が好きな人なら、かなりストレス発散になる映画だ。当てはまる人は、この機会にサントラと映画の両方を楽しんでみては。

Written By 池城美菜子(ブログはこちら



『スペース・プレイヤーズ (オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック)』
2021年7月9日発売
国内盤CDApple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

[Tracklist]
1. Lil Baby & Kirk Franklin「We Win (Space Jam: A New Legacy)」
2. 24kGoldn「Control The World feat. Lil Wayne」
3. Chance the Rapper「See Me Fly feat. John Legend & Symba」
4. Saweetie「Hoops feat. Salt-N-Pepa & Kash Doll」
5. Lil Uzi Vert「Pump Up The Jam」
6. SAINt JHN「Just For Me feat. SZA」
7. John Legend「Crowd Go Crazy」
8. Jonas Brothers「Mercy」
9. Lil Tecca & Aminé「Gametime」
10. Dame D.O.L.L.A., G-Eazy, P-Lo & White Dave「About That Time」
11. Brockhampton「mvp」
12. Cordae & DUCKWRTH「Settle The Score」
13. Big Freedia「Goin’ Looney」
14. Joyner Lucas「Shoot My Shot」
15. Leon Bridges「My Guy」
16. Anthony Ramos「The Best」




Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了