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マンダロリアンの音楽:ジョン・ウィリアムスではない作曲家を起用したスピンオフの挑戦

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Disney+(ディズニープラス)にて2019年からシーズン1が、2020年にはシーズン2が配信された「スター・ウォーズ」初の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』。この作品と大本であるスター・ウォーズとのサウンドトラックの関連性について、ライターの杉山すぴ豊さんに解説いただきました。

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反乱軍のスピンオフ

『マンダロリアン』はスター・ウォーズの世界観をベースにした、ディズニープラスのオリジナルドラマシリーズです。2019年にシーズン1、2020年にシーズン2が配信。シーズン3も予定されています。

2012年、スター・ウォーズの本家本元であるルーカスフィルムを傘下に収めたディズニーは新たなスター・ウォーズ・シリーズを作ることを発表。そうして生まれたのが映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)です。これらはファンの間で“続三部作”とも言われています。“続”とついているのは過去のスター・ウォーズ映画のストレートな続編だから。

一方、ディズニーはスター・ウォーズの世界を使ったスピンオフ作品を作っていくとも発表。それが反乱軍のチームの秘話を描いた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)、ルークの相棒ハン・ソロの若き日の冒険『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)という2本の映画であり、2014年から放送された3Dアニメ・シリーズ『スター・ウォーズ 反乱者たち』でした。『マンダロリアン』もスピンオフの一つであり、ディズニープラスという新たなプラットフォームで展開。瞬く間に熱狂的な支持を集め人気作となりました。

 

ジョン・ウィリアムスではない音楽

ここで押さえておきたいのは、スター・ウォーズにおける、スピンオフの定義。本来、スピンオフとは副産物・外伝という意味です。スター・ウォーズというのは基本的にスカイウォーカー家の物語。ダース・ベイダーことアナキン・スカイウォーカー、その息子ルークスカイ・ウォーカー、そして続三部作では誰がスカイウォーカーの後継者になるのか?のお話です(だから最終作は『スカイウォーカーの夜明け』なのです)。

一方スター・ウォーズの世界には、本家スカイウォーカー以外にも魅力的なキャラや設定も多数存在。そこでスカイウォーカーに頼らず、こうした副産物的要素を主役にして新たなスター・ウォーズの楽しみ方を模索しようと外伝的作品=スピンオフが作られ始めるわけです。

そうした志が音楽にも出ています。スター・ウォーズといえばジョン・ウィリアムスのあのテーマ曲があまりにも有名。あの曲を聴くだけで誰もがスター・ウォーズとわかる。

John Williams – Main Title and Escape (From "Star Wars: The Last Jedi"/Audio Only)

しかしスピンオフはジョン・ウィリアムスではなく新たな作曲家にゆだねています。『ローグ・ワン』はマイケル・ジアッチーノ、『ハン・ソロ』はジョン・パウエル、『反乱者たち』はケビン・カイナーそして『マンダロリアン』はルドウィグ・ゴランソンが音楽を担当しています。

ジョン・ウィリアムスの曲はルークやレイア、ダース・ベイダーのテーマと“スカイウォーカー家寄り”なわけです。一方スピンオフはスカイウォーカー家以外のキャラたちをフィーチャーしてますから、ジョン・ウィリアムスではない作曲家を使って音楽的にも差別化を図りたかったのでしょう。さらに作品の内容にあわせ作曲家を変えている。スター・ウォーズの世界をスカイウォーカーの物語から広げると同時に、音の世界も様々なチャレンジをしているわけです。

 

ボバ・フェットとマンダロリアンの世界

さて、この『マンダロリアン』は映画『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』から5年後の世界を描きます。銀河はまだ混乱の時代です。そこに惑星マンダロアにルーツを持つ“マンダロリアン”と呼ばれる武闘集団がいました。彼らは独自の教義を持ちベスカー鋼という最強金属で造られた仮面&アーマーの“マンダロア装甲”を装着しています。そして戦闘の達人。このドラマはマンダロリアンの一人であり、賞金稼ぎ・傭兵として生きていた通称マンドーという男が主人公。本シリーズは映画版で人気のあったボバ・フェットというキャラを意識して作られたシリーズです。

Boba Fett | Science and Star Wars

ボバ・フェットは1980年公開の『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』にてスクリーン初デビュー。その外観と賞金稼ぎという設定がうけて一躍人気キャラに。『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)から始まる新三部作の2作目『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)には彼の“父親”であるジャンゴ・フェットが登場。

ところが2015年からの続三部作では、ボバ・フェットに直結するキャラは出てきませんでした。ちょっとがっかりしたら、『マンダロリアン』が製作されると知りファンは大喜び。先にも書いたようにスピンオフという視点から見ればこれはとても正しい判断です。『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』『クローンの攻撃』におけるフェットたちの扱いをみても、キャラとして魅力的でもスカイウォーカー家を中心とするストーリーでは印象が薄くなる。もし新スター・ウォーズに“なんちゃらフェット”を出しても十分な見せ場を与えられないかもしれない。いっそ、このフェット系を主役にしたスピンオフを作った方がいいわけですからね。

 

ルドウィグ・ゴランソンの音楽

映画版の方が宇宙神話なのに対し『マンダロリアン』は宇宙西部劇&時代劇的な渋い魅力を持った活劇です。だからルドウィグ・ゴランソンの曲はちょっと往年のマカロニ・ウェスタン(イタリア製の西部劇)や時代劇で野武士が吹く尺八みたいな感じで曲が始まり、銀河の荒野を行く男の物語であることがすぐにわかります。僕はこの曲を聞いた時、マンドーが砂漠の中を夕陽にむかって進んでいくイメージをうけました。男の背中を感じるメロディです。そして曲のクライマックスは、なにか道がひらけていくような高揚感がある。

Ludwig Göransson – The Mandalorian (From "The Mandalorian"/Official Audio)

ルドウィグ・ゴランソンは『ロッキー』のスピンオフ『クリード チャンプを継ぐ男』も手掛けています。ロッキーもあのテーマ曲が有名ですが、『クリード』はロッキー世界の映画であっても、ロッキーではない。まさに今回のスター・ウォーズと同じ音楽面での課題を解決しており、『ブラックパンサー』ではアフリカの楽器を使い、そのヒーローならではのテーマ曲を見事につくりあげました。そうした彼の実績、才能がこの『マンダロリアン』にも発揮されています。

ジョン・ウィリアムスのスター・ウォーズのテーマ曲は気分が上がることは間違いないですが、ルドウィグ・ゴランソンの『マンダロリアン』のメロディは、なにか大事な一歩を踏み出す時に聴いていたいですね。

Ludwig Göransson | Scoring The Mandalorian | Disney+

Written by 杉山すぴ豊



サウンドトラック『The Mandalorian: Chapter 1 (Original Score)』
2019年11月12日配信
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

ドラマシーズン1、2含めChapter 1から16までの音楽も配信中
©Lucasfilm Ltd.


シーズン1&2全話がディズニープラスで独占配信中

公式サイト

スター・ウォーズ初の実写ドラマ「マンダロリアン」ディズニープラスで国内独占配信!


 

 

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